後藤弘茂のWeekly海外ニュース


パソコン通信がなくなる!?

米国パソコン通信業界に大変革の波

 前々回のこのコラムで予告した通り、いよいよMicrosoftが、MSN(the MicrosoftNetwork)を一新してWebベースに移行するプランを正式に発表した。このプラン通りに行けば、11月には、MSNはインターネットアクセスも提供するパソコン通信から、インターネットプロバイダ+Webコンテンツ群へと組み替えられることになる。また、料金も、ふつうのインターネットプロバイダと同水準の低料金に変わる。

 これは、MSNの姿が変わるという小さな話題ではない。おそらくこれは、米パソコン通信業界全体がこの方向へと大きく舵を切る、その先触れに過ぎない。すでに、業界第2位のCompuServeは年内にWebベースに移行することを発表しているし、トップを走るAOL(America Online)も、何らかの改革を行うとみられている。
 そして、その波は遅かれ早かれ日本にもやってくる。というのは、日本でもパソコン通信業者は、米国と同じ脅威にさらされているからだ。それは、インターネットとの戦いだ。

 パソコン通信は、米国でもこの2~3年で急成長した。たとえば、AOLは94年末に約150万だったのが、95年7月には300万になり、現在は約650万人。2位のCompuServeが約450万人で、スタート1年のMSNが160万人といわれている。一見、順風満帆に見えるが、そうではない。それは、会員数が増えた大きな理由が、インターネットへの手軽なアクセスを提供していることだからだ。

 当初、インターネットのサービスプロバイダのほとんどが小企業だった時は、パソコン通信業者もプロバイダとして十分対抗できた。ところが、今年になって状況が変わった。AT&Tをはじめとした大手の電話会社などが規制撤廃により参入、アクセス時間無制限でありながら低料金のサービスを開始したために、料金面で差が目立ち始めて、一気に苦しくなったのだ。
 それだけではない。パソコン通信業者はフォーラムやチャットといったコミュニケーション系サービスよりも、もっと付加価値が高く広告出稿や有料化が見込めるコンテンツを充実させたいと考えているのだが、その戦略もWWWの興隆によって阻まれてしまった。ユーザーが限定されているパソコン通信の中に出店するより、ユーザー数が桁違いに多いWWW上でサービスを提供した方がいいと考える企業が増え、魅力あるコンテンツがWWW上で花開くようになってしまったのだ。
 つまり、インターネットのサービスプロバイダとコンテンツプロバイダという2つの勢力にパソコン通信は挟み撃ちになってしまったというわけだ。

 この影響は、今年に入ってじょじょに出始めている。たとえば、ナンバーワンのAOLでは会員の増加ペースが落ちた。これは、新規獲得会員が増えないのに、AOLを脱会してゆく会員が増えたからだという。もし脱会者が新規会員を上回り始めたら、拡大を基本として戦略を組み立ててきたAOLは崩壊しかねない。もっとも、CompuServeの方は、新規サービスとして始めたWOW!が惨敗するなど、すでに行き詰まっている。また、コンテンツを充実させるはずだったMSNも、新規のコンテンツ提供企業はほとんど増えていない。

 だが、パソコン通信各社がサービスプロバイダと料金で競争するというのは無理がある。それは当然の話で、インターネットプロバイダは、インターネットへのアクセスと、あとはせいぜいメールサーバーとホームページ用のサーバースペースを提供すればいいのに対して、パソコン通信はパソコン通信独特のさまざまなサービスの提供と維持管理をしなければならないからだ。それも汎用ソフトを使うものではなく、専用システムがほとんどであり、それらが、コストでも労力でも重荷になるというのは容易に想像がつく。とくに、パソコン通信の売り物であったコミュニケーション系サービスは、その維持にかなり手間がかかるといわれる。そうなると、料金をインターネットサービスプロバイダに対抗できるラインに持って行くのかなり難しい。
 また、パソコン通信は、そうした構造からユーザー数の急拡大にも対応しにくい。そのため、さまざまなトラブルが発生している。たとえば、8月にはAOLが19時間もダウンするという事件が起きた。これに関して、AOLはシステム的な問題ではないと発表しているが、これがAOLの急拡大のひずみであると疑う声は多い。また、MSNも、メンバー急増によってユーザーへの課金がもう数ヶ月にわたって滞ったままだ。

 こうした問題に対する解決策が、MSNの場合は、コンテンツのWebへの移行とプロバイダ並の料金への改革だった。
 MSNの新料金体系では、アクセス時間無制限で月19.95ドルというプランが登場している。従来は、19.95ドルだと月20時間だったから、実質的に大幅値下げだ。

 そして、この19.95ドルという数字は非常に重要だ。というのは、これはAT&Tなどの大手プロバイダが打ち出した無制限利用の料金なのだ。つまり、MSNは、インターネットサービスプロバイダと、完全に同水準の料金で戦うと宣言したわけだ。これは同時に、パソコン通信が主でははなく、プロバイダ事業の方が中心になるという宣言でもある。実際、リリースを見ると、料金とコンテンツの話ばかりで、フォーラムやチャットといったコミュニケーション系サービスについては付け足し程度にしか触れられていない。
 ただし、コミュニケーション系でないコンテンツは、Webに移行させてMicrosoftの提供する番組を大幅に拡大する。従来から提供していたMSNBCやSlateなどもMSNのコンテンツ群として統合される。
 そして、ここが重要なのだが、Microsoftはコンテンツ事業を、MSNから分離した。つまり、MSN以外のプロバイダを使っているインターネットユーザーが、月6.95ドルでコンテンツだけ利用できるようにしたのだ(ただしMSNBCなどは無料)。つまり、Webコンテンツはコンテンツでオープン化して、ビジネスを拡大して行こうというわけだ。

 さて、MSNのこの急激な動きを、他のパソコン通信も指をくわえて見ているわけではない。
 たとえば、CompuServeは、現行の独自プラットフォームからWeb上のサービスへと年内に完全に移行すると、以前から発表している。しかも、同社の場合は、MSNのベースシステムをMicrosoftが切り売りするNormandyを使う。となると、戦略もMSNとかなり似てくる可能性もある。CompuServeは、発表も間近いと見られているが、料金に関しても、その時にアナウンスがあるだろう。

 また、ニュースサイトの記事を見ると、料金に関してはAOLも近いうちに同水準の無制限アクセスのプランを提供すると報道されている。AOLの株価は、Microsoftの発表も影響して下降気味なので、生き残るためには、ここで手を打たなければならないのは明らかだ。Webコンテンツに関しても、AOLから張り出す形で手を着け始めている。
 さらに、今後、MSNのような形でビジネスを展開する新規の業者も登場する可能性がある。というのは、プロバイダが差別化のために付加価値を独自のコンテンツや独自サービスつけるという方向に向かう可能性があるからだ。

 もはやパソコン通信というカテゴリさえあいまいになってしまったインターネット時代のオンラインサービス。さて、日本の場合は?

□MSNのホームページ
http://www.jp.msn.com/
□CompuServeのホームページ
http://world.compuserve.com/
□AOLのホームページ
http://www.aol.com/

【関連記事】
□【9/30】MicrosoftがMSNを一新
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/960930/kaigai01.htm
□バックナンバーindex
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/backno/kaigai.htm

('96/10/14)

[Reported by 後藤 弘茂]


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