●複数のプランがあったSiSのRDRAMチップセット SiSは、昨春から検討していた“4チャネル”RDRAMチップセット「SiS R659」の計画をいよいよ明確にした。1月27~28日(現地時間)にかけてサンノゼで開催されたPlatform Conferenceで、Samsung Electronicsなどによってその存在が明かされた。 でも、なぜ今さらRDRAMチップセット? PC業界がDDRメモリへ完全になびいてしまった状態で? しかも、4チャネルのハイエンド製品? そこには複雑な背景がある。
SiS R659は4チャネル(64bitインターフェイス)でRDRAM PC1200をサポートし、今年第3四半期に登場する。メモリ帯域はPC1200で9.6GB/sec。DDR333のシングルチャネルが2.7GB/sec、デュアルチャネルが5.3GB/sec、DDR400のデュアルでさえ6.4GB/secなので、PC向けチップセットのメモリ帯域としては飛び抜ける。さらに、RDRAM PC1333が提供されるようになると、メモリ帯域は10.7GB/secとなる。 もっとも、CPUのFSB(フロントサイドバス)帯域の制約によって、メモリ帯域の利点は薄まる。ターゲットCPUはPentium 4系だが、Intel CPUのFSBは800MHzで6.4GB/sec、2004年の1,066MHzで8.4GB/secだからだ。 組み合わせられるサウスブリッジは「SiS 964」で、Serial ATAと8ポートUSB 2.0をサポートする。 SiSは現在のRDRAMチップセット「SiS R658」の後継として複数のチップセットを計画していた。SiSのAlex Wu(アレックス・ウー)氏(Senior Marketing Director)は昨年7月には次のように説明していた。「検討したプランのひとつは4チャネルRDRAM、もうひとつは進化版のプラン、残るひとつは単なるR658のリフレッシュ版だ。それぞれのプランが、異なるパフォーマンスレンジをターゲットにしている。しかし、まだどれを推進するかは決定に至っていない」。
結局、SiSはもっともハードルの高い4チャネルRDRAMチップセットへ向かうことになったわけだ。
●対DDR400では利点のあるRDRAMだが…… ただし、当時のプランと、現在SamsungやRambusが説明しているSiSの4チャネルRDRAMチップセットの計画には多少違いがある。昨春の段階ではSiSのNelson Lee氏は4チャネルRDRAMチップセットのターゲットが「サーバー&ワークステーション向け製品となる。このチップセットでは、デュアルプロセッサだけでなく4wayマルチプロセッサ構成のサポートも検討している」と説明していた。 しかし、Rambusでは、このチップセットはハイエンドデスクトップがターゲットになると言う。 「4チャネルRDRAMは、DDR400のデュアルチャネルと比べても50%も広い帯域を実現する。これは、デスクトップPCに最高のパフォーマンスをもたらし、PCの帯域ニーズを完全に満たすだろう」とRambusのRich Warmke氏(Marketing Director, Memory Interface Division)は説明する。 実際、4チャネルRDRAMにはDDR400に対していくつかの利点がある。 「4チャネルRDRAMは既存の2チャネルRDRAMとインフラが同じだ。つまり既存のRDRAMとRIMMを使う。必要なのは4チャネル対応のチップセットだけで、それはすでにチップセットメーカーがコミットしている」とRambusのRich Warmke氏(Marketing Director, Memory Interface Division)は説明する。 もうひとつ言うなら、DDR400はJEDEC標準になりつつあるとはいえ、まだ安定性や互換性については不安がある。その点でも、すでに安定しているRDRAMは有利だ。ただし、市場にRIMMが供給され続けていればの話だが……。
明らかに不安があるのはそこだ。PC市場では、IntelがRDRAMから手を引いたことで、すでにRDRAMは存在感をほぼ失っている。正直な話、ここで、RDRAMチップセットと言っても何がいまさら的な受け取られ方が主流だと思う。では、SiSはどこまでやる気があるのか、そしてRDRAMはPC市場に残るチャンスがどれだけあるのか。
