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プロカメラマン山田久美夫の

ニコン「COOLPIX300」ファーストインプレッション


COOLPIX 300 ニコンから約1年前に技術発表された個性派モデル「COOLPIX300」がようやく正式に発表された。21日の発売を前に、ほぼ製品版といえるモデルを入手できたので、そのファーストインプレッションをお届けしよう。

 ニコンはすでに主にノートPCユーザー向けのモデルとして本体がそのままPCMCIAスロットにささり、PCカード方式で画像を転送できる「COOLPIX100」を発売しているが、今回の「COOLPIX300」はデジタルカメラならではのビジネスユースでのビジュアルメモという需要をターゲットに開発された異色モデルといえる。

【編集部注】価格、スペックなどは関連記事をご覧ください。


●特徴的な外観、高級感には欠ける

ザウルスとほぼ同じ大きさ 液晶画面
【ザウルスとほぼ同じ大きさ】 【液晶画面】
 外観はCOOLPIX100と同様に、縦型で超薄型の電子手帳風デザインを採用している。とくに今回は2.5インチのタッチパネル式大型TFT液晶を採用していることもあって、まさに電子手帳という感じだ。写真で見ると比較的小さく見えるが、意外に大きく、ザウルスPI-8000よりやや幅が狭い程度。つまり、ワイシャツの胸ポケットにギリギリ収納できるサイズといえる(といっても、先端がやや顔を出す感じだが……)。もっとも、電池なしで240gと重めなので、本当に胸ポケットに入れて持ち歩くと、肩がやや引っ張られる感じがした。もちろん、本機にはCOOLPIX100と同じようにベルトに装着できる専用ケースが付属するので、通常は腰につける感じだ。

 手にした感じは、なんともプラスチック然としており、高級感に欠ける。実用機として割り切れば、とくに問題はないが、個人的には高精度で高品位な高級感あるイメージの“ニコンのカメラの一員”という先入観もあって、実に残念。それでなくても、接続キットやACアダプターまで含めると10万円もするカメラなのだから、このあたりはもう少しこだわって欲しかった。実際に、プラスチックの表面処理を変更したり、部分的に金属を採用するだけでも、結構印象が違うと思うのだが。



●タッチパネル中心の独特の操作

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 操作性はかなり独特。まず、ボディー左上にあるメインスイッチを1秒以上押し下げると、スイッチがONになるが、このスイッチも押した後に戻るタイプなので、確実にONになった感触がないのが残念。ファインダーは液晶と光学式の両方があるが、光学ファインダーで撮影する場合には、この状態で即座に撮影できる。また、撮影後すぐに液晶を開くと、撮影画像も表示されるので、速写性は比較的いい。

 だが、やはり本機の見どころはタッチパネル式の2.5インチ大型TFT液晶。この部分は収納時にはカバーされており安心。だが、どうせなら、ザウルスのように、タッチパネルに触れるだけでONになるモードが欲しかった。

 本機のほとんどの操作(電源とシャッターと録音開始以外すべて)はこの液晶パネル上でおこなう。もちろん、ボディー右下には伸縮できるペンも付属しており、普通のカメラではないことを感じさせる。

 電源をONにすると、HELLOの文字の後、いきなり初期画面が現れ、電池の残量や撮影枚数などが表示される。もちろん、シャッターを一度押すか、画面上でONを選ぶか、10秒待てば撮影できるのだが、これがなんとも焦れったい。測定器でも精密機械でもなく、メモを主体としたカメラなのだから、この速写性を無視した仕様は理解に苦しむし、いちいちこれらを確認しなければ安心して使えないような印象で、個人的にはあまり感心しなかった。

