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元麻布春男の週刊PCホットライン

ハードディスクの最近の動向 その2



 前回のこのコラムで筆者が書いた2台のハードディスクの故障確率が間違っているとの指摘を多くの読者からいただいた。すでに編集部より訂正されているのでここでは繰り返さないが、ご迷惑をかけたことをお詫びしておきたい。

■ ATA vs SCSI

 さて、前回も述べたように、以前はハードディスクをSCSIで接続していたにもかかわらず、現在はATAのハードディスクを使っている。その理由の1つが、大容量のATAハードディスクが入手可能になったことであることは間違いないが、それだけではない。ATAの方がコスト的に安価な上、性能的にも見劣りしなくなったからである。

 現在、ATAハードディスクの相場は、10.1GBの5,400rpmドライブで17,000円割れ、7,200rpmで2万円前後、というところだ。これがSCSIになると9.1GBの7,200rpmドライブで35,000円から45,000円(インターフェイスやバッファサイズ等により異なる)というところである。乱暴な言い方をすれば、SCSIのハードディスクはATAの2倍の価格、ということになる。事実上ATAインターフェイスがマザーボードにタダでついてくるのに対し、SCSIが別途ホストアダプタを購入するか、オンボードにSCSIを備えたマザーボードを高い値段で買わなければならないことを考えれば、価格差はさらに広がる。

 だが、クライアントPCにとって、SCSIのハードディスクに性能的なアドバンテージはほとんどない。それどころか、一定条件ではむしろATAの方が上回る場合さえある(もちろん、SCSIが上回る場合もあるのだが)。

 こう書くと、現状のATAの最大データ転送速度が33MB/秒(Ultra DMA/33の場合)、間もなく普及するであろうUltra DMA/66で66MB/秒なのに対し、SCSIならUltra3で160MB/秒に達するではないか、という人もいるかもしれない。だが、これはクライアントPCを前提にする限り、ほとんど意味をなさない数字だ。現時点で最も高速なハードディスクであっても、内部データ転送速度のピーク値が300Mbits/秒(約37.5MB/秒)を下回る。実際のデータ転送速度(サステインでのデータ転送速度)は、この半分にも達しないハズだ。バッファからインターフェイスに対するデータ転送速度にしても、ハードディスクの基板につけられたメモリは、アクセス速度50ns前後のEDO DRAMが主流。1チップであることが大半だから、最大データ転送速度は30MB/秒程度しかないだろう。1台のハードディスクの物理スペックを考える限り、インターフェイスのピーク性能はほとんど関係ない。

 では、なぜインターフェイスの速度を上げるのか。ATAの場合は近い将来、ハードディスクの物理スペックが33MB/秒を越えることが現実味を帯びてきているからだ。すでに300Mbits/秒に近づきつつあるピーク内部データ転送速度は、近い将来これを突破してしまうだろう。そうすると、ハードディスクの内部データ転送速度がインターフェイスのデータ転送速度を越えるという、非常に望ましくない結果となる。これを防ぐために、インターフェイスの速度を上げる準備をしておかねばならない。Ultra DMA/66は、近い将来に向けた予防措置と考えられる。

 一方のSCSIでインターフェイスの帯域が問題になるのは、SCSI利用の大半をディスクアレイが占めるからだ。上述の通り、1台のハードディスクの性能がそれほど大きくなくても、ディスクアレイを組めば、出力が合成されるため、1台の時より広い帯域が求められるようになる。インターフェイスの帯域拡大は、ATAより急務といえるだろう。しかし、これはあくまでもアレイを前提にした話。一般のクライアントPCがハードディスクを1台しかインストールしないことを考えれば、やはり関係のない話である。

 1台のハードディスクを前提にしても、SCSIの方が性能的にATAを上回る例は、ハイエンドのドライブを用いる場合だ。最近はATAでも7,200rpmのスピンドルを備えたドライブが普通になりつつあるが、さすがに10,000rpmを越えるスピンドルを持ったドライブは今のところSCSIにしか存在しない。スピンドル回転数が上がることで、データ転送速度、アクセス速度ともに改善されることを考えれば、SCSIの10,000rpmドライブの性能が高いことは明白である。

 その一方で、10,000rpmドライブにはノイズがうるさい、発熱が多い、というデメリットがある。より高い回転数で回るモーターがある以上当然のことだが、こうしたデメリットは、クライアントPCにおいては性能面でのメリットを上回る(と、少なくとも筆者は考える)。ハードディスクを冷やすためにファンを付けるくらいなら、5,400rpmのハードディスクを使った方がマシ、というのが筆者の考え方である。ほかの環境が同等で、スピンドルが5,400rpmのハードディスクと、7,200rpmのハードディスクをそれぞれインストールした2台のPCがあったとしても、一般のオフィスアプリケーションを前提にする限り、おそらくどちらがどちらなのか、当てることは極めて難しいと思う(システムやアプリケーションの起動時間は短縮されるだろうが、そこに「いくら」の価値を見出すかは難しいところだ)。

 逆に、もしスピンドル回転数が同じドライブ同士を1台で比較すれば、大半の場合、ATAドライブの性能はSCSIドライブの性能を上回るだろう。1本のバスに複数デバイスが接続されることを前提にしたSCSIは、複数デバイスを効率的に利用するため、高度な機能を持つ。だが、機能が高いゆえに、SCSIのコマンドオーバーヘッドはATAより大きい傾向がある。加えて、SCSIは過去の製品との互換性を確保するため、現在のUltra2 SCSI(LVD)であっても、データ転送時以外のバスタイミングを、最初の5MB/秒のSCSIとほとんど変えないで維持している。これがコマンドオーバーヘッドをさらに大きくする。クライアントPCのように、ちょこちょことしたデータアクセスが発生する環境では、SCSIはかえって不利になる(性能でATAが上回る)ことさえ考えられる。

 現在ANSIで行われている標準化作業の方向性を見ても、ATAはハードディスクとCD/DVD-ROMドライブ各1台を接続するクライアントPC向けのインターフェイス、SCSIは複数台のハードディスクアレイを接続するサーバー/ワークステーション向けのインターフェイス、という形にそれぞれ特化しつつあるように感じられる。クライアントPCのストレージインターフェイスとしてはATAを使う、というのが自然の流れだ。

 では、すべてのクライアントPCにとってATAは理想のインターフェイスなのだろうか。標準化作業の流れからいっても、近い将来そうなるとは思うものの、少なくとも現状を前提にする限り、これも必ずしも正しくはない。クライアントPCであっても、SCSIの方がベターな例もある。この続きはまた次回に。

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[Text by 元麻布春男]


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