今後5年間で5億台以上－－これが、米Netscape Communications社の予測する、パソコン以外のインターネットアクセス機器の市場の規模だ。いや、正確に言うなら、その市場のなかで、Netscapeが技術を提供する見込みの機器の数が5億台ということだ。
Netscapeが、この5億という、ちょっと突拍子もなく聞こえる数を明らかにしたのは、新会社「Navio Communications」の設立リリースのなか。Navioは、インターネット家電やネットワークコンピュータ(NC)などの新市場に、Navigatorの技術をにもたらすことを目標に作られた。つまり、インターネットTVやゲーム機、NC、さらには電話などでもNavigatorの技術を取り入れたインターネットソフトが使えるようになるというわけだ。
先週は、このNavio設立に先導されるように、インターネット端末、とくにそのなかでも家電関係の発表や報道が続いた。まず、Sony Electronics社は、Philips Consumer Electronics社に続いてWebTV規格のインターネットセットトップボックス(STB、テレビの上などに設置する小型機器)を発表、今月末には早くも店頭に並べる。また、日本で先日インターネットTVを発表した三菱電機のグループ会社Mitsubishi Consumer Electronics America社(MCEA)は、米国市場にもインターネットTV「DiamondWeb」を投入することを明らかにした。そして、今週以降は、日本で、複数の家電メーカーが、三菱電機に続いてインターネットTVの発表を近く行う予定でいるという。
「インターネットはテレビで見る時代が来た」－－これらのメーカーのメッセージは明確だ。
もちろん、ほんとうに、テレビでインターネットが普通になる時代が来るかどうかは、まだわからない。ただ確実なのは、かなりの数の家電メーカーが、「テレビ＋インターネット」という戦略に本気になりはじめたことだ。そして、この流れに乗るメーカーは、今年後半には、さらに増えるだろう。
これら家電メーカーのインターネット家電には共通した特徴がある。まず、機能はWWWアクセスを中心にある程度絞り込んでいる。米Oracle社のNC構想のようにワープロなどの"重い"アプリケーションをダウンロードして使うといった汎用性はあまり考えていない。また、操作もリモコンというのがほとんどで、キーボードはオプションだ。つまり、インターネット家電はパソコンのスケールダウン版ではなく、あくまでもテレビを拡張してWWWのコンテンツを利用する家電という位置づけなわけだ。
また、これらのインターネット家電では、Oracle版NCのようにサーバー上にユーザーが作ったデータを保存したりといった、サーバーとの密接な連携サービスもあまり考えられない。それどころか、インターネットTVでは、専用のサービスを提供するサーバーすら考えていないのが普通だ。
こうして、機能は絞る代わりに、インターネット家電では、操作は簡単にして価格も下げる。ソニーのWebTVは349ドルで、インターネットTVもインターネット機能による価格アップはその程度に押さえられると見られている。ちなみに、米国では、300ドルというのが家電として普及するボーダーだと言われており、このあたりの価格設定は、それを意識しているようだ。
しかし、いくらインターネット機能は絞り込むと言っても、WWW利用に関しては、標準的な機能は、最新のものも含めてすべて網羅する必要がある。だが、そのために各社がそれぞれWebブラウザを開発して行くのは、負担が大きすぎる。また、家電向けWebブラウザに向いたインタフェースや機能の標準も確立していないので、そうした基礎的な面での研究も進めなければならない。そうなると、インターネットタイムで進む技術革新に乗り遅れないようするソフト開発だけで利益が消えてしまいかねない。
そこで登場したのが、Navioだ。Navioの構想では、Navigatorをモジュール化して、さまざまな機器にスケーラブルに対応できるようにするという。つまり、Navioのソフトを採用する限り、機能はWebブラウザの業界標準のNavigatorと、まったく同じではないにしても、ある程度は揃えられるわけだ。また、Navioのソフトを採用した機器では、インタフェースや機能がほぼ共通化されてくることにもなる。インターネット家電のブラウザの標準ができれば、コンテンツの方も自然とそれに合わせるようになるだろう。
今年後半から、いよいよ本場に入るインターネット家電。パソコンがまだ浸透できていない家庭市場を、ほんとうに開拓して5億台をさばくことができるかどうか。とりあえず、緒戦となるクリスマス商戦の"デキ"に注目したい。
◎Navio Communications
navio ホームページ
◎http://webtv.net/
http://webtv.net/
('96/9/2)
[Reported by 後藤 弘茂]