 その後、自動的に撮影モードに入る。液晶が大型で、表示画像のレスポンスも滑らかなのはいいが、これが実に見にくい。形式としてはTFTなのだが、明るさと彩度が不足気味で、日中の屋外では手で影を作らないとほとんど見えないのが難点。屋内でも画像に鮮やかさがないため、今一つクリアに見えないのが気になる。また、画像が粗く見えるうえ、斜め方向からの視認性も感心しない。もちろん、日中は光学ファインダーを使うと割り切り、画像確認とモードセット用ならばこの品質でもいいのかもしれないが、デジタルカメラとしての楽しさや気持ちよさはさほど感じられないのが残念だ。
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 撮影はボディー右側のシャッターボタンでも、液晶上のENTERをペンや指で触れても撮影できる。実際にホールドしてみると、手の小さな私にはやや横幅が広すぎて、ボディー横にあるシャッターボタンは押しにくかった。むしろ、液晶上にタッチするほうが軽快でブレも少ないが、どうも“撮影している”という感覚が掴みにくく、終始違和感があった。

 画像の記録時間はFINE、NORMALモードともに、液晶使用時で約5秒と標準的だが、液晶を使用しないときには約2~3秒と2倍近く高速になる。これは液晶表示にパワーを食われるためで、速写性を要求したい場合には光学ファインダーで撮影するといいだろう。

 各種操作は前記の通り、タッチパネル上で行う。メインメニューやデリート、キャンセルなどは液晶の上下に独立したアイコン(?)表示があるが、それ以外はメニューから階層をたどってゆくタイプ。ペンタッチでの操作自体はなかなか面白いので、暇な時にいろいろと遊んでいれば、慣れてしまうかもしれない。しかし、いざというときに、必要な機能にたどり着くのに、かなり手間が掛かるのが難点。もちろん、頭の中にメニューのディレクトリ構造が入っている人なら問題ないが、なかなか全体像が把握しにくいため、感覚的に操作するタイプの人や短気な人には結構焦れったい。

 とくに、撮った画像を即座に再生して見たい時でも、撮影後にメニューを選び、さらにプレイモードを選び、画像が5コマ表示されたあと(約4秒かかる)、そのなかから画像を選び、ENTERを押す……という一連の作業を経ないと、今撮影した画像をチェックすることもできないのは、なんとも面倒。メモ用機として即時性が要求されるカメラなのだから、CyberShotのようにボタンひとつでレビューできる機能くらい設けて欲しい。

●メモ書きと録音機能を備える


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【マクロ撮影】 【メモと画像の合成出力】
 本機の特徴して、画像へのメモ書き込み機能と、録音機能がある。メモ書き込みは付属のペンなどでタッチパネル上の画像に加筆する感じだ。その加筆データはカメラ内ではレイヤー構造になっており、修正がきく。しかし、パソコン転送時にはレイヤー構造では取り出せず、予め画像とメモとの透明度の比率を指定して、画像を合成した状態でなければ取り出せないのが不便。つまり、自分のメモ用に加筆データ付き、レポート用に画像のみといった使い方をするには、同じデータを設定を変えて2回も取り出さなければいけないことになり、これははなはだ面倒だ。専用ファイル形式でもいいから、レイヤーのまま取り出せるモードをぜひとも付加して欲しい。

 また、録音機能は画像を撮影しなければ17分も録音が可能。そのため、ごく簡単なインタービュー+顔写真くらいなら、これ一台でカバーすることもできそうだ。もちろん、音声データもWaveファイルとしてパソコンに保存することができるので、二次的に利用することもできる。便利は便利だが、どうせなら交換式メモリーなどを使い、もっと長時間録音ができるようになれば、また違った使い方ができそうな気がした。

 電池の持ちはかなりいい。公称でも液晶モニター使用時で100分と、現行製品ではおそらく最長レベル。実際に使ってみても、ほとんど電池を気にすることなく撮影できる点に好感が持てた。これくらい電池が持てば、さほど電池を気にしなくてもいいし、単三型4本なので、どこでも入手できる点も安心だ。また、30秒で液晶がOFFになり、2分で電源がシャットアウトされる点も省エネに貢献しているが、液晶OFF時はスリープだが、2分後は完全なOFFになるので、再び電源を入れ直すのはやや面倒ではあるが……。

 画像の転送は、シリアル経由とSCSIの2種類がある。まあ、シリアルは必須としても、最近ではUSBとかIEEE1394、IrDAなど、いろいろな規格があるわけだが、ここであえて、現実的で安定しているSCSIを選んだ点は正解だと思う。もっとも、本機の場合、シリアル転送速度が、なんと19,200bpsまでしかサポートしておらず、思いっきり遅い! とにかく、焦れったいを通り越して、あきれるほど時間が掛かる。もし、取材などで使うなら、この速度では実用上差し支えるほどの遅さといえるだろう。その点、SCSI経由なら1コマ1秒未満で、すべて転送しても十数秒かかるかどうか。ほとんどコピー感覚で瞬時に転送できる。雲泥の差とはまさにこのことだ。そのため、本機を快適に使うなら、このSCSI転送は必須といえるだろう。

 もっとも、本機くらい高機能で即時性が要求されるモデルなら、もはやメモリーカード対応は必須のものといえる。もっとも、1年前に技術発表した、現在の技術の流れでいえば、すでに製造中止になっていてもおかしくないほど、基本設計が古いモデルなので、仕方ないといえばそれまでだが、1年あれば、それくらいの対応ができたのでは……と思う。この点は実に残念だ。

●画質は良好だが、ブロックノイズが気になる


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 画質はなかなか良好。COOLPIX100のときも、実に素直だったが、今回のモデルも色再現、階調再現ともとても素直で、実にきれいで自然な写りとなっている。このあたりは、電子映像分野に強いニコンらしいところだ。また、解像度も比較的いいが、唯一残念なのが、JPEG圧縮時のブロックノイズが盛大に発生する点といえる。実際に画像を等倍で見ると、同一画面のなかで、JPEG圧縮されてボケボケになっているブロックと、結構シャープなブロックが隣接していたりするので、実に不自然。これはFINEモードでも明確に感じられるから不思議だ。FINEモードでの圧縮率は他機種とさほど変わらないのに、なぜ、このような強烈な圧縮ノイズが見られるのか、実に不可解だし、せっかくの高画質を完全にスポイルしているのは、はなはだ残念だ。次機種ではぜひとも改良して欲しい!

 また、マクロモードがあるが、名刺大の接写専用という感じで、メモ用途としても使用頻度の高いA4判程度の範囲を撮影するときに、通常モードでもマクロモードでも、フォーカスが甘くなってしまうのは考えもの。機構的にはマクロ域までリニアにフォーカスを可変できるようになっているため、マクロ時にクリックをもう少し弱く、中間距離でもフォーカスできるようにして欲しい。

 ちなみにCOOLPIX100ではできなかった暗い場所での撮影は、今回はショーの会場程度なら十分にストロボなしで撮影できるレベルまで向上しているので、その点は安心だ。



●ニコンらしい高品位モデルを期待したい

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 全体にとてもユニークな機種に仕上がっており、画像はもちろん、音声や手書きメモも記録できる総合ビジュアルメモとして、なかなか個性的なモデルに仕上がっている。実際にビジネス用途でもこのようなモデルが活躍する場面はかなり多そうなので、一般向けではないが、きちんとしたポジションを獲得しそうな雰囲気がある。だが、転送キットまで含めたシステム価格で約10万円近い価格は、やはり少々高すぎるし、液晶表示の品質や操作性、画像のJPEGノイズなど、まだまだ改良すべき点はかなり多く、今後の展開を大いに期待したい。できれば、33万画素のままで、さらにコンパクトで、メモリーカードを採用した、操作性、画質ともに優れた、超小型COOLPIXの登場を期待したい。また、ニコンが得意とするチタンを採用した、いかもにニコンらしい高品位モデルもラインナップしてほしい!



□株式会社ニコンのホームページ
http://www.nikon.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nikon.co.jp/main/jpn/products/june00_97e300.htm

□参考記事
【6/3】ニコン、メモ機能と録音機能を備えたデジタルカメラ「COOLPIX 300」を21日に発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970603/nikon.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('97/6/9)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp