塩田紳二の「LinuxWorld/San Jose」レポート
初めての商業ベースのLinuxコンファレンス&展示会


会期:'99年3月2日~3月4日 開催(現地時間)
会場:San Jose Convention Center

 
写真:Linuxの作者、Linus Torvalds氏


■初めての商業ベースのLinuxコンファレンス&展示会

 3月2日から開催されているLinux Worldの模様を現地からレポートする。ご存じの方には蛇足になってしまうが、Linuxとは、Linus Torvalds氏が作ったUnix互換のOS(ただし、同氏が作ったのはカーネル部分)。これにそれまでフリーで用意されていたさまざまなツールやソフト(多くはGNUプロジェクトのもの)が組み合わされ、現在はOSパッケージとなっている。

 そのLinuxユーザーのイベントであるLinuxWorldは、今回か第1回めとなるLinuxの商業ベースのコンファレンス&展示会である。講師を呼んでさまざまな講演を行なうコンファレンスと、メーカーなどの展示が中心。
 開催初日の2日には、Linuxの作者であるLinus Torvalds氏、Corel創業者のCowpland博士、Oracleの上級副社長のMark Jarvis氏を迎えた基調講演があり、今回の目玉となっている。

 会場はSan Joseのコンベンションセンター、IntelがPentiumIIIの展示会を開催するなど、シリコンバレーにもっとも近いイベント会場である(このすぐそばにAdobe Systemsの本社がある)。

■基調講演

 Corelは、すでにWordPerfectのLinux版のベータを配布しているが、今回は、同社の他のプロダクツをLinux対応させるという話が中心。Linux(PC Unix)上のWindowsエミュレータ「WINE」を使ってWindows版ソフトを動作させるのだが、Corelは独自でWINEを強化し、それを利用するという。

 デモでは、そのWINEを使い、QuattroPro を動作させてみせた。最終的には、現在のWordPerfect Office に含まれるアプリケーションをこれで動作させ、今秋にはCorel Desktop Linuxを出荷する予定。CorelのWordPerfect Officeは米国では、低価格戦略で急激にユーザーを増やしたというが、こうした大手のビジネスソフトか登場することで、ユーザーの見方もまた変わってくると思われる。
 また、WINEの開発もこうした複雑な商用アプリケーションに対応が可能になり、今後同様の方法で、Windows系のソフトが発売されるかもしれない。

 OracleのMark Jarvisは、最初から軽いノリで冗談をいいながら登場。もちろん英語のジョークなので、日本人にはとんとわからなかった(もっとも、英語がちゃんとわかってないということもあるが…)。わかったのはMicrosoftのURLを紹介する際のジョークで「WWWとはWindows Won't Winを意味する」というやつでした。

 ジョークで会場を沸かせていたものの、スピーチの内容自体は、最近発表したインターネット対応のOracle 8iのことで、特に新しいものではなかった(ちなみに期限付きの評価版を無料で配布するとのことだ)。

Corelの創業者であるDr.Michael Cowpland氏。CorelはCowpland Research Laboratoryの略だとか OracleのSenior Vice PresidentのMark Javis氏.同社社長であるラリー ・エリソン氏の毒舌も有名だが、この人の講演もなかなかに鋭くマイクロソフトを攻撃する。なんでもOracleのナンバー2といわれる実力者なのだとか


■Linus氏を熱狂的な拍手で迎える聴衆

 肝心のLinus氏の講演は6時からと、ちょっと遅めの時間からとなったが、ホールの開場前には長蛇の列。おそらく今日、初日の来場者が全員そのまま並んでいるという感じだ。メイン開場は3~4千人は入るところだが、そこは満席となり、さらに千人程度が収容できて、同時にビデオを流す会場も隣に用意されていたので、聴講者は全部で4~5千人というところだろうか。

 開催前から会場にはちょっとした盛り上がりが感じられたが、Linus本人が登場すると、ほとんどの客は立ち上がって拍手し、熱狂的な盛り上がりをみせた。
 ジョークを交えた話の内容は、Linuxの現状と次にやりたいことなどだったが、会場からは盛んに拍手や歓声が上がった。

Linus Torvalds氏と娘さん。一番前の席に座っていた娘さんは会場でも 大人気。講演中に舞台におもちゃを投げ入れる一幕も
 こういう人物に対してよく「カリスマ的」という表現が使われることがあるが、Linus氏は、どちらかというとこういう表現が当てはまらないタイプ。みるからに人のよさそうな顔つきで、何か過激なことをいうわけでもない。リーダーシップを発揮しているLinuxの指導者という感じもない。まあ、言ったことではなく、やったことで評価された人物なので、そうなのかもしれない。

 隣の席にいた兄ちゃんが「さっきLinusと握手したので、もう手が洗えない」と言っていたが、憧れの人といったところだろうか(日本でも有名人と握手すると、よくこういうけど、米国人も同じなんですねぇ)。

 この後は、ホールでのパーティが主催され、そこには、「Linus Torvals for President」と書いた風船やバッチを配る一団が(これは、どうも米国の大統領選挙のパロディらしい)。来場者全員を招待するパーティってやつがなんだかアットホームな感じがするイベントである。そういえば、司会者が「Coming Out」(ゲイの人などが自らそうだと名乗り出ること)という言葉を使っていたし、その意味では、まだまだこれからという部分も多いのかもしれない。

 このほか初日は、Computer Associatesが同社のUnicenter TNG(大規模なシステムの管理用ツール)をRedHat版Linuxにバンドルして配布するとか、IBMがLinuxを広くサポートするなどの記者発表が行なわれた。これらの発表からは、大手企業が、この波らしきものになんとか乗ろうとしているという感じを受けた。単に一部の人が騒いでいるのではなく、IBMやCompaq(展示会場にブースを出している。ただし、旧DECのα系の人たちのようである)から見ても、ビジネスが成り立ちそうに見える市場になってきたのかもしれない。
 そうした意味では今回のイベントは、後から顧みて、1つのマイルストーンとなるのかもしれない。


□LinuxWorld Expoホームページ
http://www.linuxworldexpo.com/

('99年3月3日)

[Reported by 塩田紳二]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp