平澤寿康の周辺機器レビュー

信頼性が大幅向上した、メインストリーム向けSSD「Samsung SSD 860 EVO」

日本サムスン「Samsung SSD 860 EVO」

 日本サムスンは、メインストリーム向けSATA SSD新モデルとなる「Samsung SSD 860 EVO」を発表した。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は14,000円から。

 従来モデルとなる「Samsung SSD 850 EVO」の後継となる製品で、64層3D NAND「V-NAND」の採用や、最新コントローラ「MJX」の採用などによって、性能や信頼性が向上している。

 今回、いち早く2.5インチの1TBモデルを試用する機会を得たので、仕様や性能を紹介する。

64層3D NAND「V-NAND」と新コントローラ「MJX」の採用により性能や信頼性を向上

 Samsung SSD 860 EVO(以下860 EVO)は、SATA SSDということで、速度的には従来モデルと比べても、それほど大きな進化は見られないが、そういった中でもランダムアクセス性能や信頼性などが向上している。

 まず、SSDとしての仕様を確認しよう。

 NANDフラッシュメモリには、従来同様に1つのセルに3bitの情報を記録できる、3bit MLC(いわゆるTLC)仕様のSamsung製3D NAND「V-NAND」を採用するが、860 EVOでは、最新となる第4世代の64層V-NANDを採用している。

 積層数が増えたことでチップ当たりの容量も増え、容量あたりのコストが有利となる。これは、コストパフォーマンスを求められるメインストリーム向けSSDとして、重要なポイントだ。

 また、コストパフォーマンスだけでなく、優れた信頼性を兼ね備えているという点も、860 EVOの特徴だ。

 従来モデルの850 EVOも、総書き換え容量は250GBモデルで75TB、最大容量の4TBモデルでは300TBと、メインストリーム向けSSDとして十分に優れる信頼性を備えていた。それに対し860 EVOでは、250GBモデルで150TBと850 EVOの2倍、4TBモデルでは2400TBと850 EVOの実に8倍にも達している。

 製品としての保証期間は、850 EVO同様の5年間となっているが、860 EVOなら保証期間を超えて、長期間安心して利用できるだろう。

 コントローラには、最新となる「MJX」を採用。サムスンはMJXの詳しい仕様を公表していないが、コントローラとソフトウェアの最適化により、従来よりも性能が向上しているという。

 SATA SSDは、以前よりアクセス速度がSATAインターフェイス上限に達していることから、製品間の差異がかなり小さくなってきている。ただ、PC利用時の快適さを左右するランダムアクセス性能に関しては、まだまだ製品間の差が大きい。860 EVOでは、従来モデルの850 EVOと比較して、ランダムアクセス性能が向上している。

 また、PCIe NVMe SSDの「Samsung 960 PRO」や「Samsung 960 EVO」などで採用されているアクセス性能改善技術「Intelligent TurboWrite」も採用。

 850 EVOでは、NANDフラッシュメモリの一部をSLCバッファとして利用することで、書き換え時の性能低下を抑える「TurboWrite」機能が搭載されていたが、860 EVOのIntelligent TurboWriteでは、SLCバッファ容量をディスクアクセス状況によって動的に増やすことにより、従来以上に性能低下が抑えられ、より高い性能が発揮されるという。

 接続インターフェイスはSATA 6Gbpsで、フォームファクタは2.5インチ、mSATA、M.2 2280を用意。2.5インチモデルは高さが6.8mmとなる。なお、860 EVOの主な仕様は、下の表にまとめたとおりだ。

製品仕様
容量250GB500GB1TB2TB4TB
NANDフラッシュメモリSamsung 64層V-NAND 3bit MLC
コントローラMJXコントローラ
キャッシュメモリ容量(LPDDR4)512MB1GB2GB4GB
シーケンシャルリード550MB/s
シーケンシャルライト520MB/s
最大4Kランダムリード(QD1)10,000IOPS
最大4Kランダムライト(QD1)42,000IOPS
最大4Kランダムリード(QD32)98,000IOPS
最大4Kランダムライト(QD32)90,000IOPS
総書き換え容量(TBW)150TB300TB600TB1,200TB2,400TB
保証期間5年保証
店頭予想価格14,000円~23,000円~50,000円~104,000円228,000円
試用した、2.5インチモデルの860 EVO。デザインは従来モデルから大きく変わっていない
裏面
側面。ネジ穴の位置は2.5インチHDDと同じ。高さは6.8mm
接続インターフェイスはSATA 6Gbps

基板は非常に小型で、搭載チップも少ない

 では、今回試用した、860 EVOの2.5インチ1TBモデルの内部基板を見てみよう。

 ケースを開けると、非常に小さな基板が目に飛び込んでくる。サイズは、2.5インチサイズの1/3にも満たないほどだ。従来モデルの850 EVOも基板はかなり小さかったが、860 EVOの基板はそれ以上に小さいという印象だ。

 基板には、SATAインターフェイスのほかに、コントローラのMJXとキャッシュ用のDRAMチップ、NANDフラッシュメモリチップが搭載されている。

 NANDフラッシュメモリチップは型番が「K90UGY8J5M」で、基板の表と裏に1チップずつ、計2チップ搭載。キャッシュ用DRAMチップは容量1GBのLPDDR4で、型番が「K4F8E16 4HMBGCJ」。コントローラのMJXチップの型番は「S4LR030 SZ8BDNY0」だった。

カバーを開けた状態。内部基板は非常に小さい
基板表には、容量1TBのキャッシュ用LPDDR4チップ「K4F8E16 4HMBGCJ」とMJXコントローラ「S4LR030 SZ8BDNY0」、容量512GBのNANDフラッシュメモリチップ「K90UGY8J5M」を搭載
基板裏にも、容量512GBのNANDフラッシュメモリチップ「K90UGY8J5M」を搭載している

