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MIPSコアと、UMCと提携した300mmウエーハの新Fab
~明確になったAMDの次の次の手


●組み込みRISCコアを手に入れたAMD

 AMDは、ここへ来て急速に欠けていたピースを揃えつつある。ひとつひとつのピースを組み合わせていくと、最終的にAMDが目指すゴールが見えてくるというパズルだ。そして、最新のピースは、2月5日に発表した米Alchemy Semiconductorの買収発表と、2月1日に発表したUMCとの提携だった。

 Alchemyは、MIPS32ベースの組み込み向けプロセッサ製品を開発しているファブレスベンチャー。元DECでAlphaやStrong ARMを開発したアーキテクトやエンジニアが中心になって設立した会社で、MIPSアーキテクチャでありながら消費電力が極端に低いCPUコアを開発している。Alchemyを手に入れたことで、AMDはこのところ有力な駒を持たなかった組み込み市場向けに、強力なコアを揃えたことになる。

 AMDのDirk Meyerグループ副社長(Computation Products Group)は、PCが依然としてAMDの重要なエリアであるとしながらも「同時にノンPC向けにハイパフォーマンスで低消費電力のプロセッサを追求していく必要がある」とAlchemy買収の背景を説明した。Alchemyは、すでにファウンダリ「TSMC」に生産委託して実際のチップを作っている。そのため、ライセンスを獲得するケースと比較して、AMDは迅速に製品を投入できる。実際、AMDはこの買収発表に合わせて「Personal Connectivity Solution Group」と呼ぶ、ノンPCのインターネットアクセスデバイス向けの社内組織も設立した。

 また、この低消費電力RISCコアというピースは、AMDの持つフラッシュメモリというピースとぴったりはまる。小型機器の一部で求められる、フラッシュメモリ混載ロジックという組み合わせができるからだ。これは、Strong ARMコアとフラッシュを持つIntelと同じピースを揃えることになる。ただし、IntelがARMアーキテクチャなのに対して、AMDがMIPSアーキテクチャと分かれるが。

 組み込みRISCは、今、ARMとMIPSの2大アーキテクチャが業界を二分している。大まかに言うと、低消費電力セグメントがARM、高パフォーマンスセグメントがMIPSと棲み分けている。例えば、ケータイはこの調子だとARMが優勢な雰囲気だし、その逆にSTB(セットトップボックス)ではMIPSが圧倒的に強い。

 IntelのStrong ARMは、その中でARM系でありながらハイパフォーマンスという特色を持ち、ARMの得意なエリアだけでなく、高パフォーマンスセグメントにも浸透しようとしている。それに対して、AMDのAlchemyは、MIPSなのに低消費電力という特色を持つ。そして、MIPSの現在の領域より低消費電力が重要になるアプリケーションに浸透しようとしている。逆の方向から、ちょうどぶつかるアーキテクチャを選んだ格好になっている。

 そのため狙う市場も一部はダブっている。AMDは、AlchemyのテクノロジでPDAやWebタブレット、ポータブルインターネットアクセスデバイス、ゲートウエイを狙うという。これは、IntelがStrong ARMのターゲットの中に含む市場とだぶっている。もっとも、これを次のIntel対AMD戦争と見るのは早計かもしれない。というのは、組み込み市場はプレーヤーの数が多いからだ。

 しかし、Alchemyがもともと旧DEC出身というあたりには、やはりゴシップ的な興味をひかれてしまう。例えば、AlchemyのアーキテクトであるRick Witek氏は、もともとAlphaのアーキテクトやStrong ARMのアーキテクトだった。Intelは、旧DECのStrong ARMを買ったが、結局、キーの開発者はみんな分散してしまい、それが今、AMDに加わったのだ。

 AthlonとHammerを、旧DECチームが中心となって開発したのは有名な話だが、これでAMDの組み込みプロセッサも旧DECチームのものとなる。結局、DECのプロセッサ開発チームは、回り回ってAMDに集まりつつあるという見方もできる。同じくAlphaのアーキテクトだったMeyer氏は、かつての同僚だったWitek氏らがいるAlchemyを買収した理由のひとつとして「互いのカルチャーがマッチすることも重要」と説明した。本当は「DECカルチャー」と言いたかったのかもしれない。

●UMCとの提携で製造能力を補強

 最近、AMDが加えたもうひとつのピースは、台湾のファウンダリ「UMC」との提携だ。これには、「直近のCPUの生産力」というピースと、「この先の300mmウエーハFab」というピースの2つが含まれる。前者の展開は、UMCへのAthlon系CPUの製造の委託。UMCは0.13μmプロセスで生産するAthlon世代のCPUを、今年の終わりまでには出す予定だという。後者の300mm Fabについては、AMDはUMCとの合弁会社(50%づつ)を設立、シンガポールにFabを建設して2005年から65nm(0.065μm)で量産を始める。

 UMCへの生産委託は、AMDの目標である2002年末でPCプロセッサ市場のシェア30%という数字を達成するためには重要な布石だ。AMDは、現在、ドレスデンのFab30とテキサスのFab25の2つのFabでCPUを製造しているが、0.13μmからはこれをFab30だけに絞った。つまり、0.18μmでは2つのFabでCPUを製造していたのが、0.13μmでは自社Fabは1つになってしまう。対するIntelは、5つ以上のFabでプロセッサを製造しているため、AMDはウエーハ枚数では大きく差を広げられている。

 これはAMDにとって制約になる。まず、AMDが目標とするPCプロセッサ市場の30%シェアを達成するには、Fab30の生産量だけでは足りない可能性がある。計算上は、AMDがAthlon/Duronだけを生産するのならFab30だけでカバーできるが、ダイサイズ(半導体本体の面積)がより大きいHammerへ移行しようとすると足りなくなるかもしれない。

 また、Fabのキャパシティが小さいと、ウエーハ当たりのCPU生産個数を上げるために、CPUのダイサイズを常に小さく保たなければならない。例えば、AMDは0.13μmのAthlon系コア(Thoroughbred:サラブレッド)とDuron系コア(Appaloosa:アパルーサ)でも、現行の0.18μmのPalomino(パロミノ)/Morgan(モルガン)とキャッシュサイズを変えない。キャッシュを増やした方が性能が上がるのは明白なのに、変えないのは生産数の減少を恐れているためと思われる。

 つまり、現在のAMDのPC市場での位置からすると、プロセッサFabが1つという態勢は無理があるわけだ。そのため、以前からAMDはファウンダリに生産委託をする可能性を示唆していた。今回の提携で、UMCは0.13μmプロセスでAthlon世代のCPUを生産する。今年の終わりまでにはUMC版CPUが登場する見込みだ。つまり、AMDがローエンドまで0.13μmへと製品をシフトし終える頃には、UMCからのチップが戦列に加わることになる。つまり、逆を言えば、CPUの全量を0.13μmに持っていくためには、UMCへの生産委託が必要になると言い換えてもいいだろう。

●リスクを回避しやすいUMCとの300mm Fabの共同建造/運営

 UMCとの提携での2つ目のピース「300mm Fab」は、AMDにとって次のハードルだった。Intelが新規のFabでウエーハの口径を300mmにしつつあるため、Intelと競争しようとするメーカーは300mm化が必要となる。これは、現行の200mmウエーハに対して300mmウエーハでは面積が倍増するため、CPUの前工程での製造コストが大きく下がるからだ。同等性能レベルのCPUの戦いで、コスト競争力を維持するには、300mm化が望ましいことになる。

 しかし、CPUメーカーであるAMDにとって、300mm化はなかなかリスクが大きい。300mmで増大する製造能力を使いきるだけの製品需要がないと、Fabへの投資を回収できなくなるからだ。ところが、PC向けCPUだと、単一市場の中でのシェアがダイナミックに変動するので、需要も大きく上下する。AMDは、Fabを稼働させるためだけでも、赤字覚悟でシェアを守らなくてはならなくなってしまう。しかし、ファウンダリであるUMCとの合弁だと、この問題をうまく回避できる。キャパが余ればUMCの顧客の製品を製造できるし、需要が増えればキャパ拡大を容易にできる。パーフェクトな解だ。もちろん、Fabの建造コストの増大で、1社で支えきれなくなっていることも背景にある。

 また、この提携にはもうひとつ利点がある。ファウンダリに出す場合の問題は、そのファウンダリのプロセスのパフォーマンスにCPUの性能が制約されてしまうこと。特に、UMCはTSMCと比べるとその点に不安がある。同じ台湾ファウンダリのTSMCがハイパフォーマンスロジックにフォーカスする姿勢を強調しているのに対して、UMCはそうではなかったからだ。

 しかし、今回のパターンではその心配は低い。「AMDのSOIテクノロジの傘の下に、AMDとUMCの提携も入る」(Meyer氏)からだ。AMDは、自分のプロセッサに合わせたプロセスにすることができる。

 また、300mmの製造能力は、AMDが将来PCプロセッサ以外の分野で成功した場合でも、製品供給能力の保証となる。その意味では、このピースはAlchemy買収とリンクする。つまり、AlchemyでノンPCへ本格的な展開をし、UMCとの提携で十分な供給能力を比較的低リスクで手に入れ、成長を図ろうというわけだ。

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【2月1日】AMD、UMCと提携、300mmウェハFabを共同で設立
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0201/amd.htm

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(2002年2月8日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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