Hothotレビュー

こんなに速くなっちゃっていいんですか?待望のRyzen 7000をベンチマークテスト

 AMDの次世代デスクトップCPU「Ryzen 7000シリーズ」が、日本では9月30日にも発売される。

 今回は発売に先立って、Ryzen 7000シリーズ最初の製品となる4モデル全てをテストする機会が得られたので、AMDの次世代CPUが実現するパフォーマンスをベンチマークテストで確かめてみた。

Ryzen 7000シリーズ解説配信やります!ベンチマーク結果解説も、7950Xライブデモも!

 新要素満載のRyzen 7000シリーズを特長、スペック、ラインナップ、対応マザーボードなどをライブ配信で解説します。9月26日(月)の21:30開始(ライブ終了後は録画版をご覧いただけます)。いち早いベンチマーク結果の解説や最上位モデル7950Xの動作デモなども交えてディープにお届けする予定です。

 解説は“KTU”加藤勝明氏、MCは“改造バカ”高橋敏也氏。AMD HEROES WORLDと本ナマ!改造バカのコラボ配信として、日本AMDの佐藤美明さんと鈴木咲さんをお迎えしてお届けします。

Zen 4アーキテクチャと5nmプロセスを採用したRyzen 7000シリーズ

 Ryzen 7000シリーズは、Ryzen 5000シリーズの後継となるAMDの新たなデスクトップ向けCPUだ。CPUコアは新CPUアーキテクチャである「Zen 4」に基づいて、TSMCの5nm FinFETプロセスで製造されており、CPUソケットも新型の「Socket AM5」に刷新された。

 最初に発売されるRyzen 7000シリーズ製品は、最上位のRyzen 9 7950X以下、Ryzen 9 7900X、Ryzen 7 7700X、Ryzen 5 7600Xの4モデルで、各製品の主な仕様は以下の通り。

【表1】Ryzen 7000シリーズの主な仕様
モデルナンバーRyzen 9 7950XRyzen 9 7900XRyzen 7 7700XRyzen 5 7600X
CPUアーキテクチャZen 4Zen 4Zen 4Zen 4
製造プロセスTSMC 5nm FinFETTSMC 5nm FinFETTSMC 5nm FinFETTSMC 5nm FinFET
CPUコア数161286
CPUスレッド数32241612
L2キャッシュ16MB12MB8MB6MB
L3キャッシュ64MB64MB32MB32MB
ベースクロック4.5GHz4.7GHz4.5GHz4.7GHz
ブーストクロック5.7GHz5.6GHz5.4GHz5.3GHz
CPU内蔵GPU (iGPU)Radeon GraphicsRadeon GraphicsRadeon GraphicsRadeon Graphics
GPUコア数2222
GPU最大クロック2,200MHz2,200MHz2,200MHz2,200MHz
対応メモリDDR5-5200(2ch)DDR5-5200(2ch)DDR5-5200(2ch)DDR5-5200(2ch)
PCI ExpressPCIe 5.0PCIe 5.0PCIe 5.0PCIe 5.0
TDP170W170W105W105W
対応ソケットSocket AM5Socket AM5Socket AM5Socket AM5
16コア32スレッドCPU「Ryzen 9 7950X」
12コア24スレッドCPU「Ryzen 9 7900X」
8コア16スレッドCPU「Ryzen 7 7700X」
6コア12スレッドCPU「Ryzen 5 7600X」

 デスクトップ向けのRyzen 7000シリーズは、異なる機能を備えるダイを複数実装する「チップレットアーキテクチャ」を引き続き採用しており、1基でCPUコアを最大8コア備えるCCDと、IO機能を集約したIODを備えている。

 アーキテクチャがZen 4に刷新されたCCDは、従来のZen 3から最大で13%程度、クロック当たりの命令実行数(IPC)が向上したほか、AVX-512命令に対応した。

 IODも製造プロセスが6nmに微細化され、最新規格のPCIe 5.0(合計28レーン)やDDR5-5200メモリに対応した。また、RDNA 2ベースのGPUコアがIODに統合されたことにより、映像出力端子を備えるマザーボードと組み合わせることで、ビデオカードなしでの画面出力が可能となった。

新設計のCPUソケット「Socket AM5」。一部のSocket AM4対応CPUクーラーは流用可能

 Ryzen 7000シリーズが採用したCPUソケット「Socket AM5」は、ソケット側がピンを備えるLGA方式のソケットであり、PGA方式であった従来のSocket AM4とは電気的にも物理的にも互換性はない。

