【特別企画】

この年末のためのPC用SDRAM購入基礎知識



●“相性”を避ける

 CPUの高速化とともに、RAMも進化しており、現状ではSDRAMがもっとも高速なRAMとして選択されている。

 しかし、SDRAMについては、まだ基本的な知識が普及しておらず、動作しない例も多々見られる。それらの原因は“相性”で済まされてしまうことが多いが、実際は理由が判明しており、購入時にいくつかの点をチェックすることで防げるものも多い。

 この記事では、SDRAMを購入するために必要な知識を簡単に述べ、動かないという事態をすこしでも減らすことを目的としている。また、状況は変化しつつあるので、この年末という時点の情報であることをご理解いただきたい。状況の変化に応じて改訂や続報も検討したい。


基礎知識編

●SDRAMとはなにか

 SDRAMはシンクロナス(synchronous=同期)の名のとおり、システムのベースクロックと同期して動作する。SDRAMでは、すべてのメモリが、同一のクロックにシンクロして動作する。

 従来のRAMではCPUのクロックとメモリアクセスは非同期だったので、これが一番の相違点だ。したがって、従来のFPやEDO RAMのようにアクセスタイミングをBIOSで調整して速いメモリと遅いメモリを混在して使うことはできない。


●SDRAMのパッケージ

 現在PCのメインメモリとして使用されているSDRAMはほとんどが168ピンのDIMMのパッケージを使用している。本来、DIMMパッケージの規格は別途定められており、168ピンDIMMだからといってSDRAMの属性ではないが、簡単に触れる。

 168ピンDIMMでは、外部からのアクセスのバス幅が64ビットで、Pentium CPUのメモリバス幅と同一だ。したがって、増設の際はパッケージ1つ単位で行なうことができる。

 従来の72ピンSIMMパッケージが32ビット幅しかなく、Pentiumベースのシステムでは2個単位での増設が必要だったのに比べると取り扱いが簡単になった。


●SDRAMのメリット

 メインメモリをSDRAMにすることによって、CPUとメインメモリの間の待ち時間は短縮され、プログラムの動作速度は向上する。

 しかし、SDRAMベースのシステムと従来のEDO RAMベースのシステムとを並べて操作してみても、通常のアプリケーションなどでは、体感速度に大差がないことはよく経験する。これはシステムの2次キャッシュメモリによって、メモリの速度の差が吸収されてしまうためだ。

 しかし、キャッシュ容量を超える大容量のマルチメディアファイルなどの再生など、より高速なデータ転送などが主体となればSDRAMの優位性が表われる。


選択編

●2クロックと4クロック

 最初にSDRAMの互換性が問題となったときに話題になったのがこの問題だ。当初規定されたクロックラインが2本のものが2クロック、すこしあとで改訂された4本のものが「4クロック」。クロックのラインが増やされたのは安定性を増すためで、現在市販されている製品の大半は4クロックとなっている。

 2クロック用のPCに4クロックのDIMMは使えない、逆も同様。国内で販売された2クロックの機種は、ほとんどGateway 2000の初期のSDRAM搭載モデルに限られている。以前はメルコのMTCブランドで出ていたが、すでに製造中止となっており、現状では2クロックのSDRAM DIMMを入手することは困難だ。

 ガイド1:4クロックを選ぶ


●SDRAMとクロック

 現状のPCのベースクロックは60ないし66MHz、メモリメーカーから出荷されているSDRAMは100MHz対応まで用意されている。したがって、余裕で間に合うはずなのだが、PC側の方が読み出しクロックに対する規定がタイトなため、実際はあまり余裕がない。メモリメーカーの中にはPC用には専用の対策品を用意している例すらある。

 「現在、市販されているSDRAMは、バスクロック66MHzに対応、クロックアクセスタイム9ns以下が主流となっている。一部にSDRAMに-10の印字のあるものは10ns=100MHz、-12は12ns=83MHzとの誤解がありますが、対応バスクロックやクロックアクセスタイムはSDRAMのデータシートに記載されており、SDRAMに印字されている一部分の数値だけでは判断できない。SDRAMの100MHzはバスクロックの100MHzとは意味が異なるので単純には判断できない。
 9ns規格のSDRAMでもロットによっては、CASレイテンシ3で動作する可能性はあるが、それは保証されたものではない。1月下旬に100MHz対応のSDRAMを発売するが、それは6nsのチップを使用している。」

 ガイド2:できる限り高速なSDRAMを選択する。66MHz動作では10nsが必要。


●SPDの有無

 SPD(Serial Presence Detect)は、DIMMに付いているEEPROM(電気的に書き換えができるROM)のこと。内部にはそのメモリのスペックが規定されているフォーマットで書き込まれている。一時期、EPROM付/EPROM無を店頭で分けて販売しているショップもあったが、これのことを指している。

 SPD自身は比較的昔からある規約で、ノートPC用のDIMMなどでは、'96年中頃の製品にも搭載されている。SPDで規定されているデータは、メモリのタイプ、対応クロック、レーテンシー(遅延時間)などだ。現在のところメーカーのIDコードはオプションとなっているので、このコードからメーカー名などを特定することはできない。

 現状のほとんどのマザーボードでは、装着されているSDRAMのSPDを読み出し、チェックした上で動作している。したがって、SPDを装備していないSDRAMを装着すると正常に動作しない。

