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基調講演レポート
パソコン産業リーダーが語るパソコン新世紀

基調講演

 WORLD PC EXPO 99初日の9月7日、パソコン産業界のトップが「パソコン+インターネットで拓く未来」をテーマに語るパネルディスカッションが行なわれた。

 講演会場は立ち見も出る盛況ぶり。出席者は、左から順にアップル代表取締役社長の原田氏、NEC専務取締役の高山氏、東芝デジタルメディア機器社社長の溝口氏、富士通専務取締役の杉田氏、マイクロソフト代表取締役成毛氏の5人。日本のパソコン業界を名実ともにリードしてきた人々の豪華な顔合わせだが、かすかに違和感を覚えたのは、ソニーの安藤氏の顔がなかったせいだと思い当たった(それほど、現在のパソコン業界におけるソニーの存在は大きい)。司会は、日経パソコン編集長の藤田氏が務めた。

■ Windows 95の時以来の、パソコンブームと言われているが

 この理由として各氏が揃って挙げたのが、インターネットの普及・定着だ。アップル原田氏はiMac成功の理由として、「製品の魅力はもちろんだが、インターネットというインフラの発展が前提としてある」と述べた。
 東芝の溝口氏は「'98年後半から、パソコンが生活の中に入り始めた。今後は市場がひっぱっていく形になると思う。それがコンシューママーケットだ」とインターネットを牽引力としてパソコンがさらに発展していくと述べた。またNECの高山氏が同社コンシューマ向けパソコンでは女性ユーザー率が23~24%という数字を挙げ、富士通の杉田氏も、同社パソコンの女性ユーザーは約25%と述べるなど、インターネットというコミュニケーションメディアの普及に伴う女性ユーザーの増加が伺える。富士通は業界でも早くから女性をターゲットとした「プリシェ」シリーズを発売したが、杉田氏は「トリガーはインターネットだが、商品自体もデザイン面でも家に置いて違和感のない、お客様に受け入れられやすい形になった」と、コンシューマー製品としてデザインも重視される時代であることを強調した。

 マイクロソフト成毛氏は、「米国ではサラリーマンも自分で納税申告するために、その道具としてパソコンが売れていた。そのパソコンがインターネットに使われるようになり、インターネットの普及の波が日本にも押し寄せたために日本でもパソコンが普及するという形になった」と外資系トップらしい分析を述べ、「新しい製品が普及する際に、普及率がある率を超えると一気に広まる“しきい値”があるが、パソコンはそのしきい値を超えたのかなという気がする」として、現在はさらなる市場拡大の途中であるという認識を示した。

■ 今後のホームパソコン

 NEC高山氏は、「家庭における時間・コスト・スペースの3つを、パソコンがどれだけ奪えるかが勝負」と述べた。具体的には一般家庭において、「テレビを見る時間とパソコンを使う時間のどちらが長いか」、「家電製品のうち、パソコンに使う予算はいくらか」、「パソコンを置くためのスペースがどれだけ取れるか」ということだ。また「今後テレビ放送がデジタルに移行すると、現在のVTRではだめで、ランダムアクセスと、少なくとも15~20時間録画できる大容量が必要となる。現状では光ディスクでせいぜい2時間程度の容量しかないが、これができないとわれわれの目指すホームパソコンはできない。しかも価格は高級VTR程度に抑える必要があり、表示もテレビよりきれいでなくてはならない」と、ホームパソコンの備えるべき条件を提示した。

 また、東芝の溝口氏はBluetoothについて、「“いつでも、どこでも、誰でも使える”ための規格として東芝は積極的に取り組んで来ており、来年後半にはなんとしてでも製品化したい。今後家庭内で、映像データなども無線でやりとりすることを考えるとワイヤレスの技術開発は不可欠だ」と述べた。

■ ポストPCではない

 パネルディスカッションとはいえ、出席者が順番に述べる形でフリーディスカッションは行なわれなかったため、とくに議論があったわけでもなく、結論らしきものが出たわけでもない。したがって内容をひとことでまとめるのは難しいが、現在のパソコン市場は「インターネットがトリガーとなって、一般家庭への普及にはずみがついた状態」であり、今後は「ユーザー層が広がるに伴って、多様化するユーザーの要求に、メーカーがどう答えていくかがテーマになる」という認識では一致していたように思う。

 また、最近言われ始めた“ポストPC”という言葉については、アップルの原田氏が「ポストPCという言葉には意味がない。パソコンは少なくともあと百年はある」と断言。
 メーカーは今後、BSと地上波のデジタル化、通信インフラの高速化、BlueToothなどによる情報機器の無線接続などの新しい技術に対応する一方で、いかに使いやすく、またデザイン的にも魅力のある製品を追求していかなければならない。東芝の溝口氏が指摘した通り、そういった過程でパソコンは現在とは姿が変わっていくかもしれない。しかしそれは「“ポストPC”ではなく、新しい形のパソコンだ」という点では、出席者全員が同意していた。

□WORLD PC EXPO 99のホームページ
http://wpc99.nikkeibp.co.jp/

('99年9月7日)

[Reported by hiroe@impress.co.jp]


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