旧型マシンの救世主となるか?
~WinChip 2 Rev.Aの実力を探る~



 Pentium IIIだK6-IIIだと、どんどん高性能なCPUが登場しているが、そう簡単に新しいマシンに買い換えられるわけではない。IDTのWinChip 2は、単一電源で動作するので、Dual Voltageに対応していないClassic Pentium搭載マシンでも、そのまま装着して使える可能性が高く、古いマシンのアップグレードパスとして、根強い人気を持っている。WinChip 2の最新リビジョンであるWinChip 2 Rev.Aが登場したので、その実力を探ってみたい。



■ WinChip 2とWinChip 2 Rev.Aとの違い

WinChip 2-200の表面。電源電圧や動作クロックが書かれている
 WinChip 2 Rev.A(以下、WinChip 2A)は、その名前からもわかるように、WinChip 2のマイナーチェンジ版であり、全く新しいCPUというわけではない。WinChip 2は、IDTのx86互換CPUとしては2番目の製品にあたり、初代WinChip C6の後継として、'99年初頭に登場した。WinChip 2は、WinChip C6が弱かった浮動小数点演算性能とMMX命令実行性能が強化されたほか、AMDの3D Now!テクノロジを新たにサポートした。また、MMX PentiumやK6-2/III、Cyrix M IIなどとは異なり、単一電源で動作することも特徴である。最初に登場したWinChip 2は、動作クロック200MHz(66MHz×3)、225MHz(75MHz×3)、240MHz(60MHz×4)という3つの製品が存在している。
 WinChip 2Aは、WinChip 2とコア自体は同一だが、

 1. x.5倍のクロック倍率を新たにサポートした
 2. 2.33倍および2.66倍という独自のクロック倍率をサポートした
 3. 正式にFSB100MHzに対応した

という違いがある。また、FSB100MHzをサポートしたことで、新たにスピードグレードという性能指標を導入したことも特徴だ。スピードグレードは、CyrixやRiseが採用しているPR(パフォーマンスレート)とほぼ同じ概念の指標である。例えば、スピードグレードが266なら、他社の266MHzクラスのCPUと同等の性能を持っていることを示す。

 当初、WinChip 2Aは、WinChip 2-200(66MHz×3)、WinChip 2-233(66MHz×3.5)、WinChip 2-266(100MHz×2.33)、WinChip 2-300(100MHz×2.66)という4種類の製品が登場するとアナウンスされていた。FSB66MHz版では、実動作クロックとスピードグレードは一致し、FSB100MHz対応の製品のみ、実動作クロックよりもスピードグレードの値が高くなっている。しかし、最近になってロードマップが変更され、WinChip 2-300という製品は登場しないことになった。スピードグレード300を超える製品は、後継のWinChip 3で実現されるようだ。


■電源電圧が2種類あることに注意

 MMX Pentium以降に登場したSocket 7対応CPUのほとんどが、コア電圧とI/O電圧にそれぞれ異なった電圧を要求する(Dual Voltage仕様)のに対し、WinChip 2Aは、コア電圧とI/O電圧が同じ電圧で動作することが特徴だ。MMX Pentium登場以前のマシンに使われているマザーボードは、Dual Voltageに対応していないものが多く、最新のCPUをそのまま載せるわけにはいかないが、WinChip 2Aなら電圧変換アダプタなどを介さずそのまま装着できる。また、Cyrix M IIなどに比べて癖が少なく、WinChip 2Aに正式対応していない古いBIOSでも動作する可能性が高いことも、WinChip 2Aの魅力だ。つまり、旧型マシンの救世主的な存在のCPUだといえるだろう。

 ただし、WinChip 2Aは、単一電圧で動作するといっても、電源電圧の違いによって、3.3V動作版と3.52V動作版の2種類のシリーズが存在する。価格は、3.3V版のほうがやや高いようだ。Classic Pentiumの載せ換え用としてなら、3.3V版のほうが無難であろう(マザーボードによっては3.52Vを供給できるものもあり、その場合は3.52V版でも問題はない)。動作電圧は、CPU表面に記載されているので、簡単に知ることができる。


■ シングルスケーラ構成ながら、アプリケーションレベルでのパフォーマンスは健闘

 現在、秋葉原の店頭で購入できるWinChip 2Aは、66MHz×3.5で動作するWinChip 2-200のみで、WinChip 2-233やWinChip 2-266が入荷するのはもう少し先になるようだ。そこで今回は、WinChip 2-200を入手して、そのパフォーマンスを検証してみることにした。

