後藤弘茂のWeekly海外ニュース

IDF速報:レガシーフリー化と低コスト
-Intelが次世代チップセットやマザーボードの戦略を明らかに-


開催地:カリフォルニア州 Palm Springs Convention Center
開催期間:9月15~17日(現地時間)


●レガシーフリーを強烈にアピール

 2000年を境に、PCのアーキテクチャは大きく変わろうとしている。Intelは、今回のIDFで、「Legacy Free PC(レガシーフリーPC)」をコンセプトとして、その方向性を強烈に打ち出した。

 レガシー(遺産)、つまり、PC/AT当時から引きずっており、今のPCにとって重荷となっているテクノロジやデバイスを捨て去って、アーキテクチャを一新したPCへと生まれ変わらせようというアイデア自体は、別に急に出てきたものではない。それどころか、PCのパフォーマンスと使い勝手を向上させたいIntelとMicrosoftにとっては、レガシーフリーこそが悲願だったと言ってもいい。PC 95以来、この2社がPCアーキテクチャを先導してきた努力の最終目的は、おそらくレガシーフリーを実現することだ。

 Intelのレガシーフリー宣言は、初日のクレイグ・バレット社長兼CEOのキーノートスピーチから始まった。バレット氏は、PC 99での、ISAスロットとISAデバイスの放逐を皮切りに、今後、さらにレガシーを捨て去って行く方向を示した。

【レガシー取り去りロードマップ】
ロードマップ

 これを見ればわかる通り、IntelはゲームポートやPS/2だけではなく、USBに置き換えるシリアルとパラレル、IEEE-1394Bに置き換えるIDE、さらにフロッピーディスクやVGA互換、そして究極にはユーザーが拡張できるスロットも取り去ってしまおうというわけだ。達成目標の時期こそ明らかにはしなかったが、Intelはこれでいよいよレガシーを完全に捨て去る意志を明確にしたことになる。

 Intelは、このコンセプトを具体的に示すため、今回、レガシーフリーPCのコンセプトモデルを用意した。初日のレポートで紹介したピラミッド型PCがそのひとつだ。このマシンは、USBとIEEE-1394だけをインターフェイスとして備え、周辺機器はケーブルで接続するか、筺体上部のドッキングスペースに載せる。レガシーを捨て去ったために、マザーボードは非常に小さいが、これにPentium II後継の「Katmai(コード名:カトマイ)」、128MBメモリ、440BXチップセット、Intel740などを搭載している。

 もちろん、これは、ただのコンセプトモデルであり、まだ完全にIntelの構想を達成しているわけでもない。しかし、Intelの方向性を印象付ける役割は十分果たしたと言えるだろう。逆を言えば、ここまで決意をはっきりと示さないと、レガシーを取り去るという難題は達成できないということでもある。


●低コスト化は5つの軸で展開

レガシーフリーPC
レガシーフリーPC
 しかし、Intelが今回のIDFで示した方向性は、アグレッシブなレガシーフリーPC化だけではない。もうひとつの軸はPCのローコスト化だ。Intelは、この2つの方向性の整合性を取るため、レガシーフリー化によって、サポートコストや部品コストなどが削減され、低コスト化が実現できるとさかんにアピールしている。つまり、レガシーの削除は、ローコスト化のための手段のひとつと位置づけたわけだ。多くのハードウェア開発者にとって、目下の最大の関心事は、いかに低コスト化するかにあるのだから、これは論理的な戦術だろう。

 Intelは、IDFの中で、ベーシックPC(Intelのカテゴリでの低価格PC)のためのシステムデザインに関していくつかのセッションを設け、同社の5つのローコスト化戦略を説明した。次の5つの分野での展開だ。



●ビデオ統合チップセットを投入

レガシーフリーPCインターフェイス
レガシーフリーPC
インターフェイス
 MPUに関して、Intelは'99年の第1四半期からパッケージを「PPGA」に替えたCeleronを投入する。これは、単純に低コスト化のためだ。

 次に、チップセットでは、440EXに代わる440ZXが'99年前半までに投入されることが、セッションの中で明らかにされた。しかし、ローコスト化の切り札はその後に投入される、ノースブリッジ(CPU-PCI)チップとビデオチップを融合させたチップセットだ。これは、「Whitney(コード名:ホイットニー)」として業界では知られているチップセットで、Intelからは、今回のセッションでも、具体的な性能やコード名のアナウンスはなかった。

 Intelの説明によると、この統合チップセットでは、現在チップセットとビデオチップに入っているAGPのコントローラ回路とAGPのピンが不要になり、またメモリコントローラを統合、フレームバッファを削減できるためコストが削減できるという。フレームバッファには、システムメモリの一部を割り当てる。また、AGPではシステムメモリをテクスチャバッファなどに割り当てるが、この新しいアーキテクチャでは、もともとフレームメモリもシステムメモリを使っているため、テキスチャメモリなどにもダイナミックにシステムメモリの一部をアロケートできる。つまり、“AGPライク”なフィーチャを実現できると言う。AGPと異なり、ビデオチップが外部のチップセットにアクセスするロスもないため、AGPのレイテンシなどの問題も解決されるかも知れない。

 しかし、3~4年ほど前に共有メモリ構成(UMA)が騒がれた時は、システムメモリを共有した場合は、システム全体のパフォーマンスが落ちることが指摘された。それに対して、Intelは、当時と比べると、メモリ容量が大きくなりメモリ帯域も広くなったことで、システムパフォーマンスに与える影響はずっと小さくなったと主張する。ただし、このチップセットでは、サポートメモリはIntelが次世代高速DRAMとして押している広帯域のDirect RDRAMではなくSDRAMとなる見込みだ。これは、ローコストシステムでは、当初はコスト高が見込まれるDirect RDRAMが受け入れられないためと見られる。また、同社では、現在チップセットを製造している0.35ミクロンプロセスよりも高集積化が可能な、0.25ミクロンプロセス技術への移行が、チップセット統合の背景にあることを説明した。

 3つ目のソフトへの移行は、オーディオ、モデム、DVD再生のソフト化。これに関しては、そのうちもう少し詳しく取り上げてみたいが、Intelは'99年のチップセットからそのためのインターフェイス「AC-LINK」をサポートする。


●2000年のマザーボードのビジョン

レガシーフリーPCマザーボード
レガシーフリーPCマザーボード
 最後のマザーボードに関して、IntelはとりあえずベーシックPC向けには従来通りMicroATXを推進するが、筺体や用途によってATXやNLXも併存するロードマップを描いている。しかし、同社は、多様なマザーボード規格が混在する現状を望ましいとは思っていないようだ。Intelは、2000年以降、マザーボードのフォームファクタをひとつにまとめる(Form Factor 2000)か、あるいはパフォーマンスPCとベーシックPCのそれぞれに向けた2種類のマザーボード(Performance2000とBasic2000)に集約させるというコンセプトを示した。また、Intelは、このビジョンについてオンラインでディスカッション、コンセプトをまとめて行きたい意向を明らかにした。

 この次世代マザーボード規格が、レガシーフリーのコンセプトに沿うとなると、それはかなりシンプルで小さなものになる可能性がある。2000年は、PCを構成する要素やPCの姿が変わる分水嶺になるかも知れない。



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('98年9月18日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp