【周辺】

【山田久美夫の特別レポート】

本格展開を開始したフジのデジタルラボ構想


●FUJI FILM デジタルイメージング サービス構想が見えてきた

 富士写真フイルム株式会社が今秋から本格的な展開をする「FUJI FILM デジタルイメージング サービス構想」(以下、FDSと略)を発表した。もちろんこれまでにも、コダックやコニカなどがインターネットを使ったデジタルデータからのプリントサービスを発表しており、一部ではすでにサービスを開始している。さらに、富士自身も、同社系列のフジカラーサービスでデジタルカメラからのプリントサービスを開始している。

 しかし今回、富士写真フイルムが発表した構想は、今春からのものとはいえ、デジタルカメラはもちろん、デジタルイメージングの世界をもっともっと便利で身近なものとして、誰もが日常的に利用できる点を見据えた構想といえる。

 もっとも、発表資料を見る限り、あまり具体的なサービス内容が語られているわけではなく、あくまでも構想の段階という印象だったが、日本時間の20日になって、「マルチメディアサービスビューロー『メディアラボ』」の全国主要都市での展開を発表。一気にそれが現実のものとなった。

 実際に発表日の13日夕刻に、同社の担当者に直接会って取材したときには、構想段階であり、今週からの本格展開ということであり、今回の「メディアラボ」の発表は、その先駆けとなる動きといえるわけだ。

 もちろん、構想の内容はPC Watch読者のような、いわゆるパソコンユーザーに関わる部分もあれば、写真業界(とくにカメラ店)を震撼させるほどのものも含まれている。そこで今回は、デジタルカメラやインターネットがらみの展開を中心にレポートしよう。なお、詳細な発表内容は同社のWebを参照いただきたい。


●いよいよ始まるデジタルカメラからの本格プリントサービス

 今回の一連の発表には、いくつかの大きなポイントがある。
 まずひとつは、これまで困難だったデジタルカメラからのプリントを気軽に依頼できる、「DSCプリントサービス」だ。これはデジタルカメラの画像を、“写真用のカラーペーパー(印画紙)”にプリントするサービスだ。このサービスにはいくつのタイプがあるが、いずれにしろ、デジタルカメラのユーザーにとっては、従来よりも遥かに気軽に、デジタルカメラからの高品位なプリント作成ができる環境になることだけは確実であり、喜ぶべき動きといえる。

 さらに今秋からは、一般的な市中のDP店などの店頭で、デジタルデータからのプリント受付が本格的に開始される。そのおりには、普通のカメラと同じ感覚で、デジタルカメラからのプリントが依頼できるようになるため、これまでのようなパソコンを中心としたユーザー層から、一気にごく一般的なユーザーへとデジタルカメラが普及し、浸透してゆく可能性を秘めている。

 また、これまでもコダックやコニカが海外で行っているような、インターネット経由でのプリント依頼もできるようになる点も大いに注目される。

 実際にプリントに利用されるマシンは、同社が昨年発表した「フロンティア」と呼ばれるデジタルプリンターで、これは普通のカラー印画紙にレーザー光線で画像を直接書き込むもの。いわばピクトログラフィーの印画紙版という感じのものだが、大量処理が可能で、しかも、普通のフィルムからのプリントも専用の超高速スキャナーを使うことで、同じマシンで一括して行える点が大きな特徴だ。

 そして、昨日発表された「メディアラボ」では、このフロンティアを使ったプリントサービスが先行して開始される。実際に印画紙にプリントアウトしてみると、同じ画像データでもインクジェット式や昇華型よりも視覚的にきれいに見えるし、耐久性も点でも全く問題ないレベルとなっている。また、価格は現時点で未定だが、大量処理が始まれば、かなり手頃な価格帯に落ち着くことが予想される。もちろん、フィルムやラボメーカーにとっては、フィルムや現像料が入ってこなくなることもあって、現行の数円台のプリントサービスは無理なので、1枚のプリント料はそれなりになると思われるが、従来のようなフィルム代と現像料まで含めた、プリント時のトータル価格では、さほど違わないレベルになることが予想される。

 今秋の本格展開が予定されている、一般カメラ店やDP受付窓口経由でのプリントサービスが開始されれば、急速な普及がのぞめるだろう。


●CD-Rを中心としたメディア入力サービスも開始

 また、今回開始されるサービスとして、「メディアサービス」がある。いわゆる入力サービスだが、これは撮影済みフィルムをきわめて高速なデジタイザー(超高速スキャナーのようなもの)でデジタルデータにし、それをCD-Rに書き込みもの。その書き込みフォーマットには米Kodak社、米Microsoft社、米Hewlett-Packard社、米LivePicture社の4社が共同開発した「FlashPix」フォーマットが採用されている。

 さらに、担当者の取材によると、書き込みフォーマットはRGBデータであり、ごく弱いJPEG圧縮(1/2~1/4程度?)をしたものとなるという。画像サイズはフォトCDの4BASE相当。つまり、約1,000×1,500ピクセル前後のものを第一弾としてスタンダードとする。これは、ちょうど130~150万画素のデジタルカメラと同じレベルのピクセル数といえる。

 実際に今秋からのサービスは、基本的に一般向けのデジタルサービスを主体としている。そのため、解像度も4BASE相当あれば、ポストカード程度のプリントでも銀塩写真とさほど見分けが付かないレベルのプリントが得られると判断し、このサイズが中心となるという。つまり、パーソナル向けのデジタルサービスは、デジタルカメラを含め、このあたりの画像サイズをひとつの標準と据えているわけだ。


●インターネット経由でのプリント依頼もOK

 また、「ネットサービス」という、ネット経由でのプリント依頼もできる。これは、フィルムからデジタイズしたデータをサーバー上に保管し、現像済みフィルムやプリントとともに、そのサーバーにアクセスするためのIDが発行される仕組みになっている。しかし現時点では、ユーザー側にわたるのは、そのサムネールかVGAクラスの画像のみで、ユーザーはそれを見ながら、プリントを注文できるもの。つまり、プリント時にいちいちフィルムを持ってゆかなくても、プリントができることになる。しかし、富士系のラボに依頼すれば、当然同社系列のサーバーにデータがあるので、それ以降は、ずっと同社のプリントサービスに依頼することになる点が、ちょっと引っかかるが、いちいちネガを探す手間もいらず、いつでも気軽にプリントを依頼できるというメリットは大きい。とくに、DP受付にゆくのが大変なアメリカのような広大な国土をもつ地域にとっては、やはりかなり便利なサービスになりそうだ。

 もちろん、先にも紹介したように、自分の手持ちのデータをサーバーにアップロードして、プリント依頼することもできるので、この点でも便利なサービスといえるだろう。


●カラーマネージメント、価格、プリントの受け取りなど問題は山積

 ようやく、このような本格的なデジタルプリントサービスが開始されるわけだが、問題は山積している。まず、色管理(カラーマネージメント)がある。つまり、デジタルカメラを始めとしたデジタルイメージング機器には、それぞれ固有の色の偏りがある。それをそのままプリントすれば、当然、最良の結果は得られない。そのため、プリントに最適な状態、もしくは、標準的な状態に色を調整する必要がある。富士は独自のカラーマネージメントシステムの展開を予定しており、各入力機器に対応したプロファイルの作成をハードメーカーなどに依頼する体制になりそうだ。そのため、当初は自社関連製品に対しての色保証のみで、他社製品に対しては、そのハードメーカーの対応待ちの状態になる可能性が高い。もちろん、自分側のリスクで、マネージメントなしでプリントを依頼することもできるわけだが、色の保証はない。

 また、価格的にも、どのレベルになるのか、現時点では不明確だ。前記のように、デジタルカメラからのプリントが主流になれば、メーカー側はフィルムや現像料などの収入がなくなるため、その分を、プリント料に上乗せするか、基本料金制を導入する可能性もある。いずれにせよ、正式な価格発表を待たなければ、どこまで”気軽”なのかの判断がつかない。

 もちろん、店頭を経由しないサービスに関しての、支払条件なども明確でない。とくに、ネット経由でのプリント依頼では大きな問題になりそうだ。

 さらに、プリント依頼をした場合やメディアへの書き込みサービスでは、具体的なもののやりとりが発生する。その受け取り方法としては、店頭受付ならそこで受け取ることもできるが、ネット経由での依頼になると、そうもゆかない。このあたりは、コンビニでの受け取りや宅配など、いろいろなものが考えられるが、このあたりのシステム作りは大変そうだ。

 いずれにしろ、世界でもNo.2のフィルムメーカーが、きたるべきデジタル化時代をみすえて、本格的な展開を始めたことは、素直に喜ばしいことといえる。もちろん、ライバルメーカーであるコダックやコニカ、アグフアなども、似通ったサービスを展開することが予想される。今回は、すでにアメリカ国内でインターネットを使ったプリントサービスを行っているコダック(コメントは日本コダック)から今回のサービスに対するコメントをもらったが、そのなかには店頭での本格展開などは含まれておらず、同社を含めたライバルメーカーの展開が大いに注目される。


□【参考】日本コダック株式会社コメント

 コダック社は、米国で、パソコン通信またはインターネットを通じてユーザーから注文を受けると、高画質のプリントを出力してユーザーの元へ届ける「コダックイメージ マジック プリントサービス」を昨年から実施しています。このサービスを利用するには、マイクロソフト社から販売されている「PictureIt!」という画像処理ソフトを使用する必要があります。「PictureIt!」はコダック社、米Microsoft社、米Hewlett-Packard社、米LivePicture社の4社が開発したFlashPix(フラッシュピックス)という新しい画像フォーマットに対応しています。フラッシュピックスは、専門的な画像の知識や高性能のパソコンをがなくても、標準的な家庭用マルチメディアパソコンで簡単、迅速に画像が扱えるフォーマットです。

 なお、「コダックイメージ マジック プリントサービス」およびFlashPixについては、米Eastman Kodak社のホームページに詳しい情報が掲載されています。

日本コダック株式会社

広報部 大崎氏


□富士写真フイルム株式会社のホームページ
http://www.fujifilm.co.jp/
□マルチメディアサービスビューロー「メディアラボ」のご案内
http://www.fujifilm.co.jp/medialab/index.html
□米Eastman Kodak社のホームページ
http://www.kodak.com/

□関連記事
【2/13】富士写真フイルム、インターネットやCD-Rを取り込んだデジタルイメージングサービス構想を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970213/fuji1.htm

('97/2/20)

[Reporterd by 山田 久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp