プロカメラマン山田久美夫の

「シャープ インターネットビューカム」レポート


 シャープから、世界初のMPEG-4採用モデル「インターネットビューカム VN-EZ1」が発売された。本機は高圧縮率のMPEG-4フォーマットの採用により、通信による動画利用をメインターゲットに開発された、新しいタイプの動画記録モデルだ。



●通信環境を重視した「MPEG-4」

 最近はデジタルスチルカメラのなかでも、動画サポートをうたったモデルが、家電系メーカーを中心に続々登場している。これらの動画対応機は、記録フォーマットにより、大きく2つに分けることができる。
 まず、ソニー デジタルマビカやDSC-F55Kなどに代表される「MPEG-1」タイプ。そして、三洋電機 DSC-X110やカシオ QV-5500SXのようなMotion JPEGコーディングによる「AVI」タイプだ。現状ではファイルの圧縮率では前者、画質では後者が有利だ。

 インターネットビューカムが採用したMPEG-4は、今年3月に国際標準化されたばかりの高圧縮率動画フォーマットだ。もともとは64kbps以下の低ビットレートに適した動画圧縮フォーマットとして開発された。電話回線や携帯電話のような低速の通信インフラを使った動画転送や動画配信といった、今後急速に発展するメディアを重視した規格だ。

 今回の「VN-EZ1」では、記録フォーマットは、マイクロソフトが提唱するASF形式を採用している。したがって、再生にはマイクロソフトが公開しているメディアプレーヤーが必要となる。

 なお、LPモードでは、低速の通信回線でのストレスを軽減するため、データのダウンロード中に再生が始まるストリーミングにも対応しているという。

●超コンパクトな軽快動画カメラ

 本機は「インターネットビューカム」という名称からも分かるように、完全にインターネット上での動画利用をターゲットに開発されたモデルだ。

 サイズはきわめてコンパクト。もちろん、従来からのテープメディアでは、この小ささは到底実現できないレベルだ。やや厚みはあるが、ワイシャツの胸ポケットにも収納できるほどで、回転式レンズを真下に向けておけば、携帯時でもケースレスでも安心して持ち歩くことができる点は好ましい。

 電源は長時間の動画撮影と入手の容易さを考慮して、単3型乾電池4本という仕様。アルカリ電池でも約1時間の連続記録ができるという。実際に今回、動画スナップ的に使用し、動画データで32MBカードがフルになった状態でも、付属のアルカリ電池を交換する必要はなかった。本機は液晶ファインダー専用機であり、途中で何度も再生して楽しんでいたことを考えると、この電池の持ちのよさは高く評価できる。

 CCDは1/4インチの35万画素タイプ。静止画での利用も意識したのか、読み出し方式はプログレッシブ方式で、正方画素の原色フィルタのものを採用している。
 デジタルスチルカメラの世界では、200万画素クラスが主流になりつつあるが、本機の場合には、動画時で最大320×240ピクセル、静止画時でも640×480ピクセルなので、35万画素でも必要十分なわけだ。

 レンズは3.8mmF3.4の単焦点タイプ。35mmカメラ換算で37mmレンズ相当と、意外にワイド気味だ。もちろん、静止画専用機であれば、これくらいワイドのほうが使いやすいが、動画の場合には画像の情報量が少ない上、パンニングにより広い範囲を撮影することができることを考えると、もう少し狭いほうが使いやすいような気がした。もっとも、旅先での動画スナップや屋内撮影では、これくらいワイドの方が便利なケースもあるわけで、判断が難しいところではあるのだが。

 記録メディアは、スマートメディアを採用。もちろん32MBメディアにも対応している。同じ動画でもAVI形式の機種ではファイルサイズが大きく、32MBカードでも不満を感じるケースがあるが、インターネットビューカムでは標準的なモードで1時間(32MBカード時)も撮影できるので、これでも十分だろう。
 もっとも、最初に付属してくるのが、お試し用とはいえ、2MBカードである点には不満を感じる。最近はカードがかなり安価になっているため、やはり8MBカードくらいは付属してほしいところだ。