 まず、WinChip 2を正式サポートしている最新マザーボードを使って、他のCPUとの性能比較をおこなってみた。ベンチマークプログラムには、Ziff-Davis,Inc.のWinBench 99 Ver.1.1に含まれるCPUmark99とFPUWinMark、Business Graphics WinMark 99を用い、1,024×768ドット65,536色モードでテストした。比較のために、WinChip C6とAMD-K6-2、Cyrix M IIを同じクロック(66MHz×3)で動作するように設定して、同様にベンチマークテストを行なった。

 CPUmark 99は、CPUの整数演算能力を測定するテストである。WinChip 2は、他のCPUに比べてかなり低い値しか出ていない。他のCPUとは違って命令実行パイプラインを1本しか持っていない(シングルスケーラ)ためであろう。

 FPUWinMarkは、CPUの浮動小数点演算性能を測定するテストである。WinChip 2は、AMD-K6-2には及ばないものの、なかなか好成績をおさめている。また、WinChip C6に比べて、浮動小数点演算性能が強化されたことがよくわかる。

 Business Graphics WinMark 99は、WordやExcelといったビジネスアプリケーション上での、総合的な2D描画性能を測定するテストだ。Cyrix M IIには及ばないものの(M IIの場合、PR値は実クロックより常に高いので、クロックを揃えるとM IIに有利になるのだが)、AMD-K6-2よりも高い数値が出ている。WinChip 2Aは、命令実行パイプラインを1本しか持たない代わりに、実際のアプリケーションで頻繁に使われる命令を高速に実行できるように設計されている。その特徴が、テスト結果にも反映されているといえるだろう。

【テスト条件】
・マザーボード:Soltek SL-56F1(L2キャッシュ:1MB)
・チップセット:VIA MVP4
・メモリ:128MB(PC-100 SDRAM)
・ハードディスク:Quantum Fireball EX6.4
・OS:Windows 98

WinChip 2 200MHzWinChip C6 200MHzAMD-K6-2/200Cyrix M II 200MHz
CPUmark 9912.711.716.819.2
FPUWinMark590323652450
Business Graphics WinMark 9964.759.358.677.8


■ Classic Pentium搭載マシンでも使えるか?

 WinChip 2がそれなりの性能を持っているといっても、動作クロック200MHz程度の製品しか出ていない現状では、マシンを新たに組むときにWinChip 2を選ぶメリットはあまりないだろう。それよりも、Classic Pentium(MMX命令をサポートしていないただのPentium)を搭載した古いマシンをアップグレードするための製品としての価値が高いのではないだろうか。

FMV-DESKPOWER SEのマザーボード。3.52Vを供給する設定がある
 そこで、Classic Pentiumを搭載したFMV-DESKPOWER SE(FMV-5133DPS:'96年夏モデル)に、WinChip 2Aを載せてみることにした。FMV-DESKPOWER SEは、CPUにPentium 133MHzを搭載したマシンで、チップセットには、ALiのM1511が採用されている。もちろん、Dual Voltageには対応してない。今回は、3.52V版のWinChip 2Aを利用したが、ちょうどよいことに、FMV-DESKPOWER SEのマザーボードには、CPUへの供給電圧を変更するジャンパー(JP12)が用意されていた。通常は、3.38Vを供給する設定になっているが、JP12を2-3に変更することで、3.52Vを供給することができる。そこで、JP12のみを2-3に変更して、WinChip 2Aに載せ換えてみることにした。

 最初に電源を入れると、起動途中で「CPU Clock Mismatch」というエラーメッセージが出るが、そこでCTRL+ALT+ESCキーを押してBIOSセットアップ画面を呼び出し、そのままESCキーを押して保存終了すれば、次からは問題なく起動する。BIOSでは、Pentium 200MHzと表示されるが、動作も問題はないようだ。

 ベンチマークテストをおこなってみたところ、ノーマル状態(Pentium 133MHz)に比べて、CPUmark 99の値は約1.67倍、FPUWinMarkの値は約1.25倍に向上した。実際にアプリケーションを使っていても、確実に速くなったと体感できるほどの違いがあった。WinChip 2-200は5,000円程度で購入できるので、アップグレード方法としては、非常にコストパフォーマンスが高い。Classic Pentium搭載マシンを使っていて、あまりお金をかけずにマシンをパワーアップしたいと考えているユーザーには、特にお薦めだ。もちろん、全てのClassic Pentium搭載マシンでWinChip 2Aが動作する保証はないが、他のCPUに載せ換える場合に比べると動作する可能性はかなり高い。FSB66MHzの3.5倍で動作するWinChip 2-233もまもなく登場する予定なので、そちらを利用するのもいいだろう。

Pentium 133MHzWinChip 2 200MHz
CPUmark994.868.12
FPUWinMark489613

□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【6月5日号】WinChip 2のRev.Aが登場、FSB 100MHz対応も間近
第一弾は66MHz×3=200MHzのWinChip 2-200
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990605/winchip2a.html


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[Text by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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