槻ノ木隆のPC実験室

Pentium 4用キューブ型組立キット「M.J」レポート
【拡張編】

直販価格:49,800円(ブラック/シルバー)
      51,800円(ホワイトパールマイカ)

【組立編】はこちら


■M.Jの可能性を探る

 ある程度以上のパワーユーザーであれば、省スペースケースを使って、特定用途に絞り込んだPCを作ろうと考える人もおられよう。それは例えばDVDオーサリング専用PCとか、ホームサーバーなどだ。ただちょっと気になるのは、省スペースPCゆえの制限だ。それは例えば

・160Wの小型電源でどこまでデバイスを搭載できるか?
・ケース内部の放熱は大丈夫か?
・PCIスロットに装着できる拡張ボードのサイズは?

などだ。

【写真26】 測定の様子。右側に見えるのがクランプメーターで、ACの電流値を測定している。フロントパネルには、FILCOの温度計の表示部がブラ下がっている

 そこで色々なデバイスを装着して、消費電力とCPUおよび内部の温度を測定してみることにする。それぞれの測定方法であるが、消費電力はコンセントから電源ユニットに入力される電流をクランプメーターを用いて測定した。ただしここで測定される値は、実際に消費されている電力とイコールにはならない。これはATXで使われるスイッチング電源の特性ともいえるが、ここで測定された値の70~80%程度が実際のPC内部での実際の消費電力ということになる。正確な値を測定するためには内部のDC出力を電圧別に測定するべきなのだろうが、いかんせんケース内が狭すぎて測定が困難だったため、今回は目安としてAC側の消費電力を測定している。

 次に熱の測定であるが、まずCPUの温度は、Alexander Berezkin氏の「Hmonitor 4.0.4.1」( http://www.hmonitor.com/ )を用いてWindows上から参照した。これはCPUダイ上のサーミスタの値を拾っている。PC内部の気になる部位については、FILCOの温度計を用いている。測定個所は2点。このM.Jは上部にHDDのシャドウベイがあるが、そこと5インチベイに設置したドライブの隙間が細いところで1~2mmしかなく熱が篭もりやすそうな印象を受けるので、この部分のHDDの温度測定が1点。同じく5インチベイのドライブと電源ユニットの隙間も同じく1~2mm程度と気になるので、この部位で電源ユニットの温度を測定する。ただし、この電源ユニットはケースファンが近いため、それほど温度が上昇しない可能性もある。なお、ケースは閉じ、5インチベイの隙間から温度計を出しているので、比較的、実使用環境に近い測定といえるだろう。ちなみに測定環境の室温であるが、20度C前後の環境でテストを行なっている。

 まずは、先に紹介したスペックでCD-ROMに入った動画データをWindows Media EncoderでエンコードしながらHDDに書き出す、といった作業を行なってみた。これはCPU、HDD、CD-ROMに相応の負担をかけることで、ピーク時の消費電力、発熱を見ようというテストである。

 まず消費電力であるが、クランプメーターの測定では1.1~1.2Aの範囲で動いた。実際の消費電力は90~100W前後といったところだろう。内部温度は、CPUの温度がピーク時47度C。HDDがピーク時41.6度C、電源が33.0度Cという結果であった。どの個所も50度Cを超えることはなく、まずは問題ないレベルといえる。

■M.Jの拡張その1 ~ビデオカードの増設~

 さて、いよいよ拡張である。M.Jのスペックを眺めて、自作ユーザーがまず気になるのがビデオの性能だ。SiS650に内蔵されるビデオはSiS315の2Dと3Dの機能の一部を統合したもので、ハードウェアT&Lは搭載しない。2Dに関しては最大2,048×1,536ピクセル・16bitまで表示可能で、性能的にも十分満足できるものだ。ただし3Dに関してはさすがに不満が残る。3DMark2001の結果は「901」*2と、統合型のわりに健闘しているとは思うが、3Dゲームをプレイするにはかなり無理がある。

【写真27】 RADEON PCI装着後のケース内部。スマートケーブルを使うとご覧の様にうまく回避できるが、フラットケーブルのままだとファンの位置にモロに被るのが判る。スマートケーブルは必需品と考えていいだろう

