PIAFSサービス開始 特別企画
PHSデータ通信サービスの傾向と対策 その1
TEXT:本田雅一
PIAFSデータ通信が4月1日よりサービス開始します。これに合わせ、PC Watchでは2回に分けて、本田雅一氏による「PHSデータ通信サービスの傾向と対策」を掲載します。4月2日には、「傾向と対策その2:マーケット状況 、PHSキャリア3社の選び方」をお送りします。(編集部)
いよいよ開始されるPIAFSサービスを前に、モーバイルネットワーカーの多くがPHSの導入や買い換えを考えているのではないだろうか。高速な無線通信の世界は、もう目の前にある。これを見逃す手はない。
そこでPHS通信に関する情報をまとめてみることにする。ただし、ここではPCからの無線通信に話を絞ってある。PHS通信に投資をする際の参考にしていただければ幸いだ。
【各種通信方式のまとめ】
あまりウダウダと、リクツを並べ立てても、実際の購入に関する情報は得られにくいだろう。そこで、ここではPHSでデータ通信する際の方式について、その特徴とともにまとめることにしよう。
- みなし通信
みなし通信は、PHSの音声をアナログ公衆回線の音声に「みなして」、アナログモデムを使って通信を行なう方式。PHSの音声はISDNの64kbpsチャンネルを使い、それをAD-PCMベースの音声圧縮で1/2にしているため、本当のアナログ公衆回線と同じ帯域を確保するのは難しい。
イヤホン端子から引き出すセルラーケーブルで、モデムに接続するため、イヤホン端子の装備されているPHS端末なら、どれでも利用することが可能だ。
ただし、デジタル携帯電話のように、予測アルゴリズムを駆使した「似たような音声」ではないため、ある程度の通信クオリティは保つことができる。PHSキャリア各社は2,400bpsもしくは4,800bps程度が限度で、9,600bps通信は難しいとしているが、経験上、9,600bpsでの通信は問題なく行なえる。
利用上のコツは、モデムのATコマンドを使って9,600bps以下でしか接続できないようにしておくこと。そのままだと、より高速な速度でのネゴシエーションを行なおうとして、接続に失敗してしまうことが多い。PHSは最低利用料金が20円(1分間、昼間の同一区間内)だから、これがなかなか馬鹿にならない。
ただ、オートダイヤルが特定機種(モデム、PHS端末とも)の組み合わせでしかできなかったり、接続に成功しても突如切断されることが多いなど、問題は少なくない。以下に説明するαDATAやPIAFSがある以上、とりあえず今ある端末を使いたいという人以外は利用価値はないだろう。
- αDATA
αDATAはDDIポケットが独自に提供しているデータ通信サービスで、通常のアナログモデムやISDN TAにダイヤルアップ可能で、しかも高速で安定した通信ができるのが特徴だ。
DDIポケットの基地局には、PHS端末との間でエラー訂正をしながら通信を行ない、そのデータを使って基地局に内蔵されているモデムやTAでダイヤル先に接続する機能が、サービス開始当初より組み込まれていた。αDATAは、その機能を利用したデータ通信サービス。PIAFSにおけるプロトコル変換サービスのサービスセンターが、基地局そのものに内蔵されていると考えればいい。また、基地局に内蔵されているモデムはFAXにも対応しているため、FAX送信もできる。
基地局に内蔵されているFAXモデムが14.4kbpsのため、アナログモデムへのダイヤルアップ接続では14.4kbpsの速度になる。しかし、64kbpsの同期通信をサポートするISDN TAに対しては、32kbps通信(実効速度は28.8kbps)も可能だ。
- PIAFS
PIAFSはPHS Internet Access Forum Standardの略で、PHSによるインターネットアクセス(実際にはデータ通信一般に利用可能)をサポートするための標準規格。どこのPHSキャリアの端末であっても、PIAFSをサポートする端末同士であれば、32kbps(実効速度は29.2kbps)で通信が可能だ。
ただし、端末間でエラー訂正を行なう仕様であるため、αDATAのように従来のモデムやISDN TAにダイヤルアップすることはできない。通信相手はPIAFSをサポートした端末、もしくはTAP(Tarminal Adapter for PIAFS)である必要がある。
そうした問題をカバーするため、αDATAをもつDDIポケット以外のPHSキャリアは、プロトコル変換サービスをPIAFSのサービス開始と同時にサポートする。これは、TAPを設置したサービス施設を開設し、そのサービスセンターから28.8kbpsのアナログモデムに接続するサービス。ただし、サービス施設までのPHS通話料金に加え、そこからアクセスポイントまでの料金として毎分10円のチャージが必要となる。
これだけではαDATAの方が優れた規格に思えるかもしれないが、PIAFSには携帯端末に対してダイヤルアップできるできるというメリットがある。αDATAは原理上、携帯端末側でデータ通信の要求を受けることができない。
たとえば、電子メールが届いたときにサーバにダイヤルアップさせ、携帯端末側に自動送信させるといったアプリケーションは、PIAFSでしか利用できないことになる(みなし通信でも不可能ではないが、安定性などを考えれば比較の対象にはならないだろう)。
