Platform Conference 2003レポート

11aか、11gか、それが問題だ
〜無線LAN技術の選択で混迷深まるPC業界


会場:Silicon Valley Conference Center
会期:1月28日〜29日(現地時間)



 Platform Conferenceも2日目を迎え、グラフィックスメモリ、PCにおける無線LANの搭載形態などに関するセッションが行なわれた。AMDが行なった無線LANのセッションでは、ノートPCのチップセットにどのように無線LANを統合していくかがテーマだったが、参加者がスピーカーに質問していた中で最も多かったのが、「11aか、11gか」という議論だった。

 IEEE 802.11aは、無線に現行のIEEE 802.11bの2.4GHzより帯域が上の5GHz帯を利用して通信する方式で、54Mbpsのデータ転送速度を実現する技術だ。これに対してもう1つの候補であるIEEE 802.11gは、IEEE 802.11bと同じ2.4GHz帯を利用しながら、データ転送速度は54MbpsとIEEE 802.11aと同じ速度を実現する(11bと互換性があるので、11bとしても利用できる)。このため、どちらが次世代の主流となるかを巡り、PCメーカーは選択を悩んでいる段階だ。その背景に迫っていきたい。

●AppleがIEEE 802.11gを選択した衝撃が業界を揺さぶる

 PC業界では、多くのベンダが次の無線LANのスタンダードはIEEE 802.11a(以下11a)で決まりだという雰囲気がこれまでだった。その最も大きな理由はIEEE 802.11g(以下11g)の規格がまだフィックスされておらず(今年の5月ないしは6月に最終的な規格が決定される)、実際に製品が登場している11aに比べて普及に時間がかかると考えられていたからだ。

【無線LAN技術】
 無線帯域チャネル数帯域幅付記
IEEE 801.11b2.4GHz4チャネル11Mbps 
IEEE 802.11a5GHz8チャネル*154Mbps11bと互換性なし
IEEE 802.11g2.4GHz4チャネル54Mbps11bと互換性あり、現在規格策定中
*1 日本では4チャネルのみ

 だが、昨年の終わり頃から状況が大きく変わり始めた。1つは周辺機器ベンダーが、思ったよりも早くIEEE 802.11g対応の無線LAN機器をリリースしたからだ。

 日本では、いち早くメルコが対応を明らかにしたほか、世界最大の出荷数を誇るLINKSYSも11g対応の機器をすでに出荷している。すでに述べたように、11gの規格はまだ最終的な決定をされていないため、現在のところはドラフト(最終規格候補)を元に作成されたチップなどを利用して作られている。しかし、現在のドラフトは若干の修正のみで最終的な規格となる可能性が高く、機器ベンダーは最終仕様が策定された段階で、ファームウェアのアップグレードなどで対応すると説明している。

LINKSYSが米国で販売している11a/11b両対応のデュアルバンドアクセスポイント「WAP51AB」

 もう1つの状況の変化は、Appleの動きだ。AppleはMacworld Conference&Expo San Franciscoにおいて、IEEE 802.11gの無線LANを内蔵した新しいPowerBookを発表しており、やはり最終規格が決定された段階でファームウェアのアップグレードを行なうとアナウンスしている。Appleに可能であるのならば、他のPCベンダがやってやれないことはないと考えるのは自然な流れだ。

●11a/11bデュアルバンドのボトルネックはコスト

 それでは、どうして11aではなく、11gが注目されているのだろうか? 技術的な観点でみると、11aの方に軍配があがる可能性が高い。第一に実効レートでは、11gよりも11aの方が有利であるとされている(このあたりに関してはBroadband Watchの記事[http://bb.watch.impress.co.jp/column/review/2003/01/29/]、[http://bb.watch.impress.co.jp/column/shimizu/2003/01/21/index.htm]などを参照して頂きたい)。

