Hothotレビュー

ついに実用レベルのE Inkディスプレイが登場。書き仕事に魅力の13.3型「Paperlike HD-FT」

「Paperlike HD-FT」をノートPCと接続した状態。なお本製品はWindowsのほかMac OS、iOS、Androidなどもサポートするが、今回はWindows 10環境で試用している

 DASUNGの「Paperlike HD-FT」は、13.3型のE-Ink電子ペーパーを採用した、HDMI接続のモノクロディスプレイだ。液晶に比べて目が疲れにくいことから、PCのサブディスプレイとして、テキスト入力やコーディングに最適としている。

 E Inkを採用したディスプレイは過去にもいくつか存在するが、それらをひととおり試用してきた筆者に言わせると、今回の「Paperlike HD-FT」は、E Inkでは史上初となる「実用レベルの書き換え性能」を備えた製品だ。

 本製品は兄弟製品にあたる3つのモデルとともに、クラウドファンディングのIndiegogoで資金の調達に成功したのち、最上位に当たる本製品が、この7月から国内でも一般発売が開始された。今回は、国内代理店のSKTから借用した機材によるレビューをお届けする。

HDMI接続の13.3型ディスプレイ。アスペクト比は4:3

 まずはざっと製品の特徴を紹介しておこう。ディスプレイのサイズは13.3型。アスペクト比は4:3ということで、ノートPCに多いワイド比率に比べると、縦方向にかなり長い。ノートPCの横に並べるのであれば、同じ13.3型よりも、縦方向にも一定のサイズがある14型や15型のほうが適切だろう。解像度は2,200×1,650ドットと、E Inkとしてはかなり高い。

 PC本体との接続はHDMIで行なう。また給電はUSBで行なうため、製品にはこれらが二股になった専用ケーブルが付属する。将来的にはUSB Type-Cに置き換わっていく可能性もありそうだが、現状ではこちらの仕様のほうが、給電をPCからではなく外部から行なうこともできて便利だろう。

 VESAマウントを用いてディスプレイアームなどに取り付けられるほか、1本足のスタンドを背面に取り付けることで自立も可能だ。見た目はかなりチープだが、VESAマウントだけでは心もとないためにユーザーへの配慮としてスタンドを追加したと考えれば、そう悪いものではない。

 ただし強度は期待できるレベルではなく、うっかり荷重をかけて根元から折れるようなことがあると、ディスプレイ本体に致命的なダメージを与えかねない。できることなら別途スタンドを手配するか、あるいは同梱のねじを用いてVESAマウントに取り付けたほうが安心だ。

本体外観。以前紹介した「Paperlike HD」とは、ボタン数を除けばほぼ同じデザイン。アスペクト比は4:3
背面。スティック状のスタンドはねじ込んで装着する。ちなみに90度回転させての縦置きにも対応する
横から見たところ。スタンドは強度的にやや不安があるので、可能ならば別途スタンドを手配するか、あるいは同梱のねじを用いてVESAマウントに取り付けたほうがよい
付属の専用ケーブルは、本体側(向かって左)がMini HDMI、PC側(向かって右)がUSBとHDMIと二股
背面にはVESAマウント(75mm)用のネジ穴が設けられている
ベゼルと画面の間には段差がある
左側面には補助給電用らしきUSB Micro-Bコネクタがあるが、通常の使い方であれば利用機会はない
右側面にはMini HDMIがある。付属の専用ケーブルはここに接続する

つなぐだけで利用可能、ソフトウェアのインストールは不要

 利用にあたっては、ソフトウェアのインストールは必要ない。Windows 10の場合、PC側にケーブルで接続したのち、「ディスプレイ設定」で複製か拡張かを選び、解像度を選択するだけだ。一般的なHDMI接続のディスプレイと同じである。

 従来の「Paperlike HD」は、付属のソフトウェアをインストールする必要があり、設定も含めてかなり手間がかかっていただけに、それが不要になったのは大きな進歩だ。別のマシンにつなぎ替えてすぐ利用できるのもメリットだろう(テキスト入力が捗るE Inkの13.3型ディスプレイ「Paperlike HD」を使ってみた参照)。

PC側はHDMI/USB、本製品側はMini HDMIで接続する。USBは給電のほか後述のタッチ信号の伝送に使用する
本製品はアスペクト比が4:3、かつ下部のベゼルに高さがあるため、ノートPCと並べたときに高さがそろいにくい。ちなみに画面の実サイズは実測で高さ20.3mm、幅27mmとほぼA4大だ

 さて、従来モデルに当たる「Paperlike HD」との大きな違いとして挙げられるのが、前面ライト機能が追加されたことだ。本体左下にあるボタンを押すことで、2色の前面ライトを切り替えられる。これまでと異なり、暗所で使えるようになったのは大きな強みだ。

 またもう1つ、WindowおよびLinuxのみとなるが、静電容量方式のタッチ操作にも対応している。ちなみに本製品は「Paperlike HD-F」というタッチ非対応モデルも存在するが、こちらは現時点で国内での取り扱いが発表されておらず、購入する場合は必ずこちらのモデルということになる。

通常表示、前面ライト(Warm)、前面ライト(White)を切り替えたところ。明るさの調整は画面左下にある照明ボタンと上下キーの組み合わせで行なう

画質は本体ボタンで調整。作業を中断せず直感的に操作可能

 本製品は前述のように、ソフトウェアのインストールなしで利用できる。そのため画質の調整は、すべて本体画面左下にある3つ(+上下)のボタン群を用いて行なう。

画面左下のボタン。C(Clear)は残像のクリアで、上下の±は濃度の調整に使う。M(Mode)はモード切替、照明マークは前面ライトの切替にそれぞれ使う。右端は電源ボタン

 順に見ていこう。左から2番目の「M」は表示モードの切り替えで、繰り返し押すことで、「M1」、「M2」、「M3」の各モードがループで切り替わる。M1は2値、M2は16階調、M3はグレースケールを表している(ように見えるが、取説などでは説明がない)。難しいことを考えず、繰り返しポチポチ押しながら見やすい表示を選ぶだけなのでわかりやすい。

M1(2値)、M2(16階調)、M3(グレースケール)を切り替えたところ。画面の中央にモード名が表示されている

 一番左にある「C」ボタンでは、E Inkにつきものの画面のリフレッシュを行なうためのボタン。その上下のボタンは、濃度の調整(9段階)に使用する。前述のモードを切り替えたあと、コンテンツに合わせて画面の濃さを調整する、というのが一般的な流れになるだろう。

画面の濃度は上下キーを使って9段階で調整できる。中間調にあたる部分が大きく変化する

 本製品の利用にあたっては、この2つ(モードおよび濃度)に加えて、前面ライトの有無および種類を切り替えつつ、用途に応じて見やすいモードを探すことになる。また動作速度に影響を与えるためあまり推奨されていないが、これ以外に黒の濃さを調整するモードも用意されている。

 これらはいずれも本体のボタンで調整できるため、従来のように、テキスト入力などの作業を中断してPC側のソフトウェアを開き、調整を行なうといったわずらわしい操作をしなくて済む。これだけでもかなりの進歩だ。

 ちなみに「M」ボタンで表示モードを切り替えると、画面中央に「M1」、「M2」、「M3」という識別のためのアイコンが表示されるのだが、これらはそのまま残像が残ってしまうので、モードの切り替えを終えたあとは、Cボタンを押してリフレッシュする操作が事実上必須だ。

本体のボタンを使い、最初に前面ライトを、続いて濃度を、最後にモードを調整している様子。いずれも本体のボタンだけで変更できるので手間はかからない。反映も高速で待たされることはない

従来とは一線を画すレスポンス。テキスト入力もストレスフリー

 従来モデルとほぼそっくりの外観を持つ本製品だが、最大のポイントは、なんといってもレスポンスが高速化されていることだ。従来のE Inkディスプレイは、キーボードをタイプしてから画面に反映されるまでにわずかな間があるほか、マウスポインタがカクカクと動くため、いったん見失うと見つけるのに一苦労だった。

 しかし本製品は「DASUNG Turbo 2019」なる高速リフレッシュ技術の搭載により、テキストの入力時もE Inkの書き換わりを待つ必要はない上、マウスのポインタもなめらかに動くため、一時的に見失なっても軽く動かせばすぐに見つかる。そのためストレスもなく、快適なテキスト入力が可能だ。

実際にテキスト入力を行なっている様子(見やすいようにフォントサイズを18に上げている)。漢字変換の候補が表示されるスピードを見ても、従来のE Inkでのディスプレイとは明らかに一線を画している

 もちろん、いくらレスポンスが高速だからといって動画をなめらかに再生できるレベルではないが、従来のE Inkディスプレイの課題だったブラウザの上下スクロールも、従来のモデルのようにホイールを回してからワンテンポ遅れて画面がズルッと移動するといったことはなく、きちんと追従する。詳しくは動画をご覧いただきたい。

マウスのホイールを使ってブラウザの上下スクロールを行なっている様子。ホイールの回転にきちんと追従できていることがわかる。むしろこちらのほうが、従来モデルとの違いとしてわかりやすい

 ただしタッチパネルに関しては、実際に使ったかぎり、あまり実用性は高いとは感じられなかった。ウィンドウ全体をドラッグして速いスピードで動かすと描画が追いつかないのは、現実にはあまりない極端な操作ゆえ差し引くとしても、せまいエリアを的確にタッチするのも得意ではないようだ。

 今回はWindows 10環境でしか試していないが、もう少し大雑把な動き、たとえばブラウザの画面を開いて上下スクロールするくらいが、用途としては適切だろう。タッチでの利用を想定している人は、やや差し引いて考えるくらいのほうがよさそうだ。

タッチ操作でウィンドウをドラッグしたのち、全画面化してスクロールを行なう様子。ウィンドウのドラッグはまったく追従できていないが、上下スクロールはいたって快適だ

実用レベルで使えるE Inkディスプレイ。タッチなしモデルも欲しい

 以上ざっと使ってみたが、ようやくというか、ついにというか、実用レベルで使えるE Inkのディスプレイが登場したことは素直に喜ばしい。本製品上でしばらく原稿執筆を行なってみたが、これまでのように、もっさり感に耐えかねて途中で液晶に戻したくなることもない。それゆえ集中力を切らすことなく、延々と書き物を続けられるのは大きな利点だ。

 また、ソフトウェアのインストールが不要になり、本体のボタンで調整が完結するようになったことは、実際に使ったかぎりでは、想像以上のプラスだ。以前のソフトウェアは独自の用語も多かったため、どこを操作すればどこに反映されるのか、覚えるだけで一苦労だったが、今回はボタンを繰り返し押していればそれなりに使えてしまう。この安心感は非常に大きい。

理想的なテキスト入力環境を構築できる。ノートPCでマルチディスプレイ環境を構築し、フルカラーで表示したいウィンドウはノートPC側に任せるというのが王道の組み合わせだろう

 価格に関しては税込で15万円オーバー(Amazonでは本稿執筆時点で161,784円)と、液晶ディスプレイと比較するのはさすがに酷だが、E Inkは部材自体が高価なことに加えて、今回の製品はタッチパネルやバックライトなど、機能自体がてんこ盛りである。実際に使った印象でも、間違っても10万円を下回る製品ではないなと直感的に感じられる。

 そもそも本製品は、個人ユーザーであっても多少奮発すれば入手が可能なところまで値段が下がっているだけで、本来は文教用途を想定した製品だろう。個人ユーザーが入手するにあたっては、確かに初期コストはかかるが、毎日ガンガン使って償却していく製品だと考えると、この価格も違和感はない。

 販路の関係上、試用できる機会があればぜひ試してみてほしい……と気軽に言えないのが残念なところだが、テキスト入力の機会が多いユーザーにとっては、覚悟を決めて買う価値のある製品だ。個人的には、本製品の下位モデルであるタッチ非対応モデル「Paperlike HD-F」の国内での取扱も期待したいところだ。