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MicrosoftがWindows NT 5.0をプレビュー

PDCで次世代Windows NT Server関連技術を一挙公開

 昨年末、Microsoftが開発ペースをぎりぎりまで引き上げてからこっち、業界の時計は狂いっぱなしだ。このあいだ、Windows NT 4.0がデビューしたと思ったら、今度は、Windows NT Server 5.0のプレビューだ。

 Microsoftは、現在Windowsソフト開発者向けのカンファレンス「Professional Developers Conference (PDC)」をカリフォルニア州ロングビーチで開催している。Windows NT Server 5.0のプレビューは、その目玉として登場したものだ。PDCでは、このほか、コード名「Viper」と呼ばれるオブジェクトトランザクションサーバー、セキュリティ技術「Kerberos」などが発表された模様だ。このあたりのテクノロジの詳細は、プロのレポートにまかせるとして、このコラムでは全体の状況を分析してみよう。

 まず、意外性は少なかった。PDCでこれらの発表が行われることは、業界ではすでに折り込み済み。すでに内容の予測記事は、ニュースサイトでもかなり前から流れていた。先週Microsoftが開催したWeb開発者向けカンファレンス「Site Builder Conference」のように、直前になって低価格パソコン「NetPC」や管理コスト削減技術構想「Zero Administration Windows」発表の情報が流れて騒然とするといった様子はニュースサイトでも見られなかった。各サイトの記事を見ても、PDCの扱い自体、その重要性と比べるとずいぶん控え目だ。これは、先週のSite Builder Conferenceが、Zero Administration構想という「隠し玉」で盛り上がっための余波かも知れない。

 Microsoftは2週ぶっ続けでカンファレンスを開催するにあたり、対象を分けるとともにトーンもかなり変えたように見える。Site Builder Conferenceが悪く言えば、興行的な色彩のあるインパクトの強いイベントだとすれば、PDCは名前の通りプロ向けのやや地味な色彩のイベントのような印象だ。これは、たとえばゲイツ氏のオープニングスピーチがSite Builder Conferenceの方で行われたことでも裏づけられる。乱暴に言ってしまえば、Windowsのベーステクノロジに関しては、Site Builder Conferenceで華々しく戦略と将来像を打ち出し、PDCでその土台となる技術を詳説するという流れととらえることができるかも知れない。

 さて、初日の発表などから見ると、PDCのポイントはいくつかある。
 1つ目は、Microsoftのエンタープライズコンピューティングへの拡大傾向がますます明確になったということだ。Windows NT Server 5.0や、Viper、Kerberosなどは、いずれも大規模なネットワークを構築しているユーザーに恩恵をもたらす部分が多い技術。ポール・マリッツ上級副社長のスピーチでは、ゲームまで含めた広範なプラットフォームへのWindows技術の拡大をデモで見せたようだが、今回のPDCの重点はエンタープライズ分野の方にあると見える。

 2つ目は、いよいよ「Cairo」が見えてきたということ。MicrosoftはWindows NTと平行して開発を進めてきたWindows NT後継OSのCairoの技術を、これまでかなり切り売りしてきた。分散オブジェクト技術「Distributed Component Object Model (DCOM)」やWindows 95/NT 4.0のGUIがそれだと言われている。そして、今回プレビューされた技術は、おそらく"Cairoの残り"のかなりの部分に当たると思われる。Windows NT Server 5.0のプレスリリースを見ると、今回の発表された技術は、完成した順に提供され、それが最終的に将来Windows NT Server 5.0にインテグレートされるようだ。つまり、Windows NT Server 5.0というのは、Windows NTを拡張する技術の集大成となるわけだ。また、これは、MicrosoftがもはやOSを一発アップグレードするのではなく、じょじょにフィーチャを切り出す形に移ったことを明確にしている。

 3つ目は、本格的な分散コンピューティング環境が見えてきたことと、それにともないDCOM対CORBAという構図が鮮明になったことだ。ネットワーク上のオブジェクトを連携させる分散オブジェクトサーバーのViperは、Microsoftのオブジェクト技術のかなめのひとつ。しかし、Microsoftの独自技術DCOMをベースとしたことで、これはCORBAによる分散コンピューティングを実現しようという動きとは対立することになる。CORBAは、米IBM社、米Sun Microsystems社、米HP社、米Oracle社、米Netscape Communications社など、ともかくMicrosoft以外誰も彼も陣営なわけで、次の対立の極となりそうだ。

 4つ目は、Oracle対策。Microsoftが、大統領選挙の最中のこの日付にカンファレンスを持ってきたのは偶然ではないだろう。同時期に「Oracle Open World」を開催するOracleへの対抗という目的があるのは確かだと思われる。オラクルは、MicrosoftにとってNC (Network Computer)で敵対する相手というだけではない。Microsoftのエンタープライズコンピューティング指向によって、サーバー分野でも激突するライバルになった。Oracleは、11/4日の夕方(日本時間11/5日午前中)にエリソン会長兼CEOのキーノートスピーチを行ったはずだ。時間がなくてこれはモニターしていなかったのだが、Microsoft攻撃には力が入るエリソン氏のこと、きっと面白かったに違いない。

■参考記事
PDCのアジェンダ
http://198.107.140.2/pdc/html/agenda.htm

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('96/11/5)

[Reported by 後藤 弘茂]


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