 また、そのメモリについての正確な情報を知るためにはSPDを読み出すことが必要なので、外観からだけでは判別できなくなっている。

 ガイド3:これから購入する場合はSPD付きが必須


●16Mbitと64Mbitチップ

 これは、確実な裏付けがあるわけではなく経験則にすぎないのだが、16Mbitチップを使ったSDRAMよりも64Mbitチップを使ったSDRAMの方が安定して動作する。

 現状では64Mbitのチップ価格がまだ高いため、ショップの店頭価格でも同容量ながら16Mbit品の方がかなり安くなっている。

 64Mbit品の方があとから開発されたものだけに回路設計が練れていることや、チップ数が少なくなることから信号遅延などのトラブルが少ないことが原因ではないかと推測される。しかし、16Mbit品でも、高クロック対応が保証されている場合はこの限りではない。

ガイド4:選択できる場合は、64Mbitチップを使ったモジュールを選ぶ


トラブル編

●それでも動かない例

 そして、これが一番困った問題なのだが、上で解説したクロック、SPDなどの問題がクリアされていても、SDRAMが動作しない例がある。たとえば、SDRAMが動かない症状としてよく語られるのが、つぎのような現象だ。

  1. あるDRAMメーカーのものならば動作するが、別のDRAMメーカーのものでは動作しない

     外観からは全く同一の仕様であっても、DRAMメーカーが異なるだけで動作しない例がある。これは、PCの起動時にRAMのイニシャライズ(初期化)を行なう際の問題が多い。「現状のトラブルの原因の大半はこれ」(株式会社メルコ)。

     これは現状で一番大きな問題で、ユーザー側からは予測できず避けられない。

     メモリのイニシャライズ時には、BIOSなどが規定されているコマンドをRAMに送るのだが、ここで本来規定されていない未定義のコマンドを送ってしまう例が見られる。未定義コマンドを送られたSDRAMは、そのまま動く場合もあるのだが、場合によってはテストモードに入って動作しなくなることもある。

     いちばんやっかいなのは、内部メモリの片バンクのみが生きた状態になり、半分しかメモリが認識されず、動作しているバンクも不安定になることがある。たとえば、「64MBのSDRAMがあって、通常どおり動作しているように見えるが、メモリを大量に使用するアプリケーションを起動したとたんにシステムがハングアップしてしまう」というのが典型例だ。

     基本的にはSDRAMという新しいデバイスに対するボードやBIOS側の問題で、ユーザー側には対策はない。しかし、BIOSをアップデートしただけで修正された例もある。やや消極的対策ではあるが、各PC、マザーボードなどのBIOSを最新のものにするのは試してみる価値はある。

    対策1:各PC、マザーボードなどのBIOSを最新のものにする

  2. 1枚なら動くが2枚目を差すと動作しない

     メーカーが異なる場合は、(1)と同じ原因であることが多い。メーカーが同一で、なおこの状況はあまり考えられないが、2つのDIMMのスペックが不統一であることが多い。

  3. 同様に3枚目になると動作しない

     (2)と同様の原因が考えられる。ごくまれだが、設計の悪いマザーボードで、配線の引き回しが悪く3つめのDIMMソケットへの配線が長すぎて、信号の品質が悪くなり動作しなかった例もある。


まとめ

●動作確認が最後の手段

 PC/ATが主流となり、“同じ形をした72ピンのSIMMであればほぼ互換性がある”ということができた、ここ数年は、メモリは汎用品として考えてよかったのだ。もちろんそこにも70nsと60nsの相違、FP RAMとEDO RAMの相違などの問題はあったにせよ。ある程度パフォーマンスを犠牲にすれば、動作する確率は非常に高かかった。

 しかし、現状のSDRAMは汎用部品として考えるのは、まだ危険だ。もちろん、セットメーカー、周辺機器メーカー、RAMメーカーなどの間で相互の情報交換とフィードバックは行なわれており、急速に状況は改善されつつある。しかし、現状では72ピンSIMMよりも大きなリスクがあることは知っていてほしい。

ガイド5:現状のSDRAMは汎用品と考えるのは難しい

 リスクを避けるための手段は、現状では動作確認しかない。メーカー製のPCを使用していて、動作しないというリスクを避けたいのであれば、その機種での動作確認を行なっているサードパーティ製や、動作確認を明記しているショップでの購入を勧める。従来の72ピンSIMMの場合でもこれは同様だったが、SDRAMの場合は、リスクが大きくなっていることは頭に入れておいてほしい。

 したがって、現状で一番確実なガイドは、次のようになる。

ガイド6:メーカー製PCの場合は、動作確認済みの製品を購入する

 自作PCの場合は、そもそもすべてが自らのリスクなのだが、ショップやサードパーティが主要なマザーボードだけでも動作確認をして発表してくれることを希望したい。“「ASUSTeK P2L97 BIOS Ver.x.xx」動作確認済み、3枚差しOK”とか謳ってくれたら、安心料程度の金額なら高くても買うのにと思うのは私だけではないだろう。

□参考URL
http://developer.intel.com/design/pcisets/

('97/12/17)


[Reported by date@impress.co.jp / 取材協力:株式会社メルコ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp