PC-9800のハードウェア仕様は、98MATE以降、世界標準規格を貪欲に取り込んできた。ソフトウェア面でもWindowsに全面移行し、利用面ではPC-9800アーキテクチャとIBM PC/AT互換機を隔てるものは極めて小さくなってきている。それでも、一部の基本構造の違いから、特にメンテナンスに際してその差異を意識しなければならないことも事実である。このことが、パワーユーザや一部大手企業ユーザの98離れを引き起こしたことは否めないだろう。
コスト面や新技術の導入でも、独自アーキテクチャを続けることで不利な面がある。たとえば、インテルは、PIIX(PCI ISA IDE Xcelerator)と呼ばれるチップを提供しているが、これはPCI-ISAブリッジ、IDEインターフェースのみならず、AT互換機に必要なペリフェラルの機能をほぼすべて集積している。ところが、これはAT互換機用なので、PC-9800ではこの相当品を独自に開発しなければならない。生産コスト的には、インテルから購入するよりも自社でカスタムチップを作るほうが(PC-9800の総生産台数から考えて)安く上がると想像されるが、USBやIDEのUltraDMA転送のような新しい技術の取り込みという面で大きなハンディとなる(実際に、PC-9800ではペリフェラルを集積したカスタムチップにUSBやUltraDMAの機能は含まれていない)。
利用面での違いがほぼなくなった現時点で、あえて過去からの束縛を捨てて、PC 97規格にジャンプするという決断は、冒険というより必然といったほうが相応しい。
筆者個人の感想としては、これでようやく自分の眼鏡に適う世界標準規格のPCが入手できるようになった、という意味で非常に歓迎である。
筆者の独断的評価ではあるが、(サーバ機やノート型を除くと)大手メーカ製AT互換機には、購入したいと感じる品質のデスクトップ製品がなかった。PC-9800シリーズと同等の品質で、グローバルスタンダードに準拠した製品を欲していたのは筆者だけではないだろう。信頼性を求める上級ユーザの要求に応えられる製品の出荷を期待している。
Mate NX |
ValueStar NX |
Fine NX |
NetFine NX |
MateServer NX |
VersaPro NX |
LaVie NX |
Aile NX |
mobio NX |
Mate NX | 企業向けクライアントPC |
ValueStar NX | 個人/SOHO向け |
Fine NX | 企業向け省スペースクライアントPC |
NetFine NX | NetPC |
MateServer NX | 中小規模用サーバPC |
VersaPro NX | 企業向けノートPC |
LaVie NX | 個人/SOHO向けノートPC |
Aile NX | A4薄型/B5ノート |
mobio NX | 超小型ノート |
CanBe NX | エデュテイメントPC |
CEREB NX | メディアステーション、ブロードキャストPC |
全11種類のうち、CanBe NX、CEREB NXを除く9種類は、発表会場でデモ機が動作しており、10月下旬にも発売開始になる予定という(CanBe NX、CEREB NXは'98年第一四半期発売予定)。
PC-9800シリーズも継続販売されるが、10月に新たに発表されるのは、MATE、VALUE STAR、Lavie、Aileの4種類に絞られる。また、今後新技術はPC98-NXに採り入れ、PC-9800には導入しないことが明言されている。今後、ユーザニーズの減少に伴ってフェードアウトしていくものと予想される。
デスクトップ機のデザインは一新されたが、98シリーズのアイデンティティー(?)である「くさび形」はMate NXで踏襲されている。
OnNowに対応するため、筐体の前面にはパワースイッチとともにスリープスイッチ(三日月マークが刻印されている)が備わっている。Mate NXでは、くさび形の先端部分にそのスイッチがある。また、その下方には、キーボード接続用のUSBコネクタが一つある。
ノート型機のうち、VersaPro NX、LaVie NX、Aile NXは現在の98NOTEとかなり似たイメージだ。もっとも注目される超小型ノートのmobio NXだが、デザインに制約があるとは言え、「東芝のLibrettoにそっくり」と言われても仕方のないほど似ていた。筐体の大きさ、キーの大きさもほぼ同じである(「mobio NXと筆者の手」の写真参照)。ただ、ボディーカラーが黒なので、一見した感じの印象は異なる。ポインティングデバイスはキーボード手前にある。一種のスティック型のようだ。
IEEE1394インタフェースボード |
Ultra Wide SCSIインタフェースボード(ACPI対応) |
100BASE-TXインタフェースボード(ACPI対応) |
RS-232Cインタフェースボード |
USB増設ユニット(USBハブ) |
98配列USBキーボード [かな]キーと[Alt(GRPH)]キーが、[NFER]キーと同程度の大きさになった。 逆にファンクションキーは、文字キーと同程度に狭くなっている |
Cバス拡張ボードが継承されないデメリットは、すでにほとんどないだろう。必要な機能はほとんど本体が標準で備えているし、増設の必要があるものもCバスでなければならないものは極めて少ない。FA(Factory Automation)などのように特殊な用途を除き、これはほとんど問題にならないだろう。
PCI拡張ボードでも、SCSI I/FのようにPC-9800用のBIOS ROMを搭載しているものは、PC98-NXでは使用できない。ただし、Adaptec製のAHA-2940/J95のように、PC-9800/AT互換機両用BIOSを搭載したボードならば使える可能性がある。
(OSを含む)PC-9800専用のソフトウェアは当然のことながら動作しない。しかし、これも大部分のソフトウェアがWindows上に移行している現在、問題となるのは非常に特殊な用途だけだろう。
PC98-NXへの移行にあたって、筆者が個人的に一番困ると考えていることといえば、キーボードが継承されないことに尽きる。98配列USBキーボードも提供されることになっているが、それではダメなのだ。
いまでもPC-9801FAに付属していた、メカニカルタイプのキーボードを愛用しているからだ。これは、98MATE以降のキーボードとはあきらかにキータッチが違う。筆者の周りには、このメカニカルタイプのキーボードを愛用している、キーボードに一家言持つ人間が少なくないのだが、やはり皆このことを非常に問題にしている。どこかの周辺機器メーカでPC-9800キーボードUSB接続アダプタか、キータッチの優れたキーボードを商品化してくれることを熱望する次第だ。
マウスはキーボードに接続する形態になった。このため、従来のバスマウスは使用できない。ただし、(RS-232Cに接続する)シリアルマウスは使用できるはずなので、選択肢が広がったと考えることもできる。
余談になるが、USB接続型のマウスにしなかったのは、大きなコスト上昇要因があるためと考えられる。マウスのような低価格デバイスにUSBコントローラを載せてしまうと、大幅なコスト増を招く。マウスをキーボードに接続すれば、キーボード内のUSBコントローラ(マイコン)がマウス制御も兼ねるため、コストは上昇しない。
もうひとつ余談を。PC98-NXも従来同様、米Logitech社製マウスをOEM調達しているようだ。ちなみに、筆者はこのマウスの操作感覚は非常に気に入っている。
SIMMやDIMMタイプのメモリは、継続して使用が可能だろう。ただ、NOTEの増設メモリは、これまでも機種間であまり互換性がなかったので、継承は期待できない。
ハードディスクは、外付けタイプは当然として、IDEもベアドライブとして見れば転用可能である。ただし、PC98-NXでは、AT互換機と同様のパーティション管理方式を採るので、SCSI、IDEとも再フォーマットが必要になる。このことで一番問題(というか面倒)なのは、どうやってファイルを移動するか、ということだろう。
パーティション管理方式がAT互換機タイプになるため、これまでPC-9800の優位点のひとつとされてきた「固定ディスク起動メニュープログラム」はなくなってしまった。このあたりは、PC-9800の世継ぎとして、なんらかの工夫をして欲しかったところだ。
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