プロカメラマン山田久美夫の

デジタルスチルカメラとしてみた
「ソニー DCR-TRV900」実写レポート


 ソニーからメモリースティックと同時に、静止画撮影機能を強化した3CCD式デジタルビデオカメラ「DCR-TRV900」が発表された。このモデルは、デジタルビデオカメラで初めて本体にPCカードスロットを備え、静止画撮影時にDVテープを介すことなくJPEGフォーマットでカードに直接データを記録できるのが最大の特徴。そのため、普通のデジタルスチルカメラと同じ感覚で撮影できる。

●強力な3CCD+プログレッシブスキャン+12倍手ぶれ補正ズーム!

 撮像ユニットには、RGB各色専用のCCDを配した3CCD方式を採用している。CCD素子は本来、被写体の明るさの情報しか検出できず、そのままではモノクロ画像になってしまう。そのため、通常はCCDの各画素に色分解用のカラーフィルターを配置することで、1つのCCDでカラー画像を得ている。しかし、この方式では輝度情報(明るさ)、色情報ともに、本来のCCDが備えている画素数に比べると少ないものになってしまう。乱暴にいうとこれらの情報は、CCDの画素数の約1/3程度になってしまう。
 そこで本機では、RGBの各色に専用のCCDを配することで、640×480ピクセルのデータすべてにきちんと輝度と色情報が備わったデータが得られるようになっている。そのため、38万画素CCD(有効画素数34万画素)を採用しながらも、同じ画素数の1CCDタイプよりも遥かに高い画質を実現しているわけだ。
 この形式は、画質面では理想的なものだが、3つのCCDに光を分離するプリズム部分などの工作が難しく、コスト高になり、ユニットサイズも大きくなるという欠点がある。そのため、デジタルスチルカメラの世界では、業務用モデルの一部だけにしか採用されておらず、パーソナル機では皆無といえる。

 また、CCDからのデータ読みだし方式も、ビデオ撮影時は従来通りのインターレース(走査線の偶数列、奇数列を別々に読み出すもの)方式だが、静止画撮影時には全画素一括読みだしのプログレッシブ方式に切り替わるようになっている。そのため、通常のDVでの静止画撮影時よりも垂直方向の解像度が2倍に向上する。

 また、光学式の12倍ズームを備え、35mmカメラ換算で41~492mm相当という幅広い範囲をカバーできる。とくに、500mmクラスの超望遠域をカバーできるデジタルスチルカメラはきわめて少ない。しかも、光学系の一部を移動させ、手ブレ補正を行なうアクティブ方式の補正機能を備え、静止画撮影時にも効果を発揮する点が興味深い。

●3CCDならではの高密度な写り

 写りは良好。とても640×480ピクセルとは思えないほど高品位なものといえる。なにしろ、通常の1CCDタイプに比べると、3倍近い情報量があり、各ピクセルすべてが輝度と色情報を備えている。それだけに、画像サイズこそVGAだが、実質的な解像度(シャープネス)は81~110万画素の1CCD式デジタルカメラに匹敵するレベル。感覚的には130万画素クラスのデジタルカメラで撮影したデータを、きちんとしたアルゴリズムで縮小リサイズして作ったデータのような感じだ。
 また、12倍光学ズームのレンズ性能もなかなか高く、解像度も十分。ワイド側での直線のゆがみや、望遠側での色の滲み(色収差)も意外に少なかった。

 もちろん、ピクセル数自体は少ないので、絶対的な解像度ではやや物足りなさを感じる部分もあるが、Web上での利用やモニタ上で鑑賞するのがメインであれば、なんら問題はない。さらに、オリジナルデータがしっかりしているため、Adobe Photoshopのように拡大リサイズにきちんとしたアルゴリズムを適用できる画像処理ソフトで拡大すれば800×600ピクセル程度にリサイズしても十分鑑賞に耐えるレベルといえる。
 実際にこれだけのクォリティを備えているのであれば、別にVGAにこだわらずに、この高密度なデータを生かして、カメラ内で最適化されたアルゴリズムで処理し、XGAクラスの画像データを生成し、メモリカードに記録できるモードを備えてほしいところだ。

