後藤弘茂のWeekly海外ニュース


インターネットに開いた天国の門

Webサイトにメッセージを残し、39人が集団自殺

●Heaven's GateのWebサイトは大混雑

 いま、全米のWeb上で、もっとも混み合っているサイトのひとつが「heavensgate.com」。すでにTVニュースや新聞でもガンガン伝えられている話題のカルトグループ「Heaven's Gate(通称)」の運営するサイトだ。先週、このグループのメンバー39人が、サンディエゴで集団自殺をしたことが報じられて以来、同サイトは大混雑状態が続いている。

  もちろん、この手の宗教のサイトは、カルトと関係があるわけではないし、今回の事件の影響を受けるというレベルでもない。また、ほとんどの場合、布教を積極的にやっているというわけでもなく、信者に対するサービスの提供が主体だ。だが、宗教団体がそろいもそろってWebに乗り出しているというのも興味深い現象だ。新興の宗教やカルトがWebサイトを開くというのはわかる。でも、伝統宗教がデジタルなコンピュータネットワークに浸透するというのは、どうもしっくり来ないような気がする。

 これまでも、カルトグループの集団自殺はいくつかあった。しかし、今回は舞台がWebとあって、インターネットはこの話題で持ちきりになっている。グループがWebページ作成を請け負って生計を立てていたというのも話題のタネ。米国のニュースサイトも事件の背景や影響などを突っ込んだ報道をしている。なかでも目立つのは、インターネット上でカルトや宗教グループのリクルート活動が活発になっていることを報じる記事だ。これまでの勧誘は、大学やバス停などで孤独な若者に接触するというパターンだったのが、いまやインターネットで新しいメンバーを獲得しつつあると指摘している(Heaven's Gateの場合は、リクルート活動を積極的に展開していたわけではない)。いつの間にか、コンピュータにかじりついていた自分の子供や友達が、カルトにはまっていたというケースが生じ始めているというのだ。去年クリントン政権は、テロリストがインターネットを利用していると大騒ぎしたが、こうなると、今年はカルトグループが利用していると騒ぐことになるかも知れない。

 こうした展開に、ネガティブな影響を恐れる声も出てきた。一部の宗教やカルトグループをひとくくりにして、インターネットでの影響拡大に対する盲目的な恐怖をあおるのは危険というわけだ。とくに、これは別に事件を起こしたわけでもない宗教グループのサイトなどにとってみれば、いい迷惑だろう。

●インターネットに宗教サイトが花開いた

 しかし、インターネットと宗教が密接に結びつきつつあるのは事実だ。ちょっとディレクトリサービスなどで調べてみればわかるのだが、WWW上には今や無数の宗教サイトがひしめいている。それも、新興団体だけではなく、バチカンを始めとするキリスト教各宗派、ユダヤ教、仏教各派といった既成宗教の多くやその末端の教会や寺院までが、インターネットに進出している。

 もちろん、この手の宗教のサイトは、今回の事件の影響を受けるというレベルではない。また、ほとんどの場合、布教を積極的にやっているというわけでもなく、信者に対するサービスの提供が主体だ。だが、宗教団体がそろいもそろってWebに乗り出しているというのも興味深い現象だ。新興の宗教やカルトがWebサイトを開くというのはわかる。でも、伝統宗教がデジタルなコンピュータネットワークに浸透するというのは、どうもしっくり来ないような気がする。

 しかし、よくよく考えてみると、宗教とインターネットという組み合わせはそれほど意外でないことがわかる。なぜなら、宗教そのものが、基本的にネットワークだからだ。宗教組織というのは、人が神と結びつくためのネットワークであり、そのネットワークの中では、バーチャルな存在である神が身近に感じられれば感じられるほどいいわけだ。そして、インターネットは、そのネットワークの媒体としてはうってつけだ。というのは、インターネットがあれば宗教施設に行かなくても、いつでもどこでも神に直通の回線が開けるからだ。

 インターネットがあれば、信者はどこにいても自分の教会(あるいは他の宗教施設)のサイトにアクセス、神に宛てて祈りを書いたEメールを出したり、宗教指導者に悩みを打ち明けたり、自分の関わっているテーマのディスカッショングループに参加したりといったことができる。というか、そうしたサービスを宗教サイトの多くは現実に提供しているのだ。また、信者も、インターネットだと気軽さからか活動が活発になるらしい。宣教師に宛てたEメールがあまりに多すぎてさばききれず、一時メールの受付を停止したサイトもある。

●Webはテレビより宗教向き?

 米国の場合は、以前からテレビ宣教師が大きな勢力を持っていたから、宗教が新しいメディアを利用する前例がないわけではない。しかし、インターネットとテレビと比べた場合、インターネットの方がはるかに宗教向きだ。インタラクティブなインターネットでは、テレビと違って、自分と神あるいは宗教指導者が1対1で向かい合っているという感覚が強くなる。また、Webの場合、テレビ布教のように金がかからないので、ビジネスの色彩も薄くなる。金のあるなしに関わらず、誰でも簡単に、世界中の不特定多数に向けて布教を開始できるというわけだ(もっとも、今ではテレビ宣教師もWebサイトを開設している)。

 こうしたインターネットの特徴は、既存の宗教の世界にも新しい動きを産み出しつつある。その一例は、フランスのジャック・ガイヨー司教だ。この人物は、リベラルすぎる思想がカソリックの上層部に嫌われ、サハラ砂漠のまん中のParteniaという何もない管区に移されてしまった。ところが、ガイヨー司教はそれに対抗、インターネット上にバーチャル管区http://www.partenia.org/「Partenia」ホームページを開設、自分の信念を主張する活動を行い始めたのだ。彼の場合は、インターネットのおかげで世界中からこの1年ちょっとで数千通の励ましのEメールを受け取ったそうだ。こうしたカタチで支持を得るというのは、Webがない時代にはかなり難しかったはずだ。

 考えてみれば、ルターが宗教革命を起こせたのも、印刷機という当時の最新技術を使って聖書を誰もが持てるものに変えたからだ。それを考えれば、同じ最新技術のインターネットが宗教の世界を変えるなんてことが起きたとしてもおかしくない。コミュニケーションパワーを増幅するインターネットの力は、カルトの脅威も高めるかも知れないが、それ以上に多くの可能性も開く可能性がある。

□Heaven's Gateのサイトとミラーサイト
http://www.heavensgate.com/
http://www.sunspot.net/news/special/heavensgatesite/2index.shtml
□Heaven's GateグループのWebコンサルティングサービスのサイトとミラーサイト
http://www.webdesk.com/highersource/
http://www7.concentric.net/~Font/

□米国のカルト問題専門家のリック・ロス氏のサイト
(事件に関する詳しい情報が掲載されている)
http://rickross.com/

('97/3/31)

[Reported by 後藤 弘茂]


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