プロカメラマン山田久美夫の

エプソン CP-800β機実写レポート


CP-800  4月15日に発表されたエプソン「CP-800」の山田久美夫氏による実写画像を公開する。スペックなどについては参考記事を参照されたい。なお、撮影した本体はβ機であり、製品版とは異なる場合がある。特に指定のない画像は1,600×1,200ピクセルで撮影している。

(編集部)



 エプソンからコンパクトで高品位な214万画素単焦点モデル「CP-800」が発表された。本機は同社初の200万画素モデルであり、ボディも一新された新世代モデル。

 「おっ、なかなかいいじゃん!」というのが本機の第一印象。これまでのエプソン製デジタルカメラは画質やコストパフォーマンスの高さは評価できたが、どうもデザインと質感が今ひとつ……という印象があった。本機も完全にその傾向がなくなっているわけではないが、少なくとも現行の200万画素単焦点モデルのなかでは、なかなかいい線をいっている感じだ。


薄型の高品位金属ボディ

 基本的なスタイリングは、いわゆる普通のコンパクトカメラに近い雰囲気で親しみやすい。レンズがボディ端に位置しているため、結果的にデジタルカメラっぽいデザインにはなっているが、一般的なカメラユーザーが手にしてもさほど違和感のないレベルに落ち着いている。

 ボディの外装素材はアルミ合金を採用。表面の仕上げも比較的良好で、適度な高級感がある。

 サイズは、FinePix2700を横に寝かせた状態で比較してみると、横幅は広いが、高さは10mm近く小さい感じ。さらに、本機は厚みが35.5mmと薄型な点が大きな特徴。実際にカメラの携帯性は縦横の寸法も重要だが、それ以上に効くのが“薄さ”といえる。
 そのため本機は見た目以上に携帯性がよく、必要ならばワイシャツの胸ポケットに入れて、気軽に持ち歩けるレベル。実際に今回はズボンのポケットにいれて持ち歩いてみたが、意外なほどかさ張らなかった。さらに携帯性を高くしているのが、デザイン。レンズ周辺がやや盛り上がっており、レンズに指が触れにくいためケースレスで持ち歩いても安心感がある。しかもレンズカバーまで内蔵されている。もっともレンズカバーはメインスイッチと連動していないので、開け忘れてシャッターチャンスを逃す可能性もあるかもしれない。


わかりやすい操作性

 操作性はなかなか良好。基本的な操作はボディ上面で行なう。まずボディ端にメインスイッチ兼用のモードダイアルがあり、これで撮影や再生のほかセットアップ機能などへのモード切り替えを行なう。
 このダイアルにはロック機能があり、OFFから記録もしくは再生モードにするときには、ロックボタンを押しながら操作するスタイルとなっている。そのため、持ち歩いている間に、知らぬ間に電源スイッチが入ってしまうようなことがなく安心感がある。

 記録モードやストロボモード、セルフタイマーなどの設定は従来通り上部の液晶周辺にあるボタン操作で行なう。もちろん記録モードとストロボの設定は、電源スイッチを切っても保持される。

 また上部のモード表示用液晶には上記のモードのほか、ISO感度、ホワイトバランス、露出補正値なども表示される。これらの設定は、背面のカラー液晶モニター周辺のスイッチで設定できる。他社メーカーではこれらを設定するためにいちいち液晶を点灯させる必要があるケースが多いのだが、本機ではその必要がない点はなかなか親切。特に光学ファインダーメインで撮影するユーザーや、バッテリ切れギリギリまで撮影したい場合には重宝するだろう。

 細かなモード設定は、背面液晶周辺のボタンでセットする。といってもボタンの数が限られているため、通常は使用頻度の高い露出補正、マクロ&パノラマ切り替え、感度セット、ホワイトバランスなどに割り当てられている。
 そのほかの操作をする場合は、メニューボタンを2秒以上押し続けることで同じボタンが別機能に割り当てられる。つまりPCのシフトキーと同じ考え方だ。各ボタンの機能内容は、適時液晶モニター上に表示されるので迷うことはない。
 また、本機はメニュー表示がきちんと日本語化されている点も親切だ。

【マクロ撮影】
【フラッシュ撮影】


フルオートからマニュアル撮影までOK

 まず本機の特徴は、カスタマイズ機能が実に豊富な点があげられる。このように書くと、面倒なモデルのように感じられるが、そんなことはない。
 というのはモードダイアルを“i”(インフォメーション?)にあわせると、カメラの基本機能を設定することができる。そのなかに「フルオート」、「プログラム」、「マニュアル」という設定がある。これを「フルオート撮影」にしておけば、オートホワイトバランスで露出補正メニューも表示されない、文字通りのフルオート撮影になる。これなら、デジタルカメラに不慣れな人でも安心だ。これは今後家族みんながデジタルカメラを使う時代になることを考えると、重要なポイントといえる。
 そして、「プログラム撮影」では、ホワイトバランスや露出補正など、普段利用するほとんどの機能を利用することができる。
 さらに「マニュアル撮影」では、絞り優先AE撮影(F2.4とF8のみ)はもちろん、シャッター速度をマニュアルで選ぶことができるので、意図的に極端な露出オーバーやアンダーの撮影もできる。またピントもAFだけではなく、遠景、中景、近景の三段階ではあるが、マニュアル設定することもできる。ある意味では、パーソナル機で初めて、意図的な失敗ができる(?)カメラともいえるだろう。


便利な即写モード

 エプソンのモデルには、先代から「即写モード」と呼ばれる機能が搭載されている。これは撮影した画像を、その都度処理せず一度バッファメモリに貯め、あとから処理する機能。そのため、通常モードよりも撮影間隔が短くなる点が大きなメリット。
 本機の場合、即写モードにセットしておけば最大9枚程度までバッファに貯めることができるため、スナップショットやポートレートでシャッターチャンスを最優先したい時にとても便利だ。このモードではバッファがフルになるか、5秒間撮影間隔が空くとそれまで撮影した分がまとめて処理される(バッファ内の枚数と処理進行中は上部の液晶にその都度表示される)。
 もちろんフルに撮影すると約20秒弱の処理時間はかかるが、連写には十分な実力で実にストレスなく撮影することができる。


起動時間、記録待ちとも約2秒

 起動時間は約2秒。これは液晶モニターを使用しない場合で、液晶モニター使用時にはメインスイッチを入れると一度モニターが点灯したあとに消え、再び点灯するまで撮影できないので実質的には約7秒近くかかってしまう。これは、私のような液晶派はストレスを感じるだろう。即座に撮影したいときには、光学ファインダーと割り切ればいいわけだが、この点だけは感心しない。
 記録待ちは約2秒(精細モード)と十分に高速。前記の即写モードを利用すれば、実質的な撮影待ち時間はさらに短縮される。


重宝な高感度モード

 最近では高感度モードを設けるモデルが多くなってきたが、実はこのモードを最初に搭載したのはエプソンだ。もちろん本機にもその機能はきちんと搭載されている。しかもこれまではメニューの奥のほうで設定する必要があったが、本機では専用ボタンが設けられており、とてもスピーディーに利用することができるように改善されている。
 この高感度モードはソフト的な信号増幅によって実現されているため、高感度にするほどノイズレベルが高くなる。しかし実際問題として、ノイズが多くても写真としての価値を大きく左右することは少ないが、そのカットが感度不足でブレてしまえば何の意味もないわけだ。特に屋内撮影や雨天曇天、夕夜景などを自然光のまま撮影したい場合にはきわめて重宝な機能といえる。
 またノイズレベルも2倍感度状態ならさほど目立たず、4倍時でもシーンを選べば十分実用になるレベルといえる。


軽快な撮影感覚

 撮影感覚はとても軽快。とにかくコンパクトカメラ感覚で持ちやすく、記録待ちも短いので次から次へと撮影できる点に好感が持てる。またボディは特別軽量なわけではないが、そのぶんカメラブレが少ない点も大きなメリットといえる。
 ファインダーは光学式と液晶式の両方を装備している。光学ファインダーの見え味は、従来通り、明るくクリアで、なかなか気持ちがいい。また、液晶モニターは1.8インチの低温ポリシリコンTFTで、サイズは小さめだが、明るく、レスポンスも良好だ。ただ、画面内の輝度差が大きなシーンでは、強烈なスミアがみられ、視認性が低下する点が実に残念。これはCP-600などにも見られた現象だが、本機でもまだその欠点は解消されていない。
 液晶モニターは1.8インチで比較的明るいため、日中屋外での撮影でも実用十分な視認性を実現している。
 今回は主にプログラムAE撮影の即写モードで使用したが、撮影インターバルも短く、使用頻度の高いホワイトバランスや露出補正、マクロ切り替えがボタン1つで簡単にできるため、撮影者の意図を反映しやすいカメラだという印象がとても強かった。


やはり短いバッテリ寿命

 なかなかよくできたモデルだが、やはり欠点もある。そのもっとも大きな点が、バッテリの消耗だ。本機はこの薄さを実現するため、無理を承知で電源を単三型電池2本としている。アルカリ電池では持ちが悪いこともあって、本機は最初から単三型のニッケル水素電池が4本付属している。
 実際にニッケル水素電池を使って撮影してみると、液晶ファインダー中心では80枚前後の撮影ができる。この枚数を多いと見るか少ないと見るかは、ユーザーの使用頻度で左右されるだろう。いずれにしても、この枚数ではスペアのバッテリーを常時携帯しておいたほうが安心といえそうだ。
 ちなみにこの撮影枚数は、オートパワーオフを標準の10秒ではなく1分にセットした場合。もし標準の10秒でもいいという人なら、もう少し多くの枚数を撮影できると思う。また光学ファインダーメインであれば、この数倍の撮影枚数を確保できるはずなので、そのような用途ならさほど気にならないかもしれない。
 本機の場合、電池の持ちよりも薄さを重視した設計であり、それを4本のニッケル水素電池を標準装備することでカバーしている。個人的にはこのような明確な割り切りはむしろ歓迎したい。


きれいだがおとなしい絵作り

 CCDは1/2インチの補色系214万画素タイプを採用。レンズは7mmF2.4の単焦点タイプ。35mmフィルム換算で38mm相当とワイド気味の設定。しかもレンズの明るさは同じ単焦点のFinePix2700のF3.2に対して、F2.4と2倍近く明るい点も魅力だ。
 画質は良好。解像度は十分に高く、200万画素モデルらしい緻密さを備えている。10万円超のズーム機と比較しても、解像度の点で見劣りするようなことはない。
 色調は全体にきれいだが、ややおとなしい印象だ。同社の従来機は全体にやや彩度が高めになる傾向が見受けられたが、本機にはそのような傾向はなく自然なレベルの色調となっている。むしろもう少し彩度が高めで、見栄えを優先させた色調でもいいと思うくらいだ。厳密に見ると青空や木々の緑などはやや濁り気味であり、補色系CCDであることを意識させるケースもある。しかし、ごく一般的な用途ではとくに不満を感じるレベルではないだろう。

 もっとも、おとなしい色調でも同社のプリンタドライバに搭載されている「オートフォトファイン3」のような自動補正機能を使えば、これら補色系が苦手な色を自動的に補正し、見栄えのいい色調にプリントしてくれる。実際に同社のプリントンでプリントしてみると、バランスの取れた色調のプリントが得られた。
 コントラストは比較的フラットで、見かけ以上の明暗の再現域は比較的広く、その点では使いやすいモデルといえそうだ。
 本機の場合、一足先に各社から登場している211万画素CCD搭載機とは別系列のCCDを搭載しているためか、絵作りはこれまでのどの機種とも異なる個性を備えている。もっともこのあたりの微妙なチューニングは、発売までに変更される可能性もあり、製品版でもう一度チェックしたいところだ。

 このほか、ホワイトバランスは、オートと固定(デーライト)のほか、白紙などを使ってホワイトバランスを取り、その値を適用する「カスタム」の3種類がある。通常の撮影ではオート設定で十分だが、本機は他機種に比べ、きわめて簡単にホワイトバランスを変更できるため、その場の光の色調を生かしたいときには積極的に固定モードを活用することをオススメしたい。実際、そのほうが雰囲気のあるカットが得られるからだ。また画面全体が同系色のシーンでは、白紙などを使ってホワイトバランスを取って、カスタムモードで撮影すると便利だ。

 画質面ではやや気になる点もある。まず意外にノイズが多いこと。本機の感度設定は標準状態がISO100相当と、他社の補色系モデルとほぼ同等となっている。それにも関わらず、シャドー部を中心にややザラッとしたノイズっぽさを感じるケースがある点が残念だ。

 また同社の歴代モデルに共通した点ではあるが、全体にJPEGの圧縮率が他社に対して高めな点も気になる。実際に標準的な精細モードでは、撮影枚数を優先した設定のため、JPEGによる高圧縮が原因と思われる画質低下が感じられる。そのため画質を優先させるのであれば、他のモデルの標準的な圧縮率に近い高精細モードで撮影することをオススメしたい。

 本機にはカメラ内で、特殊アルゴリズムによる画像拡大処理を行なう「HIPICT」機能が搭載されている。残念ながら天候の関係で定点撮影地での、標準モードとの比較実写がまだできないため、その実力をきちんと評価できないできる。そのため、この機能での実写データは後日、追加したい。


やや遅れて登場した“魅力的な選択肢”

 正直なところ、今春のごく一般的なユーザー向けの単焦点モデルは、コストパフォーマンス・使いやすさ・画質のバランスから見て「ニコン COOLPIX700」で決まり! と思っていた。しかし今回登場した「CP-800」は、それに十分対抗できるだけの魅力を備えたニューフェイスといえる。

 本機の魅力はやはりアルミ外装の薄型ボディと、多機能でしかもわかりやすい操作感といえる。エプソンのモデルは、CP-500以降なかなか凝った内容のモデルが多かったが、デザインと操作感が今ひとつだった。しかし本機ではその点がかなり解消されており、気軽に持ち歩け、しかも本来の機能の高さを十分に生かせるモデルへと成長している。その点ではデジタルカメラに詳しい人の常用機としてオススメできる機種といえる。さらに本機はフルオート撮影モードを設けることで、普段デジタルカメラを使うことが少ない人でも安心して使うことができる。そのため、パソコンユーザーのお父さんのいる家庭の“ファミリーカメラ”としての資質も同時に備えている点は高く評価したい。

 確かに電池の持ちは難点ではあるが、単三電池が利用でき、ニッケル水素電池が予備含めて4本付属し、日本国内では入手困難なワールドワイド対応の充電器付きのため、海外旅行でも安心だ。

 価格は99,800円と、単焦点タイプのなかでは比較的高価な設定。だが簡単で高速なUSB転送キットから各種ソフト、前記のニッケル水素電池&充電器、8MBのCFカードまで付属している。しかもエプソンのモデルは実販価格がかなり期待できるので、実際にはさほど割高感はないだろう。
 200万画素クラスというと、3倍ズーム機に目を奪われがちだ。しかし日常的に愛用するなら、気軽に持ち歩ける本機のような携帯性のいい単焦点モデルのほうが、より実用的な選択肢といえる。
 その意味で、本機は「ソニー Cyber-shot DSC-F55K」や「富士フイルム FinePix2700」といった個性派モデルともひと味違った、軽快で魅力的な実用機といえる。

□セイコーエプソンのホームページ
http://www.epson.co.jp/
□製品情報
http://www.i-love-epson.co.jp/products/category/camera/index.htm
□関連記事
【4月15日】エプソン、USB対応214万画素デジタルカメラ「CP-800」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990415/epson.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('98年4月20日)

[Reported by 山田久美夫]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp