第167回:Baniasが気になるノートPCバイヤーへ



 まだ夏だというのに、来年のモデルが気になっているノートPC好きはとても多いようだ。発表会などに集まるプレス(その多くは仕事の都合上ヘビーモバイラーである)同士で話をしていても、その多くは来年の話。この業界にいる人間の誰もが今年のビジネスを気にしているが、一方で自分たち自身を含めて来年ばかり気になってしまうのは、PCのアーキテクチャが来年大きく変わりそうだからだ。

 9月10日からIntel Developers Forum(IDF)が開催予定だが、2月に行なわれた前回のIDFでは2002年末の話をすっ飛ばし、2003年の話ばかりがフィーチャリングされた。3GIO然り、Prescott然り、802.11a/bデュアルバンド化やシステム全体に及ぶ省電力技術の開発なんていう話もあった。そしてもちろん、消費電力とプロセッサパワーのバランスに配慮した新アーキテクチャ採用のプロセッサBaniasも2003年である。おそらく9月のIDFも来年の話が中心になるに違いない。

 しかし、次世代製品を待つばかりが幸せというわけでもない。確かに来年の製品は今年よりも良いものになっているだろうが、今も昔も、そしてもちろん来年も、進化の途上にある製品は、さらにその次の進化も控えているからだ。言い古された言葉だが、新製品を待っていては何も買うことができない。来年もまた同じである。

●Baniasが無線LAN対応とはどういう意味?

 そもそもBaniasとはどういったプロセッサなのか。その内容はすでにかなり以前からOEMベンダーに対しては明らかにされているし、少しづつ本サイトでも明らかになってきている。が、現時点では明らかではないことが多いのも確かだ。おそらくアーキテクチャの技術的な詳細に関しては、9月のIDFでかなり詳細なディテールが、(正式に)明らかにできるだろう。

 IntelはBaniasに関して、周波数あたりのパフォーマンスがかなり高くて、消費電力をモバイルPentium III並に維持できて、さらにプロセスが進むとかなり良くなるよ、としか話していない。非常に曖昧な言い回しだが、これはあまりに隠していることが多すぎるからだ。ただし、Baniasの性能はIntelの言うとおりになりそうだ。

 これでは話が進まないので、話題を無線LANに切り替えよう。Intelは今年に入ってから、無線LANの普及や無線LANインターネットアクセスサービスの増加を、Baniasと結びつけてプレゼンテーションするようになった。細かなディテールは異なるものの、無線LANとそれを取り囲む市場動向、その可能性のすばらしさを蕩々と語った後、Intelは来年、Baniasでその答えを出すというパターンである。これはもう、何度ブリーフィングを受けても変わらない。

 しかし考えてみてほしい。Baniasは「半導体技術の進化をパフォーマンスアップだけに振り分けるのでなく、消費電力とパフォーマンスのバランスを重視した」と紹介されているプロセッサだ。どこに無線LANと関係があるのか? もちろん、無線LANのために増える消費電力との関係をこじつけることもできるだろうが、それを言い始めれば他にもバッテリ駆動時間の戦犯と言えそうなデバイスはたくさんある。

 IntelはプロセッサとしてのBaniasではなく、チップセットも含めたBaniasプラットフォーム全体でモバイルPCの価値を高めようとしているからだ。省電力の分野はもちろん、無線LANソリューションをプラットフォーム戦略に組み込むのである。その結果、IntelのモバイルPC向けプラットフォーム=無線LANが当たり前のものになっていく。無線LANの内蔵が、モデムの内蔵と同じぐらい当たり前になるのは時間の問題だろう。802.11bは搭載が当たり前、802.11aも製品ラインの中で差別化を行なうため、中級機以上には搭載されるという状況になるはずだ。

 PCベンダー各社は来年以降のビジネス向けノートPCを、ローエンドを除きほぼ全てBaniasに移行させようとしているが、その理由も無線LANがプラットフォームに統合されるからだという。その中にはセキュリティに関する機能も含まれるようだ。省電力プロセッサと言うと、小型・薄型を連想しがちだが、Baniasの場合は現在モバイルPentium 4を搭載しているクラスのノートPCもカバーレンジに入っている。

 ただしコストとクロック周波数のバランスが重視されるコンシューマ向けには、モバイルPentium 4(モバイルCeleron)が搭載され、Baniasをモバイル向けプレミアムブランドにしていく。B5ファイルサイズ以下のノートPCに関しては、Banias自身の低電圧版、超低電圧版のリリースに伴い、2003年夏以降のモデルでBanias化が徐々に進む。

 と、このあたりの話は、先に後藤弘茂氏がレポートしている。いずれにせよ、だからこそBaniasを待ちたいと思う人が多いわけだが、来年の前半になれば今Baniasを気にしているのと同じような“事情”で買えなくなってしまうのは目に見えている。

