【周辺】

3倍ズームでスマートメディア対応のVGA機

プロカメラマン山田久美夫の


リコー「DC-3Z」使用レポート




●新世代小型ズーム機

 リコーからコンパクトで手頃な価格の3倍ズーム付きVGAモデル「DC-3Z」が発売された。本機は今春発売された「DC-3」をベースにしたAF式の3倍ズーム付きモデルで、記録メディアも内蔵式からスマートメディア(Exifフォーマット)に変更されるなど、なかなか意欲的なモデルといえる。

 いまや、コンパクトカメラでは常識となっている3倍ズーム付きモデルも、VGAクラスのデジタルカメラで採用している機種は意外なほど少ない。これまでの主だった製品としては「コダック DC50ZOOM」や「シャープ VE-LS5」といった大柄で高価格帯のモデルはいくつか存在した。

 さらに、3倍ズーム付きモデルの元祖として、いまもその薄さと多機能さという点では、これを越えるモデルはないといえる「リコー DC-1S」といったモデルがある。

 もちろん、これらのモデルはいずれも10万円を楽に越える高価なモデルであり、普及には至らなかったわけだ。だが、AF3倍ズーム付きモデルは、高機能VGAクラスの決定版となる可能性の高いクラスだけに、今年の秋には富士フイルムから先行して「DS-30」が登場。そして、そのライバルとして登場したのが本機といえる。

●気軽に使えるパーソナル向け3倍ズーム

 「いいじゃない! コレ!」というのが、本機を初めて手にしたときの第一印象。なにしろ、これまでの3倍ズーム機は、外観からして明らかに単焦点レンズ付きモデルとは異なる、“いかにもズーム”という感じだったが、本機にはそれが感じられない。そう、最新のズーム付きコンパクト機と同じで、ズームであることを特別に意識せずに扱える点が好ましい。やはり、ユーザーとしては大きく高価でも“ズームが欲しい!”のではなく、さほど変わらぬサイズと価格で“ズームも欲しい!”というのが本音。本機はそれに応えたモデルという感じがする。

 外観は一見して分かるように、単焦点タイプの「DC-3」とかなり似通っている。サイズ的にも厚みがわずか2mm増えただけで、重さも30gしか増えていない。もちろん、この時期に発売されるモデルだけに、最初から「DC-3」と並行して開発が進められたに違いないが、本機は外観上のイメージこそ似ているが、ボディー外観はきちんと新設計になっている。普通はコストの関係で「DC-3」と共通部品にしたいところだが、このあたりは“少しでも小さく、最適なものを”というカメラメーカー的なこだわりが感じられる。

 もちろん、液晶や操作部などは「DC-3」と共通になっており、このあたりは共通化させることで、開発期間の短縮とコストダウンが図られている。このあたりの割り切りは、主要パーツのほとんどが新設計となっている「フジ DS-30」と異なるところで、同じ3倍ズームながらも1万円以上の価格差が生まれた要因といえそうだ。

 もっとも、カメラとしての基本コンセプトで見ると、「DS-30」は“高級機”であり、「DC-3Z」は“上級機”であるという点が、両機の違いをもっとも明確に語っているような気がする。

●携帯性がよく、ズーム化に有利な横型ボディー

 始めてみたときは「3倍ズームなのに、ちっちゃいなあ~」と素直に感動した。なにしろ、サイズ的にはほとんど「DC-3」と同じだし、ライバル機である「DS-30」に比べてもより薄く、携帯に便利だ。さらに、携帯時には、メインスイッチ兼用の液晶を閉じた状態になるため、凹凸がなくすっきりとする。さらに、レンズバリアが閉じる(このあたりは結構マニアックだ)ので、レンズが汚れる心配もなく、安心してケースレスで持ち歩くことができる。また、胸ポケットなどに、無理にしまい込んでも、凹凸がないので取り出すときに引っかからないので、それが原因で落としそうになるケースが少ない点も好感が持てる。また、外観がメタリック調なので、スタイルは個性的だが、妙にカメラっぽいところもいい。

 もっとも、リコーが歴代踏襲している横型スタイルに違和感を抱く人もいることだろう。私自身、同社の歴代モデルを愛用していたのでさほど違和感はなく、これは慣れの問題だと思われる。むしろ、この横型スタイルの場合、ズームレンズのように大きな光学系を収納しやすいという大きなメリットがあり、大勢が縦型のカメラ風デザインになった現在でも、このスタイルの存在理由は十分にある上、この点が「DS-30」よりも薄型化が図れた大きな理由でもあるわけだ。

 もっとも、実際にここ数週間、常時持ち歩いてみると、もう少し小さく、軽くならないかなあ~という感じもある。ズームとはいえVGAであり、メガピクセル機でもコニカQ-M100のようなコンパクトなモデルが登場している現在では、もうちょっと頑張って欲しい感じもする。

●かなり望遠寄りの3倍ズーム

ズーム端広角側 ズーム端望遠側  さて、注目の3倍ズームだが、35mmカメラ換算で45~135mm相当(ちなみにコンパクトカメラの多くは40mm前後が多い)と、かなり望遠寄りになっている。確かに望遠側が135mm相当まであると、いかにもズームらしい引き寄せ効果や遠近感の圧縮効果などが得られるし、なによりも見てるだけで楽しい。とくに、旅先や車窓の風景などにはもってこいの焦点域といえる。実際に人間の視覚は、特定の部分を凝視したときに見えている範囲が135mm前後という説があり、その意味では感覚に近いズーム域といえる。

 だが、今回取材に来ているCOMDEXのようなイベントでは、ワイド側が45mm相当ではブースの全景を撮るにしても引きがなく、困るケースもある。これは屋内撮影でも同様で、32~96mm相当とワイド寄りのDS-30とは対照的だ。

 もともとリコーは「DC-1」の時から望遠重視(50~150mm相当)だったが、どうもこの焦点域は解せない部分がある。しかし、同じ焦点距離のレンズでも、CCDが1/3インチタイプになると、ちょうど使い勝手がいい焦点域になることを考えると、同じレンズを使って、1/3インチCCDを搭載したモデルが登場してもおかしくはない。もっとも、今後のVGAクラスは1/4インチが主流になることを考えると、1/3インチというと80万画素クラスやメガピクセル系になる。ということは、来年にはレンズを共用した(もしかするとボディーも)メガピクセル機が登場する可能性もあり、そう考えただけでワクワクしてしまう。もちろん、実現するかどうかは全く分からないが、いまや数少ない横型スタイルで、共通部品を多用したメガピクセル機が登場すれば、価格的にも競争力のあるものになりそうな気がするのだが……。

●意外に気になるカメラブレ

 それはさておき、実際に使っていて気になるのは、実効感度がISO80相当と低く、しかもレンズもF3.8とやや暗めな点。そのため、望遠側では意外なほど、カメラブレによる失敗が多くなる。もちろん、日中ならさほど心配はないが、曇りの日や夕刻、屋内での撮影などでは、頻繁に手ブレ警告が表示され、撮影に神経を使う。

 もっとも本機には、手ブレの影響を軽減するため、スローシャッターにならないようにするモードも搭載されている。この場合には光量不足になると、CCD側のゲイン(感度)をアップすることで対処しているので、暗いシーンではややノイズっぽくなるが、それでもブレてしまって使えないよりは遥かにいい。

 このあたりのCCDの感度不足は、最近多くなった1/4インチCCD採用機に共通した欠点で、この点はよりサイズが大きく従来主流だったVGAの1/3インチCCDモデルの方が有利だ。これはライバル機であるDS-30にもいえることだが、ズーム化するにあたって、CCDサイズが小さくなることで、レンズも小型化できるというメリットもあり、このあたりの判断は難しいところ。

 もちろん、個人的には画質や感度面で有利な大きなCCDを採用したモデルの方が好みだが、大きなCCDはコスト面でも不利なので、今度、各社がどのような展開をはかってくるか、楽しみでもあり、不安でもある。

●操作性はなかなか良好

 本機の大きな特徴として、液晶モニターの蓋がメインスイッチを兼ねており、液晶をパッと開くだけで撮影態勢に入れる点がうれしい。とはいっても、液晶を開いてから、実際に撮影できるまでに約4秒ほどかかるわけだが、それでも他機種よりも感覚的には結構スピーディーな感じがある。

 記録時間は約4秒と、VGAクラスとしてはまずまずだが、DS-30よりも1秒ほど長い。最近はCyber-shot DSC-F3やQV-700のように1秒前後のモデルが登場していることもあって、やや苛つくこともある。もっとも、不必要なカットは撮影直後に消去ボタンを押すとメモリーへの記録をキャンセルできるので、失敗したカットの書き込みを待つようなムダな時間を過ごさずに済む点はいい。

 再生操作は同社の歴代モデル同様、かなり軽快。とくに連続的にコマ送りしても、1コマ約0.5秒で表示できる点はうれしい。

 全体的な操作性は、先代のDC-2シリーズから踏襲されており、なかなか分かりやすい。とくに、使用頻度の高い機能(ストロボモード、コマ送り、消去、露出補正など)には専用ボタンが設けられており、操作ミスが少ない点が好ましい。

 また、これらのボタンを複数同時に操作することで、詳細設定ができる点もいい。もっとも、操作が複雑なので簡単に覚えられるわけではないが、一般的なユーザーが知らずに触れてしまい失敗するよりもマシだ。また、詳細設定には、先の手ブレ軽減モードはもちろん、ホワイトバランスの固定モード、電源OFF時の設定内容を記憶しておくモード、パワーセーブモードなどがあり、結構凝った撮影にも十分対応できる。

●便利な両対応のスマートメディアと単3電池の採用

 本機は記録媒体としてスマートメディアが採用されている。最近は大容量対応と省電力化のため、3.3V専用機が増えているが、本機は5Vと3.3Vの両対応になっている点が好ましい。また、記録フォーマットもJPEG準拠のExif(Ver.1.1)を採用しているため、富士フイルムのプリントサービスであるF-DIサービスやTA型プリンターのTXー7でのプリントもできる。

 撮影枚数は付属の4MBカードで、エコノミーで99枚、ノーマルで49枚、ファインで24枚となっている。あと1枚多ければ切りがいいのにと思いながらも、このあたりの真面目さもリコーらしい。また、本機も対応カードは最大8MBカードまでになっているが、もともとVGAモデルなので必要十分といえそうだ。

 また、電源は従来通り、単三型電池4本となっている。そのため、旅先でも安心だし、専用充電池を採用したDS-30などと違って、電池切れを心配しながら使わなくて済む点がうれしい。電池の持ちとしては、正確な数字ではないが、ストロボを使わない状態で電源をこまめに切れば、200枚以上は確実だ。

 ファインダーはDC-3同様、TFT式液晶式のみ。さすがに炎天下では見難さを感じることもあるが、液晶の角度が変えられるので、必要に応じて見やすい角度に設定すれば、通常のシーンではさほど不便さを感じるケースは少ない。もっとも最近は低温ポリシリコンTFTに慣れてしまった点と、TFTの割に表示にクリアさがない点もあって、もう少し見やすいくならないかなあ~という感じもある。また、光学ファインダーはなく、あるに越したことはないが、それでサイズが大きくなってしまうのならば、液晶専用機でも仕方がないと思う。

●派手さはないがバランスのいい写り

 写りはなかなか良好だ。基本的な絵作りはDC-3と似通った傾向があり、とくに誇張されたものではなく、全体に素直でおとなしい感じのものだ。

 解像度はVGAクラスのなかでも比較的良好な部類。ズーム化による画質への影響はさほど感じられない。色再現性は基本的には自然なものだが、どういうわけか、DC-3同様、オートホワイトバランスの設定がやや不自然で、わずかに青みがかるケースが多い。とはいっても、以前のDC-2Lなどに比べると、だいぶ改良されたがそれでもまだ気になるケースがある。もちろん、日中の撮影ならば、ホワイトバランスを強制的にデーライトモードに設定して撮影したほうが、見た目に近い自然な色再現性が得られるケースが多い。

 もっとも青みがかるのは、日中での撮影が多く、蛍光灯や電灯光下では、オートのままでもほぼニュートラルな再現をする。

 階調性は比較的良好。感心するのは肌の再現性で、日中光でもストロボ使用時でも、滑らかで自然な再現をする点には好感が持てる。まあ、若干、明暗の再現域が狭く、ハイライトが飛び気味になる感じもするが、適度にメリハリがついて、かえって見栄えがする場合もある。

 全体にDS-30などに比べて、おとなしい印象の絵作りといえる。そのため、見栄えのよさという点では彩度が高いDS-30に軍敗が上がる。しかし、自然さという点ではむしろDC-3Zのほうが好ましいだろう。

 また、画質面で気になるのは、オートフォーカスの精度。本機はオートフォーカス式で、動作も比較的スピーディーで、フォーカス精度も十分に高い。しかし、コントラスト検出型ということもあって、ピントを逃すシーンも意外に多い。とくに無限遠付近や遠近が入り組んでいるシーンは苦手で、撮影時には十分な注意が必要だ。

 一方、本機は同社の伝統どおり、マクロ撮影に滅法強いという特徴がある。なにしろ、ワイド側ではレンズ前1cmという超接写がAFのままできる点はきわめて便利だ。また、望遠側でも20cmまで寄れるので、必要十分な接写能力を備えている。DS-30はズーム全域で20cmまでなので、この点に関してはDC-3Zの圧勝といえる。

●なかなかお買い得なVGAズームモデル!

 次期デジタルカメラランキングの上位に位置するであろうモデルだけに、今回は全体に厳しめの評価になっているが、カメラとしての完成度はかなり高く、とても使いやすいモデルに仕上がっている。しかも、コンパクトなボディー、AF3倍ズーム、スマートメディアとVGAモデルに要求される要素では、光学ファインダー以外のほとんどが過不足なく整っている点も好ましい。

 また、68,800円という価格設定も、十分に納得できるレベルといえる。もちろん、実販価格ではかなり手頃なものになる可能性もあり、5万円台半ばのプライスになる時期もそう遠くないと思われることを考えると、結構お買い得なモデルといえる。

 もちろん、単なる3倍ズームではなく、機能的にも充実しており、気軽なスナップからかなり凝った撮影までを本機一台でカバーできることを考えると、現時点ではVGAクラスの決定版といってもいいモデルといえる。


【国内撮影のサンプル画像】
編集部注:11月17日掲載分の再掲です

DC-3Z_1 DC-3Z_2
DC-3Z_3 DC-3Z_4
DC-3Z_6 DC-3Z_7
DC-3Z_5


□株式会社リコーのホームページ
http://www.ricoh.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.ricoh.co.jp/release/digicame/dc3z/index.html
□関連記事
【11/6】リコー、DC-3の上位機種「DC-3Z」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/971106/ricoh.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('97/11/21)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp