第171回:お手軽Music Serverを作ってネットワーク音楽を楽しもう |
今週から、インテルの開発者向け会議Intel Developers Forum Fall 2002が始まる。その取材のため、2カ月半ぶりに飛行機に乗り込んだが、先日購入したER-4Sはなかなかの活躍をしてくれた。一般的な耳栓と比べてみたが、ER-4Sの方が遮音性は高いようで、小音量で音楽をかけながらそのまま眠りにつけた。ふだん、あまり出先で音楽を聴かなかった僕は、今回のためにポータブルのプレーヤーもいろいろ物色したのだが、その話は今回のコラムの最後に簡単に記しておく(特に珍しい製品を試したわけではない)。
さて、今回の話はワイヤレスネットワークとノートPCを使いながら、自宅や外出先でどのような使い方をしているかを紹介したい。といっても、実用的な話はこれまでに何回かしてきたので、もう少しくだけたAV寄りのお話である。
●自宅にあるメディアを簡単に共有するために
一般的なEthernetの帯域は100Mbps、無線LANで11Mbps(5GHz帯なら最高54Mbps)。自宅でLANを使っている人なら、音楽ファイルを家庭内のPCで共有し、どのPCからでも再生できるようにしている人は多いはずだ。テレビを録画したファイルとなると、11Mbpsの無線LAN(実効転送レートは2Mbpsそこそこぐらい)では厳しいが、有線LANならこれも問題なくネットワーク経由で再生できてしまうだろう。ソニーのGigaPocketをはじめ、東芝のTransCubeやNECのSmartVision HDなどは、ネットワーク経由でのメディア再生をサポートする。
しかし、録画したビデオを簡単にネットワーク経由で再生できるように、各社の製品が工夫を凝らしているのに対して(GigaPocketも新しいバージョンで、サーバーの自動検索が行なえるようになる)、音楽ファイルをネットワーク上で統合的に管理し、簡単に共有する方法は意外に少ない。ソニーのVAIO Mediaが音楽サーバー機能を持っている程度。おそらくこれは著作権管理の問題もあって、なかなか音楽共有を行なうサーバーソフトウェアをベンダーが作りにくい(作るのであればきちんとした著作権管理の枠組みの中でやらなければならない)という理由があるからだろう。
しかし、我が家にはVAIO Mediaサーバーが動作するパソコンがないため、運用で管理することにしている。方法は非常に単純で、UNC(Universal Naming Convention : 汎用名前付け規則)に基づいたパス名で音楽ファイルを指定したプレイリストファイルを共有するだけでいい(もちろん、プレイリストではなく音楽ファイル1個1個に個別にアクセスする場合は、通常のファイル共有の方がいいだろう)。
プレイリストの形式はPLS、M3U、ASXなどがある。利用しているプレーヤーソフトによってサポートしている形式が異なる(すべてサポートしている場合もある)が、どのプレイリスト形式でも基本的には同じだ。たとえばWinAMPなどがデフォルトのプレイリスト形式としてサポートされているM3U形式の場合、次のような内容となる。
[playlist] File1=\\server\sharefolder\artist\album\track1.ogg Title1=Fourplay - That's the time Length1=404 File2=\\server\sharefolder\artist\album\track1.ogg Title2=Fourplay - Cafe L'amour Length2=318 NumberOfEntries=2 Version=2 |
もっとも、このようなファイルをいちいち作成するのは大変だ。そこでプレイリストをサポートしているプレーヤーでリストを作成する。その際、ドライブレターが割り当てられたディスクからプレーヤーに登録するのではなく、Windowsのネットワークコンピュータ下に見える共有フォルダから直接ファイルを指定する。こうすることで、ドライブレターを使わないUNCに基づいたパス名でプレーヤー内に登録されるため、そのままリストを保存すると上記のようなプレイリストを簡単に作成できる。
UNCパスは、その共有フォルダにアクセスできるすべてのPCで有効なため、家の中のどのPCから読み込んでも正常に再生することが可能だ。プレイリストの拡張子に適切なプレーヤーソフトが割り当てられていれば、プレイリストをダブルクリックするだけで演奏が始まる。
作成したプレイリストは特定の共有フォルダにまとめておいてもいいが、各プレイリストにアクセスするための簡単なWebページを書き、Webサーバーで共有するといくつものPCで情報を共有するのが楽になる。Windows XPのユーザーは、フォルダのプロパティから簡単にフォルダをWebとして公開できるのでそれを用いるといい。
我が家の場合、音楽にアクセスするためのWebページアドレスを決めておき、リストを作成した者がそのWebページを編集してリストを追加することで、家庭内でのプレイリスト共有を行なっている。実際にやってみると実に簡単なので、家庭内LANを使っている読者は試してみてほしい。
なお、ファイル名にはUNC以外にもURLを指定することができる。音楽ファイルにWebサーバー経由でアクセスできるようにしておき、プレイリスト中のパス名を置き換えてhttpでパスを指定するだけだ。上記の例をURLで置き換えると
[playlist] File1=http://server/musicsharefolder/artist/album/track1.ogg Title1=Fourplay - That's the time Length1=404 File2=http://server/musicsharefolder/artist/album/track1.ogg Title2=Fourplay - Cafe L'amour Length2=318 NumberOfEntries=2 Version=2 |
という形式になる。ただし、僕の知る限りURLでプレイリストを作れるプレーヤーソフトはない。そのため、UNCや通常のパス名でリストを作成しておき、一括編集が可能なストリームエディタ(sedなど)を用いてプレイリストを変換しなければならない。またファイル名などにスペースが使われている場合、プレーヤーソフトによっては音楽ファイルにアクセスできない場合がある。たとえばWindows Media Playerはスペースを自動判別してURLにアクセスするが、WinAMPはアクセスできない。その場合、パス名内のスペースを"%20"に置き換えることでアクセス可能になる。
単にUNCを用いる方法よりも、面倒でストリームエディタに関する知識なども少しだけ必要になるが、その代わりWindowsのファイル共有プロトコルに依存しないため、Windows以外のプラットフォームが混在している場合などには便利な手法である。
なお、URLでアクセスする場合、URLがインターネット側からも到達できるようだと、不特定多数に対して音楽データを公衆送信になってしまい、著作権法に違反することになる。インターネット側からは、音楽ファイルにアクセスできないように注意を払ってほしい。
ブロードバンド環境を利用して、外出先から自宅の音楽ファイルにアクセスしたい場合は、WindowsのVPNサーバー機能を用いていったん自宅LANにログオンしてからUNCでアクセスするようにするのがいい。
●さらに便利に使うには
プレイリスト共有による運用をうまく行なえば、家庭内で音楽ファイル(ASXなど音楽ファイル以外もサポートする形式ならビデオファイルも)を簡単に共有し、無線LANを使ってどこからでも好きな音楽にアクセスできる環境を構築できる。家族がそれぞれに個人のPCを持っている場合にはとても便利だ。
しかし、音楽を聴きたい時はPCを使っている時だけではない。たとえばリビングでくつろいで読書をする傍ら、BGMとして音楽を流したい場合もあるだろう。もちろん、どんな場所でもノートPCと無線LAN、それに適当なヘッドフォンがあれば楽しめないことはないが、できればその場に置いてあるオーディオ機器で聴きたいものだ。
そこで我が家では、使わなくなったファンレスのノートPCに流体軸受けの静かなハードディスクを入れ、USBオーディオデバイス経由でリビングのオーディオ機器に接続している(このパソコンは音楽ファイルサーバーも兼ねさせている)。そしてリモートデスクトップでアクセスして、音楽再生を行なわせるようにした。
ヤマハ DP-U50 |
ヤマハのDP-U50というUSBオーディオデバイスは、PCから入力切り替えやボリューム調整などを行なえるので、手元のノートPCからリモートデスクトップでアクセスすると、さながらリモコンのように操作を行なえるようになる(なお、DP-U50は一部機種とWindows XPの組み合わせでジッターノイズが多発する問題がある。筆者の使っているノートPCでは問題ないが、今すぐ欲しい人はご注意を。この問題は、Windows XP SP1で修正されることになっている)。
これはこれで非常に便利だが、リモートデスクトップでアクセスしてPCをリモコン代わりにしなければならないため、赤外線リモコンで手軽に音楽へとアクセスできるCDチェンジャーや、先日発表になった新型VAIOシリーズのオプション「RoomLink」と比べると手軽さに劣ることは否定できない。
ソニーのバイオ用オプション「RoomLink」 | VAIO Mediaのオーディオコントロール画面 |
Turtle BeachのAudioTron |
そんなわけで、IDF取材前日の空き時間に、日本では発売されていないTurtle BeachのAudioTronというデバイスを購入してきた。AudioTronは2000年に発売された音楽再生専用アプライアンスで、EthernetもしくはHomePNA 2.0で接続したPCの音楽データをネットワーク経由で演奏できる製品。単体のオーディオ機器としてアナログ音声(ラインおよびヘッドフォン)が出力できるほか、光デジタル出力端子も備えている。
発売当初はMP3とWAVのネットワーク再生のみにしか対応していなかったが、その後のファームウェアバージョンアップでWMAやインターネットラジオ局にも対応した。WAVにも対応しデジタル出力も行なえるため音質重視のユーザーにも適している。WAVファイルは曲名などのタグが埋められないが、AudioTronのサーバーソフト側でタイトル情報を扱えるようになっている(ただし日本語には対応していない)。
操作の感覚は通常のオーディオ機器と同様なので、リモートデスクトップを用いた現在のスタイルから比べると、グッとVAIO Mediaなどが提供する環境に近づくことができるだろう(ただし扱えるのは音楽のみだが)。AudioTronはインターネット通信販売で日本からも購入できる店があるようなので、チャンスがあれば別途レビューを掲載することにしたい。
このほか、Appleがオープンソースプロジェクトの成果として無償配布(Linux版やWindows版もある)しているストリーミングサーバー「Darwin Streaming Server」を使い、自前のインターネットラジオチャンネルを自宅LAN向けに作るといったお遊びも紹介したいところだが、そろそろ誌面も尽きてきた。インターネット上には、Darwin Streaming Serverの使い方を解説している日本語のページもあるので検索エンジンで探してみるといいだろう。
●ベストセラーのポータブル音楽デバイスを試してみたが
さて、冒頭で述べたようにこれまではあまり使わなかったポータブル音楽デバイスをいくつか試してみた。最初に買ってみたのが、韓国iReverのMP3/WMA対応CDプレーヤーSlim-X。日本語にも対応した大型の液晶リモコンに、名前に恥じないスリムな筐体など、MP3対応CDプレーヤーとしてはダントツの人気商品だ。
しかし、ヘッドフォン出力が少々弱く、ER-4Sとの組み合わせでは音楽ソースによっては出力が足りなくなる(ER-4Sのインピーダンスが高く音量が確保しにくいための現象で、通常のイヤホンでは問題は出ない)。最大音量近くでは歪みも目立つこともあって、満足度は今ひとつ。とは言え、これに代わる製品がないことも確か。
そこで目先を変えてクリエイティブメディアのNOMAD MuVoを使ってみた。音楽プレーヤーというよりも、USBメモリキーに音楽再生機能が付属している感覚のパッケージがおもしろい。筆者はいつも32MBのUSBメモリキーを持ち歩いているため、その容量アップついでに128MB版のMuVoを試してみることにした。64MB版では音楽ファイルでいっぱいになってしまい、メモリキーとしての使い勝手は疑問。しかし、128MB版なら容量的な余裕もある。MuVoはヘッドフォン出力にも余裕があり、ER-4Sでも十分な音量が確保できた。液晶表示などは全くなく、再生位置レジューム機能もないなど、音楽プレーヤーとしての使い勝手は悪いが、その手軽さから非常に気に入っている。
MuVoは単純なUSBストレージに、そのままMP3やWMAをコピーするだけで再生できる(著作権フラグ付きデータは再生できない)ため、Windows Media Playerの[デバイスへコピー]機能でビットレート変換を行ないながらコピーできる点も気に入っている。高ビットレートで記録したMP3やWMAを、MuVoに転送する際に自動的にWMAの128Kbpsや64Kbpsへと変換できるのだ。
MDプレーヤーと同じような便利機能を期待してはいけないが、ライトな感覚でMP3プレーヤーを楽しみたい人にお勧めしておきたい。特にUSBメモリキーを購入しようと思っているなら選択肢のひとつとしてリストアップしたい。
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http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20020904/creative.htm
(2002年9月10日)
[Text by 本田雅一]