安価になったGigabit Ethernet環境を試す
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玄人志向のGSW08AL-HUB。8ポートの1000BASE-TをサポートするGigabit Ethernet Hubながら、3万円弱と安価 |
7月下旬から8月上旬にかけて、サポートを一切行なわない代わりに非常に安価なPC/AT互換機パーツを発売している玄人志向より、激安のGigabit Ethernet Hubが発売された。
これまでGigabit EthernetのHubと言えば、10万円近い高価なものばかりで、正直なところエンドユーザーには夢物語にすぎなかった。ところが、玄人志向が発売したGigabit Ethernet Hubは8ポートで3万円を切り、4ポートでは2万円を切るなど、背伸びをすればなんとか手が届く範囲の価格で発売されたため、既に1万円を切っているGigabit Ethernet対応LANカードとあわせ、エンドユーザーにとってGigabit Ethernetが現実的な話になってきた。今回は、こうした身近になったGigabit Ethernet関連製品を紹介していきたい。
●データバッファの容量を減らすことで大幅な低価格を実現
Gigabit Ethernetとは、1000MbpsというこれまでのFast Ethernetの100Mbpsの10倍の転送速度を実現するイーサネットの規格だ。Gigabit Ethernetにはいくつか規格があるが、一般ユーザーの視線を最も集めているのは、一般的に利用されているカテゴリー5のケーブルを利用する100BASE-TXの上位互換となる1000BASE-Tだ(以下、本原稿でGigabit Ethernetという場合には1000BASE-Tのことを意味する)。
今回筆者が購入したのは玄人志向の8ポート版Gigabit EthernetスイッチングHubのGSW08AL-HUBだ。パッと見は単なるHubにしか見えないが、LEDには1000Mbpsという表示がされており、このHubがGigabit EthernetのHubであることがわかる。これまでも3万円前後で、Gigabit EthernetをサポートしたHubは存在していた。だが、それはGigabitのポートが1ポートで、あとはFast Ethernet(100BASE-TX)のポートとなっているもので、サーバーだけGigabitにしてクライアントはFast Ethernetで利用するというタイプのものだった。だが、本製品は全てのポートがGigabit Ethernetに対応しており、接続されているPCがGigabitなのか、Fast Ethernet(100BASE-TX)なのかを自動的に判別して設定されるようになっている。このため、ネットワークの中に、Gigabit Ethernetの環境とFast Ethernetの環境を共存させることができる。こうしたGigabit Ethernet Hubは、これまで同じ8ポートで10万円近い市場価格であっただけに、それが3万円を切り、さらには4ポートに至っては2万円を切っているというのだから、衝撃的だといっていいだろう。
こうしたコストダウンを実現した最も大きな理由は、内蔵されているバッファメモリの容量を少なくしたことだ。これまでのGigabit Ethernetに対応したスイッチングHubでは、1.5MB程度の大容量のバッファが搭載されてきたが、本製品は256KBしか搭載していない。スイッチングHubの内部では、送られてきたパケットデータが一度このバッファメモリに貯められる。その後エラーチェックなどを経て、送信先のMACアドレスへと転送される。この時、仮にバッファメモリが一杯になってしまった場合、送信元へその旨が通知され、データの送信が一時的に中断することになる。つまり、このバッファメモリの容量が大きければ大きいほど多くのデータを保持できるため、パフォーマンスは向上することになる。ただ、よほど多くのクライアントを接続しない限り、このバッファは一杯にはならないため、家庭内LANのように小規模ネットワーク環境であれば、性能面に与える影響は小さいと考えることができる。
ただ、気になるのは、放熱用のファンを内蔵しているため、非常に騒音が大きいことだ。これは、気になるどころの話ではなく、筆者宅にあった最も大きな騒音源であるPCサーバーよりもうるさかったのには閉口した。正直なところ、家庭で利用するには無理があると言っていいだろう。なお、4ポート版であるGSW04AL-HUBはファンレスなので、本格的に家庭で使おうと考えているのであれば、こちらをチョイスした方がいいだろう。
Gigabit Ethernetとして動作している時には、1000BASE-Tのランプが点灯する | Hubの内部。BroadComの2つのGigabit EthernetコントローラとTamarack MicroelectronicsのGigabit Ethernetスイッチチップから構成されている。左に見えるファンの音が非常にうるさいのが、大きな難点ではある |
●Gigabit Ethernetカードで安価なIntel PRO/1000 MT Desktop Adapter
1チップのIntel82540EMを採用し、低価格化したIntel PRO/1000 MT Desktop Adapter |
さて、既にGigabit Ethernetカードに関しては1万円を切っている製品がいくつも販売されている。この中で安価なレベルの製品を探してみると、筆者の固定観念の中では「高い」と思っていたIntel製のGigabit Ethernetカードが7,000円弱と、実はGigabit Ethernetカードの中で最も安価なレベルであることがわかった。
