WWDC(Worldwide Developers Conference)基調講演レポート  2日目
今後の広告・販売戦略、P1、PowerPC G4搭載Macintosh

会期:'99年5月10日~5月14日 開催(現地時間)
会場:SanJose McEnery Convention Center

 Apple ComputerのWWDC(Worldwide Developers Conference = 世界開発者会議)も2日目。5月11日(現地時間)の午前中に行なわれた2つの基調講演から、今後のキーポイントとなる情報をいくつか紹介する。


■好調な業績と各販売チャネルへの更なる注力を示唆

 まず、ワールドワイド・セールス担当の上級副社長であるMitch Mandich氏が、販売戦略について講演を行なった。昨年来、何度も語られていることではあるが、流通在庫の調整に著しい向上があったことを改めて強調した。特に'99年第2四半期においては在庫を1日分にまで圧縮できたとしている。

 同氏はまた、「We are in the Culture」という言葉を用いて、iMacはApple Computer自身の行なうPR以外にも、ニューヨークの著名デパートでの店頭ディスプレイに利用されたり、MTVの広告にも登場するなどさまざまなメディアに露出することで、無償で大きな効果をあげていること。こうしたメディアに興味を持ち、BusinessWeek誌で特集された「Yジェネレーション」と呼ばれる世代は、その親に対しても影響力が強く、大きな購買層の獲得につながっていることを伝えた。

 一方販売チャネルについては、iMac登場以前から実施してきた販売店舗の整理統合に加えて、電子商取引やEducation(教育)市場での成果を強調。特に教育市場では昨年度の売り上げが3,000万ドルだったにもかかわらず、'99年度は第2四半期までで2億ドルを達成したとしている(注:Apple Computerの会計年度は9月で区切り。'99年3月末の時点で'99年度第2四半期の終了となっている)。

 また5色一組というiMacの製品納入に反発して、米流通大手Best BuyがiMacの販売から撤退したという報道とその影響について、全米の販売拠点を図示することで説明。昨日発表されたSEARSの参入が、より良い結果を生むと期待を寄せた。

 さらに全米に広がる大型パソコン販売チェーン「CompUSA」と協力し、販売成績の良い店舗と悪い店舗を抽出。Appleから応援の販売スタッフを派遣して何が良くて何が悪いか、その内容をフィードバックしていくという。また今後は「Learn & Earn Program」と呼ばれる販売員のトレーニングシステムを、日本などに提供していくことも明らかにした。

iMacは日本市場において20%のマーケットシェアを持つという メールオーダーや、電子商取引といった販売チャネルを説明するMitch Mandich氏

Best Buy撤退後の販売拠点と、SEARS参入の結果。これで空白になっているところには山か砂漠しかないと、聴衆の笑いを誘った




■『P1』と深い関わりをもつ『Macintosh Portable』?!

 10分ほどの休憩をはさんで、ハードウェアエンジニアリング担当のJon Rubenstein氏、プロダクトマーケティング担当のPhil Schiller氏という、両上級副社長が揃ってステージへと登場した。「Jonです」、「Philです」という簡単な自己紹介のあと、早速現在の製品ラインナップの状況からステージを開始した。iMacとPowerMac G3に関しては、これまでさまざまな場所で語られた内容とほとんど違いがない。ただ、EPSONが同社のインクジェットプリンタに5色のラインナップを追加したことを紹介、「こうしたカラフルな製品が欲しいときは、日本へ行くといい。プリンタは言うに及ばず、ハブや電源タップまで、5色の製品が揃っている」と、現在の日本の状況を伝えた。

 続いて、昨日発表されたPowerBook G3について、重量やバッテリ持続時間についてのアドバンテージを改めて紹介。Pentium搭載機との速度比較では、同じ400MHzのCPUを搭載したノートブックが存在しないとして、Pentium IIIの500MHzを搭載したCOMPAQのデスクトップ機と、Photoshopで比較を行なった。余談になるが、こうした同時スタートによる比較の時に、いつも負ける側をクリックするのがPhil氏のような気がしてならない。相手が上司であるSteve Jobs氏であっても、今回のようにPowerBook G3側を担当するのが、自分の部下であるプロダクトマネージャであってもだ。これは、彼の人柄の良さからくるものなのだろうか。

 閑話休題。続いて、いよいよ最後の空白、ポータブルコンシューマ機のエリアへと話題は移っていく。ここで「はっきり言えないが、製品はこんなものをイメージしてくれ」と言ってPhil氏が取り出したのが、なんと『Macintosh Portable』。場内が爆笑するなかで、Phil氏は淡々と「アクティブマトリクス液晶を採用した」とか、「初めてポインティングデバイスを内蔵した」とか、「バッテリで長時間動作していた」など、次々に同製品の“当時の”アドバンテージを解説。言うなれば笑いのうちに誤魔化されてしまった感じだが、言外に「その時点で考えられる最高の技術を用いて、妥協をせずに作っている」と伝えたかったのではないかと推測する。

ハードウェアに関する講演を担当した二人。右がJon Rubenstein氏で、左がPhil Schiller氏 すっかり定着したラインナップの構成図。いまだにコンシューマ向けのポータブルがはいるべきエリアは1999と書かれたまま EPSON製のプリンタを加えて、「Collect All Ten!」と書かれたスライド。MACWORLD Expoでの「Collect All Five!」にかけたネタ

PowerBook G3とPentium III搭載機のPhotoshopでの速度比較。結果は割愛するが、負ける側を担当しているのがPhil氏 講演台のなかからいきなり取り出された『Macintosh Portable』。この機種と『P1』との深い関わりとは? ちょっと写真からはわかりにくいが、インターネットなどで飛び交うP1に関する噂をネタに、(競泳用のゴーグルとおぼしき)3Dゴーグルまで持ち出し笑いを誘う




■G4搭載のPower Macintoshは2000年になってから

 講演内容は次世代PowerPCである「G4」へと移る。Pentium III、そしてPowerPCとの比較をまじえて、G4の持つアドバンテージを紹介。モトローラによるAltiVecは、Vector Processingを最大の特徴として、音声や映像などの処理を高速かつ大量に行なうことができる点などを紹介した。デモンストレーションは、PhotoshopやShockwave、Directorなどを使い、そのスペックを実証してみせ、さらに現在はG4に対して最適化されていないハードウェアを利用してデモンストレーションしているので、製品化の際はさらに性能が向上すると何度か付け加えた。なお、G4を搭載したPower Macintoshについては、来年のWWDCまでには登場していると話し、言葉を濁しながら2000年初頭の製品化をメドとした。

 他に、ストレージ関連の情報としては、今後標準のハードディスクとしてはATA Ultra DMA 66を、BTOでのオプションとして SCSI Ultra2 LVDを採用していくことを、明らかにした。リムーバブルメディアとしては、今後もフロッピーディスクドライブの内蔵はないことを改めて強調し、DVDメディアへの更なる注力という方向性を示した。また、日本においてはMOが主流という事情にも触れ、こうしたメディアもおろそかにせずサポートをしていくと付け加えた。

 USBとFireWireについては、改めてロードマップが示された。Mac OS 8.6に含まれる内容や、まもなく提供されるフィーチャーに加え、いくつかの将来的な展望も紹介している。例えばUSBにおいては、ドライバのネットダウンロード機能や、USBデバイスからのブート、Force Feed BackとCardBusへの対応などである。

 この中からドライバのネットダウンロード機能が実際にデモンストレーションされた。ドライバがインストールされていないMacintoshに対して、USB接続のZipドライブをプラグイン。ネットワークからドライバを自動的にダウンロードして(ここは、ネットワークへの接続に時間がかかりハラハラさせられたが)、即座にディスクがマウントされた時には場内から拍手も起こった。

 一方、FireWireでは、FireWireデバイスからのブート、YAMAHAの提唱するmLANのサポート、DVCPRO50(通常使われているDVの2倍である50Mbpsの転送速度を持つDV)への対応などを将来的な展望として紹介した。こちらのデモは、QuickTimeムービーの再生中に、こうしたデモではお馴染みのVST製FireWire対応ハードディスクを抜き差しするという(ハブを利用して数台を一気にマウントしてはいたものの)わりと見慣れた内容に留まった。

 最後はインダストリアルデザインについて触れ、最近、韓国のメーカーから発売されたトランスルーセントのPC用ケースが、よく似た構成の5色であることをカタログから紹介。iMacをはじめとしたApple Computerによるデザインが、業界に大きな影響を与え、これからもリーダーシップをとっていくことを強調し講演は締めくくられた。

プリフェッチング、ストリーミング、3倍のバンド幅、より高速なアクセスなどの特徴をもつPowerPC G4 G4に搭載されるAltiVecは、Vector Processingを最大の特徴として、音声や映像などの処理を高速かつ大量に行なう G4とG3のパフォーマンス比較。項目によっては8倍もの性能差が存在する

G4とPentium IIIのチップデザインの比較 Photoshopや、天体シミュレーションなどの学術計算ソフトを使ったG4とG3での速度比較。ここでもPhil氏は負ける側(つまりG3)をクリック

USBのロードマップ。Mac OS 8.6にはUSB1.2が含まれている ネットワーク経由でUSB対応のドライバを取得。ダウンロード終了直後にZipディスクがマウントされた FireWireのロードマップ。FireWire2.1はまもなく提供される



□WWDCホームページ
http://www.apple.com/developer/wwdc99/

('99年5月12日)

[Reported by 矢作晃]


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