会場:San Francisco The Moscone Center ●IEへの宣戦布告? Apple製のWebブラウザ「Safari」をベータリリース iアプリケーションのデモを始めたあたりで、見たことのないアイコンがデモ機のDockにあることは気が付いていた。望遠のレンズを通して眺めてみるとそれがコンパスのデザインであることもはっきり分かった。しかし、そのDockにInternetExplorerのアイコンが存在しなかったことに気づかされたのが、ジョブズCEOが“Mac OS Xのターボブラウザ”という言葉を発したときというのは、少々迂闊にすぎたかも知れない。 紹介された全く新しいApple製のWebブラウザ「Safari」について、ジョブズCEOはその高速性をつぶさに強調する。i-Benchというベンチマークソフトを使って「Safari」を含む4つのWebブラウザを「HTMLの表示」「Javascriptの実行」「起動時間」について検証した結果をグラフ化して見せた。もちろん「Safari」がまだベータレベルであることに念を押しておくことも忘れずに……。
ジョブズCEOによると「より高速なブラウザが必要だった」というのが開発理由のようだが、その高速性は機能面の工夫にも表れている。Googleによる検索機能を統合して、サイトを表示させることなく直接検索が可能になっている点をはじめ、「Snapback」と呼ばれる、最初に表示したページに戻る機能は便利に使えそうだ。 例えばGoogleを使って何らかの検索を行なったとき、大量にリストアップされるサイトを順に見ていくとする。トップページだけとは限らないのでリンクを追っていくこともあろうが、さて別の検索結果から辿ろうと思ったときは、何度も「戻る」ボタンをクリックして再度検索結果を表示させなければならない。これを、クリック1回で実現しようというわけだ。 他にもブックマークの管理やアクセスでも操作を高速に(というより効率的に)行なう工夫がなされている。後発なだけあって、かゆいところに手の届く機能が搭載できたと考えていい。もうひとつジョブズCEOが強調したのが、標準のWeb技術への対応だ。現状スタンダードになっている技術をひととおりサポートすることと、レンダリングエンジンがオープンソースになっていることである。 デモンストレーションでは、AmazonやDiseny、ESPNなど米国内の著名サイトを中心にQuickTime、Flash、Javaなどが入ったものでも正常に表示できていることを実際に見せた。 Safariは、同日付で英語版ベータリリースのダウンロードが可能になった。メニュー表示が英語であったり、一部表示の不具合は出るものの、日本語環境でも利用可能なのでMac OS Xユーザーはダウンロードして試してみるのがいいだろう。ファイルサイズは2.9MBと非常に小さい。対応するMac OS Xは、10.2以降となっている。
●ジョブズCEOが体を張ってベータテストした「Keynote」 もうひとつ、まったく新しいApple製のアプリケーションがアナウンスされた。それが「Keynote」だった。「私のために開発された」とジョブズCEOが言うように、グラフィカルなプレゼンテーションのためのスライド作成と運用が可能なアプリケーションである。「実は昨年のMacworldから、このソフトのベータテストをやっていた」と言われてしまえば、結果として私たちはそれを昨年から目にしていたことになる。情報の秘匿に関してはことのほかうるさいジョブズCEOにしてみれば、してやったりというところだろう。 機能面での特徴は、スケーラブルにアンチエイリアスのきく自在なテキスト表示と、アライメントガイドによる文字やグラフィック位置の統一、そしてフルアルファチャンネルのグラフィックサポートなどだ。これを基本に虫眼鏡ツールなどによる表現の多様化と、さまざまなトランジションを用意してある。テンプレートとなるテーマ素材には、これまでのプレゼンで表示されていたクレヨン表示をはじめとする12の素材があらかじめ用意されているという。 会場を沸かせたのは「Keynote」が、MicrosoftのPowerpoint形式でファイルのインポート、エクスポートが可能であると紹介された時だ。他にもQuickTimeやPDF形式でファイルを出力できるという。XMLに基づいたOpenFileFormatを採用しているのも特徴のひとつだ。