いわゆる「ブランドもの」のIntelのカードが安価であるのにはちゃんとした理由がある。それは、Intelのカードは同社が開発した1チップGigabit Ethernetコントローラに対応しているためだ。筆者が購入したIntel PRO/1000 MT Desktop Adapterは、Intel 82540EMというチップを搭載している。これまでのGigabit Ethernetカードには、National Semiconductorなど他ベンダのチップを搭載し、MACとPHY(物理層)の2つのチップから構成されていた。だが、Intel 82840EMはMACとPHYが1チップになっており、チップ数が1つ減ったことにより大幅なコストダウンが可能となった。
本製品は32bit PCIで利用する。PCIバスのクロックは33/66MHzの両方に対応している。一般的なPCでは32bit(33MHz) PCIの拡張スロットしかないことが多いため、バス帯域幅は133MB/Secの帯域幅で利用することになる。Gigabit Ethernetの帯域幅は1Gbit/Sec=128MB/Secとなるため、理論上は、Gigabit EthernetだけでPCIバスの帯域は消費されてしまうことになる。そうした意味では64bit/66MHzのPCIやPCI-Xなどのより広帯域幅の拡張スロットで利用するのが望ましいが、PC向けチップセットでは32bit/33MHzのPCIバスしかサポートされていないという現状を考えれば、致し方ないだろう。
なお、ケーブルに関しても1000BASE-Tをサポートするエンハンスト・カテゴリー5というケーブルが必要になる。これはカテゴリー5のケーブルを拡張したもので、従来のカテゴリー5が4ペア中2ペアだけを利用しているのに対して、4ペア全部を利用するようになっている。PCショップなどで1000BASE-T対応ケーブルとして販売されているので、あわせて購入するようにしよう。
●Fast Ethernetの3.4倍の転送レートを実現
それでは、実際にGigabit Ethernetの転送速度を計測してみよう。環境は、以下の通りでサーバーにはデルコンピュータのPowerEdge1400SCにIntel PRO/1000 MT Server Adapterを挿したものを利用し、そこにPentium 4 2.40B GHzにIntel 845GBVを利用した自作PCからアクセスした。クライアント側のネットワークカードは、Gigabit EthernetにIntel PRO/1000 MT Desktop Adapterを、Fast EthernetにはIntel PRO/100 S Desktop Adapterを利用した。
Dell PowerEdge 1400SC | |
---|---|
CPU | Pentium III 933MHz |
メモリ | 256MB |
Ethernet | Intel PRO/1000 MT Server Adapter |
HDD | 富士通 MAN3814MP(Ultra160 SCSI) |
フォーマット | NTFS |
OS | Windows 2000 Server |
Gigabit Ethernet | Fast Ethernet | |
---|---|---|
CPU | Pentium 4 2.40B GHz | |
メモリ | 256MB | |
Ethernet | Intel PRO/1000 MT Desktop Adapter | Intel PRO/100 S Desktop Adapter |
HDD | IBM DTLA-307030 | |
フォーマット | NTFS | |
OS | Windows XP |
利用したテストは、HewlettPackardの開発したNetperfだ。Netperfはネットワーク機器の帯域幅をはかるテストで、プログラムがすべてメモリに入る小ささなので、ハードディスクがボトルネックとなることもなく、純粋に帯域幅を調べられる。
結果はグラフの通りで、Fast Ethernetが94.46Mbpsと、理論値である100Mbpsに近い転送速度がでているが、Gigabit Ethernetはその3.4倍に相当する341.67Mbpsという結果となった。
ベンチマーク結果 |
今回は、今回用意した機材以外に代わりの機材を用意できなかったため、Gigabit Ethernetが理論値通りのスコアがでなかった理由はわからないが、おそらくPCIバスの帯域幅の限界や、Hubのバッファが十分でないことなどが影響していると考えられるだろう。341.67Mbpsは、Byteに直すと約42MBで、ハードディスクに近いデータ転送速度になっており、Gigabit Ethernetの導入で、ネットワークドライブもハードディスクを使う場合とほぼ変わらない体感速度で利用することが可能になるだろう。
●ネットワークドライブを多用しているユーザーなどにお奨め
以上のように、現時点では理論値までは届かないものの、Gigabit Ethernetの導入で、Fast Ethernetの環境に比べて3倍程度の転送速度の向上があることがわかる。実際に、複数のPCを所有していて、PC間でデータを移動させることが多いユーザーやネットワークドライブなどに大量のデータを保存しているユーザーなどであれば、ファイルのコピーにかかる時間が1/3以下になるわけで、そのメリットは決して小さくない。
PC 2台という環境であれば、ネットワークカードが2枚で15,000円程度、Hubが4ポートで2万円で、合計しても4万円かからずに導入できる。まだまだ決して安いとは言えないが、複数のPC間で大量のデータをやりとりさせているユーザーなどであれば、積極的に検討してみてもいいだろう。
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http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20020719/gigahub.html
(2002年8月13日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]