●RDRAMにまだまだやる気を見せるSamsung じつは、昨年の最初のRDRAMチップセット「SiS R658」のときから、SiSのRDRAM戦略はカッコ付きのものだった。例えば、Alex Wu氏は昨年の夏には次のように説明していた。 「私は、この(RDRAMチップセット)戦略はSamsungに依存していると思う。事実上、SamsungがRDRAMの唯一の供給源だからだ。エルピーダメモリも供給しているが、彼らがアグレッシブで重要なセカンドソースになろうとするなら、投資を継続しなければならない」。 また、別なSiS関係者は、RDRAMチップセットは、他社からの働きかけがあって始めたプロジェクトで、SiSのメインフォーカスではないと示唆していた。また、SiSがOEMに説明するロードマップからも、じつはSiS R658後継のチップセットは消えていた。 これらが示唆しているのは、SiS自身もRDRAMチップセット戦略についてそんなに確信を持っていないということだ。どうやら、SiSのRDRAMチップセット戦略は、RambusやSamsungの働きかけもあってようやく実現したようだ。逆を言えば、SamsungのPC市場に対するRDRAM本気度に依存していると言っていい。 では、RDRAMの最大供給メーカーであるSamsungはそれにどう応えるのか。じつは、SamsungはPlatform Conferenceで今後のRDRAM計画を明らかにしている。
その上で、SamsungはPC市場でも4チャネルチップセットによって最高帯域を提供、チャンスが生まれるという。というのは、DDR2デュアルチャネルが2004年中盤に登場するまで、RDRAM 4チャネルに匹敵するメモリ帯域はPC市場に存在しないからだ。スピード歩留まりは、現状ですでに90%以上がPC1066以上に移行、今年第1四半期でPC1200が20%、第2四半期にはPC1200が40%にまで達するという。さらに、今年後半には完全にPC1066~PC1333をターゲットにした新ダイ(半導体本体)を準備する。
つまり、SamsungはRDRAMはまだまだやる気だと言っているわけだ。
●ハイエンドに仕切直すRDRAMチップセット戦略 だが、誰もがPC市場ではRDRAMが退潮していることは知っている。SiSやSamsungのターゲットはどのあたりにあるのだろう。 昨年の段階で、SiSはRDRAMチップセットの目的はIntelが引いたニッチを受け継ぎ、市場で「15%のシェアを得ること」(Wu氏)だと言っていた。15%程度を得ないと、誰もが投資を続けることができないだろうというわけだ。だが、現状ではそこまでいっていない。 それについて、SiSは昨年次のように言っていた。「現在のRDRAMのキーファクタは、SamsungのDRAM価格戦略にかかっている。価格の割高感がなくなるなら、顧客をもっとRDRAMに引き寄せることができる。RDRAMがDDRメモリと同じ価格である必要はないと思う。しかし、差が10%以上だと難しい」(Wu氏)。 2002年を見る限り、RDRAMはDDRが高騰した一時期をのぞいて10%まで価格差をつめることができなかった。そして、SiSの最初のRDRAMチップセットSiS R658もつい最近までボードは出荷されなかった。 どうやら、こうした状況で、何らかの仕切直しがあったようだ。それはターゲットの切り替えだ。今回のRambusやSamsungの話を聞く限り、彼らはRDRAMソリューションを最高パフォーマンスを売り物にPC市場に再チャレンジしようとしている。つまり、SiS R658のような、DDRと競合するメモリ帯域帯ではなく、はるかに高いメモリ帯域を提供することで、ポジションを確立しようとしているわけだ。明確な差別化が図れるなら、市場にニッチを掴むことができるという戦略に見える。
だが、ここにひとつの矛盾がある。それは、現在でもOEMメーカーのハイエンドソリューションはIntelチップセットであり、SiSチップセットではないということだ。Intelが4チャネルRDRAMチップセットを出すのなら市場が大きく動くだろう。しかし、SiSが4チャネルRDRAMチップセットを出しても、大手OEMがそこで動く可能性は低い。
「今回興味深いのは、Intel以外のチップセットが最高パフォーマンスを取ることだ。これは、業界に大きな影響を与えるだろう。真剣に検討するメーカーは多いと思う。また、SiSのソリューションは、チャネル市場にとって魅力的になるだろう。PCの世界では、差別化にみんなが熱心だ。実際に、32bit RIMMのソリューションは、チャネル市場で成功した」。
ようは、まずチャネル市場を掴み、その上でOEMが検討し始めればというストーリーのようだ。とりあえず、DRAMベンダーとの法廷闘争にメドがついたRambusとしては、暗雲が晴れた勢いで、もう一度PC市場でもチャンスを掴みたいというところだろう。
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(2003年2月4日) [Reported by 後藤 弘茂]
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