「Keynote」は同日から99ドルで販売されることが発表されたが、さらに続けられた「今日Keynoteに参加してくれた皆さんに“Keynote”を」というジョブズCEOのコメントはさらなる歓声と大きな拍手を生み出した。ちなみに日本では「Keynote(英語版)」として12,800円で1月中旬より販売される予定だ。 結果としてInternetExplorerに対する「Safari」、PowerPointに対する「Keynote」とMacプラットホームにおいてもMicrosoftがシェアを握っている部分に対して切り込むアプリケーションが2本同時に、San Franciscoでデビューしたことになる。
●今年は“ノートブックの年になる”とPowerBook G4 2製品を発表 そして、2年前に同じこの場所で発表されたPowerBook G4のCMが流された。当時欲しいもののNo.1でそれは今も変わっていないとしながらも、「今では(製品の中で)一番デザインが変わっていないものになってしまった」として、PowerBook G4のリニューアルを匂わせる。そして、いずれノートブックのシェアがデスクトップ機を上回るはずと言う見通しをグラフとともに示した。2002年はやや落ちたが、2003年には約35%を占めることになり、2003年を“ノートブックの年”と表現した。 こうして紹介されたのが17型のワイド液晶パネルを搭載した新しいPowerBook G4である。詳細なスペックなどは既報の製品記事が詳しいが、なによりそのノートブック史上初めてと同社が言う、17型の液晶の大きさには驚かされる。バックライトの部分はより薄く設計されているようだが、現行の17型液晶iMacと基本的に同じパネルを使っているようだ。解像度も同じ1,440×900ドット。この大きさは、Final Cut Proを使ったビデオ編集も快適に行なえるサイズとなる。 外装には従来のチタン(Ti)に変わって、無塗装のアルミニウム(Al)を採用。アンビエント・ライトセンサーを搭載することで、周囲の明るさを感知して、バックライトが発光するキーボードが搭載されているというアナウンスも来場者を大いにわかせた。また、“ノートブックの年”と断言するだけあって、デスクトップ機に先んじる形でIEEE 1394bとなる800Mbit対応のFireWire800ポートを搭載する。
また、このPowerBook G4はワイヤレス対応においても新技術を採用するモデルとなる。昨年から予告されていたとおりBluetooth機能は本体内に内蔵。それに加えて54Mbpsの転送速度を実現するワイヤレス規格であるIEEE 802.11gへの対応が行われることで、会場は一層の盛り上がりを見せた。 IEEE 802.11gは、54Mbpsの転送速度を実現するのに加えて従来のIEEE 802.11bとの互換性も有する。もうひとつの54Mbpsの規格であるIEEE 802.11aは、こうした現在普及しているホットスポットなどでの互換性を実現できないとして、スライドを使って11aではなく11gを採用した理由を説明している。 このIEEE 802.11gに対応する新しいAirPort「AirPort Extreme」がスライドで紹介された。AirPort Extremeの新しいベースステーションは、1基で50ユーザーをカバーすると同時に、ブリッジ機能をサポートする。さらにUSBポートを搭載したことで、USBプリンタの共有も可能だ。
そして、基調講演ではお馴染みの“One More Thing”が、スライドに登場した。ただしそこには、“Thing”の前に吹き出しで“Small”の但し書きが付いている。そして、スライドに表示された17型PowerBook G4が縮小したかと思えば、これが12型モデルのPowerBook G4に変わった。これが、本日最後の新製品である。スペックなどは既報の記事を参照してもらうことになるが、ちょっとした報告ではなく“もっとも小さなPowerBook製品”だったというオチである。 ここで、ジョブズCEOは2本のTV CMを上映。最初の1本はアップルお得意のお洒落な内容だったが、2本目は会場の大爆笑と喝采を巻き起こしている。オースティンパワーズにミニ・ミー役で出演している役者と、中国からNBAに入って話題を呼んだバスケットボールプレイヤーが出演するこのCMは、Apple Computerの米国サイトで見ることができるので、参照してみるといい。 ジョブズCEOは、講演の最後にこれらの製品群を送り出した会場にいる同社スタッフを起立させ、自らが先頭にたって賞賛の拍手を送った。その上で、Apple Computerを突き動かしているのは『Innovation』であると宣言して、2時間余りに及んだ基調講演を締めくくった。
□Macworld Conference&Expoのページ(英文) (2003年1月9日) [Reported by 矢作晃]
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