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眼の付けどころをもっと“シャープ”に!

プロカメラマン山田久美夫が見た


「シャープ MD-PS1」レポート




MD-PS1  早くも3機種をリリースし、デジタルカメラに意欲的な姿勢を見せているシャープ。これまで、実写画像は掲載していたが、レポートをお届けしていなかったので、今回は第2弾として登場した、MDデータ採用で2,000枚撮影できる「MD-PS1」についてレポートしよう。



●非パソコンユーザーを考慮した“MDカメラ”

船


 以前にも何度か実写画像をお届けしている、話題のMDカメラ「MD-PS1」。最近ではテレビCMでも「MDで、音も録れて、2,000枚撮影できる」と盛んにアピールしているので、ご存じの方も多いことだろう。

 このモデルの最大の特徴はなんといっても、画像の記録媒体に“データMD”を採用しているところ。この“データMD”は普通の音楽用MDと本質的には同じなのだが、実際は外観も仕様も異なる別物といえる。つまり、最近かなり安価になった普通のMDディスクで画像が記録できるわけではなく、かなり入手が困難で2,500円もする140MBの“MDデータ”に記録するもの。

 このMDデータは、容量が140MBあるため、35万画素クラスのモデルで本機のようにJPEG圧縮で画像が記録されているものならば、ノーマルモードで2,000枚撮れるのは当然のこと。また、圧縮率が1/4程度のファインモードでも1,000枚もの撮影ができるわけだ。もちろん、この撮影枚数の多さは、PCカードユーザーにとっては驚異であり、とにかく枚数をまったく気にしないで撮れるという点ではそれなりの魅力がある。


川と橋


 だが、そんなに撮れてどうするの?という点もあるし、画像記録がソニーが提唱している「ピクチャーMD」規格に則っていることもあって、内部構造が複雑で制約も多く、検索も面倒なのが気になる。

 しかし、MDカメラの本質は、単なる枚数競争にはない。むしろ、現在のデジタルカメラが普及する際のかなり大きなウィークポイントである、パソコンがなければロクに使えない!という点を解消できる要素を備えている点といえる。

 それはなにかというと、画像の最終保存に関する問題だ。まず、普通のデジタルカメラはPCカードのような一時記録媒体に画像を記録するのはいいが、その画像データを、PCカードのまま未来永劫にわたって保存できるのか?という点だ。正直にいって、PCカード内にあるデジタルデータが何年保持されるものなのか、正確なところは私は知らない。けれど、CD-ROMなどに比較すれば、遥かに不安定で、結構はかないものだという想像くらいは働く。しかも、現時点でのPCカード系の価格からすると、それを最終保存用として利用するのは、甚だ不経済だ。


電車


 だからこそ、パソコンユーザーなら誰もが、デジタルカメラで撮影した画像をパソコンに転送して、HDDに保存しておいたり、フロッピーやMO、PD、CD-ROMなどに記録して保管しているわけだ。だが、パソコンがなかったらどうするのだろう?と考えると、これは大きな問題になる。たとえば、パソコンを持っていなかったり、操作がとても苦手な人(たとえば、老夫婦や自分の友人など)にデジタルカメラを薦められるだろうか?たとえ、直結型プリンターやラボでのプリントサービスが始まって、パソコンなしにプリントを手にすることができても、オリジナルデータを保存せずに簡単に消してしまうだろうか? 

 もちろん、そんなことを気にせずに利用できるパソコンユーザーにとってはどうでもいいことかもしれないが、これからデジタルカメラを購入するメインユーザーになる可能性が高い、非パソコンユーザーにとって大きな問題なのだ。


川と橋


 それを解決するのが、このMDカメラなのだ。つまり、MDという比較的ランニングコストが高くて、保存性の高い”最終記録メディア”に最初から書き込んでしまえば、そんな心配はいらない。つまり、データMDディスクが現在のフィルムのようなイメージで利用できるわけだ。もちろん、そのディスクを元にプリントを作成することもできるようになるだろうし、将来パソコンを購入したり、より手軽なプリント手段が登場したさいには、そのMDディスクのデータを利用できるわけで、これはかなり大きなメリットといえるだろう。

 もちろん、現在のデジタルカメラのように、パソコンユーザー主体の製品展開ならば、PCカードや内蔵メモリー方式でもなんとかなるが、近い将来はそれを最終記録媒体に、パソコンなしに記録できるシステムが必要になってくることだろう。もっとも、シャープ以前にソニーはそれを見通して、昨年秋にMDカメラをWindowsWorld'96に参考出品していたし、Cybershotにはとても高価だが、記録画像をIrDA経由でMDデータに記録できる「DPA-1」を当初からラインナップに加えている(個人的にも利用しているが、IrDAの1.1に対応していることもあって、転送もなかなか高速で軽快。しかも、MDデッキとしても利用できるのでとても重宝している。もっとも、Cybershotよりも高価なのは大いに気になるけどれど……)。

 つまり、このMDカメラには、これまでのデジタルカメラにはない、このような新たな展開と提案が見られるわけで、その点はとても高く評価できる。



●未成熟なカメラ機能

猫


 だが、カメラとしての出来や携帯性、使い勝手、写りなどは、残念ながら、決して褒められたようなものじゃない。この基本性能の未成熟さが本機の最大の欠点だ。

 まず、MDを採用するということは、必然的にあのMDディスクをカメラのなかにローディングすることになるため、想像通り、かなりサイズが大きい。現行の35万画素クラスのなかでも最大級のボディーサイズとなっており、重さも重めだ。そのため、携帯性は当然優れない。

 もちろん、本機は音楽MDデッキとしての機能も備えており、録音も再生もできる。実際に録音機能があることはテレビCMでも大きなうたい文句になっている(だが、マイクが外付けで、しかもオプションなのはなぜ?)。そのため、カメラとして使っていないときは携帯MDとしても利用できるわけで、それを考えると、ギリギリ許せるサイズかな?という感じだ(実用性は別の話だが……)。


雲と道路


 使ってみて一番気になるのは、各機能のレスポンスの遅さ。とにかく、何をするにも時間がかかる。まず、電源スイッチをONにしてから、実際に撮影できるようになるまで、なんと20秒以上もかかる。これはMDという回転機録媒体の起動と安定を考慮してのことだろうが、もともと内部バッファーがあるため、最初の1,2枚の画像データはそこに一時保存しておけば、ONの直後すぐに撮影できてもいいような気がするのだが……。

 また、撮影したあとの書き込みにも結構な時間がかかる。これは記録速度が遅い現在のMDデータの欠点といえるが、それにしてもじれったい。しかも、書き込み中にカメラに強い振動があったら、書き込みミスを起こす可能性もあるわけだ。このあたりは、使ううえでPCカード式とは違った配慮が必要になってくるわけだ。

 さらに、再生に切り替えたり、メインスイッチをOFFにした途端に、それまで撮影した画像の情報管理用データを画像とは別に書き込むという仕様になって、またまた待たされる。なんとも面倒でスピードを欠く仕様で、短気な私などは結構イライラしてしまった。




●面倒な再生表示

玄関


 画像再生も、ピクチャーMDフォーマットを採用していることもあって、まず最初に一覧表示されたアルバムを選んで、そのアルバムを開いてから初めて記録された画像の一覧表示がでてくるという二段構え。つまり画像データがルート上になく、必ずディレクトリー(フォルダ)に収まっているため、簡単に表示することができないわけだ。まあ、MD一枚に2,000枚もの画像データが記録できるため、それをルート上にすべて記録しろ!とはいわないし、ある程度ディレクトリー(アルバム)に区分できた方が検索も容易だろう。しかし、前回開いたディレクトリの一覧表示が最初に出てくるようにするといった工夫くらいあってもいいだろう。

 もちろん、撮影直後の画像はクイックプレビュー機能で簡単に呼び出せるが、それは他機種でも簡単操作でできるので、とくにメリットとは感じられなかった。

 また、電源は専用の充電式バッテリーで、ほぼ同じ形状の単3形電池4本では駆動できない。しかも、本機だけでは充電できず、ACアダプターに接続しておいても本体のAC駆動できるだけという仕様。さらに、電池の消耗がかなり激しい点は大いに気になる。使用条件が異なるので、正確に何枚とか何十分という実測値を持ち合わせていないが、前夜にフル充電したものでも、液晶を使って撮影していると、数十枚でバッテリーがドロップしてしまったことが結構あり、予備電池が必需品だった。そのため、撮影に行く途中までMDで音楽を聴きながら……というはかない楽しみは、専用電池を何本も持っていなければ難しく、実用的ではないことは十分に体感できた。



●レンズ性能に疑問符

ビル群その1


 本機は標準と望遠の2焦点式レンズを採用している。とはいっても、正確に言うと、バリフォーカルタイプという一種のズームレンズで、標準と望遠の2カ所ではきちんと定位置にピントが合うが、その途中では焦点距離とともにピント位置がバリアブルに変化してしまうもの。そのため、その特徴を逆に利用すると、レンズの切り替えレバーを途中で止めることで、かなりの近距離撮影ができ、マクロモードよりもさらにマクロな撮影ができる(もちろん、レンズ性能は保証されないので注意が必要だ)。

 このような2焦点式にもかかわらず、通常時のピントは固定焦点式となっており、10万円を優に越える高額モデルとしてはちょっと悲しい仕様になっている。これはやはり残念だし、望遠側では近距離が明確なピンボケになる点も気になる。

 そして、個人的に問題視したいのが、レンズ性能だ。本機はCCDやその処理回路はそれなりの性能だし、カラーバランスや階調表現もまあ水準に達している。しかし、レンズ性能が優れないため、とてもポヤポヤした、ピントの芯がハッキリしない写りとなっており、とにかくシャープさがない。これは標準側よりも望遠側で顕著に見られ、この甘さは残念ながら現行機種のなかでもトップ(ワースト?)クラスといわざるを得ない。そのため、本機の写りに関しては、素直だが、シャープではなく、あまりお薦めできないレベルとなっている。

 また、ファインダーは光学式がメインで、液晶は電池の消耗を考慮して、サブとして利用したり、再生用という仕様になっている。この光学ファインダーの出来も、あまり芳しくない。とくに、写る範囲が分かりにくいうえに、常時望遠用の太い視野フレーム(写る範囲を示した枠)が出っぱなしなので、見にくい。このあたりも、10万円を超えるモデルなら、やはりレンズ切り替えに応じてフレームを出入りさせたり、ファインダー自体がズームするようにするべきだろう。



●転送速度はまずまずだが、データ転送が面倒な専用ソフト

石畳


 本機は前記のとおり、MDデータディスクに画像をピクチャーMDフォーマットで記録している、かなり特殊なモデルだ。もちろん、ソニーのMDデータ用ドライブがあれば、そのままパソコンに画像を取り込むことができる。まあ、ソニーのピクチャーMDフォーマットは、JPEGファイルの一種なので、拡張子を“.jpg”に変更すると汎用ソフトでも一応読み込めたりもする。

 もっとも、通常は本機を専用ケーブルで、パソコンに“パラレル接続”し、専用ソフトで転送するのが一般的だ。実際にシリアルポートよりもパラレル経由の方が転送が早いそうで、使ってみても、転送が遅いと感じるケースは少なかった。むしろ、Windows版ソフトではパソコンにきちんとカメラが接続されていないと、起動時にチェックに行くため、アプリケーション自体が立ち上がらないほうが不快だ。

 アプリケーションの操作性はまずまずといったところ。選んだファイルを一括してBMPやJPEGに変換できる機能を備えている点は便利だが、選択操作ははなはだ面倒だ。

 また、本機の大きな特徴として、MDデータにパソコンのデータを記録することができ、一種の外部ドライブ的な利用ができる点だが、この操作も専用アプリケーション経由となり、パソコン側からドライブとして認識することはできない。もし、ドライブ認識ができれば、画像データの転送もファイルのコピー感覚で行えるので、かなり便利だし、ドライブ装置として簡単に利用できれば付加価値も増すというものだが、今回はそのような機能が省かれている。このあたりはやはり残念だ。




●アイデアはいいけど、カメラとしての完成度が問題

ビル群その2


 最終記録媒体として利用できる、MDデータディスクをデジタルカメラに組み込んでしまおうというアイデアは、やはり新鮮だし、非パソコンユーザーにとっては、なかなか魅力的なコンセプトだと思う。本機はその第一弾として発売された初物として、なかなか意欲的な製品となっている。しかし、まだまだ解決すべき問題が山積しているし、やはりデジタルカメラである以上、カメラとしての基本機能である、写りや操作性、記録速度、電池の消費などがおろそかになっている点は大いに気になる。

 もちろん、MDならではの優位性や、音楽MDの録再ができる点、外部MDドライブとしても一応利用できる点など、さまざまな魅力を備えているため、これらをどう評価するかで、本機に対する見方は大きく変わることだろう。

 しかし、個人的には10万円を優に越えるほど高価な“デジタルカメラ”であることを考えると、残念ながら本機は、万人にはお薦めしかねるモデルといえる。

 もし、同じような考え方のマシンでも、まったく別のスタイルで“携帯MDプレイヤー+α”の機能としてデジタルカメラとしての機能も備えているという、携帯性のいいモデルが登場したら、ぜひとも使ってみたいと思う。やはりここは、次期モデルに期待!というところだろう。もっと、“眼のつけどころがシャープ”なモデルをぜひとも期待したい!!



□シャープ株式会社のホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□「MD-PS1」のニュースリリース
http://www.sharp.co.jp/sc/gaiyou/news/970218.htm

□参考記事
【4/7】 プロカメラマン山田久美夫が撮った シャープ「MDデジタルビューハンター MD-PS1」サンプル画像
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970407/md.htm
【2/19】「MD-PS1」撮影サンプルデータ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970218/md-sam.htm
【2/18】シャープ、MDカメラ「MDデジタルビューハンター MD-PS1」正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970218/mdcamera.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('96/4/21)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp