MACWORLD Expo/San Francisco基調講演レポート

会期:'99年1月5日~1月8日 開催(現地時間)
会場:サンフランシスコ Moscone Convention Center

 MACWORLD Expo/San Francisco初日の5日(現地時間)、Apple暫定CEOのSteve Jobs氏による基調講演が9時から約2時間にわたって行なわれた。今回の基調講演で印象的だったのが、暫定CEOに就任して以来、生き残りを第一として、基調講演のたびに黒字を強調してきたJobs氏が、収益見込みなどの財務状況についてまったく触れなかったことだ。iMacは'98年発売以来80万台を出荷したと紹介、たったひとつのモデルをこれだけの期間で販売したことを考えると、すでにAppleの経営状況の好転を強調する必要もなくなったということだろう。

 Jobs氏は今回の基調講演で“4つのサプライズ”を用意して、集まったユーザーを喜ばせた。中でも熱狂的な歓声を浴びたのがPower Macintoshの紹介で使われたHAL9000のビデオクリップ。コンピュータユーザーがどんなものが好きか、実にツボを心得たJobs氏の心憎い演出だ。以下では、ジョブズ氏の用意した4つのサプライズを順を追って紹介していく。

●新Power Macintosh G3

 「デイブ、2000年問題が騒がれているようですが…」
 G3 400MHzを搭載、システムバス100MHzにパワーアップし、筐体もiMacと同じボンダイ・ブルーと白の半透明色に一新したPower Macintoshのプレゼンテーションは、『2001年宇宙の旅』のHAL9000が呼びかける、新しいWeb用ビデオ広告で始まった(このビデオ広告は、Appleのサイトで見ることができる)。

 Jobs氏は新Power Macintoshのセールスポイントとして、「Most Powerful」、「Best Graphics」、「Most Expandable」、「Best Design」の4つを挙げた。

 まず、ジョブズ氏はG3 400MHzを搭載したPower MacintoshとPentium II 400MHzのCompaq機のプロセッサベンチマークではG3が倍くらい速いとしたあと、HAL9000が「この結果は信じられません。このプレゼンテーションは続けられません……」としてシャットダウンするビデオを流し、満場の喝采を浴びた。ビデオチップは、ATIのRAGE 128を採用しており、16MBのビデオメモリを搭載。2Dだけではなく3Dも速く、QUAKEなどの3Dゲームにも向いている、と3D性能を強調した。同時に、Silicon Graphics(SGI)のグラフィックスAPI、OpenGLをライセンスしたことを発表。SGIのCEO、Rick Belluzzo氏を演壇に招いた。Belluzzo氏は、SGIはこれまでハイエンドグラフィックス市場をターゲットとしてきたが、今後はPCのメインストリーム市場に進出するという戦略変更を発表。Macintoshはそのための重要なプラットフォームであると述べた。

 従来のiMacと同様のブルーと白の半透明筐体は、iMacと同じデザイナーチームがデザインを担当。実用的にも、筐体側面の丸い穴を引くと、筐体側面がそっくり開いてメモリスロット、PCIバススロットなどに簡単にアクセスできるデザインとなっている。Jobs氏が「Most Affordable」であるとした価格は仕様により1,599~2,999ドル。4モデルが設定されている。

 またJobs氏は、Power Macintoshのプレゼンの中で、デザインを合わせた3種のStudio Displayを合わせて発表。21インチのトリニトロン管採用のCRTが1,499ドル、ダイヤモンドトロン管採用の17インチCRTが499ドル、15インチTFT液晶ディスプレイが1,099ドル。


思いがけないHALの登場に、会場は大喜び 側面が全面オープンするため、スロットへのアクセスが簡単 新Power Macintoshに合わせたStudio Displayも3種同時発表された

●Mac OS Xサーバー

 2番目に発表されたのが、Mac OS Xの初めての製品、Mac OS Xサーバーだ。Machカーネルを採用したBSD UNIX 4.4ベースで、Apache、WebObjects、Javaなどの機能を搭載しており、2月に出荷される。価格は999ドルで、Jobs氏は「クライアントが何台でも999ドルだ」と述べ、歓声を浴びた。デモンストレーションではHDDを抜いたiMacをクライアントとしてOS Xサーバー上のビデオクリップを再生してその速度をアピール。その後49台のiMacを登場させ、合わせて50台のクライアントでビデオクリップを再生するデモを行ない、接続台数が増えても再生速度が落ちないことを示した。

Mac OS Xの最初の製品となるMac OS Xサーバー カーネルはMach、BSD UNIXベース。フルに使えばかなりお買い得といえるだろう

●Mac用アプリケーション

 Jobs氏が暫定CEO就任以来強調していたのが、「Macintoshが登場したときのように、これまでできなかったり大変だったりしたことが簡単にできて、新しい発想のアプリケーションが作られるプラットフォームとしてのMacintoshの時代を再び創り出したい」ということだった。アプリケーションあってのハードウェア、ということをJobs氏は非常に意識してきている。今回も'98年5月6日から'99年1月5日までに新しく発表されたかリニューアルされたアプリケーションが1,355本ある、と対応アプリケーションの増加を強くアピール。そうしたアプリケーションの代表的なものとして、Internet Explorer(以下IE) 4.5とゲームソフトを紹介した。

 IE 4.5のプレゼンテーションはすでにお馴染みとなったMicrosoftのMacintosh製品担当マネージャ、Ben Waldman氏が行なった。IE 4.5では、新しくSherlockエンジンを使って、閲覧中のWebページと類似した内容のWebページを探したり、ページの要約文を作成したりできるようになったと紹介。また、Webページの画像をローカルディスクにダウンロードする場合は、ドラッグ&ドロップでできるなど、Appleとの密接な協力による「Macintosh Editionだけの」機能を披露した。Microsoftに対してはまだわだかまりを持つMacユーザーが多く、Waldman氏が演壇に上がった時はかなり聴衆の反応は冷たかったが、こうした機能が披露されていくと、拍手と歓声で会場はふたたび盛り上がった。

 続いてQUAKEなどのゲームソフトでPCユーザーの間では有名なid Softwareの創立者のひとり、John Carmack氏が紹介され、QUAKE IIのデモを披露。Mac版QUAKE IIの公開デモはこれが初めてとなるが、PC用のゲームでMacユーザーにはあまりなじみがないせいか、会場は意外なほど盛り上がらなかった。

 Jobs氏はQUAKE IIやTomb RaiderなどPCゲームのビッグタイトルのMac版がこれから続々発売されるとして、RAGE 128を搭載して3D性能の上がったPower Macintoshはヘビーゲーマーにもぴったりのマシンだとアピールした。また、ConnectixのPlayStationエミュレータ「Virtual Game Station」もデモを交えて紹介した。

基調講演の当日オープンしたMSのMacTopiaサイトへIE 4.5でアクセス id Software創立者のひとり、John Carmack氏 Connectixのプレステエミュレータ、Virtual Game Stationを紹介するJobs氏

●5色のiMac

 新Power Macintoshをプレゼンテーションする時にはパフォーマンスを強調したJobs氏だが、ターゲットユーザーが違うということだろう。5色の新しいiMacを紹介する際には「多くのユーザーにとっては、CPUのクロックなどよりも、製品の色の方が重要だ」と述べた。新しいiMacはオレンジ(tangerine)、グリーン(lime)、ブルー(blueberry)、パープル(grape)、レッド(strawberry)の5色を用意。それぞれのカラーにはフルーツの名前がつけられている。blueberryの色は従来のiMacのボンダイ・ブルーと良く似ているが、実際に見るとボンダイ・ブルーより明るい。

 仕様面ではCPUがG3 266MHzとクロックが上がり、HDDが6GBに容量アップしたのみだが、新価格は1,199ドルとさらに手ごろな価格になった。

 Jobs氏は基調講演後も新色のiMacとポーズをとっての撮影に応じるなど、珍しくプレス向けの特別サービスも。iMacの大成功、Mac OS 8.5やG3 Power Macintoshの好調なセールスなど好材料ばかりのためか、風邪気味らしくときどき咳をしながらも、終始にこやかに基調講演を務めた。

iMacの新色5色には、すべてフルーツの名前がつけられている 「5色全部集めよう」元祖を入れると6台になる 最後に軽くおじぎをして、講演を終えたJobs氏

□MACWORLD Expo/San Franciscoホームページ
http://www.macworldexpo.com/mwsf99/
□AppleのMACWORLD Expo/San Franciscoでの発表資料ページ
http://www.apple.com/pr/
□MicrosoftのMac用製品情報サイト、MacTopia
http://www.microsoft.com/mac/
□ConnectixのVirtual Game Stationプレスリリース
http://www.connectix.com/cvgs/index.html

□キーノートスピーチ・トランスクプリト(英文)
http://www.apple.com/hotnews/features/mwsf99keynote1.html

('99年1月6日)

[Reported by hiroe@impress.co.jp]


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