山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Windows 11の新機能、その威力は絶大!?Windows 11×Android向け「Kindle」アプリで電子書籍を試す

仮想化の恩恵とはいえ、Windows 11マシン上でAndroidアプリがそのまま使えてしまうのは革命的だ

 AndroidアプリがWindows上で動作する、Windows 11の新機能「Windows Subsystem for Android(Android用Windowsサブシステム)」が、国内のInsider Preview版でも利用可能になった。WindowsにはないさまざまなAndroidアプリを、Windowsアプリと変わらない操作性で利用できるメリットは大きい。

 ここですぐに思いついたのは、Android向けの電子書籍アプリを、Windows上で使えるのではないか、ということだ。Windowsは伝統的に電子書籍ビューアアプリのラインナップが貧弱で、あっても機能面ではAndroidやiOS向けのビューアアプリに劣っていたり、操作性もやや独特で使いにくさを感じることが多い。

 しかし今回のこの新機能を利用すれば、Android向けの電子書籍アプリがそのままWindows上で、同じ使い勝手で利用できる。Amazonアプリストアで提供されているアプリに限定されるため、ラインナップは限定される(特にストア系は実質「Kindle」オンリーだ)が、それでも興味を抱く人は多いはずだ。

 今回それらを試してみたので、レビューをお届けする。

まずは「Amazonアプリストア」アプリを、次いで「Kindle」アプリを導入

 Windows 11環境にAndroidアプリを導入するにあたって、最初に「Amazonアプリストア」のアプリをインストールする必要がある。正確には、この時点で仮想化が有効になっている必要があるのだが、デフォルトで有効になっている場合も多いので、ここでは有効になっている前提で話を進める(無効になっている場合の設定手順は後述)。

今回試用したのはタッチ操作に対応した、レノボの「Yoga Slim 770i Carbon」。Core i7-1260P、メモリ16GB、Windows 11 Homeで試用している

 手順としては、まずはMicrosoftストアにアクセスし「Amazonアプリストア」を検索。インストールを実行したのち、Amazonのアカウントを使ってログイン。その上で任意のアプリ、今回で言えばKindleアプリをインストールすれば、Windows 11上で起動しているアプリの1つとしてKindleが表示されるという流れだ。

まずはMicrosoftストアで「Amazonアプリストア」を検索。この画面が正常表示されればインストールは問題なく行なえる(はず)
「インストール」をクリックするとセットアップ画面へと移行し、ダウンロードが開始される
完了。ここでいったん再起動する
再起動すると「Windows Subsystem for Android(Android用Windowsサブシステム)」が起動する。PCのスペックが低いと時間がかかる場合も
Amazonアプリストアのトップページが表示された。Amazonアカウントでサインインする
無事サインイン完了。上部の検索ウインドウから「Kindle」を検索
Kindleアプリが見つかったらインストールを実行する
起動するとおなじみの画面が表示される

 Kindleアプリは、Windows 11向けのアプリを使っているのと同じ感覚で利用できる。スタートメニューにもしっかり表示されるし、ピン止めも可能だ。

AndroidアプリゆえAndroidタブレットなどでおなじみの画面が表示される。ストアについても利用可能だ
ライブラリ。読みたい本をタップしてダウンロードする
テキスト本も問題なく表示される。初回のみフォントのダウンロードが行われる挙動は、Androidアプリではおなじみだ
Windows向けのアプリと同様、スタートメニューに表示される
ピン留めして呼び出しやすくすることも可能だ

使い勝手はAndroidのKindleアプリそのもの(当たり前)

 実際の使い勝手についてだが、Android版のKindleアプリそのものだ。画面をクリックしてのページめくりはもちろん、目次などを経由しての移動、フォントサイズやレイアウトの変更、マーカー機能のほか、登場人物の登場シーンを検索するX-RAY機能など、Android版のKindleアプリに搭載されている機能がそのまま利用できる。

 また「Android用Windowsサブシステム設定」でオプションを有効にしておくことで、矢印キーを使ってのスライドなども行なえる。今回は試していないが、ゲームパッドとの連携にも対応しているようだ。何らかの大きな制限があってもおかしくないと予想していたので、いい意味で裏切られた印象だ。

タッチ対応PCであれば、スタートメニューのKindleアイコンをタップして起動できる
テキスト本の表示に対応するのは、Kindle Cloud Readerと比べた場合の大きな利点だ
ページめくりはタップおよびスワイプに対応。マウス操作であればクリックでもめくれる
コミックも問題なく表示できる。タブレットに比べ大画面での見開き表示が可能だ
こちらも同じくタップやスワイプ、クリックでのページめくりが行なえる
画面端をまたぐようにスワイプすると、ページがめくられずにWindowsのウィジェットボードが表示されてしまうので要注意
全画面表示はもちろん、通常のウィンドウと同じくフローティング表示も可能。場所は自由に移動できる
「Android用Windowsサブシステム設定」。動作が遅い時はここでリソースの配分や利用GPUを調整するという手がある
矢印キーを使っての操作など、いくつかのオプションが用意されている

 ちなみにWindows向けの既存の読書ビューアといえば、縦書きのフォントに違和感がある場合も少なくなかったが、今回使用しているKindleアプリはAndroidアプリそのものなので、問題なく表示が行なえる。Kindleアプリを最初にインストールした時に行なわれるフォントのダウンロードも変わらず行なわれるなど、表示できるようになるまでのフローも同じだ。

 またGoogle Play版のKindleアプリは今春からアプリ内でのコンテンツ購入ができなくなっているのに対して、このAmazonアプリストア版はストアを経由して本を購入したり、サンプルを読み終えたあとにそのまま本を購入することもできるので、利便性も抜群だ。

Androidアプリそのものなので機能自体は同じ。これは目次表示
ストア機能も使えるので、販売ページにジャンプしたり、続巻を購入するのも容易だ
フォントおよびサイズの変更、マージンや間隔の変更、テーマの選択と保存なども問題なく行なえる
進捗表示やポピュラーハイライト、アニメーションの有効無効も切替可能。音量ボタンでのページめくりオプションは表示されない
移動関連のメニューや、X-RAYの利用なども問題なさそうだ
テキストコンテンツではマーカー機能、辞書での意味検索なども行なえる

Androidアプリを問題なく動作させるために必要なこと

 と、使い勝手は満点といっていいレベルなのだが、ここまで見てきたプロセスは、あらゆるWindows 11マシンで通用するわけではなく、ハード的な制限がある。現実的には、まずは前述の手順でぶっつけ本番で試してみてうまくいけばラッキー、うまく行かなければ原因を探して1つ1つ潰していくことになる。

 まず、Windows 11上でAndroidアプリを動作させる「Windows Subsystem for Android(Android用Windowsサブシステム)」を利用するには、Hyper-Vが問題なく動作する必要がある。もっと細かく言うと、第2レベルのSLAT(Second Level Address Transaction)対応プロセッサをサポートしていなくてはならない。現実的にはAtom系のPCはNGで、Core系のCPUを搭載したPCが必須となる。

 また仮想環境を動かすので、スペックがあまり低いと、起動後の操作はともかく、アプリの起動まで長時間待たされたりと、快適さはグンと下がってしまう。それゆえ、手元に余っていてWindows 11がギリギリ動くロースペックなPCで試すと、満足の行く結果が得られない可能性が高い。

 また製品によっては、BIOSもしくはUEFI上で、仮想化をオンにしてやらなくてはいけない場合もある。例えば今回試したPCのうち、レノボ「Yoga Slim 770i Carbon」は設定不要でAmazonアプリストアのインストールが行なえたが、「ThinkPad X1 Carbon Gen9」は、UEFIで「Intel Virtualization Technology」を有効にすることで初めて動作した。

 ちなみにHyper-Vはコントロールパネル経由で機能の有効化/無効化が行なえるが、今回Amazonアプリストアのインストールを終え、かつKindleアプリが動作することを確認したあとでHyper-Vの画面を開いても、特に有効になっていなかった。このあたり、現状では少々よくわからないところがある。「まずぶっつけ本番で試してうまくいけばラッキー」と書いたのはそういう意味だ。

MicrosoftストアでAmazonストアアプリを表示した時、こうした画面が表示されるようであれば、仮想化が無効になっているので、BIOSもしくはUEFIメニューで有効化してやる必要がある
ちなみに「ThinkPad X1 Carbon Gen9」の場合は再起動時にF1キーを押すことでUEFIメニューが表示される。これら操作方法はPCのメーカーおよび機種によって異なる
「Security」→「Virturalization」で「Intel Virtualization Technology」を有効にする。その上下の項目も有効にするよう指示されている場合もあるが、筆者環境ではこの項目のみで動作した
コントロールパネルで機能の有効化が行なえるHyper-Vだが、今回の環境では無効のままでも問題なく動作していた
Kindleアプリのインストールが終わったあとに前述の「Intel Virtualization Technology」をオフにすると、このように起動できないと怒られる

 またこれら仮想環境うんぬんの技術的な話とは別に、読書端末としてふさわしいデバイスなのか、という問題もある。例えば筆者が所有するThinkPad X1 Carbon(2019)だと、画面サイズ的には14型と十分ながらも、至って一般的なノートPCであるため、手で持って読書に使うにはふさわしくない。せめてキーボード部分を折り返して持てればよいのだが、それもない。

 さらに画面がタッチに対応していない場合、マウスクリックでページをめくらなくてはいけなくなる。アプリが動作するかしないかに加えて、こうしたハードウェアの向き不向きは少なからず存在するので、試用後も本格的に使うのならば、こうした点を考慮してPCを選ぶ必要がある。

大画面ディスプレイに接続しても読書も。今後有望な存在

 以上のように、適したデバイスさえ見つけられれば、実に快適に読書を行なえる。今Androidで12型以上の大画面で電子書籍を読むとなると、サムスンの「Galaxy Tab S8 Ultra」など限られたデバイスしかなく、価格も10万円を超えるケースがほとんどだが、今回の機能を使えば、手持ちのWindows 11マシンをそのまま読書に利用できる。

 これまでKindleで購入した電子書籍をWindows上で読む場合、Kindle for PCやKindle Cloud Readerを使うのが一般的だったが、操作性はかなり独特で、さらに後者はテキスト本に非対応という問題があった。それらが解消され、操作性が共通化されるだけでも、Androidアプリがそのまま使える「Windows Subsystem for Android」の価値はある。

 また外付の大画面ディスプレイを併用すれば、雑誌を見開きで原寸大表示することも容易に行なえるだろう。今後の読書スタイルの1つとして、有望な存在と言えそうだ。

Windows向けのKindleビューアソフト「Kindle Cloud Reader」はテキスト本の表示に対応しないので、今回紹介した方法はテキスト本を読むための手段として有効だ