会場:San Francisco The Moscone Center Macworld Conference&Expoの会場となるThe Moscone Centerには、早朝6時頃から開場を待つ人々の行列ができあがった。もちろん、お目当てはEsplanade Ballroomで行なわれるスティーブ・ジョブズCEOの基調講演である。こうしたMacworldならではの光景は日本も米国もさほど変わらないが、東京開催中止の報があるだけに複雑な思いもある。 ●“Switch”のキャンペーンは順調と報告 そうした人々を飲み込んだ基調講演会場は「What a Wonderful World」をBGMに、定刻からやや遅れて暗転。満場の拍手のなかステージにジョブズCEOが登場した。「今日は伝えるべき情報がたくさんある。さぁ、始めよう」といつものフレーズでスタート。さらに、この基調講演がMPEG-4を使った最大規模のストリーミング・イベントとして世界各国にライブ配信されていると胸をはった。 最初は、昨年から始まった“Switch”のキャンペーンがテーマ。中でも、なぜか大人気の学生出演者「Ellen Feiss」のスライドが表示されると、開場は笑いと喝采で複雑な雰囲気が生まれる。キャンペーンの開始以来、同社のホームページ内に設置されているSwitchのサイトには延べ780万人のアクセスがあり、うち68%がWindows上のブラウザからアクセスしており、ユーザーはSwitchすることに大きな興味を抱いているとコメントした。 また、2001年5月に最初のApple直営店がオープンしてから、20カ月間ですでに51店舗が全米に展開。これらの各店舗から15マイル圏内に生活する人口は8,500万人にものぼるとして、潜在的顧客の存在と店舗がカバーするエリアの充実ぶりを強調した。これら直営店でのMacの売り上げは、およそ50%がWindowsからのいわゆる“Switcher”に対して販売されているとして戦略が成功していることを印象づけた。ちなみに、昨年12月の来店者数は140万人にものぼり「これはMacworldでは20回分の来場者だ」として、製品体験の場がMacworldに頼るだけではないことを暗示してみせている。 既存の情報からは、全米の教育者に向けたMac OS Xの無償提供が好評で、昨年末で終了の予定を今年3月末まで延長したり、先週には「iCal」、「iSync」といったアプリケーションがアップデートされたことなどを矢継ぎ早に報告した。
●iPod対応スノーボードウェアが登場
報告の中には、iPodの販売台数が60万台に達し、特に日本ではMP3プレーヤー市場における42%のシェアを獲得して、米国と並びMP3プレーヤーのトップシェアを達成しているという紹介もあった。ほかにiPod関連では、スノーボードメーカーのBurton社が、iPodに対応するウェアを発表。インナーにiPodを装着できるほか、袖口に用意されたリモコンでiPodの操作が可能になっている。米国のAppleStoreでは499ドルでオーダーが可能になっているという。 Mac OS X関連では、昨年8月にリリースしたJaguarことMac OS X 10.2の登場で、Mac OS Xのユーザーが500万人に達したという。また、2003年中には900~1,000万ユーザーに到達するものとの見込みを発表した。対応アプリケーションも5,000本に到達。「NASCAR Racing 2002」や「QuickBooks 5.0」など、パッケージのスライドを見せながら著名ソフトの対応が進んでいることも紹介した。 しかし、実際に名はあげないものの、いくつかのアプリケーションの対応が遅れているとコメントし、暗にこれらのメーカーを牽制してもいる。そのうえで、本日発表する新製品からはMac OS Xが唯一の起動OSになるとして、昨年パリで行なった発表を再度肯定した。
●ビデオ編集ソフト「Final Cut」には廉価版が 冒頭の約20分ほどを要した情報のアップデートが足早に終わり、いよいよ新製品の紹介に進んでいく。最初のテーマになったのはプロ向けのビデオ編集ソフト「Final Cut Pro」である。現行製品は999ドルで提供されているが、今回一部のプロ向け機能をカットした廉価版が「Final Cut Express」として、299ドルで発表された。 廉価版とはいえ、画面表示や操作方法はFinal Cut Proとほぼ同等。カラーコレクション機能やリアルタイムエフェクト、そしてさまざまなトランジションなど、これまでProの紹介時に大きくフィーチャーされてきた機能はそのまま利用できるようになっている。また、iMovieからのステップアップを目指すユーザーもターゲットにするためiMovieで利用してきたリソースがそのまま使えるようになっている。 製品デモは、マーケティング担当の上級副社長であるフィル・シラー氏が担当したが、実際これまでProの機能としてクローズアップされてきた要素を再演してみせる形となっていた。日本国内での「Final Cut Express」の販売価格は、34,800円と設定されている。
●4つのiアプリケーションの統合環境。その名は「iLife」
続いてはiアプリケーションのバージョンアップとなる。2年前、この場所からスタートしたデジタルハブ戦略は成功をおさめ、次のステップはこれらの連携と統合へと向かうとジョブズCEOは説明した。テーマになったのはiTunes、iPhoto、iMovie、iDVDの4タイトル。これらが相互に連携することにより、さらに便利に機能するというわけだ。 今回バージョンアップのないiTunesは、実は音楽素材のライブラリ化で連携の重要な位置を占める。iPhotoのスライド機能やiMovie、iDVDでのBGMなどいたるところで、iTunesのライブラリが呼び出される。これまではいったんファイルとしたものをそれぞれのアプリケーションで再度取り込むという手順が必要だったため、この連携は使い勝手の向上に寄与するというわけだ。 iPhotoは新たに「iPhoto 2」としてバージョンアップが行なわれた。従来バージョンは600万本のインストールベースがあるという。バージョンアップのポイントは「ワンクリック・エンハンス」と名付けられたカラーの補正。デジタルカメラで撮影した画像で起こりうるホワイトバランスの狂いを、クリックひとつで自動的に補正する。自らデモを行なったジョブズCEOは、雪のシーンや海のシーンなど、ホワイトバランスの狂いが生じやすいシーンでの数枚の写真を次々に自動補正してみてその機能を紹介した。 また、もうひとつ「レタッチ・ブラシ」は、画像上のゴミや汚れなどを修正するブラシ。特に難しい設定はなく、修正したい部分をなぞるだけの簡単な操作がポイントだ。デモでは、女の子の顔にかかった前髪を消して見せたり、顔に付いてしまった傷を周囲の肌色に合わせて修正するなど(一緒にソバカスまで消して見せ、笑いを誘った)してみせた。またスライドショーをDVDに書き出すときに必要だった、ファイルのエクスポート手順も、iDVDと機能が連携したことでiPhotoのアルバムからそのまま設定できるようになっている。
これまで延べ1,200万本がインストールされたiMovieは「iMovie 3」になっている。リクエストの多かった機能として、作成するムービーにいわゆる栞を付ける「チャプター機能」を追加。ムービー上の音声トラックも音量の調整などをシーン内でより細かくできるようになっている。 また、これまでは単調だった静止画の取り扱いも「Ken Burns effect」と名付けられたエフェクトの搭載で画期的に進歩している。このエフェクトは一枚の静止画を使って、クローズアップ位置のパンニングなどの効果が加えられる。また、この中での字幕の追加も可能になった。さらに前述のiPhoto同様に、作成したムービーをDVDにする際に、これまで必要だったムービーファイルの書き出しを不要にして、そのままiDVDに作業を受け渡すことができるようになった。
同時にバージョンアップした「iDVD 3」では、iMovie3で設定したチャプターをそのまま反映して、作成するDVDにチャプターメニューが追加される。他に、やはりこれまではファイルからの取り込みが必要だったメニュー画面のBGMも、iTunesのライブラリを呼び出してメニューから選択できるようになった。そしてiDVD 3のデモでジョブズCEOがもっとも時間を割いたのが、大量に追加されたモーション付のメニュー画面のテンプレート。メニュー画面、ムービーファイル、BGMはメイン画面にドラッグ&ドロップをするだけで、次々とプレビューが作成されていった。 こうしたiアプリケーションの統合と連携が実現したことで、この統合環境をジョブズCEOは「iLife」と呼んだ。iDVDをのぞく個々のアプリケーションは、1月25日から従来どおりに同社ホームページから無償でダウンロードが可能になるほか、新しいハードウェア製品にはバンドルされることになる。iDVDにも価格は設定されていないが、容量がGB単位に及ぶアプリケーションであるため、ダウンロードでは提供されない。iDVDを含んだ「iLife」がパッケージ化されて49ドルで販売されることになる。このパッケージの日本における販売価格は5,800円。2月上旬に出荷される予定だ。 基調講演はさらに後編へと続く。
□Macworld Conference&Expoのページ(英文) (2003年1月8日) [Reported by 矢作晃]
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