●Xabreの登場が起こした波紋
SiS Xabre 400搭載ビデオカード |
7月中旬、突然GeForce4 MX440を搭載したビデオカードの価格が値下がりした。もちろん、ビデオカードに限らず、基本的にPCパーツは発売後徐々に価格が下がっていくもの。けれどもこの時は、そうした自然な価格低下以上にガクッと下がった。この値下がりをもたらしたのは競争の力であり、ライバルの登場である。ライバルとは、その直前に販売が始まったSiSのXabre 400を搭載したビデオカードだ。
一般にSiSというと、グラフィックスベンダという印象は薄い。やはりチップセットベンダ、それも低価格PCに使われることの多い、グラフィックス統合型のチップセットを得意とするベンダ、という印象が強いのではないかと思う。実際には、SiSは現存するサードパーティチップセットベンダとしては比較的歴史が古く、必ずしもローエンド製品ばかりを手がけてきたわけでもないのだが、Socket 7の後半あたりから主力をグラフィックス統合型チップセットに移したような印象があって、そういうイメージがある。いずれにしても、グラフィックスベンダというよりチップセットベンダ、というのが多くの人が思うところだろう。
ただ、SiSのグラフィックス事業が、ビデオカードに用いるスタンドアロンのビデオチップではなく、チップセットに統合されるグラフィックスコアからスタートしたことは紛れもない事実だ。そうしたルーツがあるせいか、SiSのグラフィックスは性能や機能という点で特筆するべきものはあまりなかった。同社初のスタンドアロンビデオチップであるSiS6326にしても、DVDのソフトウェア再生をアシストする機能をハードウェアでサポートしていた点(これもCPUパワーの乏しいローエンドPCを意識してのもの、と言えなくもない)で若干注目されたものの、ビデオカードとしての性能が語られることはほとんどなかった。
それが若干変わったのは、SiS315だったかもしれない。当時、NVIDIAとATI以外のベンダはほとんどサポートできていなかった、DirectX 7互換のハードウェアT&Lをサポートしたからだ(S3がVIAに買収される前、最後に発表したSavage 2000で非公式にサポートしていたが)。これで少なくとも機能的には、当時のベストセラーであるGeForce2 MXシリーズに追いついたことになる。
そして、Xabre 400(というよりXabreシリーズ)ではDirectX 8.xの主要機能であるプログラマブルシェーダをサポートしたことで、3Dグラフィックスハードウェアとしては相変わらずDirectX 7世代といっていいGeForce4 MXシリーズに対し、機能的に追い越したことになる。冒頭で述べたように、Xabre 400の登場でGeForce4 MX440ベースのカードに値崩れが生じたが、これはとりもなおさず、性能の点でもXabre 400がGeForce4 MX440を上回ったことの証でもある。
●巧みなマーケティングの成果
Xabre 400が巧みなのは、プログラマブルシェーダのうち、実際にハードウェアでサポートしたのがピクセルシェーダのみであることかもしれない。プログラマブルシェーダのうち、ジオメトリデータを扱うバーテックスシェーダがCPUによるエミュレーションが可能なのに対し、ピクセルシェーダはエミュレーションができない。
したがって、おそらく最も多くの人が利用しているであろうDirectX 8.1アプリケーションの3DMark 2001 SEを、ピクセルシェーダをサポートしていないハードウェアで実行すると、得られる結果のうち、Game 4、Pixel Shader Speed、Advanced Pixel Shaderの3つが「Not Supported」になってしまう(GeForce4 MXシリーズでは加えてEnvironment Bump MappingもNot Supportedになる)。が、ピクセルシェーダ(とEnvironment Bump Mapping)をサポートしたXabre 400なら、すべての項目が結果を示す数字で埋まる。GeForce4 MXでサポートされていないテスト項目は、3DMark 2001 SEのスコア(3DMark値)には直接関係しないが、サポートされていない項目がないというのは印象がいい。
Xabre 400が本当に巧みなのはここからで、結果を良く見ると、Game 4、Pixel Shader Speed、Advanced Pixel Shaderといったピクセルシェーダ関連のスコアは、実はそれほど優れていない。たとえばRADEON 8500やGeForce4 Tiシリーズとは、比べるべくもない(おおよそ3分の1から4分の1程度)。
したがって、実際のゲームでピクセルシェーダを利用した場合のフレームレートが懸念されるのだが、それでも敢えてサポートしたのがマーケティング判断的に巧みだったのではなかろうか。ベストセラーとして確立しているトップ(GeForce4 MXシリーズ)から挑戦者がシェアを奪うには、価格、性能、機能のすべてで上回らなければならない。そのためには、形だけでも(というと言いすぎかもしれないが)ピクセルシェーダをサポートする必要があったのではないかと思う。
それはともかく、SiSのXabreシリーズに限らず、このところグラフィックス市場の動きが活発になっている。MatroxがParheliaをリリースしたほか、3DLabsもCreativeの資金を得てコンシューマー向けビデオチップに再参入することが確実な状況だ。S3を買収したVIA Technologiesも、スタンドアロンのビデオチップをリリースするというウワサが絶えないし、このところノートPC用ビデオチップのほかはALiへのグラフィックスコア提供が目立つ程度だったTridentも、再びスタンドアロンのビデオチップをリリースする可能性を秘めている。一時はNVIDIAとATIの2社しか残らないのではないか、とまで言われたのに比べて隔世の感がある。
グラフィックス市場に参加するプレイヤーが増えた理由としては、DirectX 9/OpenGL 2.0に代表される標準の確立など技術的な理由も当然あるハズだが、とどのつまりは、2社で独占するにはグラフィックスの市場が大きすぎたのではないだろうか。スタンドアロンだけでなく、チップセットへの統合、さらにはゲーム専用機など、グラフィックス技術を必要とする市場の規模は想像している以上に大きかった、ということなのかもしれない。
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0724/hotrev169.htm
(2002年7月25日)
[Text by 元麻布春男]