笠原一輝のユビキタス情報局

上質な打鍵感の“赤ぽっちThinkPadキーボード”がパワーアップして帰って来た

~ThinkPadトラックポイント キーボード IIレビュー

ThinkPadトラックポイント キーボード II

 LenovoがCESで発表した「ThinkPadトラックポイント キーボード II」は、同社が2013年に販売を開始した「ThinkPad Bluetooth ワイヤレス・トラックポイント・キーボード」および「ThinkPad トラックポイント・キーボード(有線版)」の後継となる製品だ。

 初代製品は、ThinkPad用のキーボードを採用し、キーボードに内蔵しているスティック型ポインティングデバイス「TrackPoint」でマウスカーソルを操作できることから人気を集めた。その2世代目となる今回の製品でも、同じくTrackPointを搭載しており、ThinkPadシリーズの特徴と言える黒色に“赤いぽっち”というデザインが継承されている。

 Lenovoの日本法人であるレノボ・ジャパンも、5月26日に報道発表を行ない、日本向けの製品として「ThinkPadトラックポイント キーボード II - 日本語(P/N 4Y40X49522)」を発表した。

 レノボ・ジャパン合同会社 コマーシャル事業部 企画本部 製品企画部 Thinkアクセサリー プロダクトマネージャの上野達也氏が、「従来製品のグローバルの販売台数のうち半分は日本での販売だった」というほど日本で人気を集めたThinkPadトラックポイント キーボード。本記事では初代と2世代目を比較してレビューしていきたい。

USB無線とBluetoothが1つになった新製品

レノボ・ジャパンが発表した「ThinkPadトラックポイント キーボード II」

 今回レノボ・ジャパンが発表した「ThinkPadトラックポイント キーボード II- 日本語(P/N 4Y40X49522)」は、米国などで先行して販売されている英語配列の「ThinkPad TrackPoint Keyboard II(P/N 4Y40X49493)」の日本語配列版となる。日本では日本語版と英語版の両方が販売され、直販サイトやリテールストアなどの各種販売チャネルを通じて購入できる。

旧モデルとなる「ThinkPad トラックポイント・キーボード」。新モデルと旧モデルは一見するとかなり似通っている

 前述のとおり、今回のThinkPadトラックポイント キーボード IIは、2世代目の製品だ。初代のThinkPadトラックポイント キーボードには有線モデルとBluetooth無線モデルの2つが用意されいたが、今回は無線のみになったことが大きな違いとなる。

外箱
蓋を開けたところ
内容物
【表1】ThinkPadトラックポイント キーボードの新旧比較
ThinkPadトラックポイント キーボード II - 日本語ThinkPad Bluetooth ワイヤレス・トラックポイント・キーボード - 日本語ThinkPadトラックポイント キーボード - 日本語
キーボード世代CS19CS12CS12
キーボード配列日本語JIS配列(テンキーなし)
接続方式無線のみ(2方式)無線のみ(BTのみ)有線のみ
BluetoothBluetooth 5.0(Swift Pair対応)Bluetooth 3.0-
有線-USBケーブル(有線)
専用無線2.4GHz(専用、USB無線アダプタ)-
給電方式内蔵バッテリ(USBケーブルで充電)USBケーブル
バッテリ駆動時間約2カ月約1カ月-
USB端子USB Type-C(給電のみ)Micro USB(A端子)Micro USB(A端子)
前面のLenovoロゴ左上にありなし
Fnロック/Caps Lockインジケータあり-
Fnロック/アンロック単体で可能ツールが必要
Androidキー刻印あり-
点字6点入力対応-
チルト調整有り(2段階)
天板設計ワンピース構造2ピース構造
サイズ(幅×奥行き×高さ)305.5×164×13.7mm306×164×14mm
重量516g460g440g
筐体色ブラック
同梱別USB Type-C - USB Type-Aケーブル(1m)USB Type-AーMicro USBケーブル(1.5m)
サポートOSWindows 7/10、Android 8.0以上Windows 7/8/8.1/10
トラックポイントキャップThinkPad ロープロファイルトラックポイント・キャップ(P/N 0A33908)
発表時点での税別価格14,500円13,500円8,380円
左から「Bluetooth/2.4GHzワイヤレス切り替えスイッチ」、「Windows/Android切り替えスイッチ」、USB Type-C端子、USB無線アダプタ(収納式)。無線アダプタは本体に差し込んで収納しておけるので紛失の心配がなさそうだ

 従来のモデルでは有線モデルはUSBケーブルでの給電とデータ接続、無線モデルはUSBケーブルで給電、Bluetooth無線でデータ転送を行なう仕組みになっていた。

 それに対して、今回のモデルはUSBケーブルでの給電は変わらないが、データは2.4GHzの独自無線を利用するUSB無線アダプタとBluetooth 5.0の2つの方式のいずれかをキーボードの右上側面にあるスイッチで切り替えて使用する。

USB Type-C - Type-Aの付属充電ケーブル

 給電にはUSB Type-Cを利用し、そのためのType-C - Type-Aケーブルが付属している。給電しながら使うこともできるので、バッテリが切れるのが嫌だというユーザーはつなぎっぱなしでも利用できる。ただ、内蔵バッテリ(500mAh/約2Wh)から給電されていないと動かない仕様になっているので、バッテリが使えなくなると製品としての寿命が尽きることになる。

 バッテリは、1秒あたり2~3キーの入力を2時間、TrackPointを1時間操作するという使い方で約2カ月持つので、頻繁に充電する必要はない。

F9~F12に表示されているAndroid用ボタン(キートップと本体フレームの溝部分に印字)。Windows/Android切り替えスイッチで、Android側に切り替えると利用できる

 対応OSはWindows 7/10とAndroid 8.0以上となる。従来モデルではAndroidには対応していなかったというわけではないが、Android固有の機能であるホームボタン、戻るボタンなどは用意されておらず、ディスプレイのタッチ操作と併用する必要があった。新モデルでは「Windows/Android切り替えスイッチ」が用意されており、Androidに切り替えると、F9で「戻る」、F10で「ホーム」、F11で「検索」、F12で「アプリランチャー」をできる。

iPadOS上でもBluetooth接続で動作する、マウスカーソルが表示されていることに注目

 iOSとmacOSに関してはサポート対象外だが、iOSならBluetoothで、macOSならUSB無線アダプタおよびBluetoothで接続可能だ。ただし、キー配列などはiOS/macOSには対応しておらず、Windows用のキーボードを接続した場合と動作は同じになる。試しに11インチiPad Pro(第1世代、iPadOS 13.4.1)に接続してみたが、キー配列の制限を除けば、TrackPointをマウスの代わりとして利用できた。とは言え、サポート外なので自己責任での使用になる。

キーボードがCS12からCS19に変更され、キーボード自体の弱点が大幅改善

上がThinkPadトラックポイント キーボード II(新)、下がThinkPadトラック・ポイント キーボード(旧)

 ThinkPadトラックポイント キーボード IIの打鍵感だが、従来モデルと同様に良好で、細かな改善がされたことで改善が図られている。というのも、今回の新製品はキーボードの世代が7年分の進化を遂げているからだ。

 従来モデルに採用されていたのは、CS12(CleanSheet 12)と呼ばれる2012年のThinkPad向けに開発されたキーボードだった。CS12は新しく6列配列のキーボードが導入された最初の世代で、それまでは7列配列として煮詰められてきたThinkPadのキーボードが完全に一新されたときの第1世代製品だった。7列から6列になった事情は、CS12についての解説記事(変わるThinkPad、変わらないThinkPad)を参照されたい。

下が新しいThinkPadトラックポイント キーボード II、上が従来モデルのThinkPadトラック・ポイント キーボード。F4とF8、F12の横にスペースがあることがわかる

 このCS12世代のキーボードでは、6列配列のキーボードとしてまだ未成熟な部分がいくつかあった。その代表が、FnキーのF4とF5、F7とF8の間にスペースがなく、F8などのポジションがわかりにくかったこと、さらにはFnロック/Caps Lockのインジケータがないという点だ。