新ソケットの「Socket AM5」。ソケット側にピンを備えるLGA方式を採用している
従来のSocket AM4。Socket AM5とは物理的に全く異なるソケットだ。
Ryzen 9 7950XとRyzen 9 5950X。LGA方式に対応するためヒートスプレッダの形状が変更されている
CPUの裏面。LGA方式のSocket AM5に対応するRyzen 9 7950X(左)には、ピンではなく電極が実装されている

 CPUソケットとしてはSocket AM4との互換性がなくなったSocket AM5だが、CPUクーラーについては一定の互換性が保たれている。

 ソケットに標準搭載された樹脂マウンタの固定方法や、バックプレートのネジ穴位置はSocket AM4から変更されていないので、樹脂マウンタに引っ掛けるタイプや、標準バックプレートを利用して取り付けるタイプのSocket AM4対応CPUクーラーであれば、Socket AM5でも使用できる。

 使用できないのは、取り付けに独自のバックプレートを用いるタイプのCPUクーラーだ。これは、Socket AM5の標準バックプレートがLGAソケットのCPU固定金具のバックプレートを兼ねており、Socket AM4のようにバックプレートを取り外すことができないためだ。

樹脂マウンタの固定方法や、バックプレートのねじ穴位置はSocket AM4と同じ
Socket AM5の標準バックプレート。CPUを固定する金具のバックプレートも兼ねているため、基本的に取り外すことができない

消費電力の枷が緩められたRyzen 7000。ブースト動作は温度マージンを使い切る仕様に

 Socket AM5を導入したRyzen 7000シリーズでは、Ryzen 9シリーズのTDPが170Wに引き上げられたほか、電力リミット(PPT)や電流リミット(TDC/EDC)もSocket AM4対応CPUより引き上げられている。

【表2】Ryzen 7000シリーズのTDPと電力・電流リミット
CPURyzen 9 7950X
Ryzen 9 7900X
Ryzen 7 7700X
Ryzen 5 7600X
(参考) Ryzen 9 5950X
TDP170W105W105W
電力リミット (PPT)230W142W142W
電流リミット (TDC)160A110A95A
電力リミット (EDC)225A170A140A
温度リミット95℃95℃90℃

 PPTが230Wに達するTDP 170Wモデルはもちろん、PPTが142WのTDP 105Wモデルも電流リミットが緩和されたことで大電力を消費しやすくなっており、Ryzen 7000シリーズのブースト動作は、より大電力を消費して高クロックを実現できるようになっている。

 結果的に、Ryzen 7000シリーズは動作温度が温度リミット(TjMax)の95℃に到達しやすくなっているが、AMDのレビュアーズガイドによれば、95℃の温度リミットは「最大安全動作温度」であり、Ryzen 7000シリーズは常に95℃で動作し続けても破損や劣化のリスクがないように設計されているとしている。

 もっとも、これ自体はRyzen 7000シリーズに限った話ではなく、現代のCPUやGPUでサーマルスロットリングが作動する温度リミットとはそう言うものであり、電力リミットが緩めに設定されているIntelの第12世代Core(Alder Lake)や、冷却面での余裕が少ないノートPCのCPUなどでも、温度リミットがブースト動作の制限として機能することは珍しくない。

 AMDがレビュアーに対して、あえて温度リミットの定義について言及するということは、CPU温度を温度リミット未満に保つのが困難であるものと考えられるが、実際にどうなのかは温度測定の結果を確認してもらいたい。

テスト機材と比較環境

 今回テストするRyzen 7000シリーズは、AMDから借用したレビュアーズキットに含まれているものだ。

 レビュアーズキットにはCPUのほかに、AMD X690Eチップセット搭載マザーボード「ASRock X670E Taichi」、DDR5-6000動作の16GBメモリ2枚組「G.Skill F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」が同梱されていた。

AMD X690Eチップセット搭載マザーボード「ASRock X670E Taichi」
DDR5-6000動作の16GBメモリ2枚組「G.Skill F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」

 Ryzen 7000シリーズの比較用には、Ryzen 5000シリーズから最上位の「Ryzen 9 5950X」と大容量キャッシュモデルの「Ryzen 7 5800X3D」、Intelの第12世代Coreから「Core i9-12900K」と「Core i5-12600K」を用意した。

 各CPUの動作設定とそのほかの機材については以下の通り。メモリクロックについては各環境の定格最大クロックに設定している。

【表3】テスト機材1(Ryzen 7000シリーズ)
CPURyzen 9 7950XRyzen 9 7900XRyzen 7 7700XRyzen 5 7600X
コア数/スレッド数16C/32T12C/24T8C/16T6C/12T
L3キャッシュ64MB64MB32MB32MB
CPUパワーリミットPPT=230W、TDC=160A、EDC=225APPT=142W、TDC=110A、EDC=170A
CPU温度リミット95℃
マザーボードASRock X670E Taichi [UEFI=1.05.AS01]
メモリDDR5-5200 16GB×2 (2ch、30-38-38-96、1.35V)
【表4】テスト機材2(比較用CPU)
CPURyzen 9 5950XRyzen 7 5800X3DCore i9-12900KCore i5-12600K
コア数/スレッド数16C/32T8C/16T8P+8E/246P+4E/24
L3キャッシュ64MB96MB30MB20MB
CPUパワーリミットPPT=142W、TDC=95A、EDC=140APL1=PL2=241W、Tau=56秒PL1=PL2=150W、Tau=56秒
CPU温度リミット90℃100℃
マザーボードTUF GAMING X570-PRO WIFI II [UEFI=4403]ASUS ROG STRIX Z690-F GAMING WIFI [UEFI=2004]
メモリDDR4-3200 16GB×2 (2ch、22-22-22-52、1.2V)DDR5-4800 16GB×2 (2ch、40-39-39-76、1.1V)
【表5】テスト機材3(共通機材・条件)
CPUクーラーADATA XPG LEVANTE 360 ARGB (ファンスピード=100%)
ビデオカードAMD Radeon RX 6900 XT (リファレンスボード)
システム用SSDCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
アプリケーション用SSDCFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
電源Thermaltake Toughpower Grand RGB 1050W Platinum
GPUドライバAdrenalin 22.8.2 (31.0.12019.9007)
Resizable BAR有効
OSWindows 11 Pro 21H2 (build 22000.1042/VBS無効)
電源プランバランス
計測HWiNFO64 Pro v7.30、ラトックシステム RS-BTWATTCH2
室温約26℃

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマークテストの結果をみていこう。

 実施したベンチマークテストは、「Cinebench R23」、「Blender Benchmark」、「V-Ray Benchmark」、「やねうら王」、「HandBrake」、「TMPGEnc Video Mastering Works 7」、「PCMark 10」、「SiSoftware Sandra」、「3DMark」、「VRMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、「Forza Horizon 5」、「フォートナイト」、「Apex Legends」、「Microsoft Flight Simulator」。

Cinebench

 CPUの3DCGレンダリング性能を測定するCinebench R23では、Multi CoreとSingle Coreを実行した。

 全てのCPUコアを利用するMulti Coreでトップのスコアを獲得したのは、37,734を記録したRyzen 9 7950Xで、2番手は28,913のRyzen 9 7900X。Ryzen 9 7950XのスコアはCore i9-12900Kを約38%、Ryzen 9 5950Xを約51%も上回る圧倒的なものだ。

 Single CoreではRyzen 7000シリーズが上位のスコアを独占しており、Ryzen 5 7600XでもCore i9-12900Kのスコアを上回っている。Zen 4アーキテクチャと5GHzを超えるブースト動作によって、Ryzen 7000シリーズがシングルスレッド性能にも優れていることを示す結果であると言えよう。

【グラフ01】Cinebench R23 (R23.200)「Multi Core」
【グラフ02】Cinebench R23 (R23.200)「Single Core」

3DMark「CPU Profile」

 3DMarkの「CPU Profile」は、CPUスレッド数ごとのパフォーマンスを計測するテストだ。

 16スレッド以上では、Zen 4で強化されたCPUコア性能とコア数の多さでRyzen 9 7950XとRyzen 9 7900Xが比較用CPUをリードしている。

 スレッド数が物理コア数より少なくなる条件でのRyzen 7000シリーズは、Core i9-12900Kに匹敵するスコアを記録している。ブースト動作でCPUクロックが伸びやすいシングルスレッド以外でも、Ryzen 7000シリーズのコア当たりの性能の高さが発揮されることが確認できる結果だ。

【グラフ03】3DMark v2.22.7359「CPU Profile」(1/2)
【グラフ04】3DMark v2.22.7359「CPU Profile」(2/2)

Blender Benchmark

 Blender Benchmarkでは、Ryzen 9 7950XがCore i9-12900Kを52~56%、Ryzen 9 5950Xを40~56%上回る圧倒的なパフォーマンスでトップスコアを獲得しており、2番手はRyzen 9 7900Xだった。

 このようにマルチスレッド性能が問われるベンチマークテストだが、6コア12スレッドCPUであるRyzen 5 7600Xは、8コア16スレッドCPUのRyzen 7 5800X3Dを上回っている。

【グラフ05】Blender Benchmark 3.1.0 (Blender v3.3.0)

V-Ray Benchmark

 V-Ray Benchmarkでも、Ryzen 9 7950Xが29,289で他のCPUを圧倒しており、Ryzen 9 7900XがRyzen 9 5950XやCore i9-12900Kに20%前後の差をつけて2番手につけている。

【グラフ06】V-Ray Benchmark v5.02.00 「V-RAY (CPU)」

将棋ソフト「やねうら王」

 将棋ソフトの「やねうら王」では、NNUE型とKPPT型でベンチマークテストを実行した。なお、NNUE型ではAVX-512版とAVX-512 VNNI版が動作しなかったためテストを省略している。

 マルチスレッドテストではNNUE型とKPPT型の両方で、Ryzen 9 7950XとRyzen 9 7900Xがバージョンを問わずに1番手と2番手の結果を記録している。KPPT型のAVX-512版を含め、バージョンの違いによるRyzen 7000シリーズに速度の大きな変化はみられない。

【グラフ07】やねうら王 v7.50 「マルチスレッド(NNUE型)」
【グラフ08】やねうら王 v7.50 「マルチスレッド(KPPT型)」

 シングルスレッドテストでは、上位4番手までをRyzen 7000シリーズが独占している。結果としてはCinebench R23のSingle Coreに近いものだが、Ryzen 5 7600Xは5番手のCore i9-12900Kを1割近く上回っており、Cinebench R23よりも大きな差をつけている。

【グラフ09】やねうら王 v7.50 「シングルスレッド(NNUE型)」
【グラフ10】やねうら王 v7.50 「シングルスレッド(KPPT型)」

動画エンコードソフト「HandBrake」

 オープンソースの動画エンコードソフト「HandBrake」では、フルHD(1080p)と4K(2160p)の動画ソースをYouTube向けプリセットでエンコードするのに掛かった時間を測定した。

 最速を記録したのはRyzen 9 7950Xで、2番手はCore i9-12900Kを3条件中2条件で上回ったRyzen 9 7900Xだった。Ryzen 5 7600Xのエンコード速度はRyzen 7 5800Xを8~10%上回っており、ここでもコア数の差を覆すパフォーマンスを発揮している。

【グラフ11】HandBrake v1.5.1

動画エンコードソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 7」

 動画エンコードソフトのTMPGEnc Video Mastering Works 7では、フルHD(1080p)と4K(2160p)のソース動画をH.264形式とH.265形式に変換するのに掛かった時間を測定した。

 Ryzen 9 7950Xはここでもすべての条件で最速を記録している。2番手はRyzen 9 7900Xで、CPUコア数が効いてくる4K解像度への変換でもRyzen 9 5950XやCore i9-12900Kを退けている。

【グラフ12】TMPGEnc Video Mastering Works 7 (v7.0.25.28)「H.264形式へのエンコード」
【グラフ13】TMPGEnc Video Mastering Works 7 (v7.0.25.28)「H.265形式へのエンコード」

PCMark 10

 PCMark 10では、もっとも詳細なテストである「PCMark 10 Extended」を実行した。ただ、今回テストしたCPUのうち、Ryzen 7 7700XのみDigital Content Creationの一部テストが正常に動作せず、総合スコアとDigital Content Creationのスコアが取得できなかった。

 総合スコアでトップを獲得したのはRyzen 9 7950Xで、2番手はRyzen 9 7900Xだった。PCMark 10はシングルスレッド性能に優れたCPUが優れたスコアを記録する傾向のあるテストで、ややIntel有利という印象があったが、Ryzen 7000シリーズはRyzen 5 7600XでもCore i9-12900Kを上回っている。

【グラフ14】PCMark 10 Extended (v2.1.2563)

SiSoftware Sandra 「CPUベンチマーク」

 SiSoftware SandraのCPUテストから、「Arithmetic」、「Multi-Media」、「Image Processing」の結果を紹介する。

 CPUの演算性能を測定するArithmeticでは、Ryzen 9 7950Xが全ての条件でトップに立っており、2番手のRyzen 9 7900Xを25~32%上回っている。

 マルチメディア性能を測定するMulti-MediaでもトップはRyzen 9 7950Xで、2番手のRyzen 9 7900Xを25~35%上回り、Ryzen 9 5950Xを47~125%も上回っている。

 画像処理性能を計測するImage Processingは、ほかのテストと違ってコア数の多さが必ずしも有効なわけではないこともあり、一部のテストではCore i9-12900KやRyzen 9 7900Xがトップスコアを記録しているものの、Ryzen 9 7950Xは8項目中6項目でトップスコアを記録しており、画像処理のようなコア当たりの性能が問われる場面でも高いパフォーマンスを発揮できることを示した。