接写 望遠 超望遠1
接写
望遠
超望遠1

 実際にこのモデルの画像データを見ていると、デジタルカメラの画像の美しさというのは、単なる解像度だけではなく、それ以上に色や階調の再現性のほうが、重要なウエイトを占めていることがよく理解できる。つまり、多少解像度が物足りなくても、色や階調がきちんと整っていれば、十分に美しい画像として認識できるわけだ。

 このあたりは、デジタルカメラの高画質化を考えるときに、1CCDタイプで高画素化するのと、適度な画素数のCCDを利用し3CCD化するという2つのベクトルがあることを示唆している。
 もちろん、本来は高画素CCDを3CCD化するのが最良な結果になるわけだが、これではコストがかさんでパーソナル向けモデルとしてはなかなか実現しにくい。

 もっとも、これがDVカメラのように、最終的な目的がテレビでの再生ということであれば、高画素化の必要はないので、そのぶん色や階調の再現性の点で有利な3CCD化に向かうのは当然のことだが、デジタルスチルカメラの場合、当面は1CCDでの高画素化の方向に向かうことだろう。もしかすると、数年先に画素数競争が一段落したときには、200万画素ベースの3CCDモデルなどがパーソナル向けのハイエンド機になる可能性もあるが……。

 さて、画質のほうに話を戻すと、実は、どんな条件下でも、優秀な画像が得られるわけではない。まあ、日中屋外での撮影であれば、普通に撮影するだけでも十分にきれいな画像となる。だが、屋内や暗いシーンでは、あまりきれいな写りが得られないケースもあった。
 屋内撮影の場合、いろいろな光源がミックスされた条件が多いわけだが、このときにオートホワイトバランスの動作がいまひとつだ。白紙やグレーのボードなど使って、ワンプッシュでホワイトバランスを調整する機能も備えているので、それを利用すれば問題はないのだが、オートのままでは、色が濁るケースがあった。

 とくに、蛍光灯下で人物を撮影した場合に、全体の色調がブルー寄りになる傾向がある。これは同社のビデオカメラやデジタルマビカにも共通した傾向だが、この点は改善されていない。さらに、今回使用したものがベータ機だったこともあるのか、静止画撮影時の露出設定が1段程度アンダー気味で、しかもシャドー部の階調が急激に落ちる傾向があり、よけいに画像全体のメリハリがなく、濁った感じになってしまう。

 また、暗いシーンでは、カメラの液晶モニタ上ではきちんとした明るさに映っているにもかかわらず、静止画として記録すると、かなり露出アンダーになってしまうケースもあった。これはおそらく、モニタ表示が暗くなってフレーミングなどができなくなるのを嫌って、表示データのゲインアップをしているためだと思われるが、それが静止画データには反映されないので、このような結果になったのだろう。
 もっとも、Photoshopなどで補正すれば、十分にきれいな画像になるので、後処理を前提とすれば、実用範囲ともいえる(それでもやや露出アンダーだが)。しかも、オリジナル画像のデータ量が豊富なので、極端な補正をしても、画質がきわだって劣化しないという点では、多少の安心感はある。だが、これはあくまでも対処策であって、根本的な解決にはならない。そのため、静止画記録を重視したと言うのであれば、このあたりまできちんと考慮して絵づくりをするべきだろう。

補正前 

補正後 

 なお、この画質はプログレッシブスキャン方式でメモリカードへ静止画モードで撮影した場合の話。通常のDVカメラのように、DVテープにインターレース式で記録するモードから生成した静止画データの場合には、垂直方向の解像度が不足気味になるケースもある。これはデフォルト設定がインターレースになっているためで、DVテープへの記録方式の設定をプログレッシブに切り替えれば、DVテープに静止画を記録した場合でも同等の画質が得られる。