SATA SSDとしてほぼ上限の速度を発揮

 では、860 EVOの性能をチェックしていこう。とはいっても、SATA SSDはすでにどの製品も速度はインターフェイスであるSATA 6Gbpsの上限に肉薄しており、それは860 EVOについても同様だ。

 そのため、基本的には確認の意味でテストを行なっている。利用したベンチマークソフトは「CrystalDiskMark 6.0.0」と「ATTO Disk Benchmark V3.05」、「PCMark 8 v2.8.704 Storage test」の3種類。テスト環境は下にまとめたとおりだ。

テスト環境
マザーボードMSI Z97A GAMING 6
CPUCore i7-4770K
メモリDDR3-1600 4GB×4
システム用ストレージSamsung SSD 840 PRO 256GB
OSWindows 10 Pro 64bit
CrystalDiskMark 6.0.0 データサイズ1GiBの結果
CrystalDiskMark 6.0.0 データサイズ32GiBの結果
ATTO Disk Benchmark V3.05の結果
PCMark 8 v2.8.704 Storage testの結果

 結果を見ると、SATA SSDとして申し分ないスコアが得られていることがわかる。

 シーケンシャルアクセス速度はリードが562.7MB/s、ライトが533.9MB/sを記録するとともに、ランダムアクセス速度もリード、ライトともに十分な速度が得られている。

 また、今回CrystakDiskMarkではテストデータサイズを1GiBと32GiBに設定して測定したが、どちらも速度にほとんど違いは見られなかった。このことから、大容量のアクセスが発生したとしても、Intelligent TurboWrite機能によって短時間での速度低下はほぼ起こらないと言えそうだ。

PlayStation 4 Proの内蔵ストレージ換装用途にも最適

 現在、自作PCでSSDを利用する場合には、PCIe接続のM.2 SSDを利用する例が一般的となっており、SATA SSDは古い世代のPCや、ノートPCでのHDDからの換装用途がほぼメインとなりつつある。

 ただ、HDDからSATA SSDへの換装は、旧世代PCの体感性能を手軽に向上できる非常に重要な手段なのは間違いなく、SATA SSDが活躍できる場面はまだまだ多く残されている。

 そして、もう1つSATA SSDが活躍できる場面として注目したいのが、家庭用ゲーム機のPlayStation 4およびPlayStation 4 Proだ。

 PlayStation 4およびPlayStation 4 Proは、内蔵ストレージとして2.5インチHDDを利用している。そして、ゲームソフトは内蔵ストレージにインストールして利用するのが基本となっているが、内蔵ストレージがHDDの場合には、ゲーム起動時や場面転換時などのロードに、やや時間がかかるという問題がある。

 しかし、内蔵ストレージをSSDに換装するだけで、ロード時間を短縮でき、快適にゲームがプレイできるようになるため、実践する人も結構多い。しかもPlayStation 4 Proからは、SATAポートがSATA 6Bbps対応となり、SSDの速度がより活かせるようになった。

PlayStation 4 Proの内蔵ストレージをSSDに換装することで、ロード時間を短縮できる

 そこで、実際にPlayStation 4 Proを利用し、内蔵ストレージをHDDから860 EVOに換装することで、ゲームのロード時間がどのように変化するかチェックしてみた。

 利用したPlayStation 4 Proは、1TB HDDを搭載する「CUH-7100BB01」だ。また、ロード時間のチェックとして、ソニー・インタラクティブエンターテインメントの「New みんなのGOLF」と、スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」を利用した。

 New みんなのGOLFでは、ゲームの起動時間(メインメニューから起動しロゴが表示されるまで)と、ゲーム内で「ひとりでGOLF」の「イーグルシティG.G.」を選択してコースに出られるまでの時間を計測。また、ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めてでは、タイトルからセーブデータを選択してゲーム画面が表示されるまでの時間と、ゲーム中で魔法「ルーラ」を使ってワープし、画面が表示されるまでの時間を計測した。いずれも3回計測し平均を出している。

New みんなのGOLF
ゲーム起動時間
HDD40.1秒
SSD21.9秒
「ひとりでGOLF」イーグルシティG.G.ロード時間
HDD44.1秒
SSD30.2秒
ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて
セーブデータロード時間
HDD33.7秒
SSD20.0秒
「ルーラ」後のロード時間
HDD16.1秒
SSD13.2秒

 結果を見ると、どの場面でもSSDのほうがロード時間が短くなった。しかも、New みんなのGOLFの起動時間のように、HDDに対してロード時間が半分ほどに短縮する場面もあるなど、効果は絶大だ。

 実際にプレイしていても、快適度は大幅に向上したという印象で、PlayStation 4 Proの内蔵ストレージのSSDへの換装は大いにおすすめできる。

PCや家庭用ゲーム機のHDD換装用途に最適

 860 EVOは、3bit MLC NANDフラッシュメモリを採用するメインストリーム向けのSATA SSDだが、その中身はSATA SSDとしてトップクラスの性能を備えている。

 シーケンシャルアクセス速度はインターフェイス上限に近く、ランダムアクセス速度もハイエンドSATA SSDとほぼ同等の十分な速度を実現。加えて、競合製品を圧倒する総書き換え容量を備え、標準で5年の長期間保証が付属するなど、信頼性にも優れている。

 確かに、新たにPCを自作する場合など、SATA SSDを利用する場面は以前より減ってきている。しかし、HDDからの換装を中心として、まだまだ幅広い用途で利用が続くはずだ。そして860 EVOは、SATA SSDの中でも飛び抜けたコストパフォーマンスを実現する製品として、見逃せない存在となりそうだ。