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Microsoftの次の次の手は「Xbox.NET」だ


●ブロードバンドネットでXbox.NETに

 まずゲーム機として米国では11月に登場したXbox。だが、Xboxは、遠からず純粋なゲーム機以上のものへと化けてゆくだろう。例えば、“Xbox.NET”へ。

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 Microsoftは当初、Xboxがゲーム機であることを強調していた。これは、これからゲーム会社の支持を集めようという新参者のMicrosoftとしては当然の話だ。ゲームビジネスに本気で取り組むんだと強調しないと、ゲームパブリッシャも本気でXboxというプラットフォームに賭けてくれないからだ。実際、SCEIでさえ、PlayStation 2を、ゲーム機を超える的なぶち上げ方をした時には、反発を受けた。だから、Microsoftも用心して、Xboxは純粋にゲーム機だと強調していたのだ。

 だが、米国でのXbox立ち上げを一応成功させたことで、Microsoftのトーンも微妙に変わってきた。すでに、CESではオンライン構想をかいま見せたが、日本で今日行なった「Xbox Conference 2002 winter」でもトーンが違った。Xboxはまず「究極のゲーム体験を提供」するが、それから「進化に柔軟に対応」してゆく「無限の可能性を秘めたマシン」だという。

 特に、Microsoftが“次のキーワード”として強調したのは、ブロードバンドネットワークと常時接続。ネットワークのインフラを得た上で、Microsoftが持っている.NETやMSNといったテクノロジや経験を活かしてゆくという。そう、Xboxの進む先には、きっとXbox.NETが待っている。

 いったんネットワークが来たら、XboxをXbox.NETに進化させるのは至極簡単だ。端末であるXboxにはディスク1枚があればいい。ディスクから.NETのランタイムレイヤをXboxにロードして、ネットワーク上のコンポーネントと連携させるだけだ。もともと.NETは、脱Windows PCで、あらゆるデバイスに共通のフレームワークを提供しようという構想。だから、MicrosoftのプラットフォームのひとつであるXboxが、.NETの輪に加わらない方がおかしいだろう。

 もちろん、だからと言って、Microsoftが.NETでゲームを考えているとは思わない。ゲームのほとんどは、当面は.NET化したりはしない。それよりも考えられるのは、Xbox経由で、ゲーム以外の.NETサービスを提供したり、コンテンツ配信の土台を整えるといった展開だろう。そして、ネットワークを経由して家庭のリビングルームにサービスやコンテンツを提供する、それこそがXboxの本当の目的だと思われる。

●PlayStation 2の構想に対抗したXbox

 そもそも、MicrosoftがXboxでゲーム業界に参入したのは、同じような構想をソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)が持ち始めたからだ。数年前まで、MicrosoftはPCを家庭のリビング(ファミリ)ルームに浸透させようとやっきになっていた。それは、家庭のエンターテイメントの中核になれるのは、リビングルームを征するコンピュータだからだ。リビングを征したコンピュータが、今のアナログTVとVCRという組み合わせに取って代わる次世代のエンターテイメントセンターになる。その市場規模は、全世界で年間数億台にまでなるだろう。

 ところが、PCは米国ですらリビングにはなかなか浸透しない。そうこうしているうちに、ゲーム機がリビングにどんどん進出してしまった。それでも、ゲーム機が単純なゲームプレイデバイスだった時は、まだそれほど怖くなかった。ところが、SCEIはPlayStation 2を、ブロードバンドネットにつながり、様々なデバイスを接続できる、本格的なコンピューティングデバイスに仕立ててしまった。

 PlayStation 2の戦略は明確だ。PlayStation 2は、まず、PlayStationのプラットフォームを引き継ぐゲーム機としてリビングに浸透する。そして、いったん浸透したあとは、ネットワーク経由でのコンテンツ配信やサービス提供のプラットフォームへと変わって行く。最終的には、ゲームだけでなく、デジタル映画やデジタル音楽、ネットワーク経由のサービスなど、あらゆるものがPlayStationファミリの上で実現されるようになる。

 これは、勝手な想像ではなく、実際にSCEI自身もそう言っている。例えば、'99年10月3~4日に米国サンノゼで開催されたMicroprocessor Forumのキーノートスピーチで、SCEIの久夛良木(くたらぎ)健社長は、PlayStation 2の展望としてコンテンツを配信「e-Distribution」をぶち上げている。日経エレクトロニクス誌は、こうしたPlayStation 2戦略を“トロイの木馬”と呼んだが、まさにその通りだ。

●リビングルームを取るための必死の戦略

 PlayStation 2の戦略が成功してしまうと、Microsoftはリビングルームを失う。それは、家庭のエンターテイメントセンターの地位をソニーに取られ、MicrosoftはPCの世界に押し込められてしまうことを意味する。だから、Microsoftとしては、なにがなんでもXboxを繰り出さざるをえなかったと思われる。

 もちろん、Microsoftは他にも代替の手は打っていた。そのひとつは、デジタルCATVのSTBで、これに関しては、大手CATVプロバイダのTCI(あとにAT&Tが買収)と提携したりしていた。アドバンスSTBも、うまくすれば、ネットワークにつながったエンターテイメントセンターになりえる。しかし、こちらは今のところうまく行っていない。PCもリビングには入らない。残るのは、Xboxだけだ。

 PlayStation 2がトロイの木馬なら、当然、それに対抗するXboxもトロイの木馬だ。Microsoftの本音も、SCEIと同じように、Xboxをゲーム機として浸透させて、リビングルームをネットワークにつなげることにある。しかし、トロイの木馬であるからして、まずはゲーム機として成功させなければならない。大きな、インストールドベースを作らないとこの構想は成り立たない。最大の難関はここにある。はたして、Microsoftはゲーム機Xboxを成功させ、すでにかなり先を走っているPlayStation 2に対抗できるだけの数を、世界中の家庭に入れることができるのだろうか。

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【1月11日】マイクロソフト、Xbox Conference 2002 Winterを開催(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20020111/xbox02.htm
【'99年10月7日】【MPF】SCEIがPlayStation2のMPU「EmotionEngine」のロードマップを発表
PlayStation2ベースのワークステーションが登場!
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991007/mpf4.htm


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(2002年1月11日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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