 最近のキーボードはボリュームアップ、ダウンなどの機能をF1~F12のキーに割り当てているのだが、デフォルト設定を昔ながらのF1~F12にするユーザーは多い。CS12の6列配列キーボードはFnロックのインジケータがなく、Lenovoが用意している専用ツールを使わなければわからなかった。同じようにCaps Lockのインジケータもなく、ユーザーからわかりにくいという意見が出ていた。

【表2】CS19とCS12キーボードの違い
CS19CS12
キーピッチ19.05mm
キーストローク1.8mm
Fnキーのスペースあり-
Caps Lockインジケータあり-
Fnロックインジケータあり-
トップカバーの設計ワンピース構造ツーピース構造
キーボード表面ざらつき削減ざらつきあり
TrackPointボタン平面ボタン手前に盛り上がりあり
CS19のThinkPad X1 Yoga Gen 4との比較、キーボードはほぼ同じ、違いはThinkPad X1 Yoga Gen 4のTrackPointの高さがやや低いぐらい

 今回発表された新モデルとなるThinkPadトラックポイント キーボード IIでは、その状況が大きく改善されている。採用されているキーボードは、CS19のThinkPad、つまり2019年向けのThinkPadに採用されていたものだ。具体的にはCS19のThinkPad Tシリーズに採用されている6列配列キーボードに変更されている。このため、FnロックとCaps Lockのインジケータもついた。

Fnロック状態がわかるようになった
Caps Lockもインジケータが点灯する

 そして、初代モデルでは、Fnロックを行なうには、Lenovoのツール(ThinkPad Compact Keyboard with TrackPoint driver)をインストールして設定を行なうというややめんどうな仕様だったのも改善された。ツールをインストールしなくても、Fn+ESCキーを押すだけでロックとアンロックが可能になっている。

打鍵感を踏襲しつつTrackPointやボタンが最新版へと進化

背面にある足を出すと角度をつけることができる

 このように、機能面では大きく改善されているが、変わらないものもある。それが打鍵感などの「ThinkPadキーボードらしいフィーリング」だ。キーに触った瞬間に「あ、ThinkPadの打鍵感だ」とわかるそのフィーリングはまったくと言っていいほど変わっていない。7年も経ったのにそこは変わっていないんだ、というのは逆に驚きですらある。

 キーピッチも19.05mm(XY方向とも)、キーストロークも1.8mmとまったく変わっていない。ただ、キーボードの表面は若干変わっており、ざらざら感が若干減っている。ただ、目隠して両方を触った場合に違いを判断するのは正直難しいだろう。

足を収納した状態
足を出して角度をつけた状態

 キーボードの角度も従来製品と同じように2段階で変えることができ、テーブルなどに直置きと、背面の足を出してやや角度をつけた状態の2段階で利用できる。足を出して角度をつけた状態でキーボードをやや強めに叩いてもゆがんだりという感じはまったくない。

 前のモデルでも効果があったが、今回のモデルでもキーボードの裏面に鉄板の補強が入っており、見た目はプラスチックのためにそれほど強度があるように見えないのだが、キーボードを入力していてグラグラする感じはまったくしない。筆者はほかの人よりもやや強めにキーを叩くほうだが、その筆者が叩いてもまったくゆがむ感じがないので、安心して入力できるのはポイントが高い。

分解した本体に入っている鉄板。右側の鉄板の下にあるのがバッテリ
ThinkPadトラックポイント キーボード IIの表面カバーは1ピース構造
従来モデルはキーボードカバーが2つのパーツから構成されている
裏面の比較、ゴム足も丸から四角に改良されている。前モデルで取れやすいというフィードバックがあったためだという

 キーボードの表面カバーは従来製品ではツーピース構造(カバーと周囲は別途成形されていた)だったが、今回の新モデルではカバーはワンピース構造(1つのカバーとして成形される)になっている。

 これにより、キーボードに間違って水などの液体をこぼしても、基板などに到達する可能性が低くなるというメリットがあり、動作試験では20ccの水をこぼして5分放置し、水分を拭き取った上で24時間乾燥させたら正常動作することを確認しているという。「IP」などの等級を取得しているわけではないため、防滴などのアピールはしていないが、万が一やってしまっても動く可能性があることはユーザーとしてはうれしいところだ。

上が新しい製品、下が旧製品。ボタンがCS19とおなじになっていることがわかる

 スティック型ポインターとしてユーザーに人気を集めているTrackPointも進化している。CS19のThinkPadでは、TrackPointがELAN製のスティックコントローラが採用されており、ボタンも従来の手前に盛り上がりがあるものからフラットなボタンへと変更されている。

 ELANのスティックコントローラは、従来のTrackPointに採用されていたスティックコントローラに比べて正確性が増しており、よりユーザーが狙ったところにポインターを持って行きやすくなっている。

 TrackPointのキャップは従来モデルと同じ「ThinkPad ロープロファイルトラックポイント・キャップ(P/N 0A33908)」が利用できる。ロープロファイルのTrackPointのキャップは複数の製品があり、CS19向けのThinkPadではこのロープロファイルと「ThinkPad ロープロファイル トラックポイントキャップ(高さ3.0mm(P/N 4XH0X88960))」という2種類があるが、P/N 0A33908のほうのThinkPad ロープロファイルトラックポイント・キャップを利用する必要がある。高さ3.0mmのほうはThinkPad X1 Carbon Gen 7/Gen 8、ThinkPad X1 Yoga Gen 4/Gen 5などのCS19、そして本日一緒に発表されたCS20のX1シリーズに適合となるので注意が必要だ。

ThinkPad TrackPoint Keyboard II Software

 また、TrackPointのポインター速度の調節は、「ThinkPad TrackPoint Keyboard II Software」をインストールすれば、コントロールパネルのキーボードに設定タブができるので、そこから行なえるようになる。また、F12キーをWebブラウザを起動するなどの特定の機能を設定することも可能だ。

弱点を修正した新しいThinkPadトラックポイント キーボード

ノートPCを外付けキーボードで使いたいユーザーにもおすすめ

 以上のように、「ThinkPadトラックポイント キーボード II - 日本語」は、快適な打鍵感といった変わってはいけないところは何も変えず、ファンクションキー周りの変わってほしいところはキッチリと改善されている。TrackPointも2019年型になり、より軽快に操作ができるようになっている。

Androidタブレットと組み合わせて利用することができる

 実際に使ってみたときに、便利だなと感じたのは、USB無線アダプタとBluetoothをスイッチで切り替えられることだ。たとえば、普段はUSB無線アダプタをデスクトップPCにつないでいるが、必要なときだけBluetoothに切り開かえてノートPCやAndroidタブレットに接続できる。複数のデバイスで同じキーボードをフルワイヤレスで利用したいユーザーにとって大きな福音と言えるだろう。

スペック上の重量は516gだが、実測では515g、
ドングルが2g
ドングル込みでは517g

 価格は税別14,500円とキーボードとしてはハイエンドクラスの値段だが、「従来モデルとほぼ同じ価格レンジを目指した。前モデルの登場時よりはやや高くなっているが、価格改定した後のピーク時の定価と同じにそろえている。Webでのダイレクト販売の場合はここからクーポンなどが適用になることが多い」(レノボ・ジャパン 上野氏)とのこと。

 実際にレノボの直販サイトでは、1~2割程度のクーポンが適用されることが多く、2割引きのクーポンがあれば税別11,600円になる。なお、「日本語キーボードはかなり余裕をもって在庫を用意しており、日本語モデルのほうがいち早くお届けできるように納期を調整している」そうなので、いち早くほしい人はレノボ・ジャパンのダイレクト販売で注文するといいだろう。

 外付けキーボードには現在大きく分けて2つの製品がある。1つはこれまで外付けキーボードとして認識されてきたキーのストロークが4mmなどの深いもので、たとえばPFUのHappy Hacking Keyboard、東プレのREALFORCEシリーズなどがその代表例として挙げられるだろう。そしてもう1つが、キーストロークが1mm前後という最新のノートPCで一般的な薄型キーボードだ。

 デスクトップPCを使っていても、ノートPCと同じようなキーボードを使いたいというユーザーも少なからずいることだろう。数あるノートPCのキーボードのなかでも、品質で折り紙つきとされているThinkPadのキーボードを採用している本製品は、一番に検討したいキーボードと言える。