Apple ComputerのWWDC(Worldwide Developers Conference = 世界開発者会議)が、5月10日(現地時間)に幕を開けた。会場は、昨年に続いてカリフォルニア州サンノゼ市中心部に位置するSanJose McEnery Convention Center。これから5日間にわたって、同社が今後展開していくソフトウェアやハードウェアの概要が、世界各地から集まったデベロッパー達に開示される。
'97年までは、日本をはじめ世界各地でも開催されていたDevelopers Conferenceだが、昨年からは米国に一元化。開催にともなう負担の軽減と、各国版へのローカライズを視野に入れたOSやソフトウェアのInternational化を推進している。日本からの参加者は、米国内からの参加者に次ぐ規模で300人を超える。場内では主要セッションにおいて、英語以外の言語では唯一、日本語による同時通訳も行なわれる。
ソフトウェアのデモンストレーションでは、3人がステージに集う。進行をJobs氏(写真左)、個々の解説をTevanian氏、実際のデモをSchller氏が受け持つ |
好調なセールスを続けるiMacに関しても、いつもどおり新規ユーザーの占める割合の高さを強調。米国内では新たにSearsがiMac販売店に加わり、全米で825に上る店舗で、祝日にあたるMemorial Dayの週末から販売がスタートする。Jobs氏はこれによりまた新たな購買層を確保できると期待を明らかにした。
続いて、基調講演とほぼ同時に公開されたMac OS 8.6のアップデートを紹介。日本語バージョンを含む世界10カ国版のアップデータが無償でダウンロードできる。米国ではインターネット経由でダウンロードするほかに、19.95ドルの手数料でCD-ROMを入手することが可能(アップルコンピュータによる日本国内の対応については、別記事を参照のこと)。なお、OS 8.6で提供されるのは、新バージョンのSherlock、パワーマネジメントシステムの改良(バッテリ使用時の駆動時間の延長)、ノキアやエリクソンといったIrDA搭載を搭載した携帯電話機のサポート、DVD-RAMのサポートなど。
写真提供:Apple Computer, Inc. Photographer: Hunter Freeman |
たとえば本体の厚みは20%ほど薄くなった。これは主に14.1インチのTFT液晶を搭載したパネル部分によるところが大きい。また重量も5.9ポンド(およそ2.7kg)と軽量化されている。国内のノート需要から考えれば重量級もいいとところだが、DVD-ROMを搭載したオールインワンノートとしては、IBMやCOMPAQなど他社製品以上の軽量化を実現しているという。また、OS 8.6によるパワーマネジメントシステムの改良と、新開発のリチウムイオンバッテリの採用で、バッテリ持続時間が5時間に達したことを強調。コメディ映画「オースチンパワーズ」のDVDを例にとり、「これまでは1回だったが、これからは2回楽しめる」と聴衆の笑いを誘った。米国では5月20日から出荷が開始される。
ちなみに最近のMacintoshに顕著なトランスルーセントのパーツだが、同製品ではキーボード部分に採用されている。やや茶色がかった半透明のキーボード。米国で発売されるモデルの価格と仕様は下記のとおり。
【新PowerBook G3】
14.1インチ TFT/333MHz/512K L2/64MB/4GB/24xCD-ROM/Ethernet/56K MODEM | 2,499ドル |
14.1インチ TFT/400MHz/1MB L2/64MB/6GB/2xDVD-ROM/Ethernet/56K MODEM | 3,499ドル |
なおこの新PowerBook G3が、最初のユーザーとして今回のWWDC参加者にプレゼントされるというユニークなイベントが基調講演からスタートした。会期中、およそ1時間に1台の割合で、合計50台ものPowerBook G3が提供される。Jobs氏によれば「最高のユーザーには最高のモデルを」ということで、提供されるのは400MHzの上位モデル。その場で「私の基調講演は、およそ2時間だから」と述べ、Jobs氏自ら、幸運な最初の当選者2名を抽選した。残念ながら初日の当選者には含まれていなかったが、全体の10%あまりを占める日本人参加者の中からも、数名の幸運な参加者が生まれるものと思われる。
また、同社の製品ラインナップの中で唯一空白となっており、期待も高いコンシューマー向けポータブル「P1」に関しては、「今後、発表する予定」と、ひと言ふれただけに留まった。
バッテリの持続時間は五時間。2個を内蔵させれば10時間も連続動作する | 左側面に用意されているPCMCIAスロットは、Type2対応のひとつのみ。現行モデルより20%ほど薄いという |
Javaに関しては、OS 8.6に含まれているMac OS Runtime for Java(MRJ)2.1.1のパフォーマンスをデモ。従来版に比べて、最大で5倍ものパフォーマンスを引き出せたとしながらも、ややWindowsでの動作に及ばないとして、今後の改良を約束した。なおインターネットではすでにOS 8.6に含まれるMRJ2.1.1より新しいMRJ2.1.2の配布もスタートしていることが付け加えられた。