●大柄だが、充実した撮影機能

 DVカメラとしての使い勝手は良好。パーソナル機でもハイエンドに近い機種だけに、実に多機能でよく考えられている。また、静止画用デジタルカメラとして見たときにも、機能的に見ると、なかなか魅力的なモデルといえる。

 外観は、家庭用DVカメラとしてはスタンダードなスタイルで、最近のDCR-PC1系列のモデルのようにとくにコンパクト化を狙ったものではない。むしろ、3CCD化やレンズ性能の向上など画質や機能面での充実を図っているため、通常のDVカメラよりも大柄なものになっている。もちろん、VGAクラスの静止画専用デジタルカメラに比べると巨大としかいいようがない。また、重さもかなりあるので、メモ用機として気軽に持ち歩くという感じではない。

 だが実際に使ってみると、機能性を重視しているモデルだけに、使い勝手はなかなか良好だ。
 液晶モニタは3.5インチと大きく、普通のデジタルカメラが採用している1.8インチクラスの4倍もの面積がある。そのため、表示画像が大きく、構図の確認が容易だ。また、被写体の細部まで液晶上で確認できるので、微妙なシャッターチャンスも掴みやすい。さらに、このサイズになると、ピントがきちんと確認できる点でも安心感がある。

 オートフォーカスの動作はビデオカメラとしては十分に早い。だが、デジタルスチルカメラのように、シャッターボタンを押せば、自動的にAFが働き、きちんとしたピントで撮影できるというわけではない。むしろ、オートフォーカスの動きをファインダー上で確認しながら、最適なピント位置になったときにシャッターを切るというイメージだ。
 もっとも、このタイプのAFの場合、特別なモード切り替えなしにマクロ撮影までカバーできるので、近接撮影が多くなる取材などではきわめて重宝で、スピーディーな撮影ができる。

 露出機能も十分に充実している。なにしろ、AE(自動露出)モードを見ても、ポピュラーなプログラムAEのほか、絞り効果を生かした作画ができる絞り優先AE、シャッター速度を先に決めて撮影できるシャッター速度優先AEといった機能もあるので、これらの機能を使いこなせる腕のある人にとっては、かなり多彩な表現ができるモデルに仕上がっている。
 また、レンズも12倍ズームと、ワイド側から超望遠までカバーしているので、そのレンズ効果まで含めると、通常のデジタルスチルカメラ顔負けの表現もできる。

ワイド 超望遠2
ワイド
超望遠2
●1秒の高速記録と軽快なシャッター音

 撮影感覚には独特のモノがある。まず、DVカメラといっても、本機の場合には、静止画モード専用のシャッターボタンが用意されている。もちろん、最近の静止画撮影機能をうたったモデルには、このような専用ボタンが設けられているモデルも多い。大半のビデオカメラでは、録画ボタンを親指を使って前方に押すタイプがメインになっているが、シャッターチャンスが重視される静止画撮影では、やはり普通のカメラと同じように上から下にボタンを押しきるタイプのほうが自然なためだ。

 もっとも、本機もそのタイプを採用してはいるが、残念ながらボタンサイズが小さく、押したときの感触に乏しく、決して満足できる質感のものではない。まあ、押しやすさという点ではまずまずのレベルだが、静止画機能を重視するなら、このあたりの感触にも十分にこだわって欲しいところだ。

 本機の場合、シャッターボタンを押すと、一眼レフカメラのようなシャッター音がする。もちろん、サンプリング音で、本来あるはずのないフィルムの巻き上げ音までするのだが、撮影していると不思議とこの疑似シャッター音が撮影気分を盛り上げてくれる。
 そして、シャッター音がすると、その時点での画像が静止画としてモニタに表示され、プレビューとして確認できるようになっている。それでOKであれば、さらにボタンを押し込むことで、はじめてメモリ上に記録されるという二段構えになっている。そのため、無駄なカットをメモリに記録してしまうことがないので、便利だ。もっとも、連続的に撮影していると、いちいちプレビューを確認するのが面倒になり、煩わしく感じることもあった。

 メモリへの記録時間は、約1秒と十分に高速。そのため、次から次へと、スイスイ撮影でき、実に軽快だ。まあ、最新のVGAモデルだと思えば、当たり前の速度ともいえるが、下手な静止画専用デジタルカメラよりも遥かに軽快な使用感であることには間違いないだろう。

 メモリカードに記録されるデータはJPEG形式。そのため、撮影データはごく普通のデジタルカメラと同じ感覚で扱える。しかも、640×480ピクセルのデータなので容量も小さく、メモリースティックの最大容量である8MBカードでも十分な枚数が撮影できる。もちろん、メモリカードの容量が足りなくなれば、プログレッシブモードに設定し、DVテープに記録することもできるわけだ。この場合には、データ記録時間が長くなってしまうが、一本のDVテープで数千枚もの撮影ができるのだから、安心感は大きい。

 なお、静止画撮影には付属のフロッピードライブも使えるが、こちらは基本的にDVテープに記録した静止画データをフロッピーに落とすためのものだ。この機能を使えば、フロッピーにJPEGデータとして記録できるため、デジタルマビカ的な使い方ができるわけだが、メモリカードへの直接記録に比べると、まどろっこしい点は否めない。

 バッテリは、インフォリチウムタイプで、容量も十分にあり、通常の撮影では電池切れを心配する必要はないだろう。とくに大容量バッテリでは8時間録画を実現しているほどのスタミナぶりなので、静止画撮影で何千枚撮影できるのか、想像もつかないレベルだ。

●史上最強のVGAカメラ!?

 本機は静止画性能を重視したとうたうだけあって、静止画撮影時の画質も良好で、メモリカードへの直接記録も実に便利だ。また、DVカメラとしての撮影機能も充実しており、実に多彩な撮影をこなせる魅力的なモデルといえる。サイズや重さを問わなければ、使用感も実に軽快で感心してしまう部分も多い。その意味で本機はおそらく、“史上最強のVGAモデル”といえる。
 サイズや価格さえ問わなければ、超高機能な静止画専用機として使っても、十分に存在価値のあるモデルといえる。また、これ一台で、動画記録も静止画撮影もしたいという人や、屋内撮影やマクロ撮影にも強いことを考えると、イベントの取材などにも持ってこいのモデルともいえそうだ。

DCR-TRV900
富士フイルム CLIP-IT50
 価格は本体のみで30万円と、普通のDVカメラと比較しても、かなり高価。高密度なVGA画像や超望遠撮影などが必要でない人であれば、普通のDVカメラとVGAのズーム付きデジタルカメラを別々に購入した方が遥かに安上がりになるケースも十分あり得る。

 もちろん、メモリカードの採用やフロッピーディスクの標準添付で、PCとの連携も図られており、PCユーザーのためのDVカメラとしては、なかなか魅力的な存在であることは確実だが、今一つ決定打に欠ける部分もある。

 というのは、DVカメラの基本である動画に関しては従来と同じくIEEE1394経由での画像転送ができること以外に、積極的な展開が図られていないからだ。PC上で動画を扱うケースはかなり増えており、同社のデジタルマビカなどでもMPEG記録のサポートをうたい始めている。であれば、本機にもメモリカードへ直接MPEGでの動画記録ができたり、せめてDVテープで撮影した動画をカメラ単体で簡易編集し、メモリカードにデジタルの動画データとして記録できるような機能が欲しくなる。そのような機能が追加されれば、PCユーザーにとってさらに魅力的な存在になることだろう。そのため、ぜひとも次機種では、静止画撮影機能のさらなるレベルアップとともに、動画デジタルデータのサポートも大いに期待したい!

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/index-j.html
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/soj/CorporateInfo/News/199807/98-068/index.html
□関連記事
【'98年7月30日】「ソニー、動画を静止画に落とせるDVカメラ 」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980730/sony2.htm

■注意■

('98年9月3日)

[Reported by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp