IBM、「ThinkPad 570」のテクニカル・セミナーを開催

'99年 4月20日開催

 日本アイ・ビー・エム株式会社は、「ThinkPad 570」の発表にあわせ、都内で製品開発担当者によるテクニカル・セミナーを開催した。

 開発を行なっている大和事業所の担当者から、歯に衣を着せぬ解説が聞け、非常に面白くかつ有意義なセミナーとなった。

 ThinkPad 570の技術的側面については、ポータブル システムズ 技術推進担当部長 内藤在正氏が解説を行なった。

そして、ThinkPad 570にたどり着いた


【内藤在正氏】
――内藤氏の解説の要旨
 ThinkPad 560は非常によく売れた。質感なども評価されて会社の中では、課長さんや部長さんの机に置かれることも多かった。しかしその場合、液晶がSVGA(800×600ドット)であることや、CD-ROMドライブなどを付けると机の上がゴチャゴチャしてしまうという問題点があった。

 そういった点も考慮して、13インチ液晶搭載で世界最小最軽量を目指したのが「ThinkPad 570」。レガシーインターフェイスを本体にすべて搭載し、ドッキングステーションにつなぐことで全てのドライブを利用できる。それは、性能的にIBMのフラグシップモデル「ThinkPad 770」に近いもの。結果的に、770との違いは、14インチ液晶モデル、1,280×1,024ドットのモデルがないのと、MPEG-2ハードウエアエンコーダが無いことのみになった。


性能/機能を妥協しない重量

 IBMとしては、レガシーインターフェイスを省くのは時期尚早であると判断した。バッテリ駆動時間も、モバイルでの運用を考えれば3時間は必要。軽量化も強度を保つため、570では機構部品の重量はあまり減らしていない。バッテリについては、セルを丸型から角型に、材質もアルミニウムにすることで軽量化、省スペース化を実現した。

 また、最初に搭載されているHDDは9.5mm厚のものだが、12.7mmのHDDも搭載可能。40g重くなるがオプションで10GBまで拡張できる。ThinkPad 560には搭載しなかったモデムも内蔵した。モデムは以前MWAVEを使用していたが、今回はIBMが提案しているエッジコネクタ式のMiniPCI Type3のものを搭載。順次、MiniPCIのEthernetなども供給されるので、これからのThinkPadではMiniPCIを採用していく。

 また、重量やコスト的には不利になるが、キーボード裏にはビニールシートを貼っている。これにより、多少のコーヒーやコーラをこぼしても内部に液体が侵入しない。構造的にもキーボードユニットのエッジを立ち上げた「バスタブ構造」にしてあるほか、キー1つ1つのメンブレン接点も保護してある。

 他メーカーと比べて、IBMのノートは重いといわれる。確かに570の場合、液晶を12.1インチにすると70g、バッテリ容量を1時間にして120g、造り付けにして20g……、と“あきらめて”いけば300gは軽くできる。しかし、“全て”を入れるというコンセプトに合わない製品になってしまう。

ThinkPad 560Zと570の各パーツの重量比較表。1g単位の涙ぐましい努力が伺える。 基板の左下にある黄色のビニールに包まれているのが、モデムユニット。これからはMWAVEはやめて、MiniPCIでいくそうだ。 キーボードの裏側。ビニールシートが貼ってあり、内部への液体の浸入を防ぐ。とはいえ、もとからこぼさないのが一番だ。


熱はCPUからだけ出ているわけではない

 ノートPCでは、放熱の問題は重要だ。サーマルマネージメントという考え方があるが、他のメーカーのPCでは内部温度が上がると、勝手にCPUのクロックを下げるものがある。このこと自体を否定するつもりはないが、IBMではよほどの緊急事態でない限り、勝手にクロックを下げることはない。

 560に搭載していたファンはブレードが7枚のもの。570には9枚のものを搭載している。もちろん、発熱するのはCPUだけでなく、ブリッジチップも激しく発熱する。これについては、ちょうどチップが当たる底板の部分に、ヒートパイプ式のヒートシンクを設置し冷却している。また底部の内側も、シミュレーション実験をして空気の流れをよい構造を採用している。

 冷却がよくてもうるさければ意味がなく、デスクトップPCより3db低くすることを自主基準としている。

左が570、右が560の底板。560に比べて、かなり複雑な構造になっているのがわかる。 チップセットの当たる部分に、ヒートパイプを利用したヒートシンクが設置されている。


耐久テスト

 耐久テストに関しては、テスト風景のビデオを流して解説した。製品テストは開発部門とは別の部門が行なっているので、開発担当者も映像を見るのが辛いという。

 まずは、電源を入れたままの落下テスト。リノリウムの床に約46cmの高さから、絨毯の上に約76cmの高さから落下させる。ウルトラベースに装着してのテストも行なわれる。繰り返し荷重テスト(50kgは数十回、50gを15,000回、キーボードは20kg)、LCD開閉テスト3万回。ビデオにはなかったが、最も衝撃が伝わりやすい角から落とす8コーナードロップ、ねじりテスト、コーヒーまたは、コーラをこぼすテストなども行なわれる。

 本体裏を見るとデコボコしているほか、突起が各所に設けられている。不恰好に見えるが、これにより耐衝撃性が高まるという。

キーボードに20kgの荷重を加えるテスト。 底面は流行に逆らってデコボコしている上、突起が所々にある。見栄えはよくないが、耐衝撃性が上がるデザインとのことだ。


質疑応答

 セミナーの最後には質疑応答が行なわれた。

――今回もそうだが、IBMではノートPCのビデオチップにNeoMagicのチップを採用しているが、3D性能を考えればATIのチップという選択もあると思うが?

 NeoMagicのチップは、メモリのインテグレーションが優れているので2Dの性能が高い。まだノートPCの3D性能は中途半端だと考えているので、2Dの性能を重視している。来年ぐらいからはノートPCでも、ワークステーションのエントリークラスの3D性能を得られると予測している。

――HDDを、CドライブがFAT16(2GB)で残りの容量をFAT32に割り当てているのはなぜか?

 個人的にも非常に不便だと思っている。できるだけ早く是正したい。

――ライオス・システムが解散したが、チャンドラのようなミニノートPCの開発はどうなるのか?

 ミニノートPCは大和事業所でも企画、開発を進めている。ただし、時期などについては未定。

□日本IBMのホームページ
http://www.ibm.co.jp/
□「ThinkPad 570」の製品情報
http://www.ibm.co.jp/pc/thinkpad/tp57094/tp57094a.html
□関連記事
【4月20日】IBM、13.3インチXGA液晶搭載した厚さ28mmのA4ノート「ThinkPad 570」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990420/ibm.htm

('99年4月21日)

[Reported by furukawa@impress.co.jp]


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