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うなぎを宇宙へ!「UNA Galaxy project」発足

 長野県岡谷市にあるうなぎ屋の有限会社 観光荘は、2021年7月2日、自社開発の「シルクうなぎ」の蒲焼を宇宙日本食として2023年に国際宇宙ステーション(ISS)への搭載を目指す「UNA Galaxy Project(ウナギャラクシープロジェクト)」を発足したと発表し、オンライン会見を行なった。

 観光荘は1954年創業のうなぎ料理店。蒸さずに備長炭を使用した炭火焼きのうなぎを提供している。「UNA Galaxy Project」ではJAXA宇宙日本食として認証取得を目指す。既に「ちりめん山椒」でJAXA認証取得の実績を持つ宝食品株式会社も協力する。

 また、プロジェクト第1弾として、長野県松本工業高校の学生たちと、高高度気球を使った撮影などを手がけるkikyu.orgの協力のもと、気球を使って地上30kmの成層圏へ、うなぎを打ち上げる。

うなぎの蒲焼の宇宙日本食化を目指す

「うなぎの蒲焼を宇宙に届けようぜ」

有限会社観光荘 代表取締役 宮澤健氏

 きっかけはJAXAでの意見交換会で、日本人宇宙飛行士たちから発せられた「うなぎを宇宙で食べたい」の言葉だったという。3代目である有限会社観光荘 代表取締役の宮澤健氏は、着想から立ち上げまでのストーリーや宇宙食実現までのロードマップを紹介した。

 「UNA Galaxy Project」は、うなぎと宇宙、関連性のない2つを結びつけチャレンジすることで世の中を元気で笑顔にすることを目指す。

 最初のきっかけは2019年。観光荘本店のある岡谷市出身の自転車冒険家の小口良平氏氏という人がいる。小口氏は講演会で「将来は南極や月面を走破したい」と語っていた。宮澤氏は「いつかそんなことができたらいいな」と一緒に語っていたという。

 興味を持った宮澤氏は極地向けのうなぎ蒲焼の開発を調べ始めた。すると長期保存や栄養価、衛生管理、調理工程の容易さなど多くのハードルがあることが分かった。

 一方、本業のほうでも、2020年の食品衛生法改正に伴う「HACCP(ハサップ。Hazard Analysis and Critical C ontrol Pointの略。危害分析重要管理点)」義務化への対応に取り組んでいた(2021年6月から施行)。

 両者に取り組む中で、どちらも高度な衛生管理が求められるので、極地向け蒲焼も実際の事業と大きくかけ離れたことではないと思うようになった。HACCPがもともと宇宙食の衛生管理のためにNASAが開発した技法だと分かったことも後押しとなった。

最初のきっかけは冒険家との出会い
「HACCP」対応が後押しに

 さらに調査している過程で、JAXAが「宇宙日本食」を公募していることが分かった。エントリーするにはHACCPに準拠した衛生管理に取り組んでいることが必要だった。

 日清やローソンのような大手食品会社ばかりだったため、地方飲食店でも参加できるのかどうか懸念を持ちつつ、JAXAに恐る恐る問い合わせてみると、1週間後に電話がかかってきた。地方の飲食店でも申請のための認証条件を満たしていれば参加可能だと分かった。

 そこで誘われるまま「宇宙日本食意見交換会」へ参加。東京・日本橋で宇宙開発のリアルな話や、長野県出身の宇宙飛行士である油井亀美也氏から「宇宙でうなぎを食べられたら嬉しい」といった話を直接聞いた。同行スタッフは「うなぎの蒲焼を宇宙に届けようぜ」と盛り上がったという。

 ところが決意したものの新型コロナウイルス禍によってそれどころではなくなり、計画は一時休止となった。HACCPのほうは義務化されていることもあり、また顧客の安全を守るためにも非常に有効ということで、2020年は運用レベルでのHACCPへの取り組みを加速させた。

古川宇宙飛行士の「うなぎの蒲焼」で開発が再び本格化

 再始動したのは2021年1月。「もう宇宙食のことは頭の片隅にあるかないかくらいになっていた」そうだが、JAXAから今年もリモートで宇宙日本食意見交換会が開催されるという案内をもらい、まだ諦めきれていなかったため、再び参加。

 今度は宇宙飛行士の古川聡氏が参加していた。その時にJAXA担当者が「宇宙で食べたい食事は何ですか」と古川氏に質問したところ、その返事は即答で「うなぎの蒲焼」だった。この時も参加していた社員たちは大興奮したという。なお古川氏は、その会合にうなぎ屋が参加していることは知らなかったそうだ。

 古川宇宙飛行士は2023年ごろにISSに長期滞在する予定。そのための「Pre宇宙日本食」の募集も開始となった。保存試験などの期間もあるので、再び本格的にうなぎ蒲焼の宇宙食化を目指すことになった。8月中の1次審査を通ると12カ月の保存試験を行ない、そのあと調達調整、立ち入り検査などが行なわれる予定だ。

