Hyper-Threading Technology(以下HTテクノロジ)が導入されたPentium 4 3.06GHzが、先月リリースされた。今週あたりから、秋葉原にはリテールボックスも出回るようになり、いよいよHTテクノロジを本格的に利用する時代が到来したといってよい。 ところで、先月にはシステムバスを533MHzに引き上げたXeonプロセッサが発表されたが、同時に、コードネーム“Granite Bay”と呼ばれてきたE7205チップセットもリリースされた。E7205はサーバー/ワークステーション向けという位置づけがされているが、サポートしているCPUはPentium 4であり、むろん一般的なPC向けとしても利用することができる。E7205はデュアルチャネルDDR266をメインメモリとして利用可能で、ハイエンドユーザーには注目の製品だ。
E7205の最も大きな特徴は、DRAMコントローラがデュアルチャネルに対応していることだろう。Intel 845ファミリーやVIA TechnologiesのP4X400などでは、DRAMコントローラはDIMMのデータバス幅である64bit幅となっており、モジュールを1枚単位で増設することができる。この場合、メモリの帯域幅は、 ・帯域幅=DRAMのデータレート(1秒間に転送可能なデータ量)×64bit という計算式で導き出され、例えばDDR266を搭載したPC2100の場合は、 ・PC2100の帯域幅=266.6Mbit×64bit=17062.4Mbit/sec=2132.8MB/sec=約2.1GB/sec という計算式になる。これをDDR333を利用した場合、データレートは333MHzに跳ね上げられるので、 ・PC2700の帯域幅=333.3Mbit×64bit=21331.2bit/sec=2666.4Mbit/sec=約2.7GB/sec と帯域幅が向上することがわかる。 現在、Intel 845GE/PE、P4X400、SiS648などでサポートされているDDR333を搭載したPC2700を利用した場合、帯域幅は約2.7GB/secとなるが、P4バスの533MHz時システムバス帯域幅である4.2GB/secに比べると大きく足りないことがわかる。 帯域幅を上げるため、これ以上DRAMのデータレートを上げていくのは、かなり難しい。というのも、メモリの帯域幅を4.2GB/secにするためにはDRAMのデータレートを533MHzにまであげることが必要になるが、現在のPC向けのDDR SDRAMは400MHzが最高になっている。533MHzに引き上げるには、2004年に登場する予定のDDR IIが必要になってしまう。現時点ではPC用のDDR IIはまだ規格策定の段階であり、実際の選択肢としてはあり得ない。 Pentium 4の場合、メモリの帯域幅が処理能力に与える影響は、比較対象となるAthlon XPに比べて大きい。特に、HTテクノロジに対応したPentium 4 3.06GHzの場合、2つの論理プロセッサが交互にメモりにアクセスすることになるので、メモリへのアクセス回数は増え、より十分なメモリ帯域が必要になる。実際、4.2GB/secのPC1066をサポートしたIntel 850Eは、PC2700で2.7GB/secのIntel 845GEに比べて処理能力は高くなっており、これまでも処理能力の観点で選ぶので在ればIntel 850Eが選択されてきた。ただ、Direct RDRAMは価格の面で、DDR SDRAMに比べて不利になっており、安価なDDR SDRAMを利用しつつも広帯域幅のメモリが実現できるソリューションが待ち望まれていた。 今回のE7205では、チップセットのDRAMコントローラがメモリに対して128bitでアクセスする。ただ、すでに述べたように現在出回っているDDR SDRAMのメモリモジュールはすべて64bit幅となっているので、同じメモリモジュールを2枚一組(64bit×2=128bit)で利用することで128bit幅アクセスを実現する(64bitのモジュールが2チャネルで利用されるという意味で“デュアルチャネル”と呼ばれる)。 同じPC2100を利用した場合でも、 ・PC2100デュアルチャネルの帯域幅=PC2100の帯域幅=266.6Mbit×128bit=34124.8Mbit/sec=4265.6MB/sec=約4.2GB/sec となり、P4バス/533MHzの帯域幅である4.2GB/secとマッチする。このため、高い処理能力が期待できるのだ。なお、利用できるメモリモジュールはDDR266を搭載したPC2100と、DDR200を搭載したPC1600になっており、システムバスを533MHzに設定した場合にはDDR266のみが利用可能となっている。 また、もう1つの特徴として、IntelのPentium 4向けチップセットとしては初めてAGP 8Xに対応している。 ATI TechnologiesのRADEON 9700 PROなど、すでにAGP 8Xに対応しているビデオカードは市場にあったが、IntelのチップセットでAGP 8Xをサポートしたチップセットはこれまでなく、サードパーティのチップセットのみのサポートになっていた。安定性や互換性の観点から純正チップセットでのサポートを待ち望んでいたユーザーにとっては待ちに待った製品と言えるだろう。 なお、それ以外の点に関してはIntel 845GE/PEと大差はない。システムバスは533/400MHzをサポートしており、サウスはUSB 2.0をサポートしたICH4となっている。
今回E7205のレビューに利用したのは、GIGABYTE TechnologyのGA-8INXPで、標準的なATXマザーボードだ。メモリスロットは4つ搭載されており、DIMM1とDIMM2、ないしはDIMM3とDIMM4に2枚一組で同じ容量、タイプのメモリモジュールを挿入して利用する。ただ、実際にはシングルチャネルで利用することも可能なようで、1枚だけを挿するとシングルチャネルとして動作した(ただ、それが意味があるかどうかはまた別の話ではあるが)。
GA-8INXPの最も大きな特徴はDPVRM(Dual Power Voltage Regulator Module)と呼ばれるライザーカード形式の電圧変換モジュール(VRM)が用意されていることだ。 現在のマザーボードは、CPUに供給される電圧が電源供給ユニットから供給される電圧よりも低いため、マザーボード上の電圧変換モジュール(VRM)が電圧を変換する仕組みになっており、ここの出来がCPUの安定動作に大きな影響を与えている。 Pentium 4の仕様では、複数のVRMを搭載できるようになっており、“phase”と呼ばれるVRMの各チャネルがパラレルに動作することで安定した電圧を提供できるようになっている。そのため、各チャネルで生成された電圧は合算されてより安定した電圧供給が可能になっている。 当初のPentium 4の仕様では、2つないしは3つのphaseを持つデザインガイドが提供されていたが、HTテクノロジ対応のPentium 4向けのデザインガイドでは3~4つのphaseを持つことが推奨されている。 GA-8INXPはボード上に3つのphaseを搭載する仕様になっており、さらにDPVRMをスロットに挿すことで、6つのphaseを備える仕様とし、現在のHTテクノロジPentium 4どころか、将来のPentium 4にも対応することが可能なように設計されている。 ただ、システムバス533MHzのPentium 4は、実は3.06GHzで打ち止めの可能性が高く、この機能が将来意味をなすかどうかは難しいところだ。Intelのロードマップでは、2003年の第2四半期に投入されるPentium 4は、いずれもシステムバス800MHzで、E7205では利用できない(E7205は533/400MHz対応)。 さらにシステムバス533MHzの新しいクロックグレードのPentium 4はIntelのロードマップにはなく、今後、Pentium 4 3.06GHz以上のクロックで、E7205で利用できるCPUが登場する可能性はかなり低い。 ただ、もしオーバークロックにチャレンジしてみようという人であれば、話は別だ。オーバークロックの場合、CPUは規定されている以上の電圧や電流を必要とする。GA-8INXPはDPVRMを持つことにより、余裕があるので、他のマザーボードよりも成功する可能性が高いといえるだろう。 このほかにも、オンボードのSerial ATAコントローラ、IDE RAIDコントローラ、オンボードサウンド、オンボードLANなど多彩な機能が搭載されており、機能豊富なマザーボードとしても要注目となっている。
それでは、実際のベンチマークプログラムを利用してパフォーマンスを計測していこう。今回比較として用意したのはIntel 850E+PC1066、Intel 845GE+PC2700(DDR333)の2つのチップセットで、いずれもIntelのマザーボードだ。 今回E7205のメモリは2枚の同じPC2700をPC2100相当として動作させ、DRAMのレイテンシを2-2-2(CASレイテンシ、RAS-CASディレイ、RAS-CASプリチャージ)に設定した。なおGA-8INXPのBIOSセットアッププログラムは標準ではDRAMレイテンシの設定を行なう“Advanced ChipSet Setup”のメニューは表示されないが、メイン画面で“Ctrl+F1”を押すことでメニューが表示される。 利用したベンチマークは、メモリ帯域幅を計測するStream for DOS、アプリケーションベンチマークのSYSmark2002、3Dベンチマークの3DMark2001 Second Edition、SPEC Viewperf 7.0、TMPGEnc Version 2.57によるMPEG-2エンコードという5つのテストだ。テスト環境は以下の通りで、結果はグラフ1~グラフ6の通り。 【テスト環境】
以上のように、E7205はPentium 4用チップセットとして、おおむねIntel 850Eを上回っていると言ってよく、性能面だけを見て購入するというユーザーであれば文句なく購入していいだろう。また、今回は特にテストしていないが、Intelチップセットして初めてAGP 8Xに対応しているという点も見逃せず、今後登場するGeForce FXなどを見据えてAGP 8X環境をそろえるという意味でもお薦めできる。 しかし、コストパフォーマンスはよくない。そもそもE7205はチップセット単体の価格がIntel 845ファミリーに比べて倍近くで、しかもデュアルチャネルのサポートにより信号の取り回しなどが難しくなったことで基板に高価な6層基板を使わなければならないため、非常に高価になっている。 これまで秋葉原で販売されたE7205マザーボードは、いずれも2万円台後半~3万円台前半となっており、その半額程度で購入できるIntel 845GEマザーボードなどと比べて高い印象は否めない。 ただ、Intel 850E+PC1066との比較という意味では、やや低コストと言える。Intel 850E搭載マザーボードは、実売価格で2万円を切る程度であるので、256MBのPC1066 2枚と併せて5万円前後だが、E7205+PC21002枚では合計で4万円前後となっており、1万円程度の節約が可能だ。これまでIntel 850E+PC1066という組み合わせを考えていたユーザーには、コストパフォーマンスが高いといえるだろう。 (2002年12月20日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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