会場:NewYork Jacob K. Javits Center
米国のPC関連のショーとしてはCOMDEXに次ぐ規模を誇るPC EXPOが、今年もニューヨークのJacob Javits Convention Centerで開幕した。現地時間の6月22日から3日間の日程で開催される。本日は会場の様子と、大きな目玉となった2つのトピックスと基調講演を取り上げていく。明日以降、モバイル関連、そのほかの話題など続けてお伝えしていく。
■日本のパソコンショーに割と近い雰囲気
会場となったJacob Javits Convention Centerはさほど広くなく、ちょうど幕張メッセのメイン会場の2/3程度の大きさだ。従って、秋のCOMDEX Fallのように一日では会場を回りきれないというほどではなく、1つのブースにあまり時間をかけないのであれば、一日で十分回れる広さだ。PC EXPOの特徴はCOMDEXに比べるとコンシューマ(一般消費者)向けの展示が多いことで、昨年のCOMDEXにはブースを出していなかったCompaq ComputerやIBMなどの大手メーカーもブースを出しており、米国のメーカーが割とこのショーを重視していることを伺い知ることができる。その代わり、OEMビジネスが中心となっている台湾メーカーの姿はほとんどない(既にComputexで発表済みだからという理由もあると思うが)。そうしたコンシューマ向けのショーという意味では、日本のパソコン関連のショーの雰囲気に割と近いと言っていいだろう(違いと言えば言語が英語であることと、コンパニオンの女性がいないことぐらいだ)。
会場では各社のデスクトップPCやノートブックPC、PCサーバーなどがところ狭しと展示されており、ソフトウェアベンダもコンシューマ向けのソフトウェアを展示しアピールに余念がないといった状況だ。例えば、MicrosoftはOffice 2000やWindows 2000などを中心に展示を行なっていたし、IBMは米国で発表されたばかりのThinkPad 240を展示し来場者の注目を集めていた。
会場の様子。会場があまり大きくない割には来場者数は多い | MicrosoftやCompaq Computerなどのブースが所狭しと並び、日本のショーに似た印象 |
■Slot BのCPUとマザーボードがデビュー
さて、筆者は今回のPC EXPOの目玉はK7搭載システムだと予想していた。しかし、残念ながらPC EXPOの開催日までにAMDからK7自体の発表もなく、当然の事ながらK7を搭載したシステムはどこにも展示されていなかった。しかし、K7を後押しするような興味深い展示はあった。それがAlpha Processorに展示されていたSlot BのCPUとマザーボードだ。
Slot Bとは、物理的なスロットとしてSlot 2のスロットを利用し、電気信号にP6バスの代わりにDEC(現Compaq Computer)のEV6を利用したCPUスロットのことだ。Slot 1に対してSlot Aがあるのと同じように、Slot 2に対してSlot Bがあると考えるとわかりやすいだろう。Slot 2がSlot 1に対してより安定するように電気的な信号線(グランド線など)を増やしているだけであるのに対して、Slot BもSlot Aに対して電気的な信号線を増やしただけのスロットいえる。つまり、EV6バス(Alpha CPUやK7が利用するCPUバス)のサーバー/ワークステーション版のCPUスロットとして位置づけられるのがSlot Bという訳だ。基本的にはSlot 2のEV6バス版であると考えていいだろう(Alpha Processorは別物であるということを強調していたが)。
ただし、Slot AがK7というx86アーキテクチャのCPUを利用しているのに対して、Slot BではAlphaアーキテクチャのCPUを利用するという違いがある。このため、Slot BのマザーボードにSlot 2-Slot 1変換アダプタを取り付けて、物理的にSlot BをSlot Aに変換しても、BIOS ROMをx86用に取り替えないと利用することができない(逆に言えば、BIOS ROMさえ切り替えることが可能であれば、両用として使える訳だが)。
今回展示されていたSlot Bのマザーボードは、いずれもAlpha CPU用のマザーボードで、シングルCPU用のUP1000とデュアルCPU用のUP2000の2製品が用意されている。PCユーザーにとって注目したいのはUP1000だろう。UP1000で採用されているチップセットは、AMD+ALiとでも言うべき複合製品となっているのだ。具体的にはノースブリッジとしてK7用に開発されたAMDのIrongate(AMD-751)が、サウスブリッジにはALiのM1543Cが採用されており、ノースブリッジとサウスブリッジに別々のチップセットが採用されているという異例の構成となっている(理論的には問題ないとはいえ、この構成で安定して動作するというのだから驚きだ)。
Slot Bに対応したCPUとしてはAlpha Processorから同時に発表された750MHzのAlphaで、Slot 2のCPUと同じようにCPUボード上にCPUのダイとL2キャッシュが搭載されている構成になっている。要するに、K7がカバーするハイエンドPCよりも上の市場になる、PCサーバーやPCワークステーションをAlphaでカバーしようというのがこのSlot Bのねらいだ。将来的にはK7のXeonバージョンと呼ぶべきPCサーバー、PCワークステーション用のAMDのCPUもこのSlot Bで発売される計画があるようだ。
とりあえず、これまで自作ユーザーにとってはあまり縁の無かったAlphaだが、K7と共通のプラットホームで使えることになれば、自作ユーザーにも手が届くようになるかもしれない。また、対Intelという意味でも対Pentium IIIはK7で、K7がカバーできない対Pentium III XeonはAlphaでという戦略を採ることも可能になる。そうした両方の意味から、今後注目していきたいプラットホームといえる。
■コンパックの新型ノートは先祖帰り?
以前からCompaq Computerが開発をしていると噂されていたスリムノートがCompaq Computerのブースにひっそりと展示されていた。個人向けのPRESARIOシリーズおよび、企業向けのARMADAシリーズの1ラインナップとして発売される製品で、厚さ約2cmで重量が1.3kgという本体と、FDD/DVD-ROM(ないしはCD-ROM)ドライブを内蔵したホットスワップが可能なドッキングステーションから構成されている。IBM ThinkPad 570の対抗製品ということができるだろう。CPUはモバイルCeleron 333MHz、メインメモリは64MB、ハードディスクは4GB、PCカードはType2×1というスペックで、液晶は10.4インチのTFT液晶ディスプレイ(800×600ドット)が採用されている。ThinkPad 570に比べると厚さではやや劣っているものの、軽量さでは勝っておりポータブル性を重視するユーザーには非常に魅力的な製品だ。6月末に正式に発表される予定で、価格などは未定(説明員によると、日本で販売される計画もあるようだ)。
ところでこの新PRESARIO、バッテリを折り曲げると各種ポートが現れるDECのHiNote Ultraによく似たデザインとなっている。バッテリを折り曲げるとキーボードが斜めになって入力しやすくなることまでそっくりだ。考えてみればCompaqはDECを買収している訳だから、そのPRESARIOがHiNote Ultraの流れをくんでいても何ら不思議な話ではない。そうした意味では初代HiNote Ultraのデザインの良さが再度評価されて、もう一度採用されたと考えることができそうだ。割と多かった元HiNote Ultraユーザーには要注目の製品と言えるだろう。
□PC EXPOのホームページ(英文)
http://www.pcexpo.com/
('99年6月23日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]