Steve Jobs氏の基調講演はさすがの人気で、午前7時半にはすでに行列はマリオットホテルから表通りまで続いていた。 |
米Apple Computer社暫定CEO、Steve Jobs氏による基調講演はMACWORLD/San Francisco第1日目、予定時間の9時を10分ほど過ぎて始まった。Macintoshユーザーのカリスマであり、復帰以来、互換機路線の変更や直販の開始、Microsoftの出資など数々の話題を提供してきたSteve Jobs氏の講演とあって、会場のマリオットホテルには午前7時半にはすでに行列ができているという人気ぶり。しかし、基調講演の主題は聴衆をあっと言わせる新技術や新戦略ではなく、G3搭載機の投入、新たな販売戦略などの経営努力により、'98年度の第1四半期には4,500万ドルの黒字が計上されるという発表だった。このことは、Steve Jobs氏復帰以来次々に打ち出された大胆な戦略変更がようやく実を結ぶ段階へ進んだことを印象づけた。基調講演に株式市場は敏感に反応し、早くも午後にはApple株は久々に20ドル台まで戻した。
●'98年度第一四半期に4,500万ドルの黒字を計上
Steve Jobs氏は講演の冒頭で、G3搭載機が51日間で8万台の予想を大きく超える13万3千台の出荷となったこと、Webを利用したインターネット直販が非常に好調であること、COMPUSAとの販売提携により、COMPUSAでのMacintosh本体販売比率がたった2カ月で3%から14%に急上昇したことなどを説明、G3搭載機の製品の魅力と新たな販売戦略が潜在需要を掘り起こしたことをアピールした。その後、Mac OS 8.1などのデモを交え、講演の最後に思い出したかのように、'98年度第一四半期は15億7,000万ドルの売上げを計上し、4,500万ドルの利益を計上したことを発表、会場はひときわ大きな歓声と拍手に包まれた。
予定通り、Mac OS 8.1やQuickTime 3.0の発表も行なわれたものの、これまで常に課題であった黒字体質への転換を果たしつつあることのアピールに最も重点が置かれた講演となった。日本でも開始された「Think different」キャンペーンにちなみ、「Think ○○」という形で次々にテーマを提示しての基調講演だったが、講演最後にスクリーンに映し出された「Think Profit」の文字はSteve Jobs氏退場後もしばらく残り、Steve Jobs氏の最初の勝利宣言のようにも見えた。
●新CEOの発表はなし、製品発表はMac OS 8.1とQuickTime 3.0
黒字計上したことはAppleにとって大きな意義があるのはもちろんだが、新戦略や新製品という面では、やや盛り上がりに欠けた印象は否めない。新CEOは下馬評通り発表されず、基調講演の後のプレスQ&Aセッションで当面は現行の体制でいくことが確認された。
また、Appleの製品発表としては予定されていたMac OS 8.1とQuickTime 3.0のみ。Mac OS 8.1はマイナーバージョンアップであり派手さには欠けるが、バグフィックスなどによる信頼性とパフォーマンスの向上、HFS Plusフォーマットの採用、DVDのサポートなど、特にクリエイティブな仕事に携わるユーザーの多いMacintoshでは実用的に意義あるアップグレードがなされる。Steve Jobs氏はMac OS 8.1はMac OS 8ユーザーには無償で提供されると述べ、聴衆の喝采を浴びた。面白かったのは、Mac OS 8.1では初めてInternet Explorerが標準ブラウザとして設定されるが、Steve Jobs氏が「でも、ユーザーはブラウザを自由に選ぶことができる」と付け加えると喝采が起こったこと。多くのMacintoshユーザーは、まだMicrosoftに対する感情の整理がつかないのかもしれない。なお、Rhapsodyについては時間の都合か、基調講演では触れなかった。
Mac OS 8.1に比べ、QuickTime 3.0にはRealVideoとの機能比較をはじめ、新たにサポートされるストリーミング機能、DVサポート、高品質オーディオなどのデモを行ない、かなりの時間が割かれた。聴衆の反応が最も大きかったのがDVサポートのデモだった。デジタルビデオで撮影された子供のビデオを使い、ドラッグ&ドロップでひとつのQTムービーを別のQTファイルに取り込むなどの編集が可能なことを披露した。また、QuickTime 3.0からはオーサリング機能などを備えたProバージョンを用意、Macintosh/Windows版とも基本バージョンは従来通り無償で提供するが、Proバージョンは29.99ドルと有償になることを明らかにした。
●ソフトウェアベンダーのデモ
Steve Jobs氏の基調講演はおよそ1時間半にわたり、その後半は今回のExpoの目玉のひとつであるMicrosoft Office 98をはじめとしたMacintosh用アプリケーションのプレゼンテーションに割り当てられた。「Think different」なソフトたちということで、「Think first」がMicrosoft Office 98、「Think big」がオラクル、「Think WOW」がRIVENといった具合にキャッチがつけられ、各社の担当者によるプレゼンが行なわれた。
Office 98のデモを行なったMicrosoftのBen Waldman氏は、はじめにMacintoshとWindowsのユーザーでは求めるものに違いがあること、その違いを徹底的にリサーチすることから製品づくりを始めたと述べ、「これはMacintoshソフトウェアだ。Windowsの移植バージョンではない」と強調した。その例として、ルック&フィールをMac OS 8に細部まで合わせたこと、ドラッグコピーによるインストール、QuickTimeをOfficeソフトすべてでサポートしたことなど、デモを交え、「Only Macintosh」な機能であることを繰り返し強調した。またMicrosoftはこの基調講演に先立って事前のアナウンス通り、6日の午前6時にMacintosh用IE 4.0をWebで公開している。
続いてOracleが今後40以上の同社のアプリケーションがMacintosh上で動作するようになると述べ、出金管理ソフトのデモを行なうなど、Macintosh用ソフトウェアの充実をアピールするデモが続いた。Steve Jobs氏は復帰後「以前MacintoshではToolBoxがあり、DOSよりずっと楽に、少ない工数で新しいアプリケーションを作ることができた。デベロッパーとともに、またそういう時代を作りたい」と述べており、復帰以来一貫してアプリケーションの充実を重視しているが、ここで再び強くアピールした形だ。COMPUSAでの販売台数の伸びを説明する際にも、COMPUSA店内のQuickTime VRデモを見せ、Macintoshの「Wall of Software」を実現したいと述べた。現状では提携しているCOMPUSAでもMacintosh用ソフトが壁一面を埋めるとは言い難い。黒字転換を果たしたSteve Jobs氏の次のターゲットは、既定のOS戦略の実現とアプリケーションの充実ということになるようだ。
('98/1/7)
[Reported by hiroe@impress.co.jp]