ただし、そうしたメリットを活かしたアプリケーションやサービスがない限りアドバンテージとはならない。単にPCからダイヤルアップIP接続でインターネットに接続したいだけであればデータ通信による着信の必要はないからだ。
【PIAFSのインフラ整備は?】
共通規格のPIAFSで、インターネットにアクセスするためには、プロバイダーへのTAPの導入が不可欠となる。現在、いくつかの大手プロバイダーがTAPを導入、もしくは導入表明を行なっているが、すべてのアクセスポイントがTAP対応になるわけではなく、また回線数などの導入規模についても不明瞭な点が多い。また、So-netやmsnなど、PIAFSサポートを表明していない大手プロバイダーも少なくない。
既存モデムへのアクセスをサポートするプロトコル変換サービスの拠点も、各都道府県にあるというわけではないようだ。また、定常的にインターネットへのアクセスを行なうのであれば、プロトコル変換サービスは経済的にかなり不利。やはり、プロバイダーのPIAFSサポート状況が、PIAFSの未来を決定すると考えていいだろう。
しかし、通常のTAをPIAFS対応にするのは、それほど難しいことではないようだ。ISDN対応のリモートアクセスサーバのいくつかが、ファームウェアの変更によるPIAFS対応を表明しているように、ISDN TAにPIAFSのエラー訂正プロトコルを行なうソフトウェアを追加すればTAPにすることができる(もちろん、ソフトウェアにより機能を変更可能な機種に限られるが)。
プロバイダーごとに、アクセスポイントに導入している設備は異なるため、今後の対応状況を見守る必要はあるものの、導入が開始されればプロバイダーによっては一気に整備が進む可能性がある。
あくまでもPIAFSにこだわりたい、もしくは将来性を考えて業界標準にしたいというならば、プロバイダーの乗り換えを視野に入れながらPIAFSを導入するのも悪くない選択だ。
【既存インフラを重視するならαDATA】
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αDATA対応のPHS端末とセイコー製通信カード。ATコマンド「AT@02」で32kbpsモードに切り替え可能だ。
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PIAFSの整備が急速に進んだとしても、ISDN TAやアナログモデムのインフラと同等になるまでにはかなりの時間がかかる。プロバイダーだけではなく、自宅や会社のダイヤルアップサーバに接続するなどの用途にも利用したい場合は、αDATAが圧倒的に有利だ。
この原稿を書いている時点では、PIAFSサービスは開始されていないため、実際の通信パフォーマンスに関しては比較することができない(下に、法林氏によるPIAFSデータ通信の接続結果を掲載したので参照してほしい)が、同一の電波状況であれば、両者のパフォーマンス差はほとんど出ないと思われる。実効速度で400bpsの差があるが、全体の2%にも満たない帯域幅の差でしかない。
αDATAの32kbps通信サービスも、やはり原稿執筆時点では開始されてないが、αDATA通信カードをATコマンドで設定変更することにより、正式サービス前でも利用することができた。この記事が掲載される頃には、すでにそうした設定方法も公開されているはずだ。使っている通信カードメーカーのホームページをマメにチェックしてみよう。ちなみに、セイコー電子製の通信カードの場合は「AT@O2」で32kbpsモードに切り替わる。
個人的にαDATA対応端末を購入したこともあり、32kbps通信を一足先に楽しんでみたが、28.8kbpsのアナログモデムでインターネットにアクセスする場合と、感覚的には全く変わらなかった。
通信の安定性も高く、通常の音声通話が切れてしまうような状況でない限り、通信がとぎれてしまうこともない。おそらく電波状況が一時的に悪くなった場合には、エラーによる再送で実効速度は落ちているものと思われるが、それを体感することはなかった。
14.4kbpsのαDATA通信も利用してみたが、(インターネットのトラフィックもあり)2倍の体感速度は感じない。しかし、速度うんぬんよりも、安定した通信を行なえることの方に大きな意義を感じた。
こうした優れた無線通信環境は、PIAFSでも全く同じと思われる。みなし通信で不安定な通信に悩んでいるモーバイルネットワーカーなら、PIAFS、αDATAに関わらず、データ通信対応PHSに投資する価値は大きいと言えるだろう。
【参考:PIAFSデータ通信ベンチマーク(データ提供:法林岳之氏)】
●使用機材
マシン : ThinkPad 560
端末 : PALDIO312S
カード : DC-1P
●結果(単位はKbytes/s)
| get | put | 平均
|
圧縮ファイル(LZH) | 2.3 | 3.3 | 2.8
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テキストファイル | 4.5 | 9.0 | 6.8
|
平均 | 3.4 | 6.2 | 4.9
|
('97/4/1)
[Text by 本田雅一]
ウォッチ編集部内PC Watch担当
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