【グラフ15】SiSoftware Sandra v31.99 「Processor Arithmetic (プロセッサの性能)」
【グラフ16】SiSoftware Sandra v31.99 「Processor Multi-Media (マルチメディア処理)」(1/2)
【グラフ17】SiSoftware Sandra v31.99 「Processor Multi-Media (マルチメディア処理)」(2/2)
【グラフ18】SiSoftware Sandra v31.99 「Processor Image Processing (画像処理)」(1/2)
【グラフ19】SiSoftware Sandra v31.99 「Processor Image Processing (画像処理)」(2/2)

SiSoftware Sandra「メモリベンチマーク」

 SiSoftware Sandraで、メインメモリの帯域幅とレイテンシの計測を行なった。

 DDR5-5200動作のメモリを使用しているRyzen 7000シリーズのメモリ帯域幅は50GB/s前後となっており、メモリレイテンシは62~64ns程度だった。DDR4-3200メモリを採用していたRyzen 5000シリーズから、メモリ帯域幅が大きく向上していることが確認できる。

【グラフ20】SiSoftware Sandra v31.99 「Memory Bandwidth (メモリ帯域幅)」
【グラフ21】SiSoftware Sandra v31.99 「Cache & Memory Latency (メモリレイテンシ)」

SiSoftware Sandra「キャッシュベンチマーク」

 CPU内蔵キャッシュのレイテンシや帯域幅を測定した結果が以下のグラフだ。

 Ryzen 7000シリーズのキャッシュのレイテンシはRyzen 5000シリーズと大差ない一方、帯域幅については同じコア数のRyzen 5000シリーズより高速化していることが確認できる。

【グラフ22】SiSoftware Sandra v31.99 「Cache & Memory Latency (レイテンシ)」
【グラフ23】SiSoftware Sandra v31.99 「Cache & Memory Latency (クロック)」
【グラフ24】SiSoftware Sandra v31.99 「Cache Bandwidth」

3DMark

 3DMarkでは、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Wild Life」、「Port Royal」を実行した。

 DirectX 12テストのTime Spyでは、CPU Testでスコアを稼いだCore i9-12900Kが全体ベストのスコアを記録しており、Ryzen 7000シリーズでトップのRyzen 9 7950Xは全体2番手の結果だった。Graphics Socre自体は全てのCPUで大差のない結果になっているが、CPU Testが奮わないRyzen 5 7600Xは最下位に沈んでしまっている。

 Fire Strikeでは、Ryzen 9 7950XがCore i9-12900Kを総合スコアで約6%上回った。総合スコアに大きく影響するCombined ScoreでCore i9-12900Kを約23%も上回ったことが効いているようだ。

 VulkanテストのWild LifeとWild Life Extremeでも、GPU負荷が軽いため超高フレームレートとなってCPUへの負担が増えるWild Lifeではある程度CPUに違いによるスコア差が生じているが、GPU負荷が大きくなるWild Life Extremeでは各CPUがほぼ横並びとなっている。同様に、GPU負荷の大きいPort RoyalについてもCPUの違いはスコアに反映されていない。

【グラフ25】3DMark v2.22.7359「Time Spy」
【グラフ26】3DMark v2.22.7359「Fire Strike」
【グラフ27】3DMark v2.22.7359「Wild Life/Wild Life Extreme」
【グラフ28】3DMark v2.22.7359「Port Royal」

VRMark

 VRMarkでは、「Orange Room」、「Cyan Room」、「Blue Room」を実行した。

 もっともGPU負荷が高いBlue Roomでは、GPU性能自体がボトルネックとなるためCPUの性能差がスコアに反映されないのは不思議ではないのだが、GPU負荷が低くCPU性能が反映されると期待されるOrange Roomで、Ryzen 9 7950XとRyzen 9 7900XはRyzen 7 7700XやRyzen 7 7600Xに遅れをとっており、Ryzen 9 7950Xに関してはCyan Roomで最下位に沈んでいる。

 これらのRyzen 7000シリーズの上位モデルが奮わない結果はCPU性能を反映したものというより、ベンチマークテストとコア数の多いCPUの組み合わせによって生じた問題によるものであると考えるのが妥当だろう。実際、Cyan RoomではRyzen 9 7950Xが大きくスコアを落とすのと同じように、Ryzen 9 5950Xも明らかに低いスコアとなっている。