古川宇宙飛行士の「うなぎの蒲焼を食べたい」の言葉に大興奮
本格的に宇宙日本食化を目指すことに

 「やってみよう」と決まったものの、実現するには、ハードルがあった。観光荘にはレトルト殺菌、フリーズドライ、缶詰設備などの必要な技術が不足していた。またそのための部屋もなかった。

 そこで以前から相談を持ちかけていた宇宙ビジネスコンサルタントである船井総研の稲波紀明氏に相談。小豆島の食品メーカーで、既に宇宙日本食認証を受けていた宝食品株式会社の大野社長を紹介された。オンラインで話したところ快く引き受けてもらい、今、宇宙日本食開発は、観光荘の工場で今本格的に進められているという。

船井総研の稲波紀明氏から宝食品を紹介される
現在本格的に試作中

 焼きたてのうなぎ蒲焼をマイナス40℃で一気に凍らせ、それを一切れ50gに切り分け、機械で真空パックする。そして宝食品でさらにレトルト殺菌する。なお観光荘では普段は甘いたれを2度づけしているが、宇宙食用は加圧して味が染み込むこともあり、1度づけのものになるとのことだ。

焼きたてうなぎを冷凍
真空パックする

高校生たちと気球で宇宙うな重を

長野県松本工業高校の学生たちと気球打ち上げを目指す

 ではなぜ気球で成層圏打ち上げなのか。2月に「このプロジェクトを多くの人に知ってもらいたい」と船井総研・稲波氏に相談したところ、成層圏までうなぎを気球で打ち上げませんかと提案された。しかし打ち上げ費用は200万円。面白いがかなり突飛だと観光荘の宮澤氏も考えていた。

 一方同じ頃、長野県松本工業高校の3年生の3人が「気球でVRカメラを打ち上げて宇宙をVRで見てみたい」という相談をkikyu.orgにしていた。しかし費用の捻出は高校生には難しかった。だが生徒たちは諦めれずにいた。そんな話が観光荘に届いた。

 宮澤氏は「同じ長野県で宇宙に夢を描く仲間として何かできないか」と考え、高校生たちとリアルとオンラインのミーティングを何度も重ねた。さらにNASAのガービー・マッキントッシュ氏や、宇宙飛行士の山崎直子氏からもアドバイスや応援を受けた。

NASAのガービー氏や宇宙飛行士の山崎直子氏からアドバイスを受ける

 そしてミッションを決定した。気球で上空30kmの成層圏へうな重を打ち上げる。その様子を、高校生が作成した遠隔操作できる360度カメラで撮影する。その動画をVRゴーグルを通して見ることで、自分が宇宙飛行しているようなワクワクする体験を提供してみんなを元気にする。

このうな重を気球で打ち上げる

 ただし費用は大変なので、CAMPFIREでクラウドファンディングも7月半ばにスタートする。目標金額は300万円。気球の打ち上げ、カメラ購入・装置制作費、リターン向け食材購入費用に充てる。

 リターン内容には、宇宙うな重写真プラン1,000円、宇宙うなぎたれプラン2,500円、宇宙食チャレンジプラン3,000円、5,000円、10,000円などがある。

 そのほか、観光荘の主力商品である「シルクうなぎ(蚕さなぎを粉末化して飼料にブレンドして育てたうなぎ)」のうなぎ特大1パックが含まれる各プランが5,000円からある。

 プロジェクトでは第1弾として7月7日、福島県南相馬沖で通常のカメラを使って、うな重を撮影する。高校生による打ち上げ時に必要なデータを収集する。

 具体的には上空までの到達時間・実際の高度・うな重の状態などを観測する。7月後半に打ち上げ報告会も観光荘で行なわれる予定だ。生徒たちとの打ち上げは秋冬(10月-12月)を予定する。

7月半ばにCAMPFIREでクラウドファンディングを実施
クラウドファンディングのリターンは検討中

「何それ面白いじゃん」と元気に明るくなってくれれば

7月7日にはテストとしてうな重を打ち上げて撮影を行なう

 今後については、まず今年は宇宙日本食にエントリーし、うな重を成層圏へ送る。2022年にはヴァージンギャラクティック社の宇宙旅行が始まるが、その時に稲波氏が旅行者として参加する予定で、うなぎ蒲焼を宇宙旅行食とできればと考えているという。そして2023年にはいよいよISSへうなぎを宇宙日本食として送る予定となっている。

 宇宙食としての認証についての自信を聞かれた宮澤氏は「自信を持っているが万全を期していきたい」と述べた。そして最後に「この話をするとみんなが面白がってくれる。大人も子供も、みんなが『何それ面白いじゃん』と言ってもらうことで明るい世の中になってくれれば」と語った。

2023年、うなぎの蒲焼を日本宇宙食とすることを目指す