 そこで今回は、ATIのRADEON PCI(SDR SDRAM 64MB搭載モデル)をPCIスロットに増設してみることにした。増設可能なカードサイズだが、22~23cm程度のものならなんとか挿入することができる。ちなみにビデオカードと並んで需要が多いであろうTVチューナーカードも、例えばカノープスのMTV1000( http://www.canopus.co.jp/catalog/mtv1000/mtv1000_f.htm )にせよ、上位製品のMTV2000( http://www.canopus.co.jp/catalog/mtv2000/mtv2000_index.htm )にせよ、下側のスロットを使えばサイズ的にはぎりぎりセーフだ。ただ動作を確認したわけではないので、気をつけて欲しい。現実問題として、DIMMスロットの干渉やIDEケーブルの取り回しなどを考えると全長が20cm以内のカードにしておくのが無難である。またビデオカードなどを増設する場合、IDEケーブルがちょうどビデオチップのファンを塞いでしまう位置に来やすい。ケーブルを束ねるなどの対策をしておかないと、ビデオカードが熱暴走する可能性もあり得るのでこれまた注意してほしい(写真27)。

 さてインストールにあたって、Windows XP Professionalのインボックスドライバを利用してインストールすると描画が安定せず、勝手にリブートする現象が何度も発生した。ただこの現象については、ATIのサイトに上がっているWindows XP向けのReference Driverの6.13.10.6037 ( http://www.ati.com/support/drivers/powered.html にある「RADEON(7-67) Reference Driver」)を適用することで安定したので、もし同様の事例があったら参考にしてほしい。

 RADEON PCI増設後、先程と同様にWindows Media Encoderのテストを行なってみたところ、クランプメーターの値は1.25~1.35Aで、実際の消費電力は100~110W程度。電源容量の160Wまでは、まだ少し余裕がありそうだ。温度はというと、RADEONのファンから排出される熱の影響もあってか、CPU温度はピーク時で50度C、HDDがピーク時で47.3度C、電源がピーク時で42.0度Cと、さきほどに比べて大きく上昇した。この程度ならまだ許容範囲だろうが、これから夏を迎え室温が上昇することを考えると、ちょっと不安が残る数字だ。

 ちなみに、RADEON PCI増設後の3DMark2001の結果であるが、ハードウェアT&L使用時が「1738」、ソフトウェアT&Lでも「1291」となった。あまり高いとは言えないが、それでもSiS650をそのまま使う場合に比べると1.5~2倍近い性能向上である。まぁRADEON PCIを使う限りこんな程度だろう。もう少し性能が……という向きには、例えばGeForce2 MX400のPCI版(いくつかあるが、例えばコレ http://www.kuroutoshikou.com/products/gboard/gf2mx400_pci64.html )などを選択するのも良いだろう。

*2:1,024×768ドット・16bit(リフレッシュレート85Hz)で測定。OSはWindows XP ProfessionalではSiS650、RADEONともに完走しなかったので、Windows 2000 Professionalで実施した。その分数字が低めになっているので、ご了承いただきたい。

■M.Jの拡張その2 ~RAID環境~

 さて、RADEON PCI増設に続くM.Jの拡張であるが、24時間駆動サーバーを意識してRAID環境を想定した拡張を行なってみた。現在、M.Jの拡張の余地はPCI×1、5インチベイ×1なので、PCIスロットにRAIDカード、5インチベイにマウンターを挟んでHDDを増設してみた。本来ならここできちんとRAIDカードを用意するべきなのだろうが、今回はちょっと間に合わなかった。そこで手持ちのカードの中からPromiseのUltra66 ATAインタフェースカード( http://www.promise.com/product/subsys_detail_eng.asp?pid=12&fid=3 )をPCIスロットに装着してテストを行なった。消費電力その他は同社のRAIDコントローラであるFastTrak66( http://www.promise.com/product/subsys_detail_eng.asp?pid=12&fid=3 )と同様だから、テストとしては十分だろう。HDDは1台目と同じくSeagateのBarracudaATA IV 80GBを接続した。(写真28、29)

【写真28】 更にUltra66と2台目のHDDを接続した後のケース内。ここまでくると、IDEのフラットケーブルは使わないほうがいいだろう。ストレートケーブルでも取り回しが難しいほどだ 【写真29】 5インチベイ用マウンターから内部に空気流入があり、これでだいぶケース内温度が下がった。思うに、前面パネルの下側に、目立たない様に吸気孔が用意されていれば更に改善されるのではなかろうか? あと、上面パネルに排気口があるとこれまた効果的な気もする。余談だが、ドライブ類はやはり黒ベゼルがお勧めだ。どうも白だと妙な印象になってしまう

 この環境で、今までと同様Windows Media Encoderのテストを行ないながら、2台めのHDD上でファイル読み出し→書き込みをバッチファイルでループさせた。これは、2台のHDDを同時にアクセスさせるためで、RAID環境をイメージした動きを再現している。

 さっそく消費電力と温度を見てみよう。クランプメーターの表示は1.38~1.45Aとなっており、おおよそ110~120Wといったところか。電源容量の限界である160Wまでは到達せず、かなりこの程度の電源でも「使える」事が証明された。

 その一方温度に関しては、CPU:48度C、HDD:41.5度C、電源:40.5度Cと、先のRADEON PCIのみを増設した環境よりも低い結果が出た。これは3.5/5インチマウンターのフロント部にFDDなどを取り付けるための穴があるが、これにより外部の空気が吸気され、ケース内をうまい具合に冷却できたのではないかと考えられる。試しにその穴を塞いでテストを行なったところ、CPU:52度C、HDD:49.5度C、電源43.5度Cと温度が大きく上昇した。それでも許容範囲の温度で収まっており、ケース内の容量が少ないわりには、意外に温度上昇具合は高くない。夏場で室温が30度Cにも達することを考えるともうすこし温度が低い方がいいが、逆に室温をこの程度に保っておける状況なら連続運用も問題なさそうだ。

 この「熱」については、結果的にケースそのものが放熱板の役割をかなり果たしていることが大きな効果を得ているようだ。実際に動作中は、上面および側面パネルはかなり熱くなる。シャドウベイをケース上側に置いているため、この発熱がケース内部にあまり蓄積しない事も功を奏しているようだ。熱対策に万全を期したい場合は、前部に吸気口を設けることが効果的なようで、その意味では前部に吸気用のケースファンを取り付けられないのが残念でならない。ただこれは騒音対策とも絡むから、せっかくの静粛さが損なわれるかもしれないが。

■M.Jを使っての印象

 短期間ながら格闘してみた限り、このM.Jの可能性は随分高いと感じられた。その大きな理由はサイズと拡張性のバランスのよさである。勿論ベイの数やPCIスロットの数だけを見れば、拡張性は高いとは言えない。しかしオンボードで搭載している機能が非常に多いので、拡張が必要とされる機能は非常に少ない。強いて言えば3.5インチのシャドウベイがもう1つあれば万全だろうが、実際には非常に難しいだろう。

 また、ケース内があふれかえらんばかりに増設を行なっても、安定動作する点も評価できる。拡張その2の後で、DVD-Videoの再生やDVD-Rへの書き込みを行なっても何の問題も起こらなかった。今回利用したWillametteコアのPentium 4 2GHzは、現在発売されているPentium 4の中でも、もっともTPD値が高い(75.3W)。これを使っても、まだ熱・電力ともに余力があるのは驚きすら覚える。SiS650マザーと聞いて不安に難を感じる人も居られようが、オーディオ/LAN/IEEE 1394の全てを別チップで搭載しているためか、安定性は極めて高かった。

 5万前後という価格がネックではあるが、省スペースケースや、スタイリッシュなケースを求める人だけでなく、コアな自作ユーザーでも「遊べる」組立キットといえそうだ。

□星野金属工業のホームページ
http://www.hmi.co.jp/
□製品情報
http://www3.soldam.co.jp/barebone/mj/index.html
□関連記事
【2001年11月20日】キューブ型自作キット「Pandora」を作る
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011120/pandora.htm

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(2002年4月5日)

[Reported by 槻ノ木隆]


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