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Rambusアーキテクチャと次世代ゲーム機の可能性


●PlayStation 3世代のゲーム機も次世代RDRAM採用の可能性が

 PC市場ではニッチ以上に広がることができないRDRAM。しかし、もっと広い視野から見ると、話はまた違ってくる。RDRAMは通信機器市場では一定のポジションを築いているし、家電ではPlayStation 2(RDRAM 2チップで3.2GB/sec)という強力な成功事例も持っている。Rambusのアーキテクチャは、広いメモリ帯域を少ないDRAMチップ数で実現できるので、今後もこの手の市場ではある程度のポジションを保つだろう。しかも、この分野自体は成長市場でもある。

 特に、ゲーム機ではNintendo 64、そしてPlayStation 2とRambusのアーキテクチャの採用が続いている。2005年世代(つまりPlayStation 3の世代)のゲーム機は、おそらく512Mbit容量世代のDRAMチップを載せることになるだろう。そうしたら「DRAMチップ数は2個(128MB)でメモリ容量は十分、4個(256MB)はいらない」という要望が当然出てくる。

 DRAMチップコストは、ゲーム機のコストに、ゲーム機のライフサイクルの後半で大きく響いてくるので、チップ個数を減らすことは重要だ。例えば、PlayStation 3チップも、もしメモリが(内蔵ではなく)外付けだとしたら、10GB/sec以上の帯域(これは必須)を2個のDRAMチップで実現したいという話になるだろう。

 実際、RambusのAvo Kanadjian副社長(worldwide marketing)は、2000年9月のインタビューの際に次のように言っていた。「ソニーとミーティングした時、ソニーは次世代はPlayStation 2の1,000倍のパフォーマンスになり、リアルタイムグラフィックス+シミュレーションができるようになると言った。彼らは10GB/sec以上のメモリ帯域を望んでいるようだ。それだけの帯域を提供できる技術は、当社しか持っていないと考えている」

 もちろん、これはもうかなり前の話なので、ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)の路線も変わっている可能性がある。しかし、次世代ゲーム機群が、10GB/sec以上の膨大なメモリ帯域を必要とすること自体は、おそらく変わらないだろう。そして、Rambusの場合「Yellowstone」アーキテクチャ(32bit幅で12.8GB/sec)で、2個のチップでそのニーズに応えられる。

 ところが、メインストリームのDDR系メモリだと、同レベルの帯域を確保するには、どうしても4個以上のメモリチップが必要になってしまう。例えば、組み込み向けDDR IIだと、2005年の時点で800Mbpsの製品が使えるが、その場合は128bit幅でようやく32bit幅のYellowstoneと同帯域(12.8GB/sec)になる。

 そうすると、Rambusアーキテクチャが、2005年世代ゲーム機でも採用される可能性はある。もちろん、RambusやDDR系以外のメモリアーキテクチャも考えられるが、メモリ帯域とグラニュラリティ(Granularity:粒度=最小構成単位)とDRAMチップコスト、それにDRAMチップの供給力を考えると、選択肢はそれほど多くはない。有力候補のひとつなのは確かだ。

●先週の記事の訂正と補足

 ではPC&ワークステーション市場でのRambusはどうなるのか。

 IntelのIntel 850Eチップセットは、設計上のミスと思われる仕様変更で、tRAC(Row Access Time)が予定より短くなった。つまり、もともとはPC800-45(tRACが45ns)、PC1066-35(35ns)をサポートするはずだったのが、533MHz FSB(フロントサイドバス)時にはPC800-40(40ns)とPC1066-32(32ns)しかサポートできなくなった。FSB 400MHz時にはPC800-45もサポート可能だが、850Eの利点である533MHz FSBを活かそうとすると、PC800-45は使えない(実際にはマージンにより動作するPC800-45もある)。

 この話を先週書いたのだが、その記事の中で間違いがあった。間違いは、PC1066のスペックで、PC1066-32のtRCD(RAS-to-CAS Delay)は、7サイクルではなく9サイクルだった。と言っても、この部分はまだ論争があるようでまだよくわからない。例えば、Samsung Electronicsのデータシートを見ると、PC1066-35とPC1066-32の間で、tRCDとtCAC(CAS Access Delay)のスペックは同じ(どちらも9サイクル)になっており、計算上合わないように見える。