【グラフ29】VRMark v1.3.2020「スコア」
【グラフ30】VRMark v1.3.2020「平均フレームレート」

ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークでは、描画品質を「最高品質」にして、3種類の画面解像度でテストを実行した。

 GPU負荷の低いフルHDやWQHDで最高のスコアを記録したのは、96MBの大容量L3キャッシュを備えるRyzen 7 5800X3Dで、2番手はRyzen 9 7900Xだった。このベンチマークテストはキャッシュやメモリの速度がスコアに反映されやすいテストであり、CPUコア性能が大幅に向上したRyzen 7000シリーズであっても、Ryzen 7 5800X3Dを打倒することはできなかったようだ。

【グラフ31】ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク「スコア」
【グラフ32】ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク「平均フレームレート」

FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク

 FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、描画品質を「高品質」にして、3種類の画面解像度でテストを実行した。

 GPU負荷の高いベンチマークテストであるため、WQHD以上ではCPUを問わずスコアが横並びとなっているが、フルHDではRyzen 7 5800X3Dがトップスコアを記録しており、僅差でRyzen 9 7900Xがそれに続いている。

【グラフ33】FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク v1.3

Forza Horizon 5

 Forza Horizon 5では、描画品質を「エクストリーム」に設定したフルHD~4Kの画面解像度と、フルHD解像度で描画品質を「中」に引き下げた高fps設定で、ゲーム内ベンチマークモードを実行した。

 このテストでCPUの違いによる差が生じたのは描画品質を「中」に落とした高fps設定のみで、ここではRyzen 7000シリーズがRyzen 7 5800X3DやCore i9-12900Kを僅かに上回るパフォーマンスを発揮している。

【グラフ34】Forza Horizon 5 (v1.507.426.0)

フォートナイト

 フォートナイトでは、描画品質を「最高」に設定したフルHD~4Kの画面解像度と、フルHD解像度で描画品質を「中」に引き下げた高fps設定でフレームレートを計測した。テスト時のグラフィックスAPIはDirectX 12で、3D解像度は100%。

 WQHDや4KではCPUの差がフレームレートに反映されず、フレームレートが200fpsを少し超える程度になるフルHDではRyzen 7000シリーズが比較用CPUを僅かに上回るパフォーマンスを発揮した。高fps設定ではRyzen 7 7700Xが全体ベストの427.3fpsを記録し、以下Ryzen 5 7600X、Ryzen 9 7900Xの順で続いている。

【グラフ35】フォートナイト (v22.00)

エーペックスレジェンズ

 エーペックスレジェンズでは、描画品質を可能な限り高く設定して、フルHD~4Kの画面解像度でフレームレートを計測した。テスト時の上限フレームレートは300fps。

 ここではCPU性能差がほぼフレームレートに反映されていない。強いて言えばCore i9-12900Kが僅かに高い数値となっているが、いずれのCPUもエーペックスレジェンズでRadeon RX 6900 XTの性能を引き出すのに十分な性能を備えていると考えて良いだろう。

【グラフ36】エーペックスレジェンズ (v3.0.12.19)

モンスターハンターライズ:サンブレイク

 モンスターハンターライズ:サンブレイク では、描画品質を「高」にして、フルHD~4Kの画面解像度でフレームレートを計測した。

 4KではCPUの性能差があまりフレームレートに反映されていないが、WQHD以下ではCore i9-12900Kが頭1つ抜きんでたフレームレートを記録している。2番手はRyzen 9 7900Xで、3番手はCore i5-12600Kとなっている。

【グラフ37】モンスターハンターライズ:サンブレイク (v11.0.2.0)

Microsoft Flight Simulator

 Microsoft Flight Simulatorでは、描画設定を「ウルトラ」にしたフルHD~4Kの画面解像度と、フルHD解像度で描画品質を「ミドル」に引き下げた高fps設定でフレームレートを測定した。グラフィックスAPIは「DirectX 11」で、羽田空港から関西国際空港へのルートをエアバスA320neoでAIに飛行させ、離陸から3分間の平均フレームレートを計測している。

 CPUの違いによるフレームレート差がはっきりと表れているのはフルHDと高fps設定で、そこではRyzen 7 5800X3Dが全体ベストのフレームレートを記録している。ここではL3キャッシュ容量の大きいRyzen 9 7950XとRyzen 9 7900XがRyzen 7 5800X3Dに次ぐフレームレートを記録している。

【グラフ38】Microsoft Flight Simulator (v1.27.21.0)