●こなれた操作感

 シャープは以前、デジタルカメラに参入していた。その経験は本機にも生かされており、使い勝手のいいモデルに仕上がっている。

 レンズは回転式。これは撮影時の角度調整はもちろんのこと、真下にセットするだけで再生モードになるというモード切替機能も兼ね備えている。携帯時は真下に向けておくことで、レンズ保護にもなる。また、レンズが回転することで、液晶モニターを自分が一番見やすい角度で使えるため、液晶の視認性向上にも一役かっている。さらに、180度回転させることで自分撮りができる点も大きな魅力だ。

 ピントは、レンズ横のレバーを移動させることで、マクロ域までリニアに変えることができる。メーカーでは固定式という表記になっているが、これは通常のシーンではピントを合わせる必要がないという意味に受け取った方がいいだろう。

 露出調節は、基本的にオート。だが、本体側での制御範囲が狭いため、実際にはレンズ上部にある明るさ切り替え機能を使って、手動で切り替える必要がある。といっても、屋内と屋外で切り替えると思っていれば、それほど苦にはならない。なお、光量切り替えは、絞りではなくNDフィルタによる光量制御を採用している。

 背面の操作部もよく整理されており、パワースイッチとムービー/スチル切り替えスイッチ、メニューボタン、詳細設定用の十字パッドしかなく、とてもシンプル。しかも、十字パッドによる操作感も良好で、詳細設定も日本語表示(カタカナだが)でなかなか分かりやすい。とくに、レンズ回転部で記録/再生モードを切り替えられる機能は便利だった。

静止画サンプル

ファインモード
ノーマルモード

●用途により選べる記録モード

 本機には、多くの動画記録モードがある。まず、画像サイズはインターネット用途が大前提ということもあって、160×120ピクセルが標準になっている。さらに、LP、ノーマル、ファイン、Sファインの4種類のモードを選ぶことができる。

動画サンプル


ファインモード【134KB】

ファインモード【166KB】

ファインモード【438KB】

デジタルズーム

LPモード


ファインモード【218KB】

LPモード【40KB】

LPモード【54KB】

 これらのモードは圧縮率の違いによる。たとえば、2MBカードで記録時間を比べてみると、それぞれ、8分30秒、3分45秒、1分15秒、37秒となっている。

 もちろん、圧縮率が高くなればなるほど、単位時間あたりのファイルサイズが小さくなり、通信に有利になるわけだが、そのぶん、クオリティは低下してゆく。これは、画像細部が省略されて粗くなることと、サンプリングレートが遅くなってスムーズに再生されず、コマ送り状態になるという動画ならでは問題の両方が原因となっている。

 ちなみにフレームレートは、LPモードで2~3枚、ノーマルで5~10枚、ファインで5~12枚 Sファインで5~15枚、1/4VGAでは2~5枚という。もちろん、このフレームレートから見ると、ビデオやDVD系に比べてかなり遅いため、滑らかな動きは期待できないのは一目瞭然。この点を見ても、MPEG-4採用の本機が、画質よりも画像転送を重視したものであることが容易に理解できるだろう。

 さて、実際に撮影してみると、通常の撮影ならば、ノーマルモードかファインモードで十分。とくに、インターネット上での配信やメールへの添付を前提にするならば、画質がそこそこで、ファイルサイズが小さな、ノーマルモードがオススメだ。

 また、自分のPC上だけでの利用であれば、多少ファイルサイズは大きいが、ファインモードのほうが画質面ではやや有利だ。また、動きよりも画像の見やすさを重視するなら画像サイズが320×240ピクセルと大きな1/4VGAモードを選ぶ手もある。ちなみに1/4VGAモードの記録時間は、Sファインと同じ37秒になっている。

 ネット上でのストリーミング再生(サーバーの対応が必要)や、長時間撮影ができる点では、とても魅力的なLPモード。だが、実際に使ってみると、完全なコマ送り状態で、ちょうどISDNによるテレビ電話に近いイメージの動きになってしまうのは残念。
 しかし、LPモードでも、音声データが細切れ状態になるわけではないので、動画も写る“サウンドメモ”として考えると、意外なほど用途が広がる。実際に講演会のメモや記者発表会などの取材では、結構威力を発揮する。

 これらの記録モードは、撮影時に必要なモードにセットすることになるわけだが、本機に付属しているアプリケーションである「ビットレートコンバータ」を使うことで、PC上でより粗いモードに変換することができる。そのため、カード容量の問題さえなければ、ハイクオリティなモードで撮影しておいて、あとから目的に応じてビットレートを落とすこともできるので安心だ。

●実用性重視の画質

 さて、いくらファイルサイズ優先といっても、気になるのが画質。まず、データのハンドリングなどをまったく考慮せずに、画質面だけで比較すると厳しい評価になってしまう。

 通常のビデオカメラには遠く及ばない。また、AVIの動画撮影が可能な「三洋電機 DSC-X110」と比較しても、明らかに見劣りがする。

 取材用に使っている「デジタルマビカ MVC-FD71」のMPEGデータ(MPEG-1)と比較しても、やはり結構な粗さを感じる。最新の200万画素モデルである「DSC-F55K」のMPEG-1動画と比べると、レベルが違うというのが、正直な感想だ。

 画質面だけでみると、MPEG-4という圧縮率の高い規格を採用していることが大きな足かせとなっているように見える。

 とはいえ、ファイルサイズとのバランスを考えると、本機の動画としての画質は大したものだと思う。とくに、最近の200万画素モデルの静止画データの1/10程度のファイルサイズで音声付きの動画が記録できるのだから、これはスゴイと思う。また、モードによっては、5秒程度の動画でも、35万画素クラスの静止画データより小さなファイルサイズになるのだから驚きだ。

 むしろ気になったのは、本機の光学的な欠点だ。具体的には、CCDのポテンシャルに対して、レンズ性能が低すぎる。

 もっとも気になるのが、周辺部の光量低下だ。これは今回掲載した定点撮影カットを見ていただければ誰でも気がつくレベルだ。極端にいうと、まるで穴のなかから被写体を撮影しているような感じがあり、画像の印象を大きく低下させる原因になっている。

定点撮影:静止画

ファインモード
ノーマルモード

定点撮影:パン


ファインモード【96KB】

ノーマルモード【28KB】

LPモード【24KB】


Sファインモード【236KB】


1/4VGAモード【234KB】
再生は320×240ピクセル

定点撮影:ズーミング


Sファインモード【172KB】

ファインモード【152KB】

ノーマルモード【58KB】

LPモード【36KB】

 この欠点を避けるための方法としては、デジタルズーム機能を使って、ややズーミングし、撮影することで解消できる。つまり、デジタルズームすることで、レンズの中心部の画像しか使わなくなるので、結果的に周辺部の光量不足をカバーできるわけだ。また、本機の場合、もともと35万画素CCDを搭載することで、動画撮影時にデジタルズームしても、データ量的には必要十分なレベルを維持できているため、画質低下が少ない点でも安心だ。

 このほか、ファインモードなどで撮影してみるとMPEG-4とはいえ、レンズの解像度不足を感じるケースもある。これは、静止画を撮影してみると、一目瞭然で、画面中心に対して、画面周辺部での画質低下が著しい。本機の場合、静止画も撮影できる点が大きな特徴でもあり、このサイズで動画と静止画が気軽に撮影できれば、かなり便利なツールだだけに、静止画撮影時の画質まで考えた上で、レンズ性能を考えるべきだろう。

 正直なところ、同社はデジタルスチルカメラの時代から、レンズ性能に問題があり、それが原因で画質が優れないという点が各モデルに共通した点だった。このようなレンズ性能(スペックではない)を軽視する傾向は、家電系メーカーに多かれ少なかれあるわけだが、本機もその点がネックとなっている点が残念。
 ぜひ次期モデルでは、きちんとしたレンズを搭載した製品へと成長して欲しいところだ。

●便利な付属ソフト

 本機で感心するのは、撮影した動画データを活用できるソフトがきちんと付属している点だ。
 本機には標準で「ピクスラボブラウザ」というアプリケーションが付属している。このアプリには数多くの便利な機能があるわけだが、まず便利なのがブラウザ部分。というのは、この手の動画ファイルの場合、その内容を簡単に確認するのが難しく、整理するのが面倒なのが大きなネックとなっていた。

 しかし、このブラウザでは、動画の最初の画面をサムネール式に一覧表示してくれるうえ、静止画ファイルと同列で表示してくれるので、画像データの整理がとても容易にできる点に感心する。また、ファイル毎にデータサイズや動画の記録時間を表示することもできる点も便利だ。

 また、撮影した画像を簡単に編集できる「ASFカッター」(必要な部分の前後をカットできる)も便利。この機能を使えば、長めに撮影しておいて、最良の部分だけを掲載することができるため、撮影時の精神的な負担をかなり軽減することができる。

 さらに、「ビットレートコンバータ」を使うことで、撮影時のデータを元に、より軽いMPEG-4データへのコンバートをすることもできる。また、各モードに変換したときにデータ量や送信相手へのマナーチェックもできるので、とても分かりやすい。

 このほか、簡単に動画ファイルを使ったHTMLを作成できる「HTMLパッケージャ」、動画ファイルを添付すると同時に、再生時の注意書きをメールの本文に自動的に追加してくれる「メールアタッチャ」なども便利だ。

ASFカッター

ビットレート
コンバーター

HTMLパッケ-ジャー

メールアタッチャ

 実際に動画ファイルを活用しようとすると、これまではある程度の知識と経験値が必要だったわけだが、本機では付属ソフトでその部分をきちんとカバーしている点は高く評価できる。

●注意が必要な再生環境

 本機を使っていて、一番大きな問題だったのが再生環境だ。まず、付属ソフトをインストールしたWindows 98マシンでは、なんのトラブルもなく、きちんと再生することができる。

 ただ、シャープ側が説明しているように、IE5が標準インストールしてあっても、再生できないケースが意外なほど多かったのも事実だ。もちろん、このあたりの注意については、シャープのホームページに懇切丁寧な説明があるのだが、それを読み、最新のIE5を改めてダウンロードしてもなお、きちんと再生できないこともあった。

 ASFフォーマット自体が登場したばかりで、環境がきちんと整っていないのが原因と思われ、この点は時間とともに解決されてゆくのだろう。だが、現時点では、ホームページ上などで本機のASFファイルを利用したページを作った場合には、それなりの配慮が必要だ。

 なお、現バージョンのメディアプレーヤーは標準の状態ではASFのコーデックを持っていない。最初の再生時にインターネットに接続されていると、メディアプレーヤーが自動的にコーデックをダウンロードし以後は再生可能となる。(注:編集部ではWindows 98/NT 4.0上のメディアプレーヤー 6.0x上で確認した)。

●時代にマッチしたインターネット専用機

 本機は、「インターネットビューカム」というネーミング通り、インターネット用途に特化したモデルとして、とても魅力的なモデルに仕上がっている。

 ちょっと前まで、インターネット上で動画を扱うのは、きわめて特殊なことだった。しかし、動画には静止画では表現できない世界があり、動きはもちろんのこと、その場の臨場感までも伝わって来るという大きな魅力がある。

 とくに近年は、ソニーの一連のモデルのように、標準でMPEG-1による動画が撮影できるモデルが続々登場することで、その世界がより身近なになってきた。そして、今後は、MPEG-4をベースとした「インターネットビューカム」のような製品が普及することで、誰でも動画を配信できるような環境が整ってくることだろう。

 なかでも、本機が採用したAFSフォーマットは、相手がWindows環境であれば、再生環境をさほど気にすることなく動画データを配信できる。その意味で本機は、まさにインターネット時代にマッチした魅力的な動画カメラだ。

 ただ、本機はコンセプト上、テレビの大画面で再生するような、デジタルビデオ的な用途には向いていない。そのため、本機の購入を検討する際には、ぜひこの点だけはきちんと理解したうえで、自分の用途をよく考えて機種を検討されることをオススメしたい。

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□ニュースリリース
http://inet-viewcam.sharp.co.jp/index.htm
□関連記事
【3月17日】シャープ、スマートメディアにMPEG-4動画を撮影できる 「インターネットビューカム」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990317/sharp.htm

■注意■

('98年5月14日)

[Reported by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp