●QuickTime 3.0でソフトウェアを事業化
「We need to build software business」。本音が出たのは7日に行なわれたQuickTime 3.0のプレスブリーフィングの質疑応答のときだった。
インターネット直販を含む販売戦略の見直しなど、即効性のある手はもう打ってしまった。黒字転換は果たしたものの、大企業となった現在、本体が売れなければ収益が上がらないという、シンプルな収益構造を変えないことには安定した黒字経営は難しい。単なる組立メーカーならばともかく、Appleではかなりの開発コストも必要とする。しかもハードのシェアはWindows 95のリリース以来縮小している。
そういうことは誰もがもっと以前から思っていたことだが、Appleのプロダクトマネージャの口から出た「ソフトウェアで稼ぐ必要があるんだ」というストレートな発言は、これまでApple側から聞くことはできなかったものだ。基調講演でJobs氏が「われわれはボランティアではない」としてProバージョンは有料にすることを発表した際には、価格も29.99ドルと安いこともあり、ごく当然のこととして受け止め、「大きな戦略発表はなかった」と書いてしまったのだが、ソフトウェアビジネスは単価が安くてもシェアをとれば収益は大きい。Appleにとっては大きな一歩を踏み出そうとしているわけで、基調講演でQuickTime 3.0にかなりの時間が割かれたのも、当然と言えるだろう。
しかし冒頭の発言は、プラットホームに依存しないソフトウェアビジネス立ち上げの決め手としてAppleがQuickTime 3.0のProバージョンを有料にするということでもあり、QuickTime 3.0という製品にAppleがそれだけ自信を持っていると見ることができるだろう。ようやく製品化されるQuickTime 3.0は、Appleの持つもっとも魅力的な技術であるQuickTimeに、他社の優れたソフトウェアをライセンスすることにより、これまでとは一線を画す機能を備えている。
QuickTime 3.0 Developer Releaseは'97年にすでにWebで公開されているが、7日にはその最新版、Release 3が公開された。また同時に7日、QuickTime 3.0に対応したHyperCard 2.4のパブリックベータ版も公開されている。
製品版は、Appleのリリースによれば、'98年の早い時期にリリース予定とある。基調講演の記事で触れた通り、Basic版とPro版が用意され、Basic版は従来通り無償だが、オーサリング機能を備えたPro版は29.99ドルで販売される。
●他社の技術をライセンス、圧縮技術に優れるQuickTime 3.0
プレスブリーフィングのQuickTimeの機能説明は、「Father of QuickTime」と紹介されたPeter Hoddie氏が行なった。Hoddie氏は新しい技術パートナーとして、以下のソフトウェアのライセンスを受けたことを明らかにした。
QuickTime 3.0では新たにストリーミングがサポートされたが、これらの技術をライセンスし、QuickTime 3.0に取り込むことにより、インターネットでも高品質の音声・ビデオを提供することができるようになった。
『PureVoice』のデモでは、いかに圧縮ファイルが小さくなるか、しかも「フェイクではなく、本物の声として聞こえるか」が披露された。典型的な1分間のボイスメッセージでは、.wavファイルでは1MBの容量となり、28.8kbpsモデムでは転送に7分間かかるが、これがPureVoice技術では90KB以下の容量にでき、28.8kbpsモデムで45秒以下で転送可能だという。
基調講演でも喝采を浴びた、Sorensonのビデオ技術によるフルモーション再生についてもデモが行なわれた。Sorensonのビデオ圧縮技術では、データ容量を2~200KB/秒の間で設定でき、28.8kbpsモデムを想定したインターネットからCD-ROMまでに対応できる。こちらもデータレートを落としても、ムービー再生がスムーズな点が特徴だ。
このほか、QuickTimeプラグインが自動的に最適な接続スピードを設定する機能など、QuickTime 3.0の新しい機能が紹介された。
Hoddie氏は、QuickTime 3.0では新しくDVフォーマットなどをサポートしたが「QuickTimeでオーサリングしたファイルはインターネット、CD-ROM、VideoCD、Enhaunced Audio CD、そしてDVD-ROMにも利用できる」。一般にDVDなど新しい媒体に対応するときには、制作者の苦労がつきものだが、「QuickTimeはペインレス(Painless)な技術」であり、ハードのプラットホームに依存しないのはもちろん、従来とおなじ制作環境やノウハウがそのまま使えることを強調した。
データ圧縮の設定画面。Sorenson Videoでは、2~200KB/秒のスケーラブルな圧縮が可能だ。 | QuickTimeのファイルは、さまざまなファイルフォーマットで書き出しが可能なので、ひとつのデータを音声だけで使ったりとデータの再利用が容易。 |
●QuickTime 3.0 Proのオーサリング
展示会場では、QuickTime 3.0 Proバージョンでのオーサリングのデモも行なわれていた。デモでは、EPSファイルを取り込み、10種以上のリアルタイムイフェクトが簡単にかけられることを示していた。 たとえば、とりこんだEPSファイルをここで0%、ここで100%というように指定するだけで、0%で指定した場所からだんだん大きくなって100%で指定した場所に表示されるというムービーができる。0%から100%までの間は、QuickTimeがソフトウェアで補完してくれるというわけだ。
オーサリングできるPro版については、おもにプロフェッショナル向けに、いかに少ない工数でさまざまなメディアに利用できるかなどが強調され、プロ向けの印象も抱いていた。しかし、このオーサリングのデモを見た感じでは、一般ユーザーが自分のWebページでちょっと動きを取り入れて遊ぶにもちょうど良さそうな印象を持った。
□AppleのQuickTime情報ページ
http://www.apple.com/quicktime/
□QuickTiime Developer Release 3ダウンロード(Mac、Windows 95/NTに対応)
http://www.apple.com/quicktime/preview/soft/index.htm
□QuickTime 3.0対応のHyperCard 2.4 Public Betaダウンロード
http://hypercard.apple.com/
□関連記事
【1/7~】MACWORLD Expo/San Francisco現地レポート インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980107/macw_i.htm
('98/1/13)
[Reported by hiroe@impress.co.jp]