 こうした結果を見る限り、今後家庭内のメディアサーバーなどにアクセスして利用するという使い方には、11aが若干のアドバンテージを持っているということができるだろう(それを大きいとみるか小さいとみるかは人それぞれだろう)。また、Bluetoothや電子レンジなどと同じ帯域(2.4GHz)を利用する11gは、他の無線機器との干渉という点でもやや不利だ。

 だが、コストという観点でみると、全く違う話になってくる。米国では、すでに11aと11bのデュアルチャネルのアクセスポイントやPCカード、11gのアクセスポイントやPCカードなどが実際に店頭で販売されている。そこで、筆者がサンノゼの電気小売店であるFry'sで調べた価格が以下の通りだった。

 アクセスポイント価格PCカード価格
11a/11bデュアルDWL-AB650299.99ドルWPC51AB149.99ドル
11g(11b互換)WAP54G149.99ドルWPC54G79.99ドル
(1月29日、Fry's サンノゼ店 筆者調べ、いずれも製品はLINKSYS製)

 見てわかるように、同じ54Mbpsを実現する製品であるのに、11a/11bデュアルバンドのアクセスポイントは300ドル弱(日本円で約36,000円)であるのに対して、11gの方は半額の150ドル弱(日本円で約18,000円)となっている。

 この価格差をみれば、価格に敏感な米国の消費者がどちらを選択するか、それは火を見るよりも明らかだろう(実際のパフォーマンスよりも、クロックの数字が重視されるのが米国市場であることを忘れてはならない)。だから、機器ベンダーは11gの出荷を競ったのだ。

 それでは、どうしてこうした価格差がでてしまうのだろうか? 11a(54Mbps)/11b(11Mbps)、11g(54Mbps)/11b(11Mbps)という、どちらも11bとして利用でき、さらに54Mbpsという高速モードが利用できるという意味では同じ条件のはずだ。

 その理由は、内部構造の違いにある。11gのアクセスポイントでは、これまで11bのチップが張られていた場所に、11gのチップを張り替えて出荷しているものだ。つまり、コスト的にはこれまでの11bのアクセスポイントとほとんど変わらない。ちなみに、Fry'sでは11bのアクセスポイントは99.99ドルで11gはプラス50ドルでしかない。

 11gのアクセスポイントが、従来の11bのアクセスポイントと同じチップ数で構成されているのに対して、11a/11bデュアルバンドのアクセスポイントでは、11bのチップ(MAC、ベースバンド、ラジオ)に加えて、11a用のチップ(MAC、ベースバンド、ラジオ)を用意する必要がある。このため、単純計算でチップ数は倍になる。

 そして、現在もう1つネックとなっているのが、11aのチップを提供しているのが、事実上Atheros Communicationsだけであるという事実だ。競争がなければ、こうした半導体の価格が下がらないのは、他の例をみても明らかで、これも11a関連製品が高価格にとどまっている理由であるというのが業界の一致した見方だ。

 実際、米国では11bの代わりに11gが売れ始めているという。米国におけるネットワーク機器大手であるLINKSYSの関係者によれば「すでに11gの出荷数が、11bのそれを上回っている」との証言しており、今後コンシューマ市場において11gが急速に普及していく可能性が高まってきている。

●Intel PRO/Wireless 2100A(Calexico)の順延もPCベンダの悩みを深くする

 ここで問題になるのが、PCベンダの選択だ。冒頭でも述べたように、昨年の段階では多くのベンダが11a/11bのデュアルバンドを選択することに疑問を感じていたPCベンダは少なかった。その理由はすでに述べたように11gの規格化には時間がかかるとみられていたし、さらにIntelが3月にリリースする予定のCentrinoモバイルテクノロジ(コードネーム:Baniasプラットフォーム)では、Intel PRO/Wireless 2100/A(コードネーム:Calexico)と呼ばれるデュアルバンドの無線LANモジュール(mini PCI)が標準でバンドルされているからだ。

 “Centrinoモバイルテクノロジ搭載”を名乗るには、IntelからIntel PRO/Wireless 2100/A(Calexico)を購入する必要がある。