システムの消費電力

 ワットチェッカーを使ってシステムの消費電力を測定し、アイドル時の最小消費電力と、ベンチマーク実行中の平均消費電力および最大消費電力をグラフ化した。

 アイドル時消費電力がもっとも低かったのは61.9WのCore i5-12600Kで、63.8WのCore i9-12900Kがそれに続いている。Ryzen 7000シリーズのアイドル時消費電力は84.8W~92.4Wとなっている。

 CPUベンチマークでもっとも高い平均消費電力を記録したのはRyzen 9 7950X(337.2~354.4W)で、全てのテストでCore i9-12900K(320.9~341.1W)を上回る電力を消費している。Ryzen 9 7900XはCore i9-12900Kよりやや低い299.2~333.2Wで3番目に高い平均消費電力を記録した。TDP105Wモデルの平均消費電力は、Ryzen 7 7700Xが235.3~249.8Wで、Ryzen 5 7600Xは209.8~223.8Wだった。

 3DMarkやゲームベンチマーク実行中の平均消費電力は、Ryzen 9 7950Xの401.4~532.5Wがもっとも高く、384.8~511.6WのRyzen 9 7900Xがそれに続く形となっている。

【グラフ39】CPUベンチマーク実行中とアイドル時のシステムの消費電力 (平均/最大)
【グラフ40】動画エンコード実行中のシステムの消費電力 (平均/最大)
【グラフ41】3DMark実行中のシステムの消費電力 (平均/最大)
【グラフ42】ゲームベンチマーク実行中のシステムの消費電力 (平均/最大)

 各CPUで計測したCinebench R23のMulti Coreスコアをシステムの平均消費電力で割った、1Wあたりのスコアをまとめたものが以下のグラフだ。

 Cinebench R23において1Wあたりのスコアがもっとも高かったのは、119.0を記録したRyzen 9 5950Xで、106.5のRyzen 9 7950Xが2番手、3番手は94.0のRyzen 9 7900Xだった。

【グラフ43】システムの平均消費電力1WあたりのCinebench R23 (Multi Core) スコア

CPU温度とモニタリングデータ(Cinebench R23)

 モニタリングソフトのHWiNFO64 Pro v7.30を使って取得した、Cinebench R23のMulti Coreテスト実行中のモニタリングデータから、CPU温度などをまとめてみた。

 今回のテストでは、CPUの冷却に360mmサイズのオールインワン水冷クーラー「ADATA XPG LEVANTE 360 ARGB」をファンスピード最大で利用しているのだが、Ryzen 9 7950XとRyzen 7 7700XはCinebench R23のMulti Coreを実行中、温度リミットの95℃に張り付いていた。

 これらのCPUは温度リミットに到達したことでサーマルスロットリングが作動することになるが、CPUクロックをみてみると、Ryzen 9 7950Xは平均5,025MHz、Ryzen 7 7700Xも5,099MHzと、いずれも5GHzを超えるかなり高いクロックでブースト動作を維持している。

 Ryzen 7000シリーズをはじめとする現代のCPUにおいて、これは「CPUを十分に冷却できていない状態」ではなく、「ブースト動作によって温度マージンを使い切っている状態」だ。より冷却性能の低いCPUクーラーを用いれば、CPUはさらにクロックを引き下げて温度リミットを維持しようとするが、ベースクロックを割り込む程のスロットリングが生じたり、温度リミットを超えて温度が上昇し続けたりしない限り、CPUの温度と発熱はコントロール下にあるものと考えて良いだろう。

【グラフ44】Cinebench R23「Multi Core」実行中のCPU温度 (平均/最大)
【グラフ45】Cinebench R23「Multi Core」実行中の消費電力 (平均/最大)
【グラフ46】Cinebench R23「Multi Core」実行中のCPUクロック (平均/最大)
【グラフ47】Ryzen 9 7950Xのモニタリングデータ
【グラフ48】Ryzen 9 7900Xのモニタリングデータ
【グラフ49】Ryzen 7 7700Xのモニタリングデータ
【グラフ50】Ryzen 5 7600Xのモニタリングデータ
【グラフ51】Ryzen 9 5950Xのモニタリングデータ
【グラフ52】Ryzen 7 5800X3Dのモニタリングデータ
【グラフ53】Core i9-12900Kのモニタリングデータ
【グラフ54】Core i5-12600Kのモニタリングデータ

CPU温度とモニタリングデータ(ファイナルファンタジーXIVベンチマーク)

 Cinebench R23と同じように、ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマークを「フルHD/最高品質」設定で実行した際のモニタリングデータをまとめてみた。

 Cinebench R23実行中は全て90℃以上だったRyzen 7000シリーズの平均CPU温度が、ここでは全て60℃以下となっている。ゲームベンチマークを実行中のCPU負荷はCinebench R23ほど高くないので当然と言えば当然の結果ではあるが、このように実行する処理によってCPUの発熱量は違ってくる。