 混乱があるのは、Intelの仕様に従うとPC1066のイールドが落ちるからだとある関係者は言う。Intel自身は、PC800で7サイクル、PC1066で9サイクルのtRCDスペックを望んでいるらしい。これはおそらく、tRCDの実際の遅延時間はほぼ同じになるので、チップセット側の対応が楽だからだ。

規格tRCD遅延時間
PC800-407T17.5ns
PC1066-329T16.8ns

 しかし、tRAC自体は短くなっているので、結局はDRAMチップ側はtRCD以降のサイクルを縮めてつじつまを合わせなくてはならなくなる。なので、PC1066-32は派生イールドが悪いという問題は、やはりそのままだ。PC1066-32のイールドは、0.15μmプロセスでも20%程度だと言われている。

●RDRAMチップセットに対してやる気がないIntel

 というわけで、850Eが原因となり、PC1066の歩留まりが悪くなっているのは確かだ。そうすると、当然出てくる疑問は、なぜIntelがそんな状態を放置しているのか。デバッグして、PC1066-35もサポートできるようにして、DRAMベンダーがPC1066を供給しやすいようにしないのはなぜなのかということになる。

 その答えは明確だ。Intelにそこまでやる気がないからだ。

 実際、Intelに対してそう質問した業界関係者は少なからずいる。そして、それに対するIntelの答えは次のようなものだったという。

 「850Eについては開発チームはすでに解散しており、エンジニアはすでに別なチップセットの開発についている。メインテナンスの担当者も、他のチップセットとの兼任だ。また、850E以降にRDRAMチップセットはない。そのため、850Eの問題を修正するためには、エンジニアを再び集めなければならないが、それは難しい。850Eにそこまでのリソースをかけることができない」

 じつは、これは3つの情報ソースから、ほぼ同じ話を聞いた。つまり、Intelは同じ説明をして歩いているわけで、Intel本社から来ているQ&Aがそうなっている可能性が高い。Intelの公式なスタンスだと思われる。

 この回答で、IntelがOEMに示しているのは、IntelとしてはもうRDRAMチップセットは継続するつもりがないことと、850Eにもそれほど注力していないことだ。つまり、IntelはPC1066をやるつもりはあるものの、長期的にはRDRAMを残すとは考えていないというわけだ。

●短期的にはRDRAMが延命の芽が

 ただし、短期的、つまり今年秋から来年春に関しては状況が違う。ちょっと前までは、RDRAMはこの秋までと考えられていたが、来年中盤まではハイエンドPC/ワークステーション市場に残る可能性が出てきた。

 その鍵を握るのは、デュアルチャネルDDRチップセットの性能だ。つまり、次のような連鎖が起きた場合は、RDRAMが延命される。(1)ワークステーション向けデュアルチャネルDDRチップセット「Granite Bay(グラナイトベイ)」と「Placer(プレイサ)」のパフォーマンスがクリティカルなほど悪い。(2)そのため、OEMベンダーがDDRへの移行を渋り850E+RDRAMのソリューションをワークステーションでは継続して望む。(3)それに引きずられてハイエンドPCやチャネル(マザーボード)市場でもRDRAMが残るという連鎖だ。

 少なくとも、COMPUTEX前後からの流れは、この方向に向かっているように見える。しかし、いずれにせよPC市場では、来年中盤のデュアルチャネルDDRチップセット「Springdale(スプリングデール)」が本命と誰もが思っている以上、PC1066もカンフル剤以上の役割は果たさないだろう。特に、RDRAMとDDRのメモリ価格差が大きく開いた状態では、RDRAMが大きく伸びるとは思えない。

 ただし、Intel以外の展開も多少はありうる。SiS(Silicon Integrated Systems)が、RDRAMチップセットをIntelプラットフォーム向けに開発しているからだ。SiSは、デュアルチャネルRDRAMの「SiS R658」を開発しているが、このほかに高速版の「SiS R659」、そして4チャネルRDRAM(!)のチップセットのプランも持っている。

□関連記事
【2000年10月16日】【海外】Rambusはどこへ行くのか--Rambus副社長Avo Kanadjian氏インタビュー (前編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001016/kaigai01.htm
【2000年10月17日】【海外】Rambusはどこへ行くのか--Rambus副社長Avo Kanadjian氏インタビュー(後編)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001017/kaigai01.htm


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(2002年7月1日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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