 PCベンダにとって、Centrino搭載を名乗れるかどうかは、大きな意味がある。1つには、Intelが多大な投資を行なってCentrinoブランドの宣伝を行なうためであり、それに乗っかったキャンペーンを行なうことができる。また、PCベンダが行なった広告費のうち数割をIntelが負担する「Intel Insideプログラム」と呼ばれるキャンペーンも、Centrinoでなければ参加できないのだ。

 Intel PRO/Wireless 2100/Aは、IEEE 802.11aと11b両対応のデュアルバンド版(Intel PRO/Wireless 2100A)と11bのみのシングルバンド版(Intel PRO/Wireless 2100)があるが、どちらにせよ、11gには対応していない。

 しかも、デュアルバンド版は開発の遅れから、元々の予定であった3月にCentrinoとの同時出荷から、第2四半期中に順延してしまった。となると、Intel PRO/Wireless 2100/Aのデュアルバンド版が登場する頃には、11gの最終規格が決まっている可能性が高く、これもPCベンダが頭を抱える要因となっている。Centrinoをとれば11gがとれず、11gをとればCentrinoがとれない……と。

●ハイエンドとモバイルのみにデュアルバンド、普及帯は11gが当面の解か

 この問題を解決する最もよいソリューションは、言うまでもなくIntel PRO/Wireless 2100/Aが11gに対応し、11a/b/gの全対応になることだ。筆者個人の意見としても、別に11aか、11gかと、宗教論争のように論争しなくとも、11a、11gともによい点があるのだから、少なくともクライアントは11a/b/gの全対応にして、ユーザーが自分の財布などと相談しつつ11aか、11gかというアクセスポイントを選ぶのが一番よいと思う。

 クライアント側で11aはいらないとか、11gは必要ないというように、技術を制限してしまうのはあまり得策ではないと思う(なぜならば、BTOでも無い限りエンドユーザーは自分で内蔵する無線LANモジュールを選べないからだ)。

 しかし、Intel PRO/Wireless 2100/Aは11gがこれほど普及する前に設計されたモジュールなので、今から11gに対応するというのは時間的に不可能だ。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelがIntel PRO/Wireless 2100の後継として開発しているCalexico2(開発コードネーム)では11gにも対応する予定となっており、これが登場するのは2004年の第1四半期と、今から一年後だ。すなわち、少なくとも1年程度はこの状況が続くということを意味している。

 PCベンダにとっては、すでにデュアルバンドで製品計画なども行なってきた関係上、デュアルバンドのものを11gに変更するということは事実上できないだろう。となれば、サブノートやミニノート、A4シン&ライトなどCentrino(Pentium M+チップセット+デュアルバンド)で設計してきたものはデュアルバンドのままでいき、モバイルPentium 4(Intelが今年後半に投入を予定しているCPUで従来はデスクノートなどと呼ばれていたセグメントに投入されるCPU、-Mではない)やモバイルCeleronを搭載したような普及価格帯に投入される非CentrinoノートPCでは、徐々に11bから11gへの転換を図るというのが現実的な解となるだろう。

 だが、エンドユーザーにしてみれば、下位モデルを買ったユーザーが150ドル(日本円で約18,000円)も安価なアクセスポイントで54Mbps接続が可能なのに、Intel PRO/Wireless 2100A(デュアルバンド)搭載のノートPCを買ったユーザーはさらに150ドルの出費を強いられることになる。これが受け入れられるかどうかが、上に書いたようなストーリーの通りになるかどうかの鍵となる。

 もし、これが受け入れられない場合、Centrinoの立ち上げにも微妙な影響を与えかねない。「思わぬところでCentrinoの強力なライバルが登場してきた」……IEEE 802.11gの急速な立ち上がりは、そのような観点で考えると、2003年のノートPC市場を大きく塗り替える可能性を秘めた、新しいそして大きなファクターであると言えるだろう。

□Platform Conference 2003のホームページ(英文)
http://www.platformconference.com/
□関連記事
【2002年12月18日】【本田】無線LAN、来年に向けての動向
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1218/mobile184.htm

(2003年1月30日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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