 Ryzen 7000シリーズや第12世代Coreのように電力リミットの枷が緩められた現代のCPUでは、高負荷テストでサーマルスロットリングを起こさないことに固執せず、用途に応じて必要十分な冷却性能が得られることを重視してCPUクーラーを選択すべきだろう。

【グラフ55】ファイナルファンタジーXIVベンチマーク「フルHD/最高品質」実行中のCPU温度 (平均/最大)
【グラフ56】ファイナルファンタジーXIVベンチマーク「フルHD/最高品質」実行中の消費電力 (平均/最大)
【グラフ57】ファイナルファンタジーXIVベンチマーク「フルHD/最高品質」実行中のCPUクロック (平均/最大)
【グラフ58】Ryzen 9 7950Xのモニタリングデータ
【グラフ59】Ryzen 9 7900Xのモニタリングデータ
【グラフ60】Ryzen 7 7700Xのモニタリングデータ
【グラフ61】Ryzen 5 7600Xのモニタリングデータ
【グラフ62】Ryzen 9 5950Xのモニタリングデータ
【グラフ63】Ryzen 7 5800X3Dのモニタリングデータ
【グラフ64】Core i9-12900Kのモニタリングデータ
【グラフ65】Core i5-12600Kのモニタリングデータ

IODに統合されたGPU「Radeon Graphics」の性能をチェック

 最後に、Ryzen 7000シリーズのIODに統合されたRDNA 2ベースのGPUコア「Radeon Graphics」のパフォーマンスを確認してみよう。

 なお、今回テストしたRyzen 7000シリーズ4モデルが内蔵するGPUコアのスペックは同等なので、代表としてRyzen 9 7950Xで検証を行なった。比較対象はiGPUにUHD Graphics 770を搭載するCore i5-12600K。そのほかの機材は以下の通り。

【表6】内蔵GPUテスト機材
CPURyzen 9 7950XCore i5-12600K
コア数/スレッド数16C/32T6P+4E/24
内蔵GPURadeon GraphicsUHD Graphics 770
GPUドライバ31.0.12029.101631.0.101.3413
CPUパワーリミットPPT=230W、TDC=160A、EDC=225APL1=PL2=150W、Tau=56秒
メモリDDR5-5200 16GB×2 (2ch、30-38-38-96、1.35V)DDR5-4800 16GB×2 (2ch、40-39-39-76、1.1V)
CPUクーラーADATA XPG LEVANTE 360 ARGB (ファンスピード=100%)
システム用SSDCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
アプリケーション用SSDCFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
電源Thermaltake Toughpower Grand RGB 1050W Platinum
Resizable BAR非対応
OSWindows 11 Pro 21H2 (build 22000.1042/VBS無効)
電源プランバランス
室温約26℃

 Ryzen 7000シリーズでIODに統合されたGPUコアはRDNA 2ベースとは言え、かなり小規模なものであり、以下のテスト結果が示す通りGPUとしてのパフォーマンスは高くない。

 APUのようにゲームを遊んだりすることを期待できるようなGPU性能はないので、あくまで画面出力用として割り切って利用すべきだろう。

【グラフ66】3DMark v2.22.7359「Time Spy」
【グラフ67】3DMark v2.22.7359「Fire Strike」
【グラフ68】3DMark v2.22.7359「Wild Life/Wild Life Extreme」
【グラフ69】3DMark v2.22.7359「Port Royal」
【グラフ70】ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク「スコア」
【グラフ71】ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク「平均フレームレート」
【グラフ72】フォートナイト (v22.00)
【グラフ73】モンスターハンターライズ:サンブレイク (v11.0.2.0)

アグレッシブなブースト動作でよりパワフルになった新世代Ryzen

 アーキテクチャと製造プロセスを刷新したRyzen 7000シリーズは、Socket AM4時代のRyzenよりもパワフルなCPUへと進化を遂げた。

 電力リミットの枷を緩めたことで、よりアグレッシブになったブースト動作が実現する強力なマルチスレッド性能と、Intelの第12世代Coreと互角以上のシングルスレッド性能を兼ね備えたRyzen 7000シリーズは、パワフルなCPUを求めるゲーマーやクリエイターにとって注目すべき新CPUだ。

 新CPUソケットに移行したことで、マザーボードやDDR5メモリを新調する必要があるため、Ryzen 7000シリーズの導入コストはそれなりに掛かるだろうが、パワーユーザーならそれに見合うだけの価値を見いだすことができるだろう。