QuickTime4に関しては、公開が間近に迫った「STARWARS:Episode1」の映像を題材にストリーミングによる再生などを披露。他に、新たにサポートされたMP3ファイル、インタラクティブな操作ができるFalsh3ファイルなど、さまざまなマルチメディアファイルの再生がデモンストレーションされた。
サイトに登録されたSTARWARS関連のビデオクリップのなかで、もっとも参照数が多いものはなんと25MBサイズのもの | QuickTime4では、インタラクティブなビデオファイルも取り扱うことができる |
Sonataのデスクトップ。Mac OS 8.5とほとんど変わらない印象 |
まずSherlockIIは、QuickTime4によく似たウインドウ表示へと変更が加えられている。検索結果を別ウインドウにしないことで、ユーザーインターフェイスが大きく変わったのが印象的。検索先となるPlug-inをまとめてパレット部分に保存し、必要に応じた検索サイトのセットが利用できるなど、カスタマイズの範囲が向上している。特にamazon.comやeBayなどのショッピングサイトにおいては、検索商品のサイト以外に値段表示まで行なうなど「インターネットにおける最も簡単な買い物の方法」と、Jobs氏は位置づけている。
マルチユーザーについてのデモでは、ログインするユーザーによって切り替わるデスクトップ環境や、ホームユースにおけるチャイルドプルーフを目的としたアクセスサイトの制限、共有ディレクトリなどが披露された。そして鍵束機能(以前、PowerTalkでサポートされていたもので、知っているユーザーも多いことと思う)で、各種のサーバやインターネットのWWWページのID、パスワードを一元管理することもできるという。最後に、このログイン操作はパスワード入力だけでなく、マイクに向かった音声認識によっても実行できるとして、Phil Schiller氏自身の声でログイン。見事に目的のデスクトップ環境が表示され、聴衆の拍手を浴びた。
リリース時期は、今秋としながらも具体的には明らかにされなかった。
SherlockIIのウィンドウは、QuickTime Playerのそれによく似ている。上部にあるのが、検索サイトのセットなどが登録できるパレット | マルチユーザーに対応したSonataでは、子供に見せたくない情報やWebサイトなどにアクセスの制限をかけることができる | ログイン画面。音声での認証時にはウインドウに音声の波形まで表示されていた |
DarwinとQuartzの上位にあたるレイヤとして示されたのが、Mac OS 8のAPIをサポートするBlueBox。昨年示されたCabon。そして、YellowBoxの3つであるが、今回、BlueBoxとYellowBoxは、それぞれClassicとCocoaに名称が改められている。
Mac OS X上のアプリケーションとして、Classicに関しては開発が終了したものとして特にデモはなかったが、Carbon上のFinder、そしてMac OS Xの標準メールシステムになると思われるCocoa上のメールアプリケーションの2つがデモンストレーションされた。
ここでJobs氏が明らかにしたMac OS Xの今後のロードマップは、Developer Release1が、当日に会場内で配布、秋にはRelease2が、そして2000年の早い時期に製品版がリリースされるとしている。講演の終了後、参加者はあらかじめ渡されていたOS Xのクーポンを手に、足早にDeveloper Release1の配布場所へ向かっていった。
こうして終了した基調講演だが、Jobs氏は終了後、ステージへと駆け寄った参加者とも言葉を交わすなど、東京で開催されたMACWORLD Expoの時とは異なり、始終機嫌が良さそうであったのも印象的な講演となった。
なお、この基調講演の様子は先日NAB'99で公開され、現在は一般向けにもPreeview Release版が配布されているQuicKTime 4のストリーミング機能を利用したリアルタイム配信が行なわれた。同社によると世界各地で、16,000人を超える視聴があったという。また日本からは深夜1時30分過ぎという遅い時間にも関わらず、1,000人を超えるアクセスがあったということだ。
5月11日(現地時間)には、上級副社長のMitch Mandich氏(ワールドワイドセールス担当)、Jon Rubenstein氏(ハードウェアエンジニアリング担当)、Phil Schiller氏(プロダクトマーケティング担当)らによる、基調講演が予定されている。
Mac OS Xのデスクトップ。Mac OS 8.xとはやや印象が異なる | いずれもQuartzのデモ。オブジェクトがぶれているのは、半透過状態にしたまま位置を変えようと動かしているため |
Mac OS Xのレイヤ構造。Classic(旧称BlueBox)、Carbon、Cocoa(旧称YellowBox)上でシームレスにそれぞれのアプリケーション動作する | Carbon上のFinderアプリケーション。OPENSTEPライクなファイルマネージャに、Finderのようなファイルのアイコン表示を統合させている |
メールソフトのデモンストレーションでは、メール内のPDFファイルに含まれる文字列の検索も行なっていた | Mac OS Xのロードマップ。カーネル部分をMach2.5からMach3.0へと変更するなど、これまでの発表よりはやや遅れ気味のスケジュール |
('99年5月11日)
[Reported by 矢作晃]