第138回:“Let'snoteシリーズの原点に立ち返った”
~Let'snote Lightファーストインプレッション



 昨年末、とても懐かしい人物からメールをいただいた。初代Let'snoteおよびその前身であるPRONOTE/miniの設計チームを率いていた松下電器の高安氏からだ。PRONOTE/miniはi486DX2/50MHz(その後、DX4/75に変更)をベアチップ(チップをパッケージ組み立てする前の状態)で基板に直接実装し、17mmピッチキーボードで1.3kgという当時としては驚くほど軽量な製品だった。この製品は企業向けだったが、個人ユーザーの間でも評判を呼び、その結果、Let'snoteシリーズ誕生に至った。

 その高安氏はA5ファイルサイズのLet'snote miniを最後に、Let'snoteシリーズの開発からは離れていたが、組織変更によりノートPCのチームに復帰したのだという。このところ、Let'snoteシリーズは以前ほど市場での存在感を示せていなかったが、これは何かあるな? ということで、高安氏が東京に出張する日に合わせてお会いすることになった。そのときに紹介されたのが、先週発表されたLet'snote Lightだった。


●Let'snoteシリーズの原点に立ち返った

Let'snote Light

 実は高安氏はLet'snote Lightの商品企画や設計には、いっさいタッチしていないという。氏が直接関わる製品は次世代のLet'snoteや、それ以前に発売される予定のワイヤレスLANを利用した家庭向け端末からだ。しかし、Let'snoteの原型を作った同氏はLet'snote Lightを「Let'snoteシリーズの原点に立ち返った製品」と自分が関わった製品のように、うれしそうに紹介した。

 Let'snoteの原点とは前述したPRONOTE/miniのコンセプトだ。パーソナルな仕事の道具として、PCのパワーをいつでもどこでも利用でき、ビジネスマンの鞄の中身として必須のもの。そのために、操作性を犠牲にしない範囲での小型・軽量化、堅牢性の実現を目指したのがPRONOTE/miniだった。Let'snote Lightは、その生まれ変わりというわけだ。

 さらにLet'snote Lightでは、当時は実現できなかった2つのテーマにも挑戦している。ワイヤレスでのネットワーク利用とバッテリ持続時間の2つである。これまでのLet'snoteシリーズは、長時間駆動のために大容量バッテリを別途用意するというアプローチだったが、Let'snote Lightでは標準バッテリでの長時間駆動を目指した。

 その結果、4セルバッテリ搭載の960グラムという軽量ボディでありながら、無理なく操作できるキーボードサイズと10.4インチ液晶パネル、6時間のバッテリ駆動時間を実現することができた。

 こうして言葉で書くと実感がわかないが、実際に手にしてみると驚くほど軽く感じる。本当に製品版も1kgを切れるのか? と思うほどだが、実はLet'snote Lightの試作機は実際のスペックよりも軽量に仕上がっており、実測で920グラムほどしかない。高安氏によると、実際の製造工程では重量に若干のバラツキが出る可能性があるというが、これだけ重量面での余裕があるならば、製品でもカタログ値を越えることはなさそうだ。

 1kgを切るノートPCで4:3の画面アスペクト比を持つ10.4インチ液晶搭載の製品は他には存在しない。重量だけで比較すれば、バイオノートC1と同レベルなのだ。噂では1kgのB5ノートの話は聞いていたものの、実際に手にしてみると軽さに驚く。


●非常に優れているが、冒険が裏目に出ている部分も

 小型軽量であるため、キーボードの操作性やバッテリ持続時間、堅牢製などに疑いを持っている人も少なくないと思う。しかし(ごく短期間だが)使ってみた印象では、どれも問題となるレベルではなかった。

 キーボードは17.5ミリピッチで、右端のいくつかのキーピッチが狭くなる可変ピッチキーボードだが、ピッチは3段階に変化しており、日本語入力で頻繁に利用する「-」キーなどは、若干狭くなっているものの操作性に大きな影響を与えるほどではない。少なくとも、僕が他人よりも少し大きな手で文章をタイプするには支障のないサイズとレイアウトだった。欲を言えばページアップ/ダウンなどを独立させてほしいなどの希望はあるだろうが、他のB5ノートPCよりも一回り小柄なLet'snote Lightの筐体サイズを考えれば十分なものだ。

 キーボードに注文を付けるとすると、縦方向のサイズを小さくするため(おそらくパッドを組み込むスペースを作り出すためだろう)縦方向のピッチがかなり小さいのだ。縦方向のピッチを削ってスペースを作り出す手法は、バイオノートSRやEvo 200N、そしてNECのLaVie Jでも使われているが、Let'snote Lightはそれらよりもさらに縦ピッチが狭いため、短時間の試用では慣れることができなかった。

 バッテリ持続時間はJEITA測定法で6時間とのことだが、見にくくない程度まで液晶のバックライト輝度を上げた状態でも、バッテリ残量が10%になるまで4時間50分ほど利用できた。詳しいベンチマークなどは製品版で見る必要があるが、0%まで使い切れば5時間を余裕で越えただろう。本機には大容量バッテリが用意されないとのことだが、ヘビーユーザーでなければ1本のバッテリでも十分に使えると思う。また、ACアダプタが軽量コンパクトな点も付記しておきたい。

 プロセッサやチップセットに省電力なものを利用したほか、開口率の高い低温ポリシリコンの東芝製液晶パネルを利用し、バックライトのインバータ効率を向上させているという。また3.3ボルト駆動の2.5インチハードディスクも(最大20GBまでしか存在しないという制限はあるが)省電力化に大きく貢献している。

 またバッテリセル自身も3.6V、2.2A時の最新セル(従来比で10%アップ。製品によっては2世代前の1.8A時のセルを使っているものもある)にこだわった。ただ、基本的には本体の省電力化でバッテリ持続時間を延ばしているため、無線LANやAirH"などのワイヤレスデバイスを利用した時には、バッテリ持続時間への影響が大きいことが考えられる。

 堅牢性に関しては、ハードディスクを衝撃吸収素材でカバーした上で実装するなどの対策が施されているほか、液晶パネルのヒンジ部が非常にしっかり作られているのが印象的だった。液晶パネル裏の外装も強度確保のために車のボンネットのような盛り上がりが作られている。ありがちな“ヤワ”な感触はない。

 ただ、こうした好印象な部分とは別に、今ひとつ納得できない部分もある。なぜパッドのデザインが円形なのかだ。

左がLet'snote LightのACアダプタ。従来のものよりも小型化された 強度を高めるために車のボンネット状に盛り上がったボディ上面


●デザイン優先ではなく、デザインと機能性優先を

特徴的な円形のタッチパッド

 元々、四角く設計されているパッドを、なぜ円形にしたのかを訊いてみると、デザイナーの意見を優先したためとの回答を得た。僕は別にパッドが丸くても悪くはないと思うが、それならば円形である必然性がなければならないと思う。四角いパッドには、画面が長方形であることや、筐体内への収まりがいい、あるいはスクロール機能を実装させやすいなど、機能面からの合理性がある。いや円形の方がもっと機能的というならば、それはそれですばらしいと思う。

 ところが、この円形パッド。シナプティクス製のパッドの一部を表に出しているだけで、その中には長方形のパッドが収められている。またデバイスドライバも長方形と同じものであり、単に指が触れることのできる範囲が狭まっているだけなのだ。円周をクルクルとなぞるとスクロールしたり、ビデオ編集でジョグダイヤルとして使えるなどの工夫があれば納得もいくのだが、そうした仕掛けはない。

 Let'snote Lightは個人的に魅力のある製品だとは思う。ここでパッドのことを批判しているが、製品そのものは非常に魅力的だと思う。しかし、機能性を犠牲にしたデザインは、仕方がないと受け入れることはできても、納得することはできない。

 個人が持ち歩く道具だけに、デザインを大切にする気持ちは理解できるが、デザインと機能がうまく噛み合わなければ、せっかくのデザインも批判の対象になってしまう。次回は使いやすく機能的で、かつ美しいデザインの製品になってほしいものだ。

 ところで冒頭で紹介した高安氏は、今後、製品の企画から設計、製造、流通から営業まで、製品の誕生からエンドユーザーに届けるところまで一貫して監督する立場になるという。今回のパッドのデザインにしても、ノートPCの企画・設計の経験があり、自らがヘビーなモバイルユーザーでもある人間がデザイン担当者とディスカッションを繰り返していれば異なるものになってたかもしれない。Let'snote Lightは1kgを切る長時間駆動可能なB5ノートPCという、他の製品にはないユニークな良作だが、次世代はさらに機能的な製品になることを期待したい。


バックナンバー

(2002年1月30日)

[Text by 本田雅一]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.