先週のIntelの発表に続いて、今週はAMDがモバイルPC向けプロセッサの発表を行なった。発表されたのは動作クロック350MHz(FSB 100MHz)、366MHz(同66MHz)、380MHz(同95MHz)のK6-III-Pプロセッサ。型番末尾のPは、Portableの略かと思いきや、AMDのWebサイトによるとPerformanceの略なのだという。K6-III-Pは、最大100MHzのFSB、256KBのオンダイL2キャッシュなど、デスクトップ向けK6-IIIプロセッサの主要な特徴をそのまま受け継いだモバイル向けのプロセッサである。だが、スペックを確認していてわかったのは、K6-III-PがK6-IIIから受け継いだのは、これだけではなさそうだ、ということだ。それくらい、K6-III-PとK6-IIIの差は非常に小さいし、たとえばIntelのモバイルプロセッサとはかなり異なるものである。
最もなじみの深いIntel製プロセッサでモバイルPC向けというと、デスクトップPC向けに比べて、動作電圧を下げることで消費電力を下げ、パッケージを小型化する、といった形を採るのが常だ。ところがK6-III-Pは、モバイルPC向けといっても動作電圧は2.2Vで、デスクトップPCより0.2V低いに過ぎない。消費電力も、モバイルPC向けとしてはかなり大きめの12.6W(Typical)である。しかもパッケージは、K6-IIIもK6-III-Pも、全く同じセラミックPGAパッケージを採用しており、特にノートPC向けのパッケージが用意されているわけではない。
これに対し、現時点で最も高速なIntel製のモバイルPC向けプロセッサであるMobile Pentium II 366MHzの動作電圧は1.6V、消費電力は9.5Wに過ぎない(同じ動作クロック、同じFSBクロック、同じL2キャッシュサイズのK6-III-P 366MHzとの消費電力の差にIntelのプロセス技術の優位性が見てとれる)。まもなくリリースされるとウワサされている0.18ミクロンプロセスによるMobile Pentium IIプロセッサ(400MHzと433MHzが登場する予定)は、さらに動作電圧が下がると同時に、消費電力も下がると思われる。パッケージも、デスクトップ向けとは異なるμBGAパッケージやμPGAパッケージを用意している。
■ モバイルといってもデスクトップPCの代替ノート向け?
つまりK6-III-Pは、モバイルPC向けのプロセッサではあるものの、たとえば日本で流行の薄型銀パソ向けのプロセッサではない。パッケージの点でも、消費電力の点でも、おそらくそれは不可能だ。逆にK6-III-Pの強みは、モバイル向けとしては今のところIntel製をしのぐ動作クロックを持ち、まだIntel製モバイルプロセッサが実装していないSIMD浮動小数点演算命令(3DNow!)をサポートしていることに尽きる。したがって、用途としては、フルサイズでオールインワンタイプのノートPCで、デスクトップPCの置き換えを狙うようなもの(主にAC電源での利用を前提にしたノートPC)、ということになるだろう(米国で主流のノートPCと言えるかもしれない)。
このところのAMDのプロセッサで疑問だったのは、着実にシェアを獲得している(特に米国の小売市場で)K6-2に対し、現時点でのハイエンドであるハズのK6-IIIの影が極めて薄かったことだ。大手PCベンダによる採用も、CompaqのPresario 5600(日本未発売)くらいで、HPやIBMにK6-III搭載モデルの設定はまだない。これを筆者は、単純にK6-IIIの歩留まりが悪いのだと思ってきたのだが、それだけが理由ではないような気もしてきた。
来月にもAMDはK7を発表すると言われている。間違いなくK7はハイエンド向けのプロセッサだが、そうなるとK6-IIIの行き場がなくなってしまう。K6-2の後継として、安価に販売できれば良いのだが、おそらく歩留まりの点でそれはまだ難しいだろう(来年以降、本格的に0.18ミクロンプロセスに移行すれば可能かもしれないが)。ひょっとするとAMDは、K6-IIIをモバイル向けに、K7をデスクトップPC向けに、という住み分けを狙っているのかもしれない。要するに、既存のK6-IIIの歩留まりを上げるより、K7とモバイル向けK6-III(K6-III-P)に経営資源を集中している、というシナリオである。
そう考える理由の1つは、K7が当面モバイルPC向けには使えそうにないことだ。200MHzのEV6バスのサポートも含め、K7は消費電力が大きく、ノイズの問題がシビアなプロセッサになると思われる(AMDの言葉を借りればK7はサーバ/ワークステーション向けのプロセッサである)。消費電力の高さはモバイルPC向けではないし、軽量化が望まれるモバイルPCでは、十分なシールドを施すのは難しい。逆にL2キャッシュをダイ上に統合したK6-IIIは、基本的にはモバイルPC向けのアーキテクチャである。
現在AMDを支えている稼ぎ頭はK6-2であり、その改良は絶対に欠かせない。これにK6-2-P(モバイル向けのK6-2)、K6-III、K6-III-P、K7、とすべてを手がけていては、限られた経営資源が分散してしまう。ある程度製品ラインナップの絞り込んだ方がベターだ。となれば、K6-IIIをモバイル向けに特化させた方が良い、という判断があってもおかしくない。
もう1つ、K6-IIIをモバイルPC向けに特化させるメリットは、サードパーティ製チップセット(およびBIOS)に起因する互換性の問題から逃れられることだ。AGPのグラフィックスカード、バスマスタIDEドライバ、PCIのサウンドカードなど、Super 7プラットフォームは何かと問題が生じやすい。基本的に拡張カードを利用しないモバイルPCなら、こうした互換性の問題など起こりようがないのである。ひょっとすると、0.18ミクロンプロセスへ移行するタイミングで、K6-III-PにもモバイルPC向け専用パッケージが設定されるかもしれない。
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【5/25】AMD、最高380MHzのモバイル用プロセッサK6-III-P
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990525/amd.htm
[Text by 元麻布春男]