現在の企業システムは場合理想と現実が離れていることが多い。本来低コストをもたらすはずのシステムが思ったほどの効果を上げられないのだ。確かに導入費用が莫大な大型汎用機を捨てれば、それだけのコストは削減できる。しかし、そのシステムをUNIXやNTといったサーバー機に移行し、社員全員にパソコンを配れば、今度は台数の多くなったコンピュータの維持費がコストして浮上してくる。
このようなシステム管理の維持費を軽減するために提唱されているのが、TCO(Total Cost of Ownership)の削減である。詳しくは、「後藤弘茂のWeekly海外ニュース(NetPCを引っさげゲイツ氏が来日)」を参照していただきたいが、つまるところ、ユーザが使っているクライアントでOSやアプリケーションをバージョンアップしたり、ユーザの変更によるネットワーク設定の変更をしたりといった管理にかかる費用を削減しようという試みだ。
●TCOの旗頭NetPC登場
NetPCは基本的に、企業システムにおけるクライアントマシンという位置づけで、本体内にCD-ROMやフロッピーディスクドライブなど一切持たないまっさらな箱という感じだ。
本体内には、CPU、HDD、Videoカードの他にはネットワークカードがあるだけで、ユーザが勝手にソフトをインストールすることをハードウェアとして防止している。業務に関係ないソフトや、他のアプリケーションに悪影響を与えるようなソフトのインストールを防ぐことでいらぬトラブルを回避し、管理コストを軽減する。
電源を入れると、ハードディスクにインストールされている最低限のソフトウェアや、ROMなどからネットワークを起動し、サーバに接続してOSやアプリケーションソフトをダウンロードしてくる。これでパソコンを使った業務ができるというわけだ。
各個人ごとの設定や、データファイルはサーバに保存されIS部門により一括管理される。よって、新規ソフトウェアの配布や、バージョンアップもサーバ上のマスタを置き換えるだけで、クライアントに配布できる。これまで管理者が夜間や休日にすべてのクライアントを回って行なっていた作業がウソのようだ。
●Windows World Expo展示のNetPC
先日ニューヨークで開催されたPC Expoでは、TCO削減の旗頭となるNetPCが各ベンダーから参考出品された。今回のWindows World Expoでも展示の目玉となるかと思われたが、どうやら期待外れに終わったようだ。
今回NetPCを展示していたのは、IBMとUNISYSの2社だけ。どちらも参考出品の製品で、詳細はまったくの未定だ。国内メーカーの動向はどこも慎重で、NetPCの発表はどうやら夏以降にずれ込むようだ。
IBMのNetPC(写真左)はスペック、価格、発売時期すべて未定だが、UNISYSのNetPCではおぼろげながらその実像にせまることができる。
「AQUANTA NP」と名付けられたパソコン(写真中)は、CPUにPentium 166MHz、RAM 32MB、HDD 1.2GBというスペックで、CD-ROMもFDDも付いていない。本体ウラ(写真右)には、キーボード・マウスコネクタ、シリアル・パラレル・USBインターフェイス、そしてネットワークコネクタが装備されている。参考出品なので詳細は変更されるはずだが、PCIバススロットを装備している点はNetPCのポリシーに反する。これでは、ユーザーが拡張カードを増設できてしまうからだ。
この「AQUANTA NP」は、発売時期は夏頃の見込み。価格は未定だが、販売価格では20万円を切るようだ。
●NetPCとZAKの関係
NetPCの管理はサーバで一括で行なわれる。Microsoftでは、このNetPCのソリューションとしてZAK(Zero Administration KIT)を用意している。
Windows World ExpoのMicrosoftのブースでは、ZAKによるNetPCの管理には基本的な2つの路線が紹介されていた。一つはNCのようにブラウザや業務系アプリケーションのみが起動し最低限の操作だけができるタスクステーション、もう一つは基本的にはOSはWindows 95でワープロや表計算が使えるが、スタートメニューやタスクバーの機能が制限されているアプリケーションステーションだ。
どちらを選ぶかは、NetPCの種類に依存しない。IS部門の判断によってどちらが自社に適しているか判断され、サーバ側に設定される。このZAKは夏頃からNT Server 4.0対応のサーバアプリケーションとして無償配布される予定だ。
しかし、最終的に企業が導入に踏み切れるのは、正式対応するNT Server 5.0からとなるだろう。
●NCの動向とNetPCの今後
一方、クライアントの管理コストにいち早く目をつけたのは、Oracle社が提唱するNC(Network Computer)だ。これは、ブラウザとJAVAだけが動作するクライアントで、ソフトウェアなどをサーバで管理するなど、NetPCの基本理念の元となった規格だ。
今回のWindows World ExpoではNCはFUNAIの製品がたった一台、しかも隅のほうにこっそりと展示されていた(写真)。こちらも価格は未定で秋頃の発表となりそうだ。
NetPCとNCの勢力図がこれからどう変化するかは、不透明な状況だ。しかし、この2者のような管理体系を持つクライアントであれば、IS部門の負担はかなり解消されるはずだ。汎用機やサーバばかりか、クライアント管理もアウトソーシングが一般的になりつつある時代であるが、NetPCならIS部門内だけでも十分に運用管理ができるはずだ。
('97/6/26)
[Reported by 清水理史]