日本アイ・ビー・エム株式会社は、「ThinkPad 570」の発表にあわせ、都内で製品開発担当者によるテクニカル・セミナーを開催した。
開発を行なっている大和事業所の担当者から、歯に衣を着せぬ解説が聞け、非常に面白くかつ有意義なセミナーとなった。
ThinkPad 570の技術的側面については、ポータブル システムズ 技術推進担当部長 内藤在正氏が解説を行なった。
■そして、ThinkPad 570にたどり着いた
【内藤在正氏】 |
そういった点も考慮して、13インチ液晶搭載で世界最小最軽量を目指したのが「ThinkPad 570」。レガシーインターフェイスを本体にすべて搭載し、ドッキングステーションにつなぐことで全てのドライブを利用できる。それは、性能的にIBMのフラグシップモデル「ThinkPad 770」に近いもの。結果的に、770との違いは、14インチ液晶モデル、1,280×1,024ドットのモデルがないのと、MPEG-2ハードウエアエンコーダが無いことのみになった。
■性能/機能を妥協しない重量
IBMとしては、レガシーインターフェイスを省くのは時期尚早であると判断した。バッテリ駆動時間も、モバイルでの運用を考えれば3時間は必要。軽量化も強度を保つため、570では機構部品の重量はあまり減らしていない。バッテリについては、セルを丸型から角型に、材質もアルミニウムにすることで軽量化、省スペース化を実現した。
また、最初に搭載されているHDDは9.5mm厚のものだが、12.7mmのHDDも搭載可能。40g重くなるがオプションで10GBまで拡張できる。ThinkPad 560には搭載しなかったモデムも内蔵した。モデムは以前MWAVEを使用していたが、今回はIBMが提案しているエッジコネクタ式のMiniPCI Type3のものを搭載。順次、MiniPCIのEthernetなども供給されるので、これからのThinkPadではMiniPCIを採用していく。
また、重量やコスト的には不利になるが、キーボード裏にはビニールシートを貼っている。これにより、多少のコーヒーやコーラをこぼしても内部に液体が侵入しない。構造的にもキーボードユニットのエッジを立ち上げた「バスタブ構造」にしてあるほか、キー1つ1つのメンブレン接点も保護してある。
他メーカーと比べて、IBMのノートは重いといわれる。確かに570の場合、液晶を12.1インチにすると70g、バッテリ容量を1時間にして120g、造り付けにして20g……、と“あきらめて”いけば300gは軽くできる。しかし、“全て”を入れるというコンセプトに合わない製品になってしまう。
ThinkPad 560Zと570の各パーツの重量比較表。1g単位の涙ぐましい努力が伺える。 | 基板の左下にある黄色のビニールに包まれているのが、モデムユニット。これからはMWAVEはやめて、MiniPCIでいくそうだ。 | キーボードの裏側。ビニールシートが貼ってあり、内部への液体の浸入を防ぐ。とはいえ、もとからこぼさないのが一番だ。 |
■熱はCPUからだけ出ているわけではない
ノートPCでは、放熱の問題は重要だ。サーマルマネージメントという考え方があるが、他のメーカーのPCでは内部温度が上がると、勝手にCPUのクロックを下げるものがある。このこと自体を否定するつもりはないが、IBMではよほどの緊急事態でない限り、勝手にクロックを下げることはない。
560に搭載していたファンはブレードが7枚のもの。570には9枚のものを搭載している。もちろん、発熱するのはCPUだけでなく、ブリッジチップも激しく発熱する。これについては、ちょうどチップが当たる底板の部分に、ヒートパイプ式のヒートシンクを設置し冷却している。また底部の内側も、シミュレーション実験をして空気の流れをよい構造を採用している。
冷却がよくてもうるさければ意味がなく、デスクトップPCより3db低くすることを自主基準としている。
左が570、右が560の底板。560に比べて、かなり複雑な構造になっているのがわかる。 | チップセットの当たる部分に、ヒートパイプを利用したヒートシンクが設置されている。 |
■耐久テスト
耐久テストに関しては、テスト風景のビデオを流して解説した。製品テストは開発部門とは別の部門が行なっているので、開発担当者も映像を見るのが辛いという。
まずは、電源を入れたままの落下テスト。リノリウムの床に約46cmの高さから、絨毯の上に約76cmの高さから落下させる。ウルトラベースに装着してのテストも行なわれる。繰り返し荷重テスト(50kgは数十回、50gを15,000回、キーボードは20kg)、LCD開閉テスト3万回。ビデオにはなかったが、最も衝撃が伝わりやすい角から落とす8コーナードロップ、ねじりテスト、コーヒーまたは、コーラをこぼすテストなども行なわれる。
本体裏を見るとデコボコしているほか、突起が各所に設けられている。不恰好に見えるが、これにより耐衝撃性が高まるという。
キーボードに20kgの荷重を加えるテスト。 | 底面は流行に逆らってデコボコしている上、突起が所々にある。見栄えはよくないが、耐衝撃性が上がるデザインとのことだ。 |
■質疑応答
セミナーの最後には質疑応答が行なわれた。
――今回もそうだが、IBMではノートPCのビデオチップにNeoMagicのチップを採用しているが、3D性能を考えればATIのチップという選択もあると思うが?
NeoMagicのチップは、メモリのインテグレーションが優れているので2Dの性能が高い。まだノートPCの3D性能は中途半端だと考えているので、2Dの性能を重視している。来年ぐらいからはノートPCでも、ワークステーションのエントリークラスの3D性能を得られると予測している。
――HDDを、CドライブがFAT16(2GB)で残りの容量をFAT32に割り当てているのはなぜか?
個人的にも非常に不便だと思っている。できるだけ早く是正したい。
――ライオス・システムが解散したが、チャンドラのようなミニノートPCの開発はどうなるのか?
ミニノートPCは大和事業所でも企画、開発を進めている。ただし、時期などについては未定。
□日本IBMのホームページ
http://www.ibm.co.jp/
□「ThinkPad 570」の製品情報
http://www.ibm.co.jp/pc/thinkpad/tp57094/tp57094a.html
□関連記事
【4月20日】IBM、13.3インチXGA液晶搭載した厚さ28mmのA4ノート「ThinkPad 570」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990420/ibm.htm
('99年4月21日)
[Reported by furukawa@impress.co.jp]