第169回:【番外編】高い遮音性を誇る高音質のインナーイヤーフォン「ER-4S」 |
第166回のノイズキャンセリングヘッドフォンについて、多くの読者から様々な反応をいただいた。ソニーのMDR-EX70SLを推す声、アクティブノイズキャンセリングに音質を求めるのがそもそも間違いという意見、オーディオテクニカのUSBヘッドフォンはどうか? というメール、それにヘッドフォンは耳が悪くなるのでは? という話まで。
MDR-EX70SLは4,000円程度とアクティブノイズキャンセル機能を持った製品の半額以下で買える、耳栓型のステレオイヤフォン。実はこの製品は出たばかりの頃に購入し今でも所有している。遮音性はそれなりにあるものの、ドンシャリ傾向が強く特に低音のボリュームが妙に強調された感じで今1つ好みに合わなかった。
ER-4S |
オーディオテクニカのUSBヘッドフォンは、ある編集部で見かけたものを試させてもらったことがある。PCのノイズに影響されない点は優れているが、折りたたみのできない密閉型のため持ち歩きには不便。持ち歩かないのであれば、あえてUSBヘッドフォンを選ぶ必要はなく、デジタル接続でオーディオアンプなどに接続し、好みのヘッドフォンを使う方が良い結果を得られるだろう(もちろん、USBヘッドフォンの方が手軽なことは間違いないが)。また密閉型のため、室内向けとしては十分な遮音性があるとは思うが、ノイズキャンセルという趣旨からも遠のく。
結局のところ、ノイズキャンセリングヘッドフォンに音質を求めてはいけない、というのは同意見だ。そんなわけで、アクティブではないパッシブのノイズキャンセル(単なる耳栓とも言う)を重視して、東京・神楽坂にあるEtymotic Researchの代理店Aedioに、ER-4シリーズという耳栓型ステレオイヤフォンの試聴に出かけてみた。
●想像以上の音質と遮音効果
プラスチックケースに収められている |
ER-4シリーズはプラスティックケースに収められ、イヤフォン部はコードとイコライザ部、イヤースピーカ部、耳にフィットさせるチップと呼ばれるパーツに分かれている。プラグはステレオミニプラグで、標準サイズにはアダプタで対応。イコライザ部にはクリップが取り付けられるようになっており、胸などに固定する。
製品バリエーションとしてバイノーラル録音されたソースにチューニングされたER-4B、ポータブル機器向けにインピーダンスを下げ低音が多少強めに出るER-4Pがあるが、僕が購入したのはスタンダードタイプのER-4Sだ。
ER-4Sはインピーダンスが100Ωと、一般的なイヤフォンよりも高いため、ヘッドフォン出力がある程度以上ないと大きな音が出ないが、遮音性が高い分、小さい音量でも十分に音楽が楽しめるため、携帯型オーディオデバイスでも十分に楽しめると思う。ER-4Pは27Ωとインピーダンスは低いが、その分、音質にも多少の違いがあり、高音域の抜けの良さはER-4Sの方が上だと思う(試聴してこの点が気にならないなら、ポータブル機器ユーザーはER-4Pの方が使いやすいだろう。ただし価格はER-4Pの方が高い)。
さて、購入したER-4Sだが、以前に少しだけ試させてもらったことがあったものの、じっくりと使ってみると予想以上に音質がいい。全体に薄味で迫力などは感じないが、クリアで繊細。非常に落ち着いた音が出てくる。
試聴はポップスからジャズ/フュージョン、ピアノ/チェロなどの独奏曲、オーケストラまで行なったが、安物のイヤフォンでは合う製品が少ない小編成のクラシックやオーケストラが気持ちよく聞こえたのが印象的だった。ライブ録音のジャズなどにも言えるが、演奏者の息遣いやフレットをたたく音やピアノのペダルが動く音など、それまで聞こえてこなかった音が聞こえてくる。
これはもちろん、ER-4Sが高品質というのも理由だろうが、遮音性の高さが大きく寄与していると思う。ER-4シリーズには白と黒、2種類のイヤーチップが用意されており、好みで使い分けるようになっているが、白チップはフランジ型のヒダが3重に外耳道へと密着し、外部からの音の進入を防ぐ。黒チップも市販の耳栓のような素材で、耐久性には劣りそうだが装着感も高い。
これによりノイズフロアが下がり、耳を痛めるほどの大音量で鳴らさなくても、十分に細かい音が聞こえてくる。低品質のヘッドフォン出力ではその実力は十分に発揮できないが、翻って言えばヘッドフォン出力の品質さえ高ければ、それを生かした音を聴かせてくれる。
●電車の中でもゆったりと音楽に浸れる
メーカーのサイトにある情報によると、ER-4シリーズは外音を20~25dBも減衰させてくれるそうだ。たとえば電車の中でER-4Sを使うと、市販の耳栓をしているとき並(もしくはそれ以上)に外部の音が聞こえなくなる。うちのカミさんに使わせたところ、周囲の風景がまるで映画のように別世界で動いているように感じる、と話していたが、まさにそんな感じ。音楽をかけ始めると、それにマスクされて周囲の音は、さらに聞こえなくなる。
ジャズやクラシックなどはダイナミックレンジが広く、電車の中などではとても聴けたものではない(あるいは大音量でなければ楽しめない)が、ER-4Sならば静かにゆったりと聴ける。心なしか電車に乗っている時の疲れも少なく感じるほどだ。
ただ、読者からのメールでも指摘があったが、車内のアナウンスなどが全く聞こえないため、ER-4Sで音楽を聴きながら本を読んでいたりすると、駅に停車したことにも気付かず、うっかり乗り過ごしてしまいそうになる。また、装着中は周囲の環境変化に対する感覚が著しく鈍る。歩行中に装着するのは非常に危険だろう。道路を行き交う車やバイクが、目の前の風景ではないかのように感じるほど遮音性が高いからだ。もちろん、音漏れも皆無なため、電車の中で他人への迷惑を気にしなくていいというのも大きなメリットだと思う。
ではすべての人に勧められるかというと、難しい側面もある。耳の中に入れて使うため、イヤーチップの形状と外耳道が合わない場合は、装着感に難が出る場合があるからだ。僕の場合、幸いなことに耐久性も遮音性も高い白チップが耳に合ったが、きちんと挿入できない人は正しい音質で聴くことができない上、耳の中が痛くなるそうだ。その場合も、柔らかいフォーミング素材を使った黒チップを使えば快適に使えるだろうが、いずれにしろ耳の中に異物を入れるタイプの製品は好き嫌いが強くあると思う。
このため、東京近郊以外に在住している人は難しいかもしれないが、購入の際には神楽坂の試聴室で一度試してみることを勧めたい。有名な甘味処「紀の善」で名物の抹茶ババロアを食べに行こうなんて友達を誘いつつ、神楽坂まで足を伸ばしてみてはいかがだろうか?
なお、ER-4シリーズには下位モデルとしてER-6という製品もある。イヤーチップが3重から2重に変更され、素材もより柔らかなものとなっているため、ER-4シリーズの白チップよりも装着感はよく、装着そのものもやりやすい。音質的にも遮音性に関しても、ER-4シリーズよりも落ちてしまうが、MDR-EX70SLよりは良いと感じた。ただ、個人的にはER-4シリーズを選ぶことを勧めておきたい。ER-6は廉価版とは言え、それなりに値の張るイヤフォンだからだ。より高品質の上位モデルの方が、満足度は高いだろう。
□Etymotic Researchのホームページ(英文)
http://www.etymotic.com/
□製品情報(英文)
http://www.etymotic.com/musicians/er4more.html
□AEDIOのホームページ
http://www.aedio.co.jp/
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(2002年8月28日)
[Text by 本田雅一]