●Baniasは意外に短命

 まず、Banias自身が意外に短命なプロセッサになりそうな事が挙げられる。昨年から注目を浴びているBaniasだが、来年早々に市場へ投入されるものの、製造プロセスの移行に大きなトラブルが無ければ、その半年後には90nmプロセスへの移行(Dothanへの移行)が始まってしまい、2004年には低電圧版、超低電圧版のDothanまで登場してくる。Baniasを待ったとしても、すぐにその次に目が移ることだろう。

 ここからは推測になるが、おそらく「プロセスが進めばさらに低消費電力になるから有利」とはならない。DothanはIntelが設定した熱設計電力枠に沿った形で、できる限りの高クロック化が図られるはずだ。以前ならば、プロセスルールの変更とともに半導体を縮小させ、電圧を下げることで消費電力が大きく下がったものだが、その下げ幅がだんだんと小さくなってきているのは明らか。熱設計電力枠が今後、超低電圧版の7Wのさらに下にもう1つ設定されることはない(余談だが、9.5Wがモバイルプロセッサの上限と言われていた時期さえあったのだから、ずいぶん消費電力が増えたものだ)。

 熱設計電力枠に変更の予定はない、ということは、つまり最終製品としてのノートPCに大きな変化が起きないことを意味している。冷却周りや周辺チップの変化、I/Oインターフェイスのトレンドなどにより様々な変化はあるだろうが、Crusoeや超低電圧版モバイルPentium IIIが登場した時のように、新しいノートPCのスタイルがBanias、そしてDothanによって生まれる可能性は低いと考えていい。

 もちろん、同じ枠内であれば現状よりも大きく性能アップする可能性があり、その上、デュアルバンド無線LAN内蔵などの付加価値も加わるが、基本的なノートPCとしての姿形や使われ方まで変化するわけではないのだ。

 また、無線LAN技術にしても、広帯域メディア再生のための帯域保証プロトコルや、より進んだ省電力制御のためのプロトコル、空きチャンネルの動的な選択を行なうプロトコルなどが、どこまでBaniasを中心とするプラットフォームでサポートされるか現時点ではわからない。

 そうした事を考え始めると「ならば超低電圧版Dothanを待って、無線LAN技術も落ち着いてからにした方がいいか」なんて話になるはずだ。

●待つ方がいい人、気にしない方がいい人

 結局のところ、欲しい時に欲しいものを買うのが正解だが、僕が自分でノートPCを買うとすれば、次のように考えるだろう。

 フルサイズのノートPCが欲しいならば、気にせずに欲しい時に適価の製品を買う。Northwoodコアのモバイルプロセッサの価格がこれだけ急激に下がったことを考えると、今はむしろ買い時と言えるだろう。年末向け新製品にも注目だ。

 A4ファイルサイズ程度の持ち歩きも考えた14型クラスの2スピンドル機なら、Baniasは気になるところ。しかし、Baniasの価格は当初、かなり高くなることが予想される上、企業向けが中心になるため個人の財布からお金を出す場合は判断が分かれる。今欲しいならば迷うことはないが、急がないならBanias待ちもいいかもしれない。

 12.1型以下のクラスは、Baniasを待つ必要は全くない。低電圧版、超低電圧版は来年第2四半期、すなわち2003年夏商戦以降でなければ登場せず、そのころにはプロセスルールの移行が見えてしまっている。Baniasを気にかけて購入を遅らせても、すぐ目の前にプロセスルール変更というのは辛いところ。今から十分に欲しいと思う製品を楽しんで、Dothan以降の製品を待つのがいいと思う(だからこそ、僕自身もDynabook SS S5を買った)。

 これらは僕が考えていることで、誰にも当てはまることではないし、Intelの戦略変更で当てがはずれることももちろんある。この連載を見ている人の多くは、自分でノートPCを選び、購入したことがある人たちだろう。自分なりのルールを決めればいい。

 ノートPCにとって、プラットフォームの変化は非常に大きな出来事だ。部分的な機能の変更もできないため、よけいにそう考えることだろう。しかし、一般的な進化の流れ以上の製品スタイルの大きな変化がないと見込まれるのなら、何カ月もの時間を無駄にして欲しい製品を我慢する必要はない。

 Intel自身がBaniasの発表時に認めたように、プロセッサとクロック周波数だけで価値が決まるわけではない。部品でしかないプロセッサよりも大切なものがある。それはベンダーが送り出す製品自身の味付けと品質である。


□関連記事
【7月29日】【後藤】Intel、Banias後継の第2世代モバイルCPU「Dothan」を来年後半に投入
http://watch.impress.co.jp/docs/2002/0729/kaigai01.htm

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(2002年8月20日)

[Text by 本田雅一]


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