PentiumⅢは、「P6マイクロアーキテクチャ」と呼ばれるアーキテクチャにもとづいたCPUであるが、P6マイクロアーキテクチャを初めて採用したCPU、Pentium
Proと比べると、さまざまな点で改良が施されている。また、Pentium Proがクロック周波数200MHzの製品までであったことを考えると、1GHz動作を達成したPentiumⅢは、動作周波数が実に5倍に向上したことになる。そこで、まずはPentiumⅢアーキテクチャの特徴を解説することにしたい。
●Streaming SIMDなど新機能を盛り込んだPentiumⅢ
PentiumⅢは、コアの違いによって、コードネームKatmaiと呼ばれる初期型と、コードネームCoppermineと呼ばれる後期型の二つに大別できる。PentiumⅢはPentiumⅡの後継として登場したCPUであるわけだが、両者の最大の相違点は、PentiumⅢが「Streaming
SIMD拡張命令(SSE命令)」と呼ばれる拡張命令をサポートしたことである。また、CPUに固有のIDを持たせる「プロセッサシリアルナンバー」の採用もPentiumⅢの特徴だ。こちらは実際にはほとんど利用されていない。
SSE命令は、MMX Pentium以降のCPUがサポートしているMMX命令と同様にSIMD(Single Instruction Multiple
Data)型の命令であり、複数のデータに対して一度に同じ処理をまとめて実行できることが特徴である。MMX命令は整数演算しかサポートしていなかったが、SSE命令では浮動小数点演算を一つの命令でまとめて処理できる。SSE命令を利用することで、浮動小数点演算を多用する3Dグラフィックスのジオメトリ(座標)演算やMPEG2エンコード/デコードなどの処理を大幅に高速化することが可能になる。
99年3月に登場した初期型PentiumⅢ(Katmaiコア)は、0.25ミクロンプロセスルールで製造され、512KBのL2キャッシュを外付けSRAMとして実装していた。外付けL2キャッシュは、CPUコアの半分の速度で動作していたが、コアの性能をフルに発揮するためには、L2キャッシュがコアと等速で動作するほうが望ましい。また、当初450/500MHz動作で登場したPentiumⅢだが、動作周波数が向上していくにつれて、高速で動作するSRAMの入手が困難になってきた。
●L2キャッシュをオンダイにする ことで性能を向上させたCoppermine
そこで、Intelが99年10月に投入したのが、コードネームCoppermineで知られる新PentiumⅢである。Coppermineでは、L2キャッシュをCPUダイ上に集積し、L2キャッシュへのアクセス性能を大幅に高めることで、性能向上とコストダウンを同時に実現している。CoppermineのL2キャッシュは、ATC(Advanced
Transfer Cache)と呼ばれており、Katmaiの外付けL2キャッシュに比べて、いくつかの改良が加えられている。
前述したようにKatmaiのL2キャッシュは、CPUコアの半分の速度で動作していたのに対し、CoppermineのL2キャッシュは、CPUコアと同じ速度で動作するようになっている(フルスピードキャッシュ)。また、L2キャッシュへのアクセス幅がKatmaiでは64bit幅だったのに対し、Coppermineでは256bit幅に拡張されているのだ。そのほか、キャッシュのヒット率を高めるために、L2キャッシュの構成が4ウェイセット・アソシエイティブから8ウェイセット・アソシエイティブに変更された。L2キャッシュまわりだけでなく、CPUとプロセッサバスの間にあるデータバッファも強化されている。
これらの改良によって、L2キャッシュの容量は256KBとKatmaiの半分になったものの、同じ動作周波数でも最大25%の性能アップを実現していると言う。Coppermineでは、総トランジスタ数が2,810万個とKatmaiの950万個に比べて約3倍に増えたにもかかわらず、製造プロセスルールが0.18ミクロンプロセスにシュリンクされたことで、ダイサイズは逆にKatmaiの128
mm2から、106mm2へと小さくなっている。ダイサイズが小さくなれば、1枚のシリコンウエハーから多くのダイが採れるので、製造コストを下げることができ、それは当然製品価格にも反映される。
また、Coppermineでは、外付けSRAMが不要となったことで、新パッケージであるFC-PGAでの提供が可能になったことも重要なポイントである。FC-PGAは、CPUダイをセラミックス基板に直接載せた構造になっており、従来使われてきたカートリッジ状のSECC2に比べて、パッケージサイズをずっと小さくすることができ、コスト的にも有利になっている。まさに究極のPentiumⅢと呼ぶにふさわしい製品である。
●最新バージョンのコアを採用するFC-PGA版PentiumⅢ 1.0BGHz
Coppermineコアを採用したPentiumⅢは、最高動作周波数733MHzで登場したが、順次動作周波数を向上させた製品が投入され、2000年3月にはついに1GHzで動作する製品が発表された。このプロセッサはIntel製CPUの動作周波数が、ギガヘルツ時代へと突入した記念すべきものと言えるだろう。
ただし、2000年3月の時点では、1GHz動作のPentiumⅢは限定的な出荷であり、パッケージもSECC2でしか提供されなかった。価格的にも非常に高価(市場価格は140,000円前後)であったため、1GHz動作のPentiumⅢを搭載したマシンは、ごく一部のベンダーからしか登場しなかった。当時は、1GHz動作のPentiumⅢに対応したIntel製チップセットは事実上i820しかなかったことで、システム全体の価格はさらに高くなってしまった(高価なDRDRAMを利用する必要があるため)。1GHz動作のPentiumⅢが登場するまで、PentiumⅢの最高動作周波数は800MHzであり、その間を埋める製品を同時に発表しなかったことから考えても、AMDとの競争のために、やや発表を急いだという感は否めない。
しかし、8月頃から、FC-PGA版PentiumⅢ 1.0BGHzがパーツショップの店頭で販売されるようになった。FC-PGA版PentiumⅢ
1.0BGHzは、従来のFC-PGA版PentiumⅢよりも、ダイサイズが小さくなっている。コアのバージョンを示すCPU IDが、0x686(従来のCoppermineコアは0x681または0x683)になっており、通称C0ステッピングと呼ばれる最新バージョンのコアが採用されている。ステッピングが新しくなるたびに、クリティカルパスと呼ばれる、動作周波数の向上の妨げとなる部分が取り除かれていく。
FC-PGA版PentiumⅢ 1.0BGHzは最新コアを採用することで歩留まりを向上させ、さらなるコストダウンを実現している。FC-PGA版PentiumⅢ
1.0BGHzが潤沢に出回るようになり、価格も大幅に下がったことで(9月15日の時点で市場価格は80,000~90,000円)、PentiumⅢ
1.0BGHzを搭載したコストパフォーマンスの高いデスクトップPCが多数登場するようになった。自作派なら、価格の下がったFC-PGA版PentiumⅢ
1.0BGHzを利用して、最速マシンを組み立てるのもおもしろいだろう。
当初の発表から約半年が経過したが、PentiumⅢ 1.0BGHzは、依然として現時点で最速CPUの一つであることには違いない(PentiumⅢ
1.13GHzは一旦発表されたものの、発熱面で問題があるとしてリコールされた)。ライバル製品であるAMDのAthlonでは、すでに1.1GHz動作品が登場しているので、CPU性能だけを考えれば、PentiumⅢ
1.0BGHzが最速と言えない部分もあるが、チップセットまで含めたトータルシステムとしての安定性/互換性という点では、やはり本家IntelのPentiumⅢのほうが上である。
●i815/815Eの登場で安価なシステムの構築が可能となった
チップセットに関しては、市場では高価なDRDRAMより、安価なPC133 SDRAMをサポートする製品が望まれていたのだが、i815/815Eが登場するまでは、Intelのチップセットにはラインナップされていなかった。そのため、いち早くPC133
SDRAMに対応し、さらにUltra ATA/66までをもサポートしたVIAのチップセットApollo Pro 133Aの台頭を許してしまった。しかしi815/815EではPC133に対応し、i815Eでは、I/O
Controller HUB 82801BA(ICH2)により、Ultra ATA/100までもサポート。トータルで安価かつ高性能なマシンの作成には最適なチップセットとなっている。また、i815/815Eはビデオ機能を内蔵しているが、これを切り離しビデオカード(AGP
4Xまでサポート)を装着できる。i810/810Eではビデオ機能を切り離すことができず、チップセット内蔵のビデオ機能を使用するしかなかったので、PCを柔軟に構成できるという点でありがたい。
新チップセットが登場したこともあり、PentiumⅢ 1.0BGHz搭載マシンの購入を考えているのなら、今が絶好の機会といえる。PentiumⅢの後継としては、Pentium
4の登場がアナウンスされているが、新CPUは登場直後は価格がかなり高めとなるのがこれまでの流れなので、当初は非常に高価なシステムになると予想される。性能的にも1GHz動作のPentiumⅢが色褪せることはしばらくないだろう。マシンを新たに購入しようと思っているのなら、1GHz動作のPentiumⅢ搭載マシンを検討してみてはいかがだろうか。(石井英男)
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L2キャッシュがオンダイとなったCoppermineコア。L2キャッシュの占める割合が大きい

Intelとしては初めてPC133 SDRAMをサポートとしたチップセットであるi815シリーズ

FC-PGA版の登場でPentiumⅢ 1.0BGHzの市場価格下がり、